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Ep.1 銀行業界のビジネスモデルと動向

「日本の銀行は今、世界で戦っている」

「銀行」は「お金」と同様に私たちの生活を支える基盤です。
しかし、何をしているのか、イマイチわからないのが、銀行ではないでしょうか。

本記事では銀行業界のビジネスモデル動向を物語形式で学びます。
きっと銀行の魅力に気が付くはずです。

【登場人物】
神田(主人公):派遣社員1年目。ちょうど研修を終えたところ。
木口     :派遣先の斡旋を担当。幅広い業界の知識が豊富。



1. 銀行業界への派遣

私は新卒1年目。都内の派遣会社に入社した。
研修を一通り終え、派遣先が決まるのを待っている。

今日の午後、派遣先の斡旋をしている木口さんが、最初の派遣先を電話で連絡してくれることになっている。
ソワソワしながらスマホを開いては通話履歴を見て、着信を見逃していないか確認している。

プルルル・・・
ちょうどスマホの画面を見ていた私は思わず携帯を落としそうになった。

スマホを肌身離さず持っていたことを木口さんに悟られないように、3コール待ってから通話ボタンを上にフリックした。

「もしもし、神田さん?」

「はい、神田です!」

「経済学部出身だったよね?明後日から銀行で働いてもらうことになったから。とりあえず、明日までに銀行業界のビジネスモデル動向を調べておいて!」

「はい、わかりました!」

矢継ぎ早に言われ、木口さんの勢いに飲まれた私は、気がついたら即答していた。

「それじゃ、また明日!」

・・・プツッ

一方的に電話が切られ、嵐が過ぎ去ったような気持ちになった。

経済学部だから銀行というのは、いささか強引に感じたが、やると言ったからにはやるしかない。
私は半日使って、銀行業界のビジネスモデルと最近の動向を調べ始めた。


2. 銀行のビジネス構造と動向

翌日、木口さんに会うために会社に行った。

待ち合わせの会議室に入ると、忙しなくキーボードを叩く木口さんがいた。
エンターキーを押すたびに銃撃のような音が部屋中に響き、プレッシャーを感じた。

「あの・・・」

一声かけるとパッと顔をこちらに向け、他所行きの笑顔を作った。

「あ、神田さん!久しぶり!どうぞ、席に座って!」

言われるがままに、笑顔を保っている木口さんの向かいに私は座った。
私が座ると同時に、木口さんは言った。

「昨日は電話ありがとね。電話で話した通り、銀行業界に行ってもらうことになったから。早速だけど、昨日お願いしていた銀行業界のビジネスモデル動向、調べてみた?」

相変わらず早口な木口さんは、いきなり本題に切り込んできた。

「あ、はい。調べました。紙に書いてみたのですが・・・」
私は用意していた紙を恐る恐る机に広げた。

銀行業界のビジネスモデル

「銀行のビジネスモデルを図にまとめました。
まず、銀行には3大業務と呼ばれる➊預金業務、➋融資業務、➌為替業務があります。

➊預金業務は、個人や法人からお金を預かること。

➋融資業務は、個人や法人、国や地方公共団体にお金を貸し出すこと。

➌為替業務は、口座のお金を別の場所へ移動させること。

銀行は貸し手に支払う利息と借り手から支払われる利息の差額、外国為替や振り込みで発生する手数料で儲けています。」[1, 2]

「素晴らしい!よくまとまっているね!最近は利息の差額による収益が減少していて、手数料での収益が重要視されている。手数料には、ATM関連、投資信託関連で発生するものもあるよ。」


3. 銀行業界の動向

「ここからは銀行業界の動向についても話そう。最近、銀行業界では、他業界からの新規参入が増えている。三菱UFJフィナンシャル・グループ三井住友フィナンシャルグループみずほフィナンシャルグループといった、いわゆるメガバンク※に加え、楽天銀行やセブン銀行といった新規参入型銀行が増えてきている。それらのビジネス構造も見ておこう。」

※メガバンク:「グローバルなシステム上重要な銀行」を意味するG-SIBs(Global Systemically Important Banks)に指定された日本の3グループ。銀行、信託、証券といった総合的な金融機能を持つ巨大グループ。[3]

そう言うと、木口さんは鞄からA4サイズの紙を取り出し、机に置いた。

新規参入型銀行(参考文献[3]を参照し作成)

「最近、自社のプラットフォームやブランド、チャネルを活かして銀行業界に新規参入する会社がある。ただし、銀行からもらう手数料で儲けるセブン銀行のように、直接競合しない会社もあるんだ。」

「最近、”銀行”という名前の付いた会社をよく耳にしますが、特徴に違いがあるんですね。これだけ新しい銀行が参入してくると、メガバンクも市場のシェアを奪われてしまいそうですね。」

「意外とそうでもないんだ。最近、メガバンクは海外における売上を伸ばしていて、今後は海外事業をさらに拡大していくと予想される。これを見てくれ。」

今度はノートパソコンの画面を見せてくれた。

(注)三菱UFJ、三井住友は銀行単体、みずほは銀行と信託の合計。資金利益の内訳は貸出金利息や有価証券利息配当等。
(出所)各社公表資料と文献[4]を参照し作成。


「メガバンクは、利益の半分が海外で構成されていて、ここ数年は40~60%で推移している。そういう意味では、新規参入型銀行との競争より、海外の事業拡大に重点を置いているのかもしれない。」

「なるほど。日本の銀行は今、世界で戦っている。そういうことですね?」

この私の問いに、木口さんは笑顔でうなずいた。気のせいかもしれないが、素の笑顔を垣間見た気がした。


国内で戦うのではなく、世界で戦う。言い換えると国内では事業の拡大が難しいということなのだろう。

国内での事業を見込めないという点は少し寂しいが、海外で戦う銀行を応援したいし、自分も派遣先の銀行で貢献したいと思った。

(つづく)

参考文献

[1] 長塚孝子, 『図解即戦力 銀行業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』, 株式会社技術評論社, 2020/5.

[2] 前田裕之, 『ドキュメント銀行 金融再編の20年史ー1995-2015』, 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2015/12.

[3] 野崎浩成, 『教養としての「金融&ファイナンス」大全』, 株式会社日本実業出版社, 2023/1.

[4] 田北浩章, 『会社四季報 業界地図 2024年版』, 東洋経済新報社, 2023/9.


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