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ギリシャ神話の話9 テセウスの話1 誕生編

ペロポネソス半島の先トロイゼンという小国に王女のアイトラという姫がいた。

トロイゼンはアテナイからは海を挟んで反対側

アイトラは美しくその美貌は近隣の国にも届いており、特に熱を上げていたのは隣国のコリントスの王ベレロポンであった。
ベレロポンは天を翔ける馬ペガサスに騎乗し、キマイラ退治をし名声を高め
「この怪物退治の栄誉をアイトラに捧げる」
とまで言い放ち、世間では婚姻も秒読みかと思われていた。

ベレロポンvsキマイラ
キマイラの父はギリシャ神話最大の怪物テュポーン先生

アイトラもそんな英雄からの真っ向からの愛を受け止めたいと思い、まんざらではない様子でベレロポンとの逢瀬を楽しんでいた。

しかし政治的にも隣国に嫁がせるとトロイゼンはコリントスに飲み込まれるのでは・・・?と父王であるピッテウスは危惧していた。
そんな折、海を挟んだ大国アテナイの王であるアイゲウスが旅のついでにトロイゼンに足を運んだ。
トロイゼンは大国の王をもてなそうと歓待の宴を開き、アイゲウスに名産のワインをたくさん飲ませた。
すっかり宵の帳も降り、宴もお開きかというころにはアイゲウスはベロベロに酔っ払ってしまっていた。
「アイゲウス殿、寝所を用意いたしましたのでどうぞそちらでお休みくだされ」
ピッテウスがこう言うとアイゲウスも謝意を示し、部屋へと向かっていった。
ピッテウスは「大国と大きな誼を得るチャンスだ」と思い、娘のアイトラにアイゲウスの寝所に向かうよう告げる。
アイトラはベレロポンとの結婚の約を裏切る形になってしまったがこれも王の娘の宿命と受け止め、意を決してアイゲウスの元に向かう。
アイゲウスはアイトラの美しさにすっかり魅了され、一晩を共にした。

アイゲウスには子供がいなかった。いや正確にはできなかった。
国の配下からはいつもされるのは世継ぎの話、アイゲウスはすっかりうんざりしていた。
大きな海を乗り越えれば自身に降りかかるプレッシャーも晴れる気がした。そしてアイゲウスは国を離れ各国と友誼を深めるという名目で旅に出たのだ。
自身の子について神託も得たが、その神託内容もアイゲウスには得心を得ることができなかった。
しかしトロイゼンに着いたときにアイゲウスは理解した。美しきアイトラとの間であれば必ず子は成せるんだと。

一夜明けアイゲウスはアイトラと近くの洞窟に赴いていた。
「アイトラ、君は必ず私の子供を産むだろう」
アイゲウスはアイトラに優しく話しかけると、洞窟の中にあった大岩を持ち上げその下に自身の身に着けていたサンダルと剣を置いた。
その大岩を再び元の位置に戻すと続けてこういった。
「我がアテナイ王国は私の直の世継ぎがいないため、後継者争いで混迷を極めている。君と私の子を王に据えたい、だが君と幼い子を連れて国に戻れば殺されてしまうかもしれない」
アイトラはアテナイでの権謀術数渦巻く後継者争いの話を聞いたが、自分でも驚くほど不安はなかった。
「アイトラ、君と子と離れるのは苦しいが、もし生まれた子供が父に会いたいと言ったときは、この大岩を動かせるほど成長した時に私の名を伝えアテナイまで来るように伝えてくれないか?」
アイゲウスは眉を顰め悔しそうにそう言うとアイトラは笑顔で「分かった」とだけ返事をし、アイゲウスを抱き締める。
アイゲウスはアイトラの肩を抱き「ありがとう」と呟いた。

かくしてアテナイの王アイゲウスはトロイゼンを去っていった。
アイトラは自身の腹部を手押さえ去っていくアテナイの王を見送るのだった。

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