漫画『青野くんに触りたいから死にたい』64話感想

本当にすごい話だった。
人の心の弱い部分を、こんなにも丁寧に言語化してくれた作品があっただろうか。
この話はどれだけ沢山の人を救うだろうか。
受肉編は本当に辛くて苦しい場面の連続だったけど、全部全部この話の為だったんだ。
この作品はきっと、生涯私の中に残って、私を救い続けてくれるだろう。

わたし、この間長い夢を見たの
その夢の中でわたしは、とても弱い女の人だった
その女の人になったわたしは、自分の心が傷ついた時、必ず誰かを傷つけた
傷つくと、心が矢を打たれた獣みたいに走り出して、自分の形も分からないまま誰かを打つの
打つと心がずっと楽になる
そして私に打たれて倒れた相手を見下ろすと、その人は、惨めだったり、孤独だったり、罪悪感に押しつぶされたりしていた

それで私は気がついた
わたしが惨めな時は、相手が惨めになるような打ち方をして
わたしが孤独な時は、相手が孤独になるような打ち方をして
わたしが罪悪感に押し潰されている時は、相手を責めるの
殴ると、殴った相手が自分と同じ気持ちになるの
同じ気持ちになると孤独が癒やされて心が楽になる
人は同じ気持ちになって欲しくて、分かって欲しくて人を殴るの
ひとりぼっちは寂しいから

わたし、翠ちゃんといるととても惨めになる
自分が恥ずかしくなる
それは、ずっとわたしという人間が本当に惨めで恥ずかしい人間だからなんだと思ってた
でも違う
惨めなのは、自分を恥ずかしいと思っているのは、本当は翠ちゃんだったんだ
惨めさも恥ずかしさも、あなたに殴られてわたしに移ってきた感情で、本当はわたしのものじゃない、あなたのものなんだ
翠ちゃんを前にすると、いつも怖くて何を喋ったら良いのか分からなくなる
でも本当は怖がってるのは翠ちゃんの方
だから翠ちゃんはいつも高圧的に話して威嚇するの
あなたはいつも人と自分に優劣をつけて比べているから、いつも自分の価値が揺れている
それで自信がないの、不安なの

あなたに殴られるたび、わたしはあなたと一つになってしまっていたみたい
でもわたし、あなたとわたしが別々の人間だったことに気がついた
わたしが感じてきた惨めさは、怖さは、無力感は本当はあなたのものだった!
わたしのものじゃない
今あなたに返します!

椎名うみ『青野くんに触りたいから死にたい』優里の台詞
※句点、改行は筆者によるもの


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