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空間除菌は意味あるの?

 先日、空気中に浮遊するウイルスを除菌すると標榜する大幸薬品「クレベリン」に、商品には効果を裏付ける根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、表示を取りやめるように消費者庁から措置命令が出されました。

Yahooニュース
「空間除菌」クレベリン 置き型も「根拠なし」 大幸薬品に措置命令

また、昨年12月にも空間除菌をうたった商品(大木製薬、Cl2O Lab)に対して 措置命令を出されています。

朝日新聞
「ウイルス除去率99%」に根拠なし 消費者庁が2社に措置命令

空間除菌、次亜塩素酸水などは過去にもインスタで解説しているのですが、最近何かと話題ですので、この機会に詳しく説明していきます。

空間除菌

空間除菌には、
・次亜塩素酸水
・次亜塩素酸ナトリウム
・二酸化塩素
のいずれかが使われることが多いようです。

空間除菌は厚生労働省によって認可されているものではありません。
以下抜粋です。

世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに対する消毒に関する見解の中で、「室内空間で日常的に物品等の表面に対する消毒剤の(空間)噴霧や燻蒸をすることは推奨されない」としており、また、「屋外であっても、人の健康に有害となり得る」としています。(5月15日発表)

また、米国疾病予防管理センター(CDC)は、医療施設における消毒・滅菌に関するガイドラインの中で、「消毒剤の(空間)噴霧は、空気や環境表面の除染方法としては不十分であり、日常的な患者ケア区域における一般的な感染管理として推奨しない」としています。

これらの国際的な知見に基づき、厚生労働省では、薬機法上の「消毒剤」について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません。

薬機法上の「消毒剤」としての承認が無く、「除菌」のみをうたっているものであっても、眼や皮膚への付着や吸入による健康影響のおそれがあるものについては、ここに含まれます。健康影響のおそれがあるものかどうかについては、各製品の安全性情報や使用上の注意事項等を確認いただき、消費者に御判断いただくものと考えております。

これまで、消毒剤の有効かつ安全な空間噴霧方法について、科学的に確認が行われた例はありません。また、現時点では、薬機法に基づいて品質・有効性・安全性が確認され、「空間噴霧用の消毒剤」として承認が得られた医薬品・医薬部外品も、ありません。

新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)

空間除菌は通常生活空間で行う場合、人に影響がないレベルの濃度であればウイルスに効果はあまり無く、ウイルスにしっかり効かせようとすると人に悪影響が出ます

こういった商品を売っている業者は、狭い箱の中にウイルスと二酸化塩素などを入れてウイルスに対して効果があった!

と主張しているケースが多いんですが、実際の生活する部屋では空気の入れ替えがあり、ある程度の広さがあるので、その空間に薬剤を充満させることは難しく、ウイルスに対して効かせるのは困難です。

実際、クレベリンを用いて実験を行っている西村秀一らの論文(環境感染誌 Vol. 32 no. 5, 2017)によると、

当初我々は,先行研究でたびたび検証対象としてきたゲル基質に溶解された ClO2が自然に放散されるタイプの製剤であるクレべリン G ゲル 60g を用いて,30 ppbの低濃度の ClO2についての,低湿度から高湿度状態までの条件下での効果の検証を試みようとした.だが,同製品では,中~高湿度で二酸化塩素濃度の 30 ppb の濃度を維持することはできなかった.わずか 2 m3の閉鎖小空間に製品を置いての予備的実験でさえ,相対湿度30%(30%RH)では未使用品 1 個開封後 20 分で目的濃度に達した一方で,50%RH ならびに 70%RH では製品1 個では濃度の上昇が極めて遅く,2 個開封してそれぞれがやっと 20 あるいは 10 ppb 台の濃度になり,その後濃度は不安定に推移した.

※ppbは英語で十億分の1を意味する言葉( parts per billion )
ppmは100万分の1を意味します。30ppb=0.03ppmです。

低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御
―ウイルス失活効果の湿度依存性―

とあります。要するに、製品1個では人ひとりが入れるぐらいの大きさの箱でやっても、湿度が50%以上では全然濃度が上がらなかったと言っています。

この30ppbという数字は、効果があったと一部の論文で報告されている数字で、これ以上の濃度になると臭いに対して不快感を持つ人が多いとされており、実用可能なレベルとしての最高濃度です。

さらに、別の報告では空中浮遊インフルエンザウイルスを1.8m3の箱に入れて、クレベリンをそこで使用したが、二酸化塩素の効果は確認できなかったと報告しています。

一方、Morinoらの報告(Letters in applied microbiology, 53, 628-634, 2011)では、液滴に含まれるインフルエンザウイルスに対して効果があったとしており、結果に矛盾が生じています。

いずれかの結果をサポートする第3者の追試験が望まれますが、私の見解としては、空気中のウイルスに対して効果があるとうたっている商品であるならば、やはり空気中のウイルスに対して実験を行うべきで、西村氏の結果が妥当で、空気中のウイルスには効果が無いと考えるのが自然かと思います。

空間除菌では、空気中に浮いているウイルスに対して薬剤でウイルスを狙い撃ちする必要があり、空気中のウイルスを殺すにはそれなりの濃度が必要です。

低濃度で人体に害が無いレベルではとても除菌は難しいでしょう。

首からぶら下げるタイプの製品

また、西村氏は首からぶら下げるタイプの空間除菌製品の検証も行っています。この報告では、4製品について検証を行っており、これらの製品によってウイルス量は変わらなかったと報告しています。

身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証

さらに、4製品について、10cmの距離で二酸化塩素の濃度を測定したところ、すべての製品で検出限界以下あるいはそれに近い 0.5~2.5 ppb にすぎなかったと報告しています。

首から製品をぶら下げて、顔の周辺では濃度がめちゃくちゃ薄いってことです。

さらに、消費者庁は首から下げるタイプの除菌用品について、行政指導を行っています。

携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について

この首から下げるタイプの製品については、皮膚への炎症も問題となっており、消費者庁で調査が行われています。

【事例 1】
除菌用品を首につけたまま寝てしまい、商品が触れていた腹部があざのようになって痛み、病院で除菌用品の成分による皮膚障害と診断された。
(事故発生年月:2013 年 2 月、30 歳代、男性、岡山県)

【事例 2】
6 歳の息子が除菌ストラップをつけていたら、除菌用品が当たっていた腿ももの部分に低温やけどのような跡ができた。
(事故発生年月:2013 年 2 月、30 歳代、女性、千葉県)

【事例 3】
夫が肌着とシャツの間に入れて使用し皮膚がやけどのように赤くなり、皮膚科を受診した。黒い肌着もその部分だけ色が抜けて白っぽくなった。
(事故発生年月:2012 年 12 月、40 歳代、女性、福岡県)

首から下げるタイプの除菌用品の安全性

詳しくはリンク先を見ていただきたいのですが、

皮膚への刺激性が強かった銘柄ほど、塩素系物質の放散速度も大きい傾向がみられました

と報告されており、つまり塩素がいっぱい出るものほど皮膚にダメージがあった、と言っています。

除菌しようとしたものほど火傷の原因になり、塩素が全然でないものほど皮膚に対して安全であったとは皮肉なものです。

こういった首から下げるタイプの除菌用品を使っている方がもしいらっしゃれば、火傷などの原因になりますので、使用を中止されることをお勧めします。

次亜塩素酸・次亜塩素酸ナトリウムについて

詳細についてはお手数ですが、私のインスタグラムアカウントの以下の投稿①~④をご参照ください。

また、pHについての解説もご覧ください。



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