【あつ森】World's End Happy Birthday 【原作版 第1章②杖と前世】
第1章② 杖と前世
「灯火、いらっしゃい!」
春休み3日目、僕は光の家に遊びに来ていた。
光の親は大学教授で、家のそこかしこにいくつもの本棚が並んでいた。
光の部屋も例外ではなく、魔法関連の書籍がうず高く積まれ、怪しげな物が隙間からたくさん覗いていた。
「もう3年生か〜。灯火ってさ、絵も上手だし、成績もいいし、進路どうするの?」
「うーん。まだはっきり決めてなくて。」
絵を描くことは好きだけれど…将来の仕事にするべきか自分でも悩んでいた。
「そっか〜。じっくり考えて、納得して決められたら1番いいよね。」
「光は歴史学科志望だったよね?」
「そうそう。それ以外頭にないね。」
光は将来、魔法史学を専攻したいらしい。
興味に必要な知識が自然と身に付いてくるタイプで、既に自力で外国語の専門書や論文を読んでいたりするから末恐ろしい。
幼い頃から天才で、既に将来弁護士になるための勉強を始めている兄の雪をはじめ、僕の周りの人たちは規格外すぎる…。
「昨日すっごい物手に入れてさ!」
光が急にごそごそしはじめた。
「じゃーん!!」
光は細い木製の棒2本を両手に握って、僕の目の前に差し出してきた。
「なにそれ?木彫りの箸?」
「違うよ! 杖だよ、魔法の杖!」
「ええ…?そんなのどこで手に入れたの?」
「北の港に時々やってくる、怪しげなお店だよ!
魔法の杖っていっても、もう世界に魔法の力はないからただの棒なんだけどね〜。
古すぎて壊れかけてるから、格安2本セットで譲ってもらったんだ!」
…本当、光は魔法に関しての執念と行動力が凄すぎる…。
お菓子をつまみながらだらだらと話をする。
僕は雪がくれたお土産チョコレートを開けた。
春休みの前日からどこかへ行っていたみたいだったけど、一体何をしていたんだろう…?
チョコレートをぽいっと口に放り込むと、中にナッツが入っているタイプで、とても好みの味だった。
「春休みは董子ちゃんと遊びに行くの?
かわいい彼女がいていいよね〜。」
「…彼女じゃないよ…。」
自分で訂正して辛くなる。
出会ってからもうすぐ1年。
色々なことがあったけれど、僕はまだ董子に想いを伝えられていないのだった。
「は?まだ付き合ってなかったの?」
光が信じられないものを見るような眼で見てくる。
「う…うん。」
「え〜、早く告白しちゃえよ。
董子ちゃんも待ってるんじゃないの?」
「……。」
できるものならもうしてるよ…。
苦しまぎれだけど話題の矛先を変えよう…。
「…というか、光って好きな人いるの?」
「俺?」
首を傾げた光は、そばにあった分厚い本をめくりだす。
「俺はこのー、ルジュナ様かな!」
目鼻立ちのくっきりした顔立ちに、深緑色の瞳、陽射しにきらめく草原のような色の髪がきりっと結えられた女性の肖像画を指差していた。
まさかの大昔の魔術師だった…。
「超かわいいよね!!しかも魔法時代の終わり頃なのにめちゃめちゃ強かったんだって。
スノウ、ギルベルト、ルジュナ、『魔法時代の最後の輝き』と称される、すっごい魔術師の1人なんだよ〜!
はあ…。こんな素敵な人が現代にもいたら、即プロポーズしてるのにな〜。」
………。
…この絵。何処かで見覚えが…
そう思った瞬間、頭の中にトーカの記憶が流れ込んできた。
ルジュナの絵を描いている前世のトーカ。
後ろではギルベルトが楽しそうに眺めている。
そうか…これは…。
「灯火?」
光の声にはっとする。
「大丈夫?寝不足ー?」
「…大丈夫。ごめん。」
たぶんその人は前世の光のーー
ギルベルトの恋人だよとは言えなかった。
僕自身が突然フラッシュバックする前世の記憶に、困惑しているのだ。
トーカの感情なのか、僕自身の感情なのか、ぐちゃぐちゃになってわからなくなる。
前世の僕ーートーカの、
一生分の重すぎる想いが、17歳の僕にはまだ受け止めきれないのだった…。
第1章② 杖と前世 おわり
第1章③ 蛇と蛙 につづく
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