『うたかたの恋』のライブ配信の感想

すごくよかった。登場人物みんなが生き生きとしていて、ルドルフの苦悩が深くて、そんななか無邪気でいつづけるマリーが実はすごく意思の強い女性に見えてきて、本当に面白かった。ルドルフとマリーの甘いやりとりは期待通りというか、期待以上に最高だったし、面白さと深さを両立してるの本当にすごい。

一番印象的だったのは、ルドルフの言う「小さな青い花」が人間性を意味していると感じられたことだ。『うたかたの恋』はロマンチックな恋物語であるけれど、一人の人間が人間性を捨てるか捨てないか苦悩する物語でもあったんだと強く感じた。

そう感じさせてくれたのは柚香さんの、「美しく物憂げな王子さま」というキャラクターには収まり切らない、いろんな表情を見せてくれる豊かで多彩なお芝居だ。

ゼップスにお母さんに似てると言われたときの深く考え込むような表情。夢の中でジャンとミリーに言った「君たちは素晴らしい」。目覚めてからの微笑み。ルドルフが人間らしく生きようと決意したのがすごく伝わってきた。

ルドルフはそれまで、個々の人間を大切にするという新しい価値観に感化されながらも、古い価値観に支配された組織のなかで生きてきた。そこから抜け出して自分の幸せを追求しようとするのだが、舞台中央に鎮座する巨大な双頭の鷲がそれを阻む。

ルドルフを死に追いやったのは父親ヨーゼフやフリードリヒ公爵ではなく、双頭の鷲が象徴するハプスブルク家という巨大な存在だと思う。

執務室でのヨーゼフが双頭の鷲の下で小さく見えたことや、ヨーゼフ本人はルドルフを愛しているのが伝わってきたのも印象的だった。組織の頂点にいながら、けっきょく歯車の一つでしかないヨーゼフ。本人は妻子を愛しているつもりなのに、価値観が違うから少しも分かり合えない。そんな父親に向けられるルドルフの眼差しは冷ややかだ。愛がないわけではなく、父親を古い価値観から引っ張り出そうといろいろ努力した結果の諦めなのだろう。自分がいつかそうなってしまうかもしれないことへの恐怖もあるのかもしれない。

双頭の鷲は後継者の離反を許さなかった。巨大な権力に狙い撃ちされてしまっては逃げ道はもう一つしかない。一瞬子供のような表情で父にすがったルドルフが、現状を認識して死を決意するのは早かった。

ルドルフがマリーに一緒に行くか、と聞いたことは、ちょっと引っかかっている。私が心中というものにあまりにもマイナスな感情を持ちすぎているせいだろう。

だけど、ルドルフがどれほどすさんだ顔を見せても、その影響を受けず、ちょっと非現実的なくらい無邪気で可憐な「殿下の小さな花」でいつづけたマリーは、実はすごく意思が強くて情熱的な人だと思う。

私はやっぱり心中というものが好きではないけれど、このフィクション、この物語に限っていうなら、これほど恋にすべてを捧げると決めているマリーに黙って一人で逝くことは、ひどい裏切りだと思う。

巨大な双頭の鷲に抵抗して人間らしくあることを選んだルドルフ。そんなルドルフに最後まで寄り添ったマリーは、彼の魂を守り続けた守護天使のようにも見えた。

冒頭の大階段でのシーンの最後、二人が両腕を広げて大きくのけぞるポーズはなんだか不思議だ。銃に撃たれた鳥のように見える。追いつめたのも、追いつめられたのも二羽の鳥。それが何を意味しているかはまだ私にはわからない。もう少しいろいろ考えてみたいと思う。

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