「マリッジストーリー」感想(ネタバレちょっとだけ)
今回は「マリッジストーリー」。
残ったものを中々上手く言語化できないまま、二週間経ってしまい。
なので今回は具体的なシーンへの言及を少なめ、文章量自体少な目で。
予告編を見たときと同程度のネタバレ具合くらいで。
消えていく感情と残る言葉
この作品は要は離婚話だ。
夫婦は才能に恵まれていて、比較的金銭的にも余裕がある、しかしスペシャルな人かと言えばそうでもない割と普通の夫婦の離婚話である。
だから、夫が良くない、妻が悪い、いやすれ違った環境に問題が…みたいな個別の話に感想を落とし込めるとは思う。
ただ少し視座を上げて印象に残ったことを。
それを集約すると小見出しに掲げた「消えていく感情と残る言葉」ということになる。
これが二人の離婚が決定的になった要因であり、普遍的な人間同士のすれ違いを端的に示しているように思うからだ。
象徴的なシーンが「離婚調停で弁護士同士が主張を展開するシーン」とハイライトとも言える「二人が感情のままに口論をするシーン」である。
調停のシーンでは過去の言動を弁護士が夫婦それぞれが有利になるような主張をしていく。
大筋で言うと、その内容は間違えていない。
しかし、当事者二人がどうにも腑に落ちない表情をしていたように見える。
それは他者(この場合は弁護士)に自身の言葉を使われたが故に抜け落ちていく当人の感情が原因のように思う。
「確かにああは言ったけど、そういうつもりではなくて…」という積み重ねではなかろうか。
この記録されない心の揺らぎを僕は「消えていく感情」と表現することにした。
一方で、言葉や行動は記録され消えずに残ってしまう。
残された言葉だけが証拠となり双方がエモーショナルな部分を見ないから溝が深まるばかりになる。
結果として双方が納得せずに壮大な口論(喧嘩と言った方が良いかもしれない)が勃発するのは自然な流れだと思う。
このシーン、演技がフィーチャーされていたのだけれど、構成上も非常に重要な場面になっている。
夫婦が周囲の目や恰好つけた部分を引っぺがした本音でぶつかり合う最初のシーンだからだ。(いやあくまで多分。少なくともこれだけの時間を割いてはいないはず)
つまり、この時になって初めて2人は「感情」と「言葉」を同時に発し、同時に受け取ることとなる。
そして攻撃的な応酬とは裏腹に、これを機に僅かながら関係性は好転していくことになる。
陳腐な表現ではあるが、本音をさらけ出したことで、相互理解を深めたということだろう。
本当にその人を丸ごと理解しようとするならば、言葉だけでは足りないというメッセージのように感じた。
この言い回しは大変に安っぽいし、各々のアイデンティティや家庭生活と仕事(2人にとっての夢・大志でもある)との葛藤、家族というものの観念、複雑な背景があり、全てを言い表せてはいないとは思う。
ただ感情と言語を軸に捉えようとすると、拙い語彙力ではこの表現にしか至らず、ご容赦いただきたい。
ちなみに、正直な所、別の解釈もあり得そうな場面なので、「そう思わない」という人がいてもいいと思うし、どう感じたか聞いてみたいところ。
感情も言葉も受け止めること、愛すること
ここまで書いておいてなんだが、感情と言葉をともに受け止めることを全ての人に向けてできるわけじゃない。
さらに言えば時には感情を踏まえることがノイズになることもあるかもしれない。
ただ、本当にその人の全人格を知りたいのであれば、発した言葉だけで理解したつもりになるのは無理があるんだろうと思う。
だから、言葉には残らない心の発露を、心の揺らぎを感じて受け止めることまでして、誰かを愛するという境地に辿り着けるような気がする。
という、結婚も離婚も経験したことのない独り言。