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ブックフェアの話

ロンドン出張が飛んだ。
3月10日(火)~12日(木)のブックフェアに前乗りし、現地出版社、著作権エージェントとのオフィスミーティングを入れていたのだが、出発3日前に会社から出張キャンセルのお達しが出たのだ。
ニューヨーク・ロンドンの本社では当初そこまで新型コロナウィルスへの懸念が大きくはなかったように思えたが、3月に入り一気に情勢が変わり、日本やヨーロッパ各国を含むグローバルチームのみならずニューヨークのスタッフもすべて出張見送り、最終的には開催1週間前にブックフェア自体が中止とのアナウンスが出た。
世界各国の出版関係者が一堂に集い、新作や話題作のお披露目や版権の買い付けがおこなわれる国際ブックフェアは、大きなもので年に二回。秋にフランクフルト、そして春にはロンドンで開催される(世界三大ブックフェアの残りひとつ、イタリアのボローニャでおこなわれる児童書の国際ブックフェアはロンドンに先駆け、5月の開催キャンセルを表明していた)。
規模感でいくと、フランクフルトが幕張メッセ、ロンドンが東京ビッグサイトをイメージしていただくといいだろうか……と思ったら、日本展示会協会が2019年3月に発表した展示会場面積 世界ランキングによると、フランクフルトは第3位、幕張メッセは78位らしい。
どんだけおっきいのフランクフルト。

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メッセ・フランクフルト。巨大なホールが35万平米超の敷地に点在する。

たしかに出版社がブースを出展するホールと、エージェントが商談するホールがけっこう離れていて、行き来するのに10分以上かかったりする。アポは通常30分刻みなので、次の相手が別のホールにいると小走り必至だ。
われわれ編集者のミーティング相手は、出版社のライツ担当者(版権を売る人)と著作権エージェント。海外、とくに英米の場合、著作権エージェントがまず作家と契約して作品を出版社に売り込むのだが、出版社がワールドライツを獲得した場合や直接作家と契約した場合は、版元のライツ担当者が翻訳権を売り込むことになる。

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ハーパーコリンズのブース(2019年フランクフルト)

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ハーパー各国支社の作品もデジタルサイネージで紹介される

それぞれが自社の押し本、最新企画をカタログやライツガイドにまとめ、各国の出版関係者に30分のミーティングでプレゼンするのだけど、フェアの初日に会う人ははつらつとしているのが、最終日(ロンドンは3日間、フランクフルトは5日間)になるとみんなゾンビのようになっていたりする。朝から晩までひたすらおなじような口上をくり返すのだからさもありなん。もちろんアポ先を訪れるこちらも疲労感を隠せない。
そんななか、終了1日前あたりからフランスやスペイン、ヨーロッパの出版社のブースにワインやシャンパンのボトルが現れ、日中飲みながら商談(談笑?)しているのを見るのもある種の風物詩かもしれない。

ふだんはメールで作品紹介からディールまでやりとりしていても、世界中の何千もの出版社が集い、作家からエージェント、翻訳者、イラストレーター、図書館関係者、書店関係者、印刷関係者まで何万人もの本好きが本に囲まれて本の話をするブックフェアは、編集者にとって至福の場。IT化の進む社会でこれまで不要論がまったく出なかったわけではないけれど、昨年時点でフランクフルトは71回、ロンドンで48回も続いてきた本好きのお祭りだ。だからこそ、第72回のフランクフルトで世界中の同僚たちと再会できることを願ってやまない。

編集長O

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