見出し画像

終わりに。

ピティナ特級公式レポーターとして、約1ヶ月の間、演奏を聴いて感じたことやコンクールを支えている方々、本番前のコンテスタントの様子などを文章を通してお伝えしてまいりました。
募集を見た瞬間に「やってみたい!」という衝動に駆られ、応募したこのプロジェクト。本当にたくさんの気づきがあり、大変充実した1ヶ月だったなぁと振り返っています。


音楽は実体を持ちません。目に見えなければ、鳴ったと思ったら一瞬で空気と化し、消えてしまいます。ですから言葉で表現するということはとても難しいことで、思えば、その音楽をいかに伝わる言葉にして皆さまにお届けするか、考えに考えた1ヶ月でもありました。コンクールをレポートすることも、こうしてnoteというオープンな媒体で誰かに向けて文章を書くことも初めてで、「果たして私のレポートを読んで何か良い気づきを得られるだろうか」「私ならではの視点とはなんだろう」と、それはもう、たくさん思い悩みました。そんな悩みながらのレポートを読んでくださった皆さまには本当に感謝しています。特別文章が上手なわけでもなければ、立派な音楽経験があるわけでもなく、読みにくい箇所もあったかもしれません。

けれども、悩みながらコンテスタントの方の演奏を聴き、レポートを書いていく中で、音楽というものは常に私たちに寄り添ってくれるものだと感じました。
二次予選からファイナルまで、実に様々なコンテスタントの演奏を聴き、プログラミングに込められた意図を汲み取ったり、インタビュー動画を見て、生の声を聞いてみて、コンクールに対しての想いや曲の解釈を知り、そこから漏れ出す唯一無二の音楽を感じていると、曲は、どう弾くかという意志を奏者に託してくれているように思えてきたのです。
ピアノの音は減衰して消えていくのだから、全く同じ演奏は絶対にできません。
そして人によって手の大きさも違えば、骨格も違います。タッチの仕方も違うでしょうし、その日の体調や天気にだって気分は左右されるはず。もしかしたら、曲に乗せる想いや解釈だってその日その日で変わるという方もいらしたのかも。
そのように、その時その時で違う音楽が生まれ、その音楽をどう聴くかという意志もまた、私たち聴衆に託してくれていました。

レポーターとして活動することが決まった当初、私はコンクールという舞台を「誰のための舞台でもないけれど、だからこそ誰もが主役になれる場所」だと思っていました。特級に出場される方々、それぞれに抱えている音楽に対しての想いがあり、コンクールとはその想いを存分に発揮できる場所である、と。
たくさんの輝いた演奏を思い出し、その通りだったなぁと思います。
コンテスタントの真摯な音楽の営みを、そして皆さまが感じた音楽に、私が感じた音楽という新たな視点をお届け出来ていたならば、とても嬉しいです。


そしてレポーターという形でコンクールを見渡すと、本当に多くの方が動いていらっしゃっいました。

コンクール運営として多くの業務をこなし、多くのコンテスタントを見守り、どんな時間だろうと私たちレポーターの文章をチェックしてアドバイスをくださった加藤さん、堀内さん。コンクールの模様を質の高い動画で多くの方に届けてくださったビデオクラシックスの林浩史さん(インタビューはこちらから)。
三次予選の際には伴奏者としてコンテスタントを支えた特級歴代入賞者の先生方。一瞬の感動を永遠の記録として撮ってくださった公式カメラマンのお二人。ソリストひとりひとりに寄り添うように音楽を作り上げた飯森マエストロと東京シティ・フィルの皆さま。このプロジェクトを発案してくださった飯田さん、レポーターの仲間。ほかにもこのコンクール期間で出会ったたくさんの方のお顔が浮かんでいます。書ききれないのが申し訳ない……。

私が目にしたのはほんの一部であり、私の目に見えていないところでもたくさんの方がコンクールを支えるために動いていらしたことだと思います。そしてそれくらいたくさんの人が動いているとなると、それぞれにコンクールを見る視点も違い、コンクールに対する気持ちも違うことだとも思います。でも、たくさんの人が動いていると誰かと誰かが繋がりあい、その誰かがまた別の誰かとも繋がりあい、というふうに、見えないところで支え合ってコンクールを作り上げていたのではないでしょうか。というのも、どちらかというとコンテスタントを応援する立場だった私が無事にファイナルまでレポーターとして活動できたのは、記事を書いて見えてきたコンテスタントの音楽へ向かう真摯な姿や、コンクールを支えている方々の姿を見て励まされていたからです。

林さんにインタビューした際に「動画や配信ならではの特長にも分かっていただけて嬉しい」というメッセージをもらえたことは素直に嬉しかったですし、「こんなインタビュアーいる!?」ってくらい人見知り全開だった私のインタビューにも丁寧に答えてくださったファイナリストの皆さまにも、とても救われました。ファイナルの記事をあげた時、加藤さんに「ファイナリストと同じくらい成長しましたね」と言ってもらえた時は、嬉しさと安堵で自然と頬を涙がつたっていました。
そして、もしかしたら私も誰かの支えとなっていたかもしれない可能性も、私の励みとなっています。

それぞれ違う何かを抱えながらコンクールという舞台に対して真摯に向き合い、各々の業務に取り組んでおられ、ひとりひとりにドラマがあったように思います。
コンクールが終わった今、このひとつのコンクールを舞台を様々な視点から描くと、とても面白い連作短編集が出来上がりそう、と思っています。それはいつか実現させてみたい、密かな私の夢です。


さて、思っていたよりも長くなってしまいました。

改めて、様々な演奏でコンクールを彩ってくれたコンテスタントの皆さま、コンクールを支えてくださっていたスタッフの方々、そして私のレポートを読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。

未だにファイナルの余韻が抜け切っていませんが、コンテスタントの方々が次のステージに進んでいる様子を見る度に、活力が高まります。そろそろ私も前に進まなければなりません。
今後も文筆に関わっていきたいし、もっと言うならば音楽を書いていきたいです。まだどうなるかは分かりませんが、一歩踏み出して何かの原点に立つ度に、きっとこのコンクールでの経験が、深く広がっていくのでしょう。感謝の気持ちを忘れずに、日々成長していこうと思います。

これからも多くの方が素晴らしい音楽を体験できますように。
そして願わくば、いつかまた、私の音楽体験を文章として皆さまにお届けできますように。

小原 遥夏


(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?