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よりみち通信16 ブック・カウンセリング「プレゼント」 ―あなたがそれを贈る理由、受け取る理由―


私は単純な人間なので、たとえ嫌いな人であっても何かをもらうと嬉しくなって少し好きになってしまうことがあります。

でも、そんな感情の揺れにはちゃんと理由がある。「交換」ではない「贈与」は(良くも悪くも)人との関係性を作り出してしまうから…

そんな「贈与」という行為に隠された暗号を、まるで物語を語るように優しく伝えてくれるのが、この近内悠太『世界は贈与でできている』(ニューズピックス)です。

どうして親は孫の顔を見たがるのか、どうしてサンタクロースの正体は知られてはならないのか、どうしてシャーロックホームズはあんなに的確に事件を解決できるのか――

一見何の関係もないように見えるこれらの謎を解くカギが「贈与」というキーワード。この本を読むと、世界は「贈り物」にあふれていて、私たち誰もがその贈り物をもれなく受け取っていることに気付くことができるようになります。――そう、「気付く」ことこそが大事な幸せへのパスポートなのです。

哲学の本ではありますが、概念の説明がとても分かりやすい例で書かれているので、まったく難しくありません。

それどころか、「贈与」という概念が徐々に理解できてくるにつれ、そのあまりの尊さに「気づいて」何度も泣きそうになりました…こんな読書体験は初めてです。

私たちよりみち文庫が、こうして無料の冊子を作り続けているのも、こうして本を皆さんに紹介するのも、過去に様々な本や人々から、多くのものを「贈与」されてきたからなのです。

そして、また私はこの本から多くのものを受け取りました。だから、それを返礼したくなってしまうのです。こうして我々は、「贈与」をし続け、世界は回り続ける。

今年読んだ本の中で、いちばん幸せな気持ちになった本でした。誰かがこの紹介によって本を手に取り、またその感想を誰かに伝えて…「贈与」の輪が、そうして続いていきますように… 
(小笠原千秋)

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