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スタートアップM&Aに思うこと(書きかけのため取っ散らかってます。)

最近、スタートアップM&Aという言葉を自分の周りでもよく聞くようになったので、自分なりの考えをちょっと書いてみたい。

その前に、まずは、M&Aのプレイヤーとして近年話題を集める“M&A仲介”だが、厳密に言うと“M&A仲介”なるものは存在せず、世の中にあるのは、FA業者だけである。“M&A仲介”と自称他称を問わず名乗っている業者は、買い手及び売り手それぞれのFAをやっていてたまたまマッチングした結果、買い手及び売り手の両者からFAとしての報酬を受け取っているにすぎず、正しい整理は、買い手及び売り手がマッチングした場合、両者のFAをすることはできず、そもそもマッチングさせないか、マッチングしてもいずれかのFAしか諸般の事情からすることができないFA業者と、利益相反であるものの、買い手及び売り手それぞれのFAを受任してマッチングすることを許容するFA業者のいずれかということになろう。

また、上場会社をターゲットとするM&Aと未上場会社をターゲットとするM&Aでは、前者は、市場において株式を取得することによって株主となった多くの少数株主を抱えることから、株式の売買の主体である既存株主に対してFAが付くのではなく、M&Aの対象となっている上場会社自体にFAが付き、FAのサービスの内容は株主から上場会社の経営に関し委託を受けた経営陣が、善管注意義務に違反することなく適切な判断を下せるようにアドバイスを提供することになり、アドバイスの内容が最善であることの担保のため、FAは利益相反的な外形を有さない業者に限定され“M&A仲介”を起用することはご法度になろう。他方、未上場会社の場合、株主と経営者は同一であることから、株式の売買の主体である既存株主(オーナー)に対してFAが付き、FAのサービスの内容は、買収金額を含めオーナーの満足のためのアドバイスの提供ということになり、上場会社をターゲットとするM&Aとは大きく異なり、当事者たるオーナーが十分満足するのであれば、アドバイスの内容が最善であることの担保としての利益相反のない立場という要件は不要ということとなり、“M&A仲介”を起用することをためらう理由はないこととなる。

では、本題に戻り、スタートアップM&Aに関しては、どうであろうか?買い手又は売り手のいずれかしかできないFAなのか、それとも“M&A仲介”なのか、いずれがFAとして起用するに適しているのであろうか。スタートアップと言えど、未上場会社であることからすると、オーナー(創業者)がいるので“M&A仲介”であっても一見問題がないようにも見受けられる。だがしかし、スタートアップと通常の未上場会社の違いは何であろうか?スタートアップが通常の未上場会社と大きく異なるのは、その成長のための手段として、Equityによる資金調達が行われ、オーナー(創業者)を中心として創業メンバーだけでなく、ベンチャーキャピタルを中心とした投資家という第三者が株主として存在する点にある。オーナー以外の株主が存在するという点においては、むしろ上場会社の方が株主構成としては近いと言えるのである。

また、上場会社の場合、M&Aにおける買収金額はどうしても市場における株価を発射台としてプレミアムをどの程度載せることができるかという形で議論されるところであり、他方、未上場会社にはそのような縛りはなく、どのような手法によって買収金額を定めるにしろあくまで理論値がその土台となる。この点、スタートアップM&Aでは、投資契約(名称を問わず)に定められているみなし清算条項に従い、投資家が投下した資金額を上回らない限り、オーナーに株式の対価が回ってくることはなく、通常の未上場会社のような理論値ではなく、投資家による累積投資額から割り出させる疑似的な株価を発射台としてプレミアムをどの程度載せることができるかという形で議論される必要があろう。

そのことからすると、果たして“M&A仲介”を起用することが、なんの論点もなく認められるのかというと少々疑問があるということになる。上場会社であろうと、未上場会社であろうと、少数株主がいる以上、会社の経営者としては、善管注意義務に違反することなく適切な判断を下せるようにアドバイスの提供を受ける必要があり、アドバイスの内容が最善であることの担保のため、FAは利益相反的な外形を有さない業者に限定され“M&A仲介”を起用することはご法度になるのではないかということである[1]。もちろん、スタートアップ企業の起用するFAとオーナーが起用するFAは異なるという判断はあるとは思えるが、スタートアップ企業の経営者=オーナーと同一人物であることからすると、FA契約の主体がどちらであっても、アドバイスを受ける経営者=オーナーは、外部株主に対して、受けるアドバイスの内容が会社の経営において最善のものであることの担保のため、原則としてFAは利益相反的な外形を有さない業者に限定されるべきではないかという疑問があるのである[2]

話は少し脱線するものの、上場会社における取締役の在り方に関して積極的に提言されてきた日本取締役協会がいわば門外漢とも思えるスタートアップ企業の投資契約書の雛形を公表したのも、経営者の外部株主に対する善管注意義務という観点からすると、スタートアップ企業と上場企業は地続きの関係にあることからすると、あながち不思議ではないと思えるのである。

もちろん、スタートアップM&Aに関して上記のような論点があると言っても、最終的にはFAに対する報酬の問題がある。未上場会社のM&Aに関して“M&A仲介”が隆盛を極める一因は、利益相反的な外形を有さないFA業者では買い手又は売り手の一方からの報酬しか受領できないため案件のサイズが小さいと対応することができないため、両社から報酬を受け取ることができるようにすることによって案件に対応することを可能とするという点にあり、スタートアップM&Aに関しても同種の問題がある。

以上、脚注の論点も含めて複数の論点があることからすると、やはりどうしても、スタートアップM&Aは、通常の未上場会社のM&Aに比べても論点は多く、複雑になることからすると、今までのM&Aのプレイヤーの枠組みだけでは十分なサービスをプリンシパルに対して提供できない恐れがあることは否めないと思われる。スタートアップM&Aという言葉や概念は近年急激に盛り上がって来ているが、上場会社を対象としたM&Aの王者が投資銀行であり、未上場会社を対象としたM&Aの王者が“M&A仲介”であるのと比べて、まだ絶対的王者というような存在はいないという認識でいる。おそらく、M&Aにおける次のイノベーションが起きるとすれば、それはスタートアップM&Aに強くフォーカスをし、その特殊性にうまく対応した業者の出現ではないかと強く思うのである。



[1] スタートアップ投資の定番的な条項であるみなし清算条項により、M&Aにおいて普通株主よりも優先株主が優先的に金銭配分を受けられるようにして、優先株主の利益を守るようにするのは、スタートアップ企業の経営者=オーナーが対象会社や外部株主に対して最善を尽くしてくれるかどうかわからないという不信感の表れと言えよう。また、話は少し脱線するものの、上場会社における取締役の在り方に関して積極的に提言されてきた日本取締役協会がいわば門外漢とも思えるスタートアップ企業の投資契約書の雛形を公表したのも、経営者の外部株主に対する善管注意義務という観点からすると、スタートアップ企業と上場企業は地続きの関係にあることからすると、あながち不思議ではないと思えるのである。

[2] スタートアップM&Aの“売り手”におけるFA契約の相手方は対象会社なのかオーナーなのか、いずれがよりふさわしいのかという問題もあると考えられる。対象会社自身ではなく、株式を売却することによって対価を受領するオーナーこそがアドバイスのコストを負担すべきであるという考え方もあれば、オーナーとしての立場ではなく、あくまで経営者として投資家を含む全ての既存株主に対して、最善のアドバイスを受けて判断すべきであるという価値判断からすれば、対象会社自体が契約の主体であるべきではないかと考えられる。また、オーナーが株式を売却する以上、会社としての判断の主体としてはコンフリクトがあることから、上場会社同様、第三者委員会を設置すべきではないかという議論もありうるところである。

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