守備時4-4-2と1アンカー対決の妙。【ギラヴァンツ北九州戦レビュー】

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試合情報

J2リーグ第14節 ギラヴァンツ北九州vs東京ヴェルディ
@ミクニワールドスタジアム北九州 19:00 KICK OFF
前半1-1/後半1-0 合計2-1
〈得点者〉
【ギラヴァンツ北九州】
(13分、59分)町野
【東京ヴェルディ】
(10分)オウンゴール
〈交代〉
【ギラヴァンツ北九州】
(59分)新垣→藤原
(82分)ディサロ→鈴木、椿→内藤
(87分)加藤→川上
【東京ヴェルディ】
(46分)小池→山下
(61分)森田→大久保
(71分)井上→山本
(84分)藤田→松橋

スターティングメンバーと基本フォーメーションはこちら↓

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4連勝への壁は7連勝の北九州

3連勝中と好調の東京ヴェルディ。決定力の問題を抱えつつも、ここ3戦ではしっかりとゴールを決めきって勝てるようになってきたこのタイミングで、昇格組ながらもアグレッシブなサッカーで7連勝と勝ちの山を築いているギラヴァンツ北九州との対戦。この試合の注目ポイントはどちらがどのような方法で主導権を握るのかの部分。互いにボールを保持するスタイルなだけあって、その部分には筆者も注目していた。今回はヴェルディの攻撃の狙いとお互いのビルドアップから前進の部分にフォーカスし、2つのトピックにして紹介する。この試合非常に面白かったので、筆者が例として紹介するシーンを是非DAZNで見てもらえると嬉しく思う。

狙うは逆サイド

北九州はこの後2つ目のトピックでも紹介するが非常にコンパクトな陣形でハイプレスをどんどんかけていくスタイル。ビルドアップを窒息させて、いかにそこで奪い切るかが重要になっている。しかしそれには大きな穴が存在する。非常にコンパクトになる分、同サイドからの攻撃は非常に難しいのだが、ボールと逆のSH裏のスペースはどうしても埋められないスペースになってしまう。それが非常に顕著に表れたシーンが実は先制点(9:21~)。

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このシーン、スローインからなのだが北九州のプレスでどの選手がどのエリア、マークに目標を絞っているかがよくわかるシーンでもある。ディサロは平、新垣は福村、町野は藤田、高橋は井出、加藤が高橋周辺のスペース、椿は若狭と奈良輪のどちらにも行ける位置を取っている。重要なのは椿のポジション。アンカーにCFがつく分、余ったCBには北九州のSHが出ていかなければならない。そこの奥に生まれるのが先ほどの画像で言うところの椿の背後のスペースになる。このシーン、スローイン後は以下のGIFのような流れになる。

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完ぺきに相手の弱点をとらえて得点まで行くことができた。これも逆サイドに小池が広く取っておくことで実現したゴールとなる。この試合では徹底して幅を取ることを意識しており、攻撃に転ずると両サイドのWGは即座に相手SBよりも幅を取ってプレーしていた。
そして小林監督はハーフタイムにこのようなコメントを残していた。

2つ目の「相手スローインの際の守備に気を付けよう」というコメント。なぜヴェルディはスローインからの攻撃がうまくいっていたかというと、流れからの守備は誘導しながらマンツーマン気味に人につけて、なおかつボールホルダーに必ず圧力をかけた状態で必ずしもいいボールが蹴れる状態ではなくなる。しかしスローインは誘導といってもマークをあいまいにしておいている逆サイドの選手などが絡んでこれるうえ、制限をかける圧力も高めにくい。先制点でも若狭が逆サイドから絡んできたことによって生まれた。つまりギラヴァンツ北九州のプレッシングもスローインを前に無力化できるということ。ヴェルディはそのチャンスをものにした。他にもスローインから前進したのは3:45~のシーンもあるので是非チェックしてみてほしい。同じようなメカニズムで前進している。

他にもこの試合ではカウンターも積極的に狙っていた。同じく逆サイドを意識しながら、素早くゴールに迫れていた。うまく機能したカウンターは前半から多く、狙いは感じたもののいつも通り決定力に悩まされる形となった。

4-4-2ハイプレスの泣き所をコントロールせよ

ここがこの試合の主導権を左右する非常に重要なトピック。両チームともに4-4-2のハイプレスを選択するチーム同士の対決。攻撃時もヴェルディは4-1-5、北九州は3-1-6と1アンカーの攻撃をメインとしていた。しかし前半、ヴェルディの支配率はまさかの30%台。なぜ似通った形ながらもここまで差が生まれてしまったのかをここで解き明かしていきたい。
まずヴェルディの攻撃と北九州の守備から。基本的には下の画像のようなハイプレスをかけてくる。

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このように、逆サイドは完全にシャットアウト。同サイドで奪いきることを非常に重要視していた。先ほど1つ目のトピックでも触れたが、北九州は逆サイドへの展開を嫌がるため、思い通りに相手をコントロールする手段としてハイプレスを採用していると考える。それも90分間、ボールホルダーに考える時間を与えないようなスプリントでのプレス。ヴェルディはこれにまんまとハマってしまった。
少し水戸戦など、過去の試合を思い出してほしい。ヴェルディがハイプレスを交わす時にはどんな手段で前進していたのか。それは主に相手の2CH周辺でアンカー、IH、CFの選手が数的優位を作りそこへ楔を当ててから抜け出していた。ではこの試合だとどうなのか。
アンカーはマンツーマンで捕まえられ、ボールサイドに北九州2CHが寄ることでCFの下りるスペースもボールサイドのIHが受けるスペースも消している。相手の2CHを自分たちが使いたいスペースを空けるようにコントロールできていない。これでは前進できないのも納得していただけるだろう。しかしサッカーのプレッシングによる制限が効くのはあくまで「地上戦」のみ。グラウンダーのパスは制限できるが、ロングボールすなわち空中戦は制御できないのである。これが上手くいくなら先ほどの配置でも1つ目のトピックで取り上げたSHの奥のエリアにボールを運ぶことができる。しかしヴェルディのCFは森田なので、空中戦に利はない。この時点で前半、いや後半に優平下りるようになるまでは打開が難しくなってしまった。何度かCBに時間ができた時にロングボールから前進した事はあったが意図的に何度も作るまでは行かず。
そして後半、相手のプレス強度が落ち、ヴェルディは優平を下ろしてボールをもらいに来るようになる。そこからはかなり前進の道筋が見えていた。その図が下のもの。

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このように2CHのコントロールと2CF脇からの前進も考えられる。北九州のプレススピードの低下も相まって、前半になかったボールを受けてからの余裕もできるようになった。またSBも高い位置を取ることができ、そこで受けることもできるようになったのも相手のコントロールをしやすくなった原因だろう。さらに大久保も絡むことで中盤を制圧し、前進する機会が増えていた。特に良く前進できていたシーンをピックアップすると62:25〜のシーン。それが下のGIF。

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このようにCBに時間があることで的を絞らせず、2CHの1人をコントロールし、その優平に食いついたスペースに大久保が下りて受ける。これは非常に良いシーンだった。他にも優平と大久保のところから前進することも増え、優平のシュートがポストに当たるシーンまでも作り出した。ただこれで覚えておきたいのは、相手の強度が落ちたからこういうチャンスができたので、このチャンスを作る時間帯を意図的に作り長くすることには失敗している。そこは課題だろう。
また北九州の守備からもわかるが、この試合ボールを持った選手に制限がかからない時間がある4-4-2ゾーンのセットディフェンスは基本的にしてはならなかった。それは両チームともにライン間を使う意識と幅を取る意識があるので、ボールへの制限がなければ自由に選べる。その部分や4-4-2の泣き所である2CH周辺のスペースを隠すためにも北九州は常にハイプレスをし、ヴェルディの前進を妨げていた。非常に理に適っている戦術だろう。最後まではやり切れずとも、やられる時間、回数を減らすだけでもヴェルディには効果抜群だっただろう。

そしてヴェルディの守備と北九州の攻撃。こちら、実は先ほどヴェルディがやりたいと思っていた形とさほど差はない。というかほぼと同じである。では攻撃時の相手との噛み合わせを見てみる。下の画像。

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北九州の3-1-6に対して、ヴェルディはハイプレスをいつものように決行。2CFがCB→HVと誘導して蹴らせるような形。取りたいところではあるが、相手のアンカーを2人のCFは背中で消さなければならなかったり、藤田や井出がアンカーを消すまでの時間など、プレススタートまで時間が発生するために北九州のHVにはある程度の時間が与えられていた。実はこれが致命的な部分になる。例にあげるシーンとして16:38のシーン。下の画像を見てほしい。

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このシーン、HVの選手は時間をしっかり使って前線のスペースとターゲットを認識している。時間がある理由は森田がアンカーを消してから寄せたからである。ディサロをターゲットにロングボールを入れると、それが流れで椿へ。そこからの展開となった。この前進のパターンがこの試合では多く、北九州は右サイドで楔からの逆サイド展開で前進という形を長らく狙っていた。少し前で制限をできるのは地上戦だけと述べたが、北九州はその部分を優位性を生かして使ってきている。町野のポストプレーも非常に光っており、ヴェルディには無い部分で同じ局面を打開していた。また2CH周辺のスペース量も北九州に比べて広くセカンドボールを拾えないこともしばしば。
さらに4-4-2セットディフェンスの時間が長引いてしまったのも、この試合を支配できなかった原因だ。北九州は3-1-6でライン間の人数、2CH周辺の人数、十分な幅を確保しておりなかなかプレスに出ていけなくなっていた。それが下の図。

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いかにして制限をかけて取りに行くかが重要なのだが、制限までいけないシーンも多くなった。直接的な原因はアンカーが消せないこと。2CH脇に絞ってきたSHを配置して、アンカーを消しに前に出るとフリーになる状態を作っており、ヴェルディの2CFはなかなか相手の最終ラインに制限をかけられなかった。さらにそこは町野、ディサロが下りることでポストプレーをしてサイドを変えたりしてヴェルディのセットディフェンスを攻略していた。ヴェルディがやりたいことを全てやられていたと言っても過言ではないだろう。

さらに北九州は新たなビルドアップルートを試合中に見つけ出す。それは加藤のところから生まれた。4-4-2の泣き所と何度も言っている2CHのところだが、スライドには滅法弱い。つまりヴェルディのSHがHVにプレスをかける時とにスライドが間に合わなければ北九州のSHが下りてきて前進されてしまう。それが31:40のシーン。 

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このようにスライドが間に合わないことで使われてしまうシーンがいくつかあった。これは前線からの制限が甘く、サイドを変えられて加藤を使われたシーンが多く、3バックビルドアップで2CFを外す良さを引き出されてしまった。他のシーンとしてが38:05のシーンでも確認できる。
ここまでヴェルディのプレッシングを取り上げてきたが、ハイプレスはそれなりには機能していた。取り切って数的優位の中盤でショートパスを繋いで脱出し、最終ラインをブレイクしようとしたり逆サイドに展開するなどのシーンも作れていた。しかしチャンスにならなかったり、北九州の即時奪回のプレスにハマるシーンも少なくなく、守備面というよりは攻撃に繋がらなかったという印象が強い。
一方ゾーンディフェンスは相変わらずボールホルダーへの制限が甘く、その隙を狙われての2失点目となった。それが下のGIF。スタートは57:39~。

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このシーンはスライドを突かれたパターンの失点。ヴェルディの隙を完全に利用されてしまった。サイドに追い込むも変えられてしまい、スライドの間に合わなかったところで町野のポストプレー。そこから逆サイドに展開されてクロスに町野。やられたい放題である。ヴェルディのセットディフェンスは前からそこまで完成度は高くなかったが、完全に攻略されてしまった。これからはこのセットディフェンスの整備をしてほしいと筆者は考える。

まとめ

終わってみれば2-1で接戦に見えるが、相当な差があったように思う。北九州の1vs1の対応のうまさ、チーム全体のイメージの共有などなど。ボールを握るチーム同士の対決は基本的に守備の出来で主導権が左右する。攻撃の向上が大きかったここ最近。その期待も大きいこの一戦だったが、大事な守備の局面で綻びが出てしまった。北九州は同じフォーメーションながらもしっかり弱点を隠し、なるべくセットディフェンスの時間を減らした。ヴェルディはスタイル上セットディフェンスの時間が長いので、弱点がさらされやすい中でどのように隠すのかを提示できなかった。攻撃対決は守備で決着。試合自体は非常に面白かったので、次こそは今節の反省を生かしつつ勝利を見たい。攻撃で勝負できる場面もあったので、そこはのばしてもらいつつ次節に期待したい。

最後までお読みいただきありがとうございました!また次の記事でお会いしましょう。面白いと感じた方はぜひ投げ銭をして下さるとうれしいです。下のリンクにある、ヴェルディのサポーティングパートナーになろうという取り組みを行っています。

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