【あつ森】World's End Happy Birthday 【プロローグ 雪と魔石】
プロローグ 雪と魔石
1.魔法のオーナメント工房
春休みの初日、僕は旅に出ていた。
行き先は、弟の灯火にも伝えていない。
家を前夜に出発して、目的の場所に辿り着いたのは今日の午後3時だった。
ここか、魔法のオーナメント工房跡…。
大昔は星のように輝く魔石がトロッコに積まれ、鮮やかな煙を噴き上げる大釜が並んでいたが、
今では沢山の歯車や配管で囲まれた、金属加工の工房が建っている。
建物の前で待っていると、工房から長身の青年が出てきた。
ツナギを着て、工具の入ったポーチをぶら下げ、まさに職人といった出立ちだ。
「よお!あんたが連絡くれた『ユキ』だな?」
長身の青年は、『15代目ヘルツ』と名乗った。
これは職人としての通り名で、本名は別にあるらしい。
機械仕掛けの職人の本筋は、魔法が世界から消えた時代に途絶えてしまい、現代では弟子の家系が継いでいるそうだ。
僕はたくさんの機械が蠢き、蒸気を噴き上げる工房の中に招かれた。
「探しているものはこれだろ。
いまとなっちゃ、扱える者がいない。」
ヘルツは僕の前で古びた木製の箱を開けた。
箱の中には静かな輝きを湛えた小さな石がいくつも並んでいた。
「手に取ってみてくれ。」
僕が石の一つを手のひらに載せると、中から光が弾けるように輝いた。
「おおっ…反応してる!?初めて見たよ!」
ヘルツはこの不思議な石について説明してくれた。
この石は、魔法のオーナメント工房に伝わる特別な技術で密かに加工されたもので、古の星の魔力が封じ込められている。
流星群の夜には強く輝き、素質がある者なら魔法の杖を媒介にして使いこなせるかもしれない。
封じられている魔力量はそう多くないから、使っているうちに壊れてしまうだろう。
この箱は、いつか正しく必要とする者が現れたら渡すように…と。
「大昔にトーカとトーコが工房を訪れたという記録がある。あんたの話とも合致する。どうか正しく使ってくれよ。」
ヘルツはそう言って、僕に魔石の箱を譲ってくれた。
「じゃ、氷華さんによろしくな!」
「ああ。伝えておくよ。」
僕は工房を後にする。
これまで他にも魔石と言われる物を手に入れていたが、ハズレばかりだった。
夢で見た、これから起こることをどうか乗り切れますように…。
2.夜の列車
帰りの夜の列車の中で、僕は弟の灯火のことを考えていた。
前世の僕ー『魔術師スノウ』が、こうなりたいと願った理想の自分『トーカ』。
優しくてお人好しで、トーカが亡くなる時に消えるはずだったスノウの人格さえも掬いあげて、来世に一緒に連れてきてしまったのだった。
スノウは『雪』、トーカは『灯火』、それぞれ別れて、双子の兄弟として生まれ変わった。
けれど…前世の僕は、トーカの内面を少し綺麗に作りすぎたようだ。
その人格を引き継いだ灯火も、とても純粋で、悩まなくていいようなことまで悩んでしまったりする。
そんな弟の姿を見ていると、兄の僕は心配でしょうがないのだった。
しかも、物心ついた頃から前世の記憶がある僕に対して、灯火が前世の記憶を思い出し始めたのはほんの1年前だった。
トーカがトーコと旅した日々や、トーコのことを想って絵を描き続けた残りの人生の、大切な記憶なのだけれど…
灯火として生きてきた自分との齟齬に、未だに戸惑っているようだ。
時間をかけて少しずつ、受け入れていくしかないんだろうな…。
これから起こることに、できる限り灯火を巻き込みたくないが…もし夢の通りなら…。
島に戻ったら、氷華さんから「あれ」を手に入れないと…。
思考を巡らせながら眺める車窓の向こうには、大昔の記憶と変わらず煌めく春の星空が広がっていた。
プロローグ 雪と魔石 おわり。
第1章①ドーナツとコーヒー へつづく。
🌟読んでいただきありがとうございます🥰
これから始まる物語、お楽しみいただければ幸いです🌸
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