『二人だけの戦場』の感想の続き

ブルーレイが楽しみすぎるので、感想追加です。

一番最後の、ずしっとした重い胸の痛みが、爽やかな切なさに変わっていくところがものすごく好きなので、それについて考えてみました。

重い胸の痛みの方について考えるとき、よく思い浮かぶのは、記者に写真を撮られるときのシンクレアの、身の置き所がなさそうな、落ち着かなげなようすです。どうしてこんなに誠実な人が罪人みたいな顔をしなければならないのだろう、と見ていて辛かった。同時に、この人の壊れてしまったアイデンティティはまだ回復していないのだな、とも感じられて胸が痛くなりました。

クェイドさんを撃ったときの、シンクレアの心の中の、なにかすごく重要なものが壊れてしまったような生々しい感じ。あれは罪悪感とかショックとかではなくて、シンクレアという人の核となっていた、軍人としてのアイデンティティが崩壊するようすだったのだと思います。

シンクレアはその後の十五年間のうちに、なにか理屈をつけて自分と軍を正当化し、新たな正しい軍人像を作りあげることも可能だった。でも、それをしないで、真摯に自分の心に向かい合って、軍は悪であるという真実を受け入れた。

己の誇りとアイデンティティを託していた軍を悪だと認めるのは、平和な世の中で「戦争反対」と唱えるのとはぜんぜん違う、自分の心の核の部分を切り捨てるような辛い作業だったと思います。

気軽に「戦争反対」と言える世の中しか知らない私に、こんなふうに、戦争に加担してしまった人が辿り着く「戦争反対」の重みをずっしりと感じさせてくれたこの作品は本当にすごい。

そして、爽やかな感動のほうなんですが、普通、人は、自分のアイデンティティが崩れるような選択肢は選べないと思うんですよ。選んだらすべてが終わってしまうように感じられると思うので……。でもそれを選んだシンクレアに訪れたのは、終わりではなく、軍への帰属意識から解放された新たな人生だった。からっぽになったかに見えたシンクレアの手には、愛と友情がしっかり残っていた。

そんなふうに、勇気を持って真実に向かい合った人が称えられる最後だから、切ないけどすごくかっこいい、爽やかなラストなのかなと思ったりしました。

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