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さらば、ヒロシ

 ヒロシとぼくとのプロレスはおわった。いやあれはプロレス"ごっこ"だったのかもしれない。真正面から相手の技をうけては、へいきな顔でとおす。ただそれだけのごっこあそびではあったけれど、おたがい意地をはりとおした4年間だった。

 ぼくたちは、おたがいの精神のタフさをあてにしてた。しんじていた、といってもいい。だからヒロシはぼくの応援する選手のプレーにいい顔をしなかったし、そんな理不尽な対応に、ぼくも必死で「茶島さんつかえよ」「どこ目つけてんだよ」と食らいついた。

 ことしのあのガミさん右サイドバックの一撃なんてのは、正直効いた。去年ぼくのしつこいクレームにまけ、茶島さんを起用せざるをえなかったのが、よっぽどハラにすえかねたとみえる。2年まえあっさりすてた4バックをひっぱりだして、茶島さんをベンチにおしこむとは……。

 とはいえもちろん効いたフリなんて微塵も見せられない。でも茶島さんがあの役割の右サイドバックをうばいかえせる画が、どうしてもうかばなかった。やるなヒロシ。息ができなくなるようなラリアットのようだった。

 それから、3バックにもどしてからも、こんどは藤井をウィングバックにおいて、たてつづけに攻撃をしかけてきたヒロシ。しかもここで茶島さんをかつての本職・中盤センターでの起用をチラつかすフェイントまでかましてきた。オトリとはわかっていても、食いつかざるを得ない。すると青山さんとハイネルさんで用意周到に迎撃された。

 潮目が変わったのは、ケガからかえってきたくらいから。茶島さんの、ボールをもったときの姿勢から、自信がかんじられるようになった。

 つまんないミスもだいぶへった。なにかをふっきったかのよう。ヒロシもそんな25番にさすがに見ないフリはできなかった。よし、一発おみまいできた。これでやっと反撃開始だ……そう意気込んでいた矢先のこと。

 ヒロシが広島を去った。

 リーグ戦を数試合のこしての突然の退任。ウソだろ。なに勝手なことしてんの。ここかこっちの猛ラッシュじゃんか。反撃させろよ、なにヒトに技かけるだけかけてそれでとんずらこいてんだ……!

 そんなぼくの叫びはヒロシにはとどかない。ヒロシはもういないのだ。その事実だけが手のひらにのこされ、ぼくはどうしようもないむなしさにさらされた。

 ヒロシとの、意地をはりあう日々は、こうやってあっさりとおわりをつげた。「だったらもっとはやくおわらせられたんじゃねえか?」とクラブに文句をつけたい気分もある。だがまァいろいろあるんだろう。

 おもえばヒロシにはずいぶんとやられてきたものだ。茶島さんがらみ以外でもぼくはだいぶくらった。

 たとえば。4バックの廃止。そのことで大スキな和田ちゃんをうしなった。茶島さんがかえってこなかったら、たちなおれていたかどうか。

 好調・渡大生さんをあっさり交代、ていうのもあった。やっと森島司さんとハヤオさんといいからみを見せていたのに、コンディション調整かなんだかしらないが、後半早々ヘロヘロのヴィエイラさんとチェンジしおった。結果試合もぐだくだに。

 野津田さんの懲罰交代”疑惑”なんてのもあった。バックパスかっさらわれて失点、ひざからくずれおちたガクを、血も涙もなくベンチにさげる、という非情采配。あれにはさすがに言葉をうしなった。「事前にきめていた」「ピッチを見てなかった」と話していたが、はたして。

 これらはほんの数例だ。ヒロシは、とにかくバリエーションゆたかな技の数々でぼくをおいこんだ。そのたびにぼくは「効いてねえぞ」「こいや、コラ」とヒロシをあおり、平気なフリをしてふんばってきた。

 おかげでずいぶんきたえられた気はする。このタフさは、今後、ながくサンフレッチェを観ていくうえで、きっとたすけになるにちがいない。とはいえ、きたえてくれありがとうございました、なんて1ミリもおもわないけれど。

 ヒロシ、いや城福さん。けっして心地のいいことばかりではありませんでしたが、あなたとむきあったこの4年間はとても充実してました。

 あなたにきたえてもらったこの精神力をもって、あらたなライバル、ミヒャエル・スキッベとのプロレスごっこにいどもうとおもいます。

 あらためておつかれさまでした。

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