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星組『ロミオとジュリエット』

語らずにはいられないすごいものをまたもや見てしまった…

元々星組でやると決まった時から、期待しかしていなかったものの、それを余裕で超えてきた感覚。

今まで宝塚のロミジュリは何回か映像で見てはきたものの生観劇は初。それでも以前のロミジュリと比べて大きく変わったなと思う部分を中心に考察していこうと思う。

ジュリエットを中心とした、娘役が動かすストーリーライン

宝塚と言えば、確固としたトップ男役制度が昔から脈々と受け継がれ、娘役は(トップ娘役でさえ)「男役」を立てる役割とされてきた。

ただ最近時代に合わせてなのか、その傾向が変わってきているなと感じる作品が多い。男役の一歩後ろから支えるような古風な娘役よりも、男役とともに隣に立って組を支えていく娘役が増えてきている。

その代表格と言えるのが星組現トップ娘役、舞空瞳。

柔らかい少女の役から仲間を率いる女海賊リーダーまでこなす超実力派の娘役だ。ただどちらかと言えばエネルギッシュで強いイメージがある舞空さんが、世間知らずで少女性がかなり強い(と勝手に今までは思い込んでいた)ジュリエットという役をどのように演じるのか、気になるところではあった。

実際に観劇後、まず思ったのは私の中にある今までのジュリエット像を大きく塗り替える、歴代最高のジュリエットと言っても過言ではないほど素晴らしいジュリエットだった、ということ。

「何も知らない16の乙女」でありつつも、おてんばな面がかなり強くて猪突猛進するようなタイプのジュリエット。自分の意思を貫くためなら怖いもの無しに自ら進んで行動するような、そんな人物。

今まで同じストーリーを見てきたはずなのに、演出の違いなのか言い回しの違いなのか、それとも演者の違いなのか、私が思うジュリエットは典型的な「箱入り娘」で、受動的に行動するタイプだと思っていた。単にちょっと頼りないロミオが恋をした相手がジュリエットで、同時にジュリエットもロミオに恋に落ちて、向こうから結婚しようと言われたから結婚して、ロミオが死んでしまったから最後自分も死を選んでしまう、みたいな基本相手の行動ありきのジュリエット、という捉え方をしていた。

でも今回の2021ロミジュリを見て、そういう話じゃなかったんだなとすごく納得させられてしまった。

考えても見れば最初にロミオの名前を聞きにいくのもジュリエットで、逢瀬を手引きするのもジュリエットから、ロミオ追放の後に最初に「薬で仮死状態になる」というアクションを起こすのもジュリエットで、彼女が動かないと基本的に物語は進まないのだ。

さらに言うと、ラストの和解の場面だって最初に動くのはロミオとジュリエットの母+乳母たち。

こんなに娘役の登場人物が中心になっていることに何故今まで気づかなかったのだろうか。何度も何度も再演されている作品だというのに。

それはやはり、舞空瞳を中心とする星組娘役たちが自らがストーリーを動かしていくという演出家からの強い要望によって、滲み出る芯の強さのようなものを演技の中に生み出しているからだと思う。

有沙瞳演じる乳母もそうだ、こんなに乳母が歌う曲が印象に残る、むしろ一幕ラストのエメに劣らず大きな印象を観客に残す上演が今まであっただろうか。今までのロミジュリを全て生で見ている訳ではないので不確かではあるものの、今回は乳母が大きな一役を買っているといっても過言ではない。彼女がある一種の大きな愛をジュリエットに全力で注いでいるからこそ、ジュリエットが自力で立てる強さを持てる、そんな説得力がある演技と歌だった。

ロミオとマーキューシオの関係性

その一方で、ロミオの親友二人の印象も若干変化したように思う。AパターンとBパターンでこちらは演者が変わるのでそれぞれ印象もガラッと変わるのがまた面白いのだが、特に天華えま演じるマーキューシオが私の中では1番しっくりくる存在の仕方だった。

今までマキュは登場シーンが他のキャラと比べて少ないこともあり、チャラいヤンキー程度の認識で、あの決闘のシーンでも観客が置いてかれてる…と変に冷静になってしまう瞬間もあった。

しかし今回はマキュが何故「ピエロ」なのか、何故あそこまでしてティボルトへの憎しみをぶつけていたのか、かなりわかりやすく演じられていた。

最大の山場とも言える二幕の決闘シーンで、「お前はピエロだーー!」とティボルトから言われるマーキューシオ。初めてロミジュリを見た時はそこまでマキュに感情移入が出来なくて、というのもチャラついたイメージがやはり強く、近寄り難い不良少年という印象だったから。だからなんで「ピエロ」??という感じだった。

今回の天華マキュは特に「ピエロ」感が強い、と思う。一幕は基本的に「ピエロ」の装いで存在しつつ、二幕でロミオがジュリエットと結婚したという事実を知った途端パラパラと仮面が崩れていく。そしてすべて仮面が取れた本当の姿が現れるのが「僕は怖い」リプライズ。気づいたら暗闇の中に取り残されて、そこに残されたのは自分の体と”孤独”のみ。恐怖に怯えるマキュ、ロミオの幻影を見るも死に引き離されてしまう。

仮面の下に何を隠していたかといえば、「孤独」、そしてどれだけの相手と関係を持ったとしても勝ることのない、ロミオへの「愛」なのではないかと思う。

マキュが同性愛者だった、という説は結構有名らしい。今回初めてその目線であらためて一通り鑑賞してみて、すごく個人的には合点がいった。

女性嫌悪だからこそ多くの女性を単なる性欲の対象として消費していた、一見すると最悪な男性キャラクターと言い伝えられることが多いマキュ。でも、その行動の理由を考えてみると、ロミオへの愛を塗り隠すための自暴自棄な行動だったのかなとも思う。

今回は特に女を渡り歩く男、というよりは駄々っ子を捏ねるようなタイプの子供っぽいマキュに最終的に落ち着いた感じが見えて、愛を必死に欲しているのに、真剣な恋愛関係には全く興味を示さなそうな、そんなキャラクターだった。だからこそそんなに嫌悪感は抱かなかったし、ピエロの仮面で隠しきれないロミオへの愛情表現が至る所に見えて、恋愛とか性愛とかそう言うのも関係なくただロミオが一番大切な人なんだな、と思わせてくれる役の作り方だった。

舞踏会でロミオの危険を察知した時、決闘でロミオがティボルトに傷つけられたとき、マキュはピエロになっていることなんて忘れて、周りが見えなくなって、気づかない間に体が動く。今までに見たことないくらい真剣な顔で、ロミオの元に駆けつけるのだ。

大好きなロミオから裏切られたように感じ、ナイフをロミオに向けてしまうこともあった。それでも自分の話をロミオは聞いてくれない、いつの間にか世界の王として共に隣に立っていたロミオは、ジュリエットと2人で生きる決意を決めていた。どうして、と思いつつ人を愛する気持ちを知っているからこそロミオを責められなかった。ナイフを大好きなロミオに向けたことを死ぬほど悔やむのだ。

決闘でなぜティボルトとあそこまでぶつかることになってしまったのか、それは互いに愛していた相手から結果的に裏切られ、それでも自分の隣にはもう戻ってこないと知っていたから。どうしようもない同じような怒りを抱えていたからなのでは、と思う。(ロミジュリは全部タイミングが悪いからこそ悲劇になるのであって、少しでもどこかに合間が空いてたら成立しない作品。だからこそ超スピーディーに物事が進むのも一理あるし、この速度じゃないとある意味筋が通らないのだ)もともと似たもの同士で憎みあっていたのもあるが、ここまで互いの絶望のタイミングが合わなければ殺し合うこともなかったのではないかと個人的には思う。

そしてこの流れだからこそマキュが刺されてしまい、亡くなる直前にロミオに言うセリフ「ジュリエットを愛し抜け!!」が本当に生きてくる。あんなに憎んでいた相手なのに何故、と思うがそこはやはりマキュの根底にあるロミオへの愛からくるものなのだろう。自分はお前の腕の中で死ぬんだ、もうそれはどうしようもできない事実、命をかけてロミオを守り愛し抜いたマキュが最期に望むことは、自分が愛し抜いた大切な人が愛する人と幸せになる未来だった。ティボルトと同様、自分が愛する人を幸せにすることはできないと実はわかっていたから、そう言うしかなかった。

愛する人の腕を震える手で必死に掴み、最期の思いを述べ、「愛する友よ、別れの時だ」とベンヴォーリオ、ロミオを見つめて言いながら、最期にずっと見つめるのはやはりロミオの顔なのだ。その顔は苦しそうで、辛そうで、でもやっぱり幸せそうでもあった。やっと本当の思いを、ピエロの仮面を捨て去って、心の底からの叫びを伝えることができたから、そして大好きな人の腕の中で眠りにつけたから、であろうか。

まとめ

マーキューシオがここまで奥深い人間だなんて、全然知らなかった私としては新たな発見ばかりだった。大きな声では言えないが、弱々しい男性の家系問題に巻き込まれ女性も死に至り、結果的に若者4人の死が大人たちに平和の道具として消費されている感じがある「ロミオとジュリエット」と言う作品には、もともと苦手意識があった。それに説得力を持たせ、筋を通すことができたのは、マキュのみでなくそれぞれの主要人物の役作りがとても深く、主要役以外の人物に至るまで芸名の面影なんて全く見せないような、役名があってもなくてもヴェローナに生きる人間として、舞台上で全員が生きていたからだ。

そして何よりも皆から愛され、天使のような人間で、弱さの中にもジュリエットにも愛され愛し抜く強さを持つロミオがブレずに真ん中にいたからこそ本当に素晴らしい作品になったのだと思う。(「恋の翼に乗って〜」の件とか「まだ見ぬ恋人を探している」とか、一見聞いただけでは幼稚な男性だと思われがちのロミオのキャラクターをあそこまで自然に演じられる礼真琴さんはやはりすごい演技力&表現力の持ち主だと改めて実感した)

星組B日程は残念ながら配信で千秋楽を迎え、悔やんでも悔やみきれないもったいない終わり方だった。それでも無観客でも配信してくれたことには感謝の気持ちしかないし、A日程も楽しみに待とう。DVD見てまた分析できたら他キャラクターに関しても別記事載せようと思います、星組で2021年にロミジュリを上演してくれて本当に良かった。私のロミジュリ観を劇的に変えてくれてありがとう、これからの星組の舞台も楽しみでならない。

Haru.



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