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埼スタにいったら川浪吾郎で胸がいっぱいになった話

 雨が、埼スタの屋根のとどかないビジター席にたえまなくふりそそいでいる。ぼくはレインコートをはおって浦和レッズとのゲームを観ていた。後半70分すぎから雨足はつよくなり、うつむくとコートのフードのしわにたまった水がボタボタボタッとおちてきた。すっかり水浸しだ。でもそんなことはどうでもよかった。スコアは0-0。シビれる展開だ。雨どころではなかった。

 それはベンチの選手たちもおんなじだったようで、いてもたってもいられないかんじで、ベンチの前にとびだしてはゲームのゆくえにハラハラしていた。交代でさがったナスさんも、両方の手のひらを口もとであわせて、心配そうにたちつくしていた。

 選手たちは、まるでオリンピック選手の地元のパブリックビューイングみてるひとたちみたいに、みんなでひとつひとつのプレーにいちいちリアクションした。ガッカリしたり、もだえたり。

 そしてその中心には川浪吾郎さんがいた。

 この日ぼくは川浪吾郎さんがメンバー入りしたことをしらずにスタジアムにきた。雨でスマホをとりだす気にならず、チェックしていなかったのだ。だから、ウォーミングアップで大迫さんといっしょに吾郎さんが出てきたときはびっくりした。湘南ベルマーレ戦を観にいったときにすっかり彼に恋しちゃっていたから、うれしいサプライズだった。同い年の卓人さんがはじかれたのはざんねんだったけれど、ここはよろこんでおこう、そうおもいながらあいさつする吾郎さんにびちょぬれの手で拍手をおくった。

右が川浪さん。あいさつのときを撮れないチキン

 こうなると意識はどうしても吾郎さんのほうにむく。あいまあいまについついベンチ側に視線がひきよせられてしまう。結局90分とおしてチラ見しつづけることになるのだけど、おかげで彼がただ出場機会をまっているだけではないことに気がつけた。川浪吾郎ってひとは、ピッチに立たなくても積極的にゲームにかかわろうとする選手だった

 ピッチ脇で腕を組んで戦況を見守っているそのすがたは、まるで監督のよう。飲み物をわたすときも、選手にひとこと・ふたこと声をかける。声をかけられた選手も雨音と拍手・太鼓の音をかきわけて、彼の言葉に耳をそばだてる。ただルール的にアウトだったのか、副審さんに注意されてた。ボールボーイにまで声かけだしたときにはもうわらってしまった。そこまでやるか、川浪吾郎!

 ベンチ前にみんなが出てきていたのも、こんなふうに吾郎さんが先陣きって前に出ていたのがおおきかったようにおもう。ひとりでは気恥ずかしくて前に出られなくても、吾郎さんが出てるならいっしょに出て応援できるって選手、何人かいたとおもう。

 第二・第三ゴールキーパーというむずかしい立場でありながら、前にたって仲間を鼓舞する。けっしてゲームをヒトごとにはしない川浪吾郎さん。彼のそういうありかたが、チームにちょっとしたまとまりをもたらしている気がする。

 あぁ。できれば、吾郎さんをピッチでも観たい。大迫さんがスーパーで卓人さんが盤石なのはわかるけれど。で、もし出るときは、ぜひ集音マイクをゴールマウスのちかくにおいてほしい。川浪吾郎のコーチングもまるっとたのしみたい……!

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