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【試し読み】ラグビー日本代表ラファエレ ティモシー『つなげる力 最高のチームに大切な13のこと』

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『つなげる力 最高のチームに大切な13のこと』ラファエレ ティモシー [著]

(以下、本文より抜粋)

はじめに

1 自分の役割を果たす
ひとりひとりに役割がある/自分には何ができるのか/チームを支える
2 初心を忘れない
原点を大切にする/ただ楽しむ/一歩ずつ進む
3 敬意を払う
Be Happy/大切な3つの教え/心を落ち着かせる
4 違いを受け入れる
グローカル/変化を恐れない/新しい環境を受け入れる/積み重ねる
5 目標をノートに書く
いいところを学ぶ/目標を書くということ/初めての日本代表入り
6 自分のスタイルを持つ
自分のスタイルを見つける/仲間の強みを見つける/プロフェッショナルであること
7 リーダーシップを示す
話すのが苦手でもいい/率先して動く/プランを作る/尊敬するリーダー像
8 ハードワークを続ける
練習に正直に/厳しい選別/息抜きをする/細部にこだわる/仲間のハードワークを知る
9 うまくいかないときを受け入れる
いちばんつらいとき/いいときもあれば悪いときもある/失敗を糧にする
10 プレッシャーと向き合う
騒音をシャットアウトする/予想外のことは起きるもの/緊張するのは当たり前
11 やってきたことを信じる
振り返る/Hard Work Pays Off/練習どおりに
12 柔軟に対応する
気持ちを切り替える/ひとつの試合として/臨機応変にかまえる
13 ビジョンを共有する
自分たちの準備に集中する/ひとつにつながる/仲間を信頼する

おわりに
謝辞
Q&A


はじめに

 2019年10月13日、神奈川の横浜国際総合競技場。予選プールを3戦全勝で終えた僕たちは、後半残り2分を迎え、強豪スコットランド代表の反撃を浴びていた。
 仮に追いつかれ、引き分けになっても決勝トーナメント進出は決定する。でも僕たちは勝ちたかった。
 試合の前日、大型の台風が日本を襲い、その大きな被害が次第に明らかになっていた。試合前のミーティングではジェイミー(・ジョセフヘッドコーチ)から大勢の人が亡くなったことを聞き、日本の人が少しでも元気になれるようなプレーをしたいとチームの誰もが思っていた。
 前日に練習をした会場では、フィールドに下りる階段がプールのようになっていて、試合は中止になってもおかしくなかった。台風が過ぎてすぐに試合ができるだけでも奇跡だと思う。何より驚いたのは、濡れて滑って大変な試合になるだろうと覚悟していたのに、芝の状態が完璧だったことだ。床を拭いたり、水を吸い取ったりして準備をしてくれた方たちにはどんなに感謝してもしきれない。
 残り1分半、スコットランド代表が誇る司令塔フィン・ラッセルにボールが回る。僕はこの日までにたくさん彼らのプレー映像を分析していたから、この場面ならラッセルがパスをもらうだろうと予測できた。システム上はラッセルの手前にいる選手をマークする予定だったけれど、その選手の向こう側へ駆け上がり、ラッセルを倒した。
 すると、左隣のケンキ(福岡堅樹)がラッセルのボールに手をかけた。試合終了まで約90秒を残し、僕たちはボールを奪い返した。
 このままボールをキープできれば、僕たちは勝つ。
 僕たちは事前に、リードしてラストワンプレーを迎えた場合のシミュレーションもしてある。
 フォワードが束になって、ボールを守る。
「5、4、3、2、1……」
 かすかに緊張しながら、会場に集まる約7万人のカウントダウンを背に受ける。ノーサイドの音が鳴る。フルバックに入っていた山中(亮平)が、練習どおりにタッチラインの外へボールを大きく蹴り出した。
 僕たち日本代表は、目標である初の決勝トーナメント進出を決めた──。
 性格も、育ってきた環境も、生まれた国も違う僕らは、「ONE TEAM」というスローガンを掲げていた。そして長い時間をかけて「ONE TEAM」を作りあげ、ひとりひとりが異なる仕事を全うし、目標を達成した。

「ラファエレ ティモシーさん、本を出しませんか」
 関係者を介してオファーを受けたのは、この特別な時間を過ごしたのとほぼ同時期のことだった。話すのが得意なほうでもないし、特に目立つわけでもない僕になぜ? と最初は不思議に思った。でも、だからこそ、僕の話が聞きたいのだという。
 僕は、自分を特別な選手だとは思っていない。すごく足が速いわけでもない。でもラグビーはいろんな15人が集まって、パスをつなげればトライが生まれることを知っている。努力を続けていればいつか報われることも。ひとりひとりが自分の力を発揮して、それがひとつにつながれば、大きな成果を出せることも。
 特別でない僕の話が、皆さんを励まし、どんな目標も達成できると思ってもらえたらとても嬉しい。

1 自分の役割を果たす

「ONE TEAM」をスローガンに掲げたラグビー日本代表には、さまざまな選手がいる。
 日本国外出身の選手は31名中15名で、いままでのワールドカップ登録メンバーのなかで最多らしい。
 2017年に日本国籍を取った僕も、そのひとりだ。ニュージーランドから日本の高校に来たリーチ(マイケル)、19歳で来日したマノ(レメキ ロマノ ラヴァ)もいる。
 皆、生まれた国だけでなく、性格も体格も、得意なこともばらばらだ。160センチ台の俊敏な選手もいるし、2メートル近くある大型選手もいる。
 いったいどうやって、多彩な人種の集まりがひとつのチームになったのかはあとで詳しく書くけれど、まずはそれぞれのポジション、役割について説明したい。

ひとりひとりに役割がある

 ラグビーの良さは多様性に尽きると思う。
 ラグビーには1番から15番まであって、それぞれに異なる役割がある。身体が大きい人、背の高い人、足の速い人、体力のある人などがそれぞれに見合ったポジションで活躍できる。
 ポジションは、フォワードとバックスのふたつに大きく分けられる。
 フォワードは身体の大きな選手で、8対8でぶつかり合うスクラムを組む。おもに密集で身体をぶつけ合ったり、壁をこじ開けたりする役目を担う。
 バックスは身軽な選手が多く、ボールを動かしてトライを狙う。
 球をさばくスクラムハーフや、攻撃ラインの中心に立つユウ(田村優)のスタンドオフは初めてラグビーを観た人にもわかりやすいかもしれない。それからたくさんのトライを決めたマツ(松島幸太朗)とケンキは足の速いウイング。
 ワールドカップ日本大会ではいろんな思い出があるけれど、ベストプレーはアイルランド代表戦でのスクラムだったと思っている。
 仲間のフォワードは、自分たちよりも身体が大きくて強いヨーロッパの選手を押し返すための努力を積み重ねていた。僕たちバックスもそれを間近で見ていたから、あの試合の前半35分のスクラムで相手の反則を誘ったときはたまらなく嬉しかった。
 僕はバックス一筋で生きてきたから、屈強なフォワードと一緒にスクラムを組んだら首が折れるんじゃないかと思う。
 ラグビーではボールより前でプレーできない。だからボールの出どころとなるスクラムで優位に立ったチームは、それだけ試合を有利に運べる。そのためラグビーのチームを作るときは、スクラムを組める頑丈な選手は欠かせない。
 それぞれの特性を活かせるポジションがあることが、ラグビーの良さだと思う。

自分には何ができるのか

 僕がプレーするセンターは、バックスのなかでもゲームを動かしたり、ウイングにパスを放ったり、相手の強力なランナーをタックルで止めたりするポジションだ。
 僕が思うセンターの面白さは、自分のスキルを使ってトライを助けられるところにある。
 目の前にいる相手選手を引きつけながらフリーの味方にパスを出し、トライを作りあげられる。
 自分でトライを決めることも嬉しいけど、パスやキックで他の選手にトライしてもらうこともすごく嬉しい。
 ディフェンスのときは、ライン全体の飛び出すタイミングを指示したり、パスをもらいそうな相手を見定めて一気に間合いを詰めたりすることが求められる。日本代表は他国に比べて身体が小さい分、このときの出足の鋭さが相手を止めるのに不可欠だった。ディフェンスにおけるセンターの役割は重要だったから、その分、試合に出してもらったときは責任を感じていた。
 センターは、背番号12のインサイドセンターと背番号13のアウトサイドセンターに分かれている。
 インサイドセンターはスタンドオフに近く、ゲームコントロールに関わりながらボールを動かすのが役割だ。一方でアウトサイドセンターはウイングに近い位置にいるから、よりトライに直結した仕事が求められる。
 僕はニュージーランドにいた頃はスタンドオフだった。だから最初にプロ契約を交わした日本のコカ・コーラレッドスパークスでプレーしたときはインサイドセンターを任せてもらうことが多かった。
 だけど日本代表では、次第にアウトサイドセンターを任されることが増えた。最近ではフォワードのように身体が図抜けて大きかったり、身体能力が高かったりするアウトサイドセンターが多い。だから最初のうちは、僕が任されるのは少し意外に思った。だけど、アウトサイドセンターをすればするほど、自分なりのアウトサイドセンター像が見えてきた。
 日本代表のなかで求められるアウトサイドセンターの役割は、人と人とをリンクさせること、ゲームコントローラーとフィニッシャーとの間につながりを作ることだった。
 僕はスタンドオフとインサイドセンターの経験をアウトサイドセンターの位置で存分に生かせた。
 実は、「自分のスキルを使ってトライを助けられる」というセンターの面白みは日本代表で学んだことだ。
 僕たちはどの国よりもスピーディーな攻撃ができた。身体の大きなヨーロッパの強豪国がその動きについてこられないことも多く、予選プール最終戦を戦ったスコットランド代表の選手からは、試合後にこう素直に言われた。
「君たち、速すぎるよ」
 攻撃の一翼を担う背番号13として、誇らしい気持ちだった。

この続きは製品版でお楽しみください。
※本書の無断転載・複製等は、著作権法上禁止されております。

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