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ギリシャ神話の話8 イカロス

勇気一つを友にして

子供のころにイカロスを知ったのは小学校で習った歌にイカロスの歌があったからだ。
『勇気一つを友にして』というタイトルの歌だが、勇壮な感じはなく少し悲しいメロディで海を越えるために飛び立つ男の歌でした。

https://www.youtube.com/watch?v=PfbxINynNp8&ab_channel=HarukaYonekura

こんな歌

どうして彼は自作の羽でひとり鳥人間コンテストをしたのか。
飛び立った先の目的は何だったのか。
私はそれらを知らぬまま大人になり、彼のことなどとうに忘れていました。
そんな時ギリシャ神話の話にどっぷりと浸かった際に再び彼の名前を目にし、彼の行動の理由と結末を知ることが出来たのでここで紹介しようと思います。

ちなみにHades2にも出てきます。

急に出てくるから新しい敵とエンカウントしたかとビビった。

とばっちり

イカロスは激怒した。
「なんでラビリントスの秘密をあの若造に教えたんだよ!?」
イカロスはギリシャ一の名工と謳われたダイダロスの息子だった。
ダイダロスはクレタ島の王に仕える大工だったが、クレタの王の娘であるアリアドネにラビリントス迷宮の攻略法を乞われ教えたことで、クレタ王に罰として迷宮に幽閉されていたのだ。
「なんでじゃろなぁ、やっぱ若い娘にお願いされたら聞いちゃうよなぁ」
とダイダロスは腕を組み首を傾げ思い出すようにイカロスに返事をした。
「親父のスケベ心のせいで俺までとばっちり受けてんじゃんかよもー」
イカロスは塔の窓枠に顎を乗せ大きくため息をついた。
「あーあー、海も空も見えるのにこんなに高くちゃ見るだけで精一杯だよなぁ」
はぁと一際大きなため息をつきながら吐いたイカロスのぼやきにダイダロスは何かを思いついたように膝を叩く。
「そうか!なるほど!イカロスやるなぁ、ハッハッハ」
「急に何言ってんだ親父ぃ?幽閉が長くてボケたか?」
ダイダロスはテキパキと机をバラし、細長い木片を作っていく。
「今度は何作ろうっての?」
怪訝な顔でそう聞くイカロスにダイダロスはニカッと笑顔を見せる。
「鳥人間になればいいのよ!」
「はぁ?」
イカロスの呆れ声は夢中になったダイダロスには届くことはなかった。

鈍色の翼

「なんとか形にはなったな!」
自身の作った二組の翼をウットリするような目で見つめ、猫をかわいがるように撫で続けるダイダロス。
そんな父の姿を「うわぁ・・・」とドン引きしながら見るイカロス。
「ほらお前もキチンと磨け磨け。よく磨くことでバリが取れて思った通りに飛べるようになるぞ」
手拭いを使い丁寧に仕上げをかけていくダイダロス。ダイダロスの手によって仕上げをかけられた翼は美しい芸術品のように玉のように光りを放っていた。
「どうだ!磨けばここまで光るぞー。お、なんだイカロスお前全然仕上げしてないじゃないか」
始めてクマのぬいぐるみを買ってもらった少女のように自身の作りあげた翼を抱きしめるダイダロスに対し、イカロスは腰を入れて磨くことはせず撫でつけるように手拭いを翼の上で往復していただけだった。
「なんでもいいよ飛べれば」
「お前は仕事が雑でいかんわ、いいか魂は細部に」
「宿るんだろ?もう何度も聞いたわ」
溜息をつくイカロスに小言を続けるダイダロス。
「・・・ん?親父!静かに」
───コツ…コツ…
と階下から足音が響いてくる。
この閉ざされた迷宮にわざわざ足を運ぶことなんてあるはずがないのに。
「やっぱ迷宮内のロウソク全部集めたらバレるかー」
「明らかに怪しい行動してんじゃねぇかこのクソ親父!!」
ダイダロスが翼を作るために迷宮内のロウソクを集め回っていたことが王に知られ、その様子を窺うために兵士がきてしまったようだ。
「仕方ない。ぶっつけ本番じゃが、行くしかないようじゃな。」
覚悟を決め一組の翼を担ぐダイダロス。どうしてこうなったと頭を抱えるイカロスに渇を飛ばす。
「イカロス!翼を付けて塔に上がれ!」
イカロスは言われた通り父と迷宮内の塔を駆け上がり窓枠に登る。
「翼で羽ばたけ、逃げ道は空だ!」
ダイダロスはそう叫ぶと窓から飛び立った。

誤算

「うおおおおおぉ!!」
ダイダロスに続きイカロスも窓枠に足をかけ、大空へ飛び立つ。
しかし飛んだだけでは重力に従いただただ落下するだけのイカロス。
「イカロス!鳥人間だ!羽ばたくんだー!」
鳥のように羽ばたき飛んでいく遠くに過ぎ去っていくダイダロスの叫びが、イカロスに届いたのかどうかは分からないがイカロスはその声が消え行く前に大きく両の腕を振るい羽ばたいた。
するとイカロスの体は高く浮き上がり、鳥のように舞い上がっていく。
空を飛ぶという初めての感覚に戸惑いながらも、重力から解放された喜びに打ち震える。
「ッハハハ!まさに鳥だ!俺は空を飛んでいる!」
羽ばたきとともにクレタ島はどんどん離れていく。
青く澄み渡る海の上でイカロスは喜びの声を上げていた。
「この翼があればどこまででも飛べる!」

ダイダロスは西へ飛んでいくがイカロスは中々西へ針路をとることが出来ない。
「上手く方向が制御できん。なぜだ」
───お前は仕事が雑でいかんわ、いいか魂は細部に
────宿るんだろ?もう何度も聞いたわ
先ほどの父との会話が頭を過る。
そうか父の翼と違って俺の翼は仕上げ工程が足りず、制御が効かないのか。イカロスがそう思ったときにはもう遅く、父の姿は水平線の彼方へ溶けていく。

太陽

「脱出できればいいってことだろ」
そう一人ごちると、イカロスは自身の甘さを振り払うように大きく羽ばたいた。
高く高く飛び上がったイカロスはふと眼下に目をやる。
足元に広がる海とそれに浮かぶ島々が豆粒ほど小さくなったことを感じ、背筋に冷たい汗を感じる。
そして下に向けていた目を上に向けると光り輝く太陽が目前に迫ったことに気づいた。
「太陽がこんなにも近くに・・・俺はこんなところまで登ることが出来たのか」
自身の価値が高度に比例して上がったとイカロスは思った。
だがそれを心に思ってしまうことは神の権威を疑うことに等しく、決して許される行為ではなかった。

かつて神への敬意を失った時代の人々がいた。
神はその考えを正すため洪水を起こし、時代とともに人々を流してしまった。

イカロスは人の身にして神の座に近づきすぎてしまった。
やがてイカロスの蝋で固めた翼は、太陽の熱を帯び溶けていく。それは神の座に人は決して寄ってはならないという神からの啓示のようでもあった。

『太陽またはイーカロスの墜落』
ダイナミック落下を尻目にカッコいいポーズで飛んでく父親

イカロスは翼を失い、飛び立つ前と同様に地球の重力に引かれ落下していった。
人は傲慢さに溢れること、そして敬虔さを失うことはあってはならない。

海へと落下したイカロスは生を得ることはできなかった。

ピーテル・ブリューゲル
『イカロスの墜落』
というタイトルの割に船が16世紀くらいの帆船なのが気になる。

自由を得ることは決して全てから解放されることと等しいわけではない。
いつしかイカロスが落ちた海は”イカロス海”と呼ばれ、自由と解放を求めた男がいたことを歴史に刻まれるのであった。

あとがき

思ったよりイカロスちょけてる人になった。
そんな予定ではなかったのに、ごめんイカロス。

このあとダイダロスはシチリア島まで飛んでいき、そこの王様に仕えるって話もありますが、それはまた別の話。

イカロスがクレタ島からイカロス海まで飛んだってことだけど、

イカロスの飛行経路

ざっと見積もって300kmくらい飛んでるって、ダイダロスの翼凄すぎじゃない?
参考記録として、鳥人間コンテンストの人力プロペラ部門の最長距離が『Birdman House 伊賀』が出した69,682.42m
現代日本最高のチームが作ったマシンで約70kmなのにその4倍超の距離を蝋で固めた羽根で軽々行くとか、神話やっぱ半端ない。

上記『イカロスの墜落』の絵の右下で溺れてるイカロス見つけたとき笑った

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