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凋叶棕『蒐』の感想(前編)

あの記事だけが上がってる状態ではあまりにもこのnoteがかわいそうなので、記事を追加していきます。

中止になってしまった5月の例大祭17。そこで頒布予定であった、凋叶棕31枚目のCDである『蒐』について感想をしたためていこうと思います。
読み方は「あつめ」。『奏』『眇』と末尾eのタイトルが続いていますね。読めないCDは読めないのでノーカンですよ。

イベント合わせとして制作されたものの、頒布できる見通しが立たないが故に書店委託先行で世に出たものとなっております。特殊な状況なので、従来のてぃあおファンでもこのCDの存在を見落としている人わりと居るんじゃないかと思ってます。

そんな人向けの記事でもありますが、ここで「しまったそうだったのか!」と思ったそんな人は、以下の記事本文を読む前に是非ともまずメロンブックスの通販ページ、あるいは店頭へGO。

それでは、ぽつぽつとやっていきましょう。




『蒐』のテーマとは

凋叶棕の作品には必ず「テーマ」が設定されております。ご存知ですね。CDの収録曲、イラスト、装丁その他もろもろ全部ひっくるめてそのテーマに従って作られているので、作品の内容、あるいは込められた何かを我々が読み解こうとするうえで、とても重要な指針となります。

『蒐』のテーマはその字の示すとおり「蒐集」です。
特設サイトのコメント曰く、

かつての過去作品に様々な事情で収録できなかった曲、
アイデアだけが残っていた曲、小ネタ、その他もろもろを蒐集しました。
全8曲――「あつめること」について触れつつ、さらっと聞ける一枚にまとまっています!

とのことです。

端的にいうと「ボツネタ集」ということでしょうか。過去作のテーマと比べてかなり縛りのゆるい、なんでも収録できちゃいそうなテーマですね。いや、なんでもは語弊がありますか。ボツネタであることが条件ならば、過去に一度考え、ボツにしていることが収録条件と考えられます。

ではここで曲目を見てみましょう。

1.コレクターズ・サーガ ...恋色マスタースパーク
2.月の歌
 ――「娶」より ...妖魔夜行/ほおずきみたいに紅い魂
Vocal:めらみぽっぷ Lyrics:RD-Sounds
3.夜聞聞
 ――「彁」より ...永夜抄 ~ Eastern Night.
4.溺符「夜光虫の唄」
 ――「掲」より ...キャプテン・ムラサ/幽霊客船の時空を越えた旅
5.目覚めの花
 ――「求」より ...天空の花の都
6.サプライジング・エンカウンター
 ――「奏」より ...夜だから眠れない
7.the Four Little Adventurers 
――「謡」より ...Romantic Children
8.コレクターズ・ハイ ...恋色マスタースパーク
Vocal:めらみぽっぷ Lyrics:RD-Sounds

このように、2~7曲目の収録曲には原曲表記のほかに過去作のタイトルが添えられていて、それぞれ本来何に収録されるはずだったボツネタなのかが示されていますね。

ここ、勘の良い人が「あっ……」となるポイントです。

過去作に収録されるはずだった曲。その曲はつまり、当該の過去作テーマに則って作られた曲ということになります。そんな曲をあつめたこの『蒐』は、作品全体テーマが「蒐集」であると同時に各収録曲ごとのひとつひとつ異なるテーマを内包しているということになります。テーマいっこ解釈するだけでも大変だってのに、それがこんなにいっぱいあるのって……ヤバイですね。

つまり読み解いていくにあたっては、曲ごとに違うテーマに基づいて作られていることを念頭に置いて発想を切り替えていく必要があります。過去作の復習、あるいは新規履修が必要になるので初心者にあまり優しくないCDと言えるかもしれません。

ただまあそれは読み解こうとするときの話であって、普通に聞くだけならば「さらっと聞ける一枚」になってるのは嘘ではないので、安心してまずはさらっと聞くのがいいでしょう。インスト多めのてぃあおはいいぞ。


さて、この「蒐集」という言葉は「収集」と書くのが一般的だと思われますが、こと東方作品においてはこっちの方がよく目にするやつですね。主に霧雨魔理沙関連のテキストに出てきます。というか言ってしまえばこの表記、東方でかつ霧雨魔理沙に言及するときしか見たことがない気さえします。

つまりここでテーマとしていわれる蒐集は、辞書的な「物を集めること」という意味と同時に、概念として「霧雨魔理沙を成す一要素のこと」も指しているととらえるのが適切に思えます。

そうであるとも、と主張するかのように、ジャケットイラストの中央で札束風呂めいて自らの蒐集品に埋もれふんぞり返る魔理沙ちゃん。人生謳歌してる雰囲気で、とても楽しそうです。

これら蒐集品はだいたい全部が「凋叶棕の過去作品」にちなんでいるものとなっています。どのアイテムがどの作品に相当するのか、一作一作当てはめてみると楽しいので是非やってみましょう。

魔理沙はCDっぽいものを手にしています。ボツネタを集めるというテーマから考えると、これは過去にボツとなったジャケットイラストなのでしょうか。しかしながら女苑が描かれているということは、女苑が登場して以降、即ち『逆』以降の作品ということになり、女苑がジャケットに居てしっくりくるテーマのものが無いようにも思えます。だとすると、テーマからしてまるっと完全なボツ作品のものなのかもですね。存在しない幻のCD。コレクター心をそそるやつです。

このジャケットイラスト、インターネット上で見られるものと「実際のCD」では実は若干の違いがあるのですが……それについてはまた後ほど。

ここからは各曲ごとの感想です。



M02. 月の歌

1曲目はすっとばして最後にまわしますので、まず2曲目から。

原曲は「妖魔夜行」と「ほおずきみたいに紅い魂」で、そのまんまストレートにルーミアちゃんについての曲と考えてよいでしょう。
これは凋叶棕の曲における原曲表記すべてに言えることですが、複数の曲が併記されているときはその中でもどれがメイン格に値するか考えておくと捗ります。おおむね、最初に書かれている曲がそうであることが多いような気がしますね。

出典となる作品は『娶』で、そのテーマは「異類婚姻譚」。収録されてないボツ曲なので出典もなにもないのでは?感はありますが、便宜上そういうことにします。
娶の特設サイトはこちら。それから、この娶については過去に恨み言を書いているので興味があれば覗いて笑ってやってくださると浮かばれます。


まずは音楽面の感想から。
跳ねるような疾走感のあるミドルめのアップテンポなピアノロックナンバー。低く麗しいニュアンスのめらみさんの歌声と相まって、お得意の、耳馴染みのある、こういうのみんな好き……そんな言葉が浮かぶ楽曲です。

構成としてはちょっとめずらしく、Bメロの歌パートから始まるんですよね。歌から始まる曲は、だいたいはサビからか、RDさんのよくやるやつではイントロだけの専用メロからっていうのが多いと思います。

Bメロって、序破急の破、起承転結の転であり、Aメロとサビをつなぎつつ場面や視点の転換を担う重要なパートだと思っています。でもなんとなく曲全体としては地味で、印象に残りにくいところです。しかしこのようにイントロにそれをもってくることで、立場が逆転します。そこで語られていることこそが、この物語の肝であると言われているように思えますね。

原曲の妖魔夜行を、イントロやサビ裏でギターが奏でてるのがかっこいいですよね……。主観が村人Aなので、歌メロには基本的に妖魔夜行は乗ってないと思われます。唯一、二人の気持ちが重なった(と本人が錯覚している)サビの頭においてふわっとメロがユニゾンするのがニクい演出だなと。あと、Cメロ(麗しき~)の裏で鳴ってるカロカロしたシンセの原曲も超すき。

もうひとつの原曲のほおずきみたいに紅い魂については、分かりやすいメロとしては聞こえてこない……ですよね……? 全体の雰囲気としてコード進行なりバスドラになりに現れてるんじゃないかと思ってます。先述のBメロなんかはほおずきみが強い気がしますね。もっとはっきりと聞こえるとこあったら教えてください。


さて、では物語サイドへと。
ブックレットを開くと、闇夜に翻るルーミアちゃん。かわいいですね。ルーミアちゃんは闇を操ることができ、その闇は「松明をも無効化する魔法の闇」と表現されます。光を全吸収してるんでしょうね。ベンタブラックでググってみると一発でイメージできると思います。こんな闇の球体が浮かんで迫ってきたらめっちゃ怖いですわ。

基本的には常に闇に包まれているらしいルーミアちゃんですが、しかしここではその闇を出しておらず、姿がはっきりと見えます。幻想郷縁起には「新月の夜」には闇を出していないことが多い、とあり、この歌は1Bで「月の無い夜」と歌われておるので、つまりそういうことでしょう。

この歌は、とある人間の視点で歌われてます。その彼ないし彼女からの、一目惚れした妖怪へと贈る愛の歌。さながら小夜曲ですね。ツキの無い夜に、出遭った妖怪。死を覚悟してひとめ見上げたその刹那に、こんな甘ったるいポエムがスラスラと出てきてしまうの、これは紛うことなき変態のロリコンさんですね。ロリコンはどの世界でも、芸術家なのです。

この人曰く、ルーミアちゃんは「」なんだそうです。彼女は宵闇の妖怪。宵闇とは、月が出るまでの夜の闇。それを知ってか知らずか彼女をそう呼んだというのは、感性が"本物"である証と言えるでしょう。

眼中にない紅白巫女の言うことになど聞く耳持たず、月と呼ぶ妖魔の手を取って、一夜限りの夜行へと。ルナティック。美しいですね。

巫女のことを「それはそれは怖くなし」って言うの、これは鈴奈庵で狐くんに煽られたときの文句と似ており、もしかしたら一部でこういうスラングが囁かれてるのかなと思うと、霊夢ちゃんかわいそってなります。

こうして二人は闇に消え、その行方は誰にもわからなかったとさ。
どっとはらい。


余談ですが、凋叶棕のルーミアちゃんといえばスタイリッシュ捕食ソングとも呼ばれる(?)騙の「(I'm gonna eat you up!)」がありますね。であれば、この「月の歌」はさしずめスタイリッシュ被食ソングとでも呼べるのではないでしょうか(??)。

ただ、この人間が被食を望んでいたかといわれるとそこは議論の余地があり、私はどちらかというと覚悟はすれど望みはしていなかったよ説を採りたいのですが、本筋から逸れまくるので何故そうなのかの説明は割愛します。



M03. 夜聞聞

インストナンバー。原曲は「永夜抄 ~ Eastern Night.」ですが、実際のところこれは正しいのですが正確ではないです。この曲の原曲は「夜聞」であると考えるのがいいでしょう。

「夜聞」とは、2015年の冬コミで頒布されたとらのあな企画のコンピレーションアルバム「東方幻奏響UROBOROS 業」に収録されたヴォーカルアレンジです。のちにCD『』の中に「狂言「夜聞」」として再録されます。こちらも原曲は同じ「永夜抄 ~ Eastern Night.」。

凋叶棕では、明らかな過去作のパロディや引用、再編曲であったとしても、それが東方アレンジである限り原曲欄にそれを表記することはなく、そこには必ず東方の原曲名が入ります。なのでこの「夜聞聞」の原曲は事実上「夜聞」なのであっても、実際にはその更に原曲である「永夜抄 ~ Eastern Night.」が原曲として書かれることになります。ちょっとややこしいですね。

インストアレンジとして制作された曲がのちにヴォーカル曲にリアレンジされたことはありましたが、本曲はその逆。ヴォーカル曲がインスト曲になっています。普通、インスト版っていうとマイナスワンのカラオケ音源的なものを指すと思うんですが、この夜聞聞はそうではなく、夜聞のメロディや展開をモチーフに使いつつ全体的に再構成されています。つまり、これは夜聞でありながら、夜聞ではないということです。

夜聞は、夜のほとりにひとり咲く博麗の巫女を想う、誰かの歌ううたでした。そして、夜聞聞。夜聞を、聞く。夜を聞く誰かのことを、聞く。つまり、どういうことなんでしょう。

夜聞は誰かの一人称で歌われたものであり、言い換えればそれは、その誰かが幻想というヴェールに包まれた博麗の巫女を歌ったものです。とすればこの夜聞聞は、そのヴェールを更にもう一枚まとわせたもの。博麗の巫女を封じ込めた、二重結界。夜聞を聞くのは他の誰かではなく、ただ夜であり、世界であり、そしてその外側に位置する我々であるのかもしれません。

二重の幕に閉ざされて、直接そのものを見ることも聞くことも叶わず。その声は、果たして聞こえるものなのかどうか。たとえ聞こえたとして、それはきっと、観測者の中にある幻想なのではないでしょうか。

この曲の出典は『』。そのテーマは「幻想」。
幻を想う静かな夜更けに独りで浸りたいとき、ピッタリの一曲です。



M04. 溺符「夜光虫の唄」

インスト曲が続きます。この『蒐』は6/8がインストなのでまあ当然そう。

こちら出典は『』から。タイトルで一目瞭然ですね。ずばり「スペルカード」をテーマに、収録曲には紅魔郷から紺珠伝(当時最新作)までの1作につき1人1枚ずつとプラス2枚、全てオリジナルのスペルカードを模した名前がつけられていました。

さて、まずこのスペルカードは一体誰のものか。名前からも察せますが、原曲が「キャプテン・ムラサ」と「幽霊客船の時空を越えた旅」であることも加味して間違いなく村紗水蜜のものといえます。彼女が登場するのは東方星蓮船。出典元の『掲』でその枠は、封獣ぬえの惑符「ナイトクロウラー」が担当していました。

村紗水蜜=ムラサは舟幽霊であり、遥か昔に海で舟が転覆して亡くなった人間の霊が人々から恐怖されることで念縛霊となった妖怪です。その名前から、隠岐地方で実際に語られる舟幽霊がその元ネタではないかと言われています。水面でぼうと青白く光る夜光虫が固まっている様子が幽霊に見えたということなのでしょう。光ってる様子はこのリンク先の記事の動画がわかりやすかったです。

スペルカード名の夜光虫はまさにそれです。ここでは、妖怪ムラサ本人を夜光虫に見立てているものと考えられます。舟幽霊のうたう舟唄。ぞっとしますね。幻想郷縁起の彼女の項に「舟に水を注いでいる時に船主に話しかける」とあり、なんというか、唄っている姿もありありと想像できちゃいますねこれは。

このスペルカードの符名は溺符であり、これは星蓮船本編で登場した溺符「ディープヴォーテックス」系列と同じです。これは自機を中心にした全方位に水滴型の弾を配置し、それがゆっくりと落ちていくといった具合の弾幕でした。

ここから想像するに、この夜光虫の唄もきっと同様に自機を中心として、あるいはムラサから1発放たれた弾の着弾点を中心として青白く発光する小~中サイズの丸弾が配置され、それが動き出す類の弾幕なのでしょう。おそらくその動きは特定の指向性を持たないランダムで、波のように揺らめいて大変避けにくいことでしょう。

曲調としては大変おどろおどろしく、シンセによる電子的な音に和の楽器と音階を合わせたトラディショナル・テクノとでもいうようなジャンルでしょうかね。コンセプトの通りとてもゲームミュージック的な曲で、パートごとの曲の変化がボス戦でいうところの形態変化のような印象を抱かせます。

リズムは軽快であるはずなのに、全体的に息が詰まるような重々しさを感じる一曲。明るい性格と裏腹の重い過去と性質に縛られた彼女自身が、ここに反映されているのかもしれません。



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思いのほか長い記事になってしまったので、ここで2分割します。

後編へ続きます。

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