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夜行列車復活案01 「サンライズ越後・江戸」


はじめに なぜいま夜行列車なのか

 現在、ヨーロッパを中心に、環境保護を目的に鉄道輸送が見直され、夜行列車が隆盛の時代を迎えている。わが国でも、かつては列島の端から端までブルートレインの急行・特急が行き交っていた。しかし、車両の老朽化に加え、新幹線や飛行機の路線網の拡充や夜行バスの登場、さらには運航に必要な機関士の不足など社会的な要因も相俟って2016年までにすべて廃止されてしまった。
 いまやJRグループが運行する夜行列車は「サンライズ出雲・瀬戸」(東京~岡山~出雲市・高松)のみとなっており、もはや風前の灯火である。それでも、時間帯や目的地に魅力を有することから、この列車の乗車率は決して悪くなく、ビジネス・観光の両側面で注目されている。

 ビジネスの観点から整理していこう。「サンライズ」は東京駅を夜10時前に発車し、岡山に翌朝6時半に到着する。ここから山陽新幹線で西に進むと、広島に7時半、博多には8時半、熊本には9時、鹿児島にも10時前の到着となる。ということは、これらの都市へは翌朝一番の飛行機よりも時間面で優位に立つことになる。(※九州内各都市にはほぼ同着ではあるが、羽田空港からこれらの都市への飛行機の出発時刻は朝6時台であり、これに間に合うエリアは非常に限られる)
 さらに、中国・四国地方においても、松江に9時半、鳥取に8時半(岡山乗り継ぎ)、高松に7時半、高知に9時半(坂出乗り継ぎ)とこちらへのアクセスにも十分利用可能である。これらの優位性は逆方向にも言える。

茜空の「サンライズ出雲」 宍道駅にて

 一方、観光需要に関しても、上りは東京に朝7時過ぎ、下りは高松に7時半(延長運転時は、琴平に8時半)の到着であることから、朝早くから周辺の観光地に向かうことができる。そして、「寝台列車」という非日常により旅情を掻き立てられることもこの列車の強みと言えよう。実際、旅行商品を見ると「往路には新幹線+在来線特急、復路ではサンライズ出雲号」といった商品が目立つし、繁忙期になれば「出雲」の臨時便が出ることもある。

 ここまでをまとめると、「サンライズ出雲・瀬戸」の優位性は以下の通りと言える。

  • 首都圏~中四国・九州へ朝一番に到着できる。

  • 飛行機の始発よりも安いうえ、早起きをしなくても良い。

  • 寝台特急そのものが非日常的な「ハレ」の空間である。

 今回は、上記の特性を満たす寝台特急を復活させるべく、かつてのブルートレインのうち、廃止時点で比較的乗車率の良かった「急行きたぐに」(大阪~米原~金沢~新潟)、「急行銀河」(大阪~東京)を寝台特急として再生する案を提示したい。これと合わせて、その優位性に関して考察も示そうと思う。

「サンライズ越後・江戸」の運行区間 地理院地図に加工して作成

時刻表

新潟・東京方面

(ユニバーサルシティ2200→)大阪2220→新大阪2225→京都2250→草津2310→米原2340→大垣005→岐阜015→名古屋035→千種040→瑞浪100→(塩尻:運転停車 220/355)→松本(※) 405→長野455→妙高高原540→新井600→高田610→直江津620→柏崎645→長岡710→見附720→東三条730→加茂740→新津750→新潟815
※登山シーズンのみ停車
※ユニバーサルシティ〜大阪は始発駅が土休日の場合のみ運行

(塩尻:運転停車 220/400)→甲府505→大月535→八王子605→立川615→新宿645

大阪方面

新潟2055→新津2110→加茂2120→東三条2130→見附2140→長岡2150→柏崎2215→直江津2240→高田2250→新井2300→妙高高原2320→長野005→(塩尻:運転停車 105/320)→名古屋450→岐阜510→大垣520→米原550→草津630→京都645→新大阪710→大阪715(→ユニバーサルシティ735)

新宿2230→立川2305→八王子2315→大月2345→甲府015→小淵沢040→(塩尻:運転停車 125/320)

※大阪〜ユニバーサルシティは終着駅が土休日の場合のみ運行

メリット

上り(新潟・東京方面)

 まず、上り(新潟方面)の「越後」について。現在、大阪・名古屋から新潟県へ鉄道で移動しようとすると、どうやっても乗り換えが発生する。所要時間が最短となるのは東京で東海道新幹線と上越新幹線を乗り継ぐルートではあるが、この場合、名古屋からは3時間、大阪ならば4時間ほどかかってしまう。こういった事情により、大阪・名古屋~新潟の区間には飛行機が11本(大阪から)、2本(名古屋から)運行されている。
 しかし、「サンライズ越後」を使うと、この区間の飛行機(および新幹線乗り継ぎ)の最終よりも遅い時間に出発し、翌朝一番のものより新潟県まで早く着くことができる。さらに、新潟駅では特急「いなほ」と連絡することで、山形県庄内地方や秋田県にかほ市・由利本荘市までの区間であっても飛行機に対し優勢となれる。

 観光に関していえば、夏には松本から上高地・扇沢(立山黒部アルペンルートの発着地)行きの特急バスを運行することで、登山や山岳観光の需要の発掘につながる。また、長野では軽井沢行きのしなの鉄道の始発と接続するため、関西・東海~東信の需要も喚起できる。冬場であっても、長野から白馬への直行バスへ連絡することで、スキーヤーの乗車が見込まれる。
 観光への影響は新潟県にも当然もたらされる。直江津では朝一番に佐渡島(小木)に向かうフェリーと連絡できるし、ほくほく線経由で越後湯沢に向かいスキー場にも行ける。長岡から上越新幹線に乗り換え浦佐で下車すれば尾瀬にも向かえる。越後湯沢より先、水上行き普通列車の時刻をずらせば、東海以西から群馬県北毛地域への最速ルートも形成できる。当然のことながら、高田城の桜、長岡の花火など沿線のイベント輸送も担えるし、先述の通り山形・秋田両県の日本海側への足ともなる。


山形県酒田市・山居倉庫

 一方、「江戸」編成に関しては、現状直通列車のない大阪・名古屋~山梨県・東京都多摩地域・新宿へ直結できる。しかも、新宿から埼京線(または湘南新宿ライン)に乗り継いでいくことで、おおむね平泉・気仙沼以南への輸送も担える。もちろんのことながら、沿線のテーマパーク(富士急ハイランド、東京ディズニーリゾートなど)への輸送も果たせる。
 ビジネス需要に関しても、新宿の到着時刻が早く、何らかの施設(シェアスペースやネットカフェなど)で朝一番の会議の準備ができる。なお、大阪→東京に関しては「サンライズ出雲・瀬戸」も存在するが、こちらの「サンライズ江戸」は「乗車時間が長いため、睡眠時間を長くとれる」「新宿や多摩地域に直結できる」の2点をセールスポイントとしたい。そのほか、時刻の設定上、大阪・京都~名古屋の終電、甲府~新宿の始発の機能も担うことになるだろう(前者に関しては急行「銀河」も同様の役目を果たしていたが)。

下り(名古屋・大阪方面)

 こちらも「越後」から解説する。広域輸送に関しては、秋田発の特急「いなほ」と新潟駅で接続をとることで、秋田〜名古屋、由利本荘・にかほ・庄内〜京都・大阪の需要に応えることができる。新潟の出発は最終の飛行機より遅く、東海・関西地方に到着するのは朝一の飛行機・新幹線より早いため、これらに対する優位性も保つことができるし、朝一番の会議に余裕で間に合う。さらに、新潟→新井・長野の終電、岐阜・大垣→京都・大阪の始発としても機能する。
 そのほか、関西地方の観光地を早朝からめぐることもできる。京都には朝7時前に到着し、朝早くから開門している寺社仏閣を参拝できる。また、ユニバーサルスタジオジャパンにも朝7時半に到着でき、俗にいう「開門待ち」をすれば、オープン直後からアトラクションに向かえる。

 「江戸」編成の場合、東京→名古屋・大阪の唯一の夜行列車となる。このため、先述のような関西観光のほか、関西圏での朝一番の会議にも間に合うことを営業戦略の核に据えたい。

(参考)運用・車両

 乗務員の行路については、以下の区間の通り想定する。

  • 大阪~米原:JR西日本京都電車区・車掌区

  • 米原~名古屋:JR東海大垣運輸区

  • 名古屋~塩尻:JR東海神領運輸区

  • 塩尻~長野:JR東日本長野総合運輸区

  • 長野~妙高高原:しなの鉄道

  • 妙高高原~直江津:えちごトキめき鉄道

  • 直江津~長岡:JR東日本長岡運輸区

  • 長岡~新潟:JR東日本新潟運輸区

  • 塩尻~甲府:JR東日本甲府運輸区

  • 甲府~東京:JR東日本甲府運輸区・新宿運輸区

なお、塩尻駅では、名古屋・長野・甲府からの方がもと来た方面に折り返すことを想定している。こうすることで、いわゆる「越境乗務」をなくすとともに、コストの縮減にもつなげられる。

 車両については、「サンライズ出雲・瀬戸」用の285系をベースとする新車とし、東日本会社と東海会社で分担して保有すると考えている。

(参考)大幅遅延時は

以下の方法による振り替え輸送を想定。
【上り列車】朝5時時点で……
大阪~名古屋:京都駅または名古屋駅より新幹線・特急「しなの」などへ代行。
名古屋以降:塩尻で分割併合後、新宿行きは立川まで運転し回送。新宿までの乗客は長野まで新潟行き編成に便乗ののち長野から北陸新幹線に振り替え、もしくは立川から中央快速線に乗車。新潟行きはそのまま終点まで運転。

【下り列車】朝5時時点で……
新宿~甲府:塩尻まで運転の上、特急「ふじかわ」または特急「しなの」+東海道新幹線に振り替え。
甲府~塩尻:塩尻で運転を打ち切り特急「しなの」+東海道新幹線に振り替え。
新潟~長岡:長岡で運転を打ち切り上越新幹線・東海道新幹線に振り替え。
長岡~長野:上越妙高に臨時停車のうえ長野まで運転し、長野から特急「しなの」+東海道新幹線、あるいは上越妙高から北陸新幹線+特急「サンダーバード」または特急「しらさぎ」に振り替え。
長野~塩尻:千種に臨時停車ののち名古屋まで運転して回送。
塩尻以降:そのまま終点まで運転。ただし、名古屋駅到着が朝6時を回る場合、千種駅に臨時停車の上、名古屋止まりに変更し、名古屋から新幹線へ振り替え。


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