ドSな彼女 1
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「ねえ、ミチルくん、ちょっと意見聞かせて欲しいんだけど」
バイトの先輩の里緒菜さんは、飲み終わったコーヒーカップの横にコミックの単行本を一冊置いてそう言った。閉店時間になって、二人で休憩した後だった。
そのコミックの表紙を見た僕は、ちょっとした衝撃を受けた。
可愛い絵柄の女性が、座った状態で裸の少女、いや少年か、その子を向き合う形で抱きしめている。
女性の方はちゃんと服を着ていて、男の子だけが全裸なのが、刺激的に思った。
しかも、少年は全裸なだけじゃなく、その首には犬みたいな首輪、そしてリード紐はくるりと回って女性の手首に巻いてあった。彼のプルンとしたかわいいお尻がまず目を引いた。
「アダルトコミックじゃないよ。だから16歳のミチルくんでも読んで大丈夫。表紙見てわかると思うんだけど、女の人が男の子を調教していく話なんだ」
男の子を調教なんて言葉を里緒菜さんから聞くことになるなんて。めまいがしそうだった。
「でも、どうして僕に?」
僕が表紙から目を離して聞くと、
「実はあたし、趣味で小説書いてるんだけど、今度こんな感じの話書いてみようと思って。でも、女性側の気持ちはわかるんだけど、男の子のがよくわかんないの。だから、ミチルくんに聞いてみたいと思ったの。その表紙の男の子も、ミチルくんにそっくりじゃない?」
そっくりだなんて言われて、僕自身が里緒菜さんに裸で抱かれているところを想像してしまう。
思わず股間が膨らんでしまう想像だった。
そう。僕はこの里緒菜先輩のことがずっと好きだったのだ。
一目惚れと言ってよかった。最初に会った時のスラリとした印象。長い髪に細面の顔、そして大きめのレンズのメガネも似合っていた。
そういえば、コミックの表紙の女性も、メガネを付け足せば先輩によく似ているかもしれない。
「わかりました。帰ってから読んでみます」
僕がそう言ってデイパックにコミックを収めると、彼女はこっちもねと言って、続きの巻だろう三冊も横から僕のデイパックに押し込んだ。
そして、その日バイトが終わった僕は、ちょびひげの店長と里緒菜さんにお疲れ様と言って家路についた。
高一の夏休み、僕は欲しいゲーム機を購入するためにバイトを始めたのだった。
近くの町のバーガーショップで、都合よく求人を見つけられたので、何も考えずにそこに飛び込んだ。
マクドとかモスとかの大手ではなくて、こじんまりした店だった。
「剣崎ミチルくんか。じゃあ、この条件で、来週から来れるかな?」
ちょびひげで丸顔の店長が僕の前の雇用条件の紙を示して言った。
大丈夫ですと僕が頷くと、じゃあ、ついでだからお昼食べて行きなさい、おごるから、と言ってくれた。
なかなかいい人のようだ。僕の初バイトはいい線いってるみたいだ。
そして、いい線いってるなんてものじゃない、素敵な幸運だったと思ったのが、バーガーとコーヒーを乗せたトレイを持って現れた里緒菜さんだった。
こっちは娘の里緒菜だよ、よろしくな、と店長に紹介された彼女が、テーブルの上にトレイを置いてさわやかに微笑んでくれたのだった。