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エピゲノムを味方に。

医学的に病気をもっていない正常な細胞のエピゲノムを明らかにしよう、というのが「標準エピゲノム」です。音楽のたとえでいうと、曲を弾くためのお手本になる楽譜ですね。病気の人のエピゲノムだけみても何が病気の原因かはわかりません。そこで、標準エピゲノムと特定の疾患のある患者さんのエピゲノムを比較して、病気の原因や治療法を研究するのです。
IHECでは、「今後7〜10年で標準エピゲノムを少なくとも1000種類は調べましょう」という目標をたて、血液の細胞、肝臓の細胞、胎盤の細胞というように、優先的に調べる細胞の種類を決めています。細胞を集めるにはボランティアの検体や患者さんの協力が欠かせません。
エピゲノムは、遺伝子の活動を制御する要因であり、DNA配列の上の変更や修正を指す。エピゲノムは遺伝子発現の調節に重要な役割を果たし、個体の発達や生理的な機能、環境への適応などに関与している。エピゲノムの変化は、遺伝子のスイッチのような働きをし、異なる細胞や組織間での特異的な遺伝子発現を可能にする。エピゲノムはDNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン構造の変化などによって制御される。これらの変化は、遺伝子発現に対して永続的な影響を与えることがあるため、エピゲノムの研究は多くの生物学的なプロセスや疾患の理解に重要である。
エピジェネティクス英語: epigenetics)または後成学とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である[1][2]。ただし、歴史的な用法や研究者による定義の違いもあり、その内容は必ずしも一致したものではない[3]。特に遺伝子(gene)ではなくゲノム(genome)を対象とする場合、エピゲノミクスあるいはエピゲノムと呼ばれることもある。
多くの生命現象に関連し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)・胚性幹細胞(ES細胞)が多様な器官となる能力(分化能)、哺乳類クローン作成の成否と異常発生などに影響する要因(リプログラミング)、がん遺伝子疾患の発生のメカニズム、機能[4][5]などにもかかわっている。
概要
遺伝形質の発現は、セントラルドグマ[6][7]で提唱されたようにDNA複製RNA転写タンパク質への翻訳形質発現の経路により、DNAに記録されている遺伝情報表現型として実現した結果とされてきた。セントラルドグマにおける形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、その記録媒体であるDNA塩基配列の変化が原因となっている。レトロウイルスレトロトランスポゾンによるRNAからDNAへの情報の還元という例外を含みながらも、従来の分子生物学遺伝学ではセントラルドグマを基礎においた研究が行われてきた[8]

しかしながら、先天的には同じ遺伝情報、つまり同じゲノム(DNA塩基配列)であっても、細胞レベルあるいは個体レベルの形質の表現型が異なる例もまれではない。

たとえば動物では、単細胞である受精卵から発生し、全能性幹細胞はさまざまな多能性細胞系列となり、さらに器官ごとに異なった細胞に分化し、それぞれの器官・細胞は異なる機能を分担している。この過程で細胞は、分化の経歴と存在する部位に依存して、ある遺伝子を抑制する一方で、他のある遺伝子は活性化している[10]。また一卵性双生児クローン動物、あるいは挿し木球根地下茎などの栄養生殖で増殖した植物でも、遺伝子型は同一にもかかわらず個体間に違いが認められることが多い。

このような例は、細胞レベルではシグナル伝達による細胞間の応答反応、個体レベルでは環境と遺伝の相互作用によって主に説明がなされていた。しかしながら、細胞がどのように経歴を「記憶」するのか、個体間の表現型の差がどのように生じるかは、遺伝子機能の面からは明らかにされていない部分があった。

1942年にコンラッド・H・ウォディントン英語版)は、「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」言い換えると「遺伝子が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのか」を表現するために、「エピジェネティクス」という用語を作成した[2][11]。その後、エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化を主な対象とした研究分野となり、各種生物のゲノムの解読が進んだ2000年代以降、エピジェネティクス研究が盛んになってきている。

前述の通り「エピジェネティクス」の内容は普遍的に定義されたものではない[3]。しかしながら、入門的な解説の場合、表1に示す各種の過程のうち染色体クロマチンを構成するDNAのメチル化およびヒストンの化学的修飾に重点を置いて説明される[12]

この場合、DNA塩基配列の変化つまり突然変異と、エピジェネティック(=エピジェネティクス的)制御とは独立である。それらは、同一個体内での組織の違いあるいは個体発生・細胞分化の時間軸上の違いで生じる変化である。しかしそれらと異なり、変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている[13][14]。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかというラマルキズム型の問題を提起する(後述のラマルキズムとの関連参照)。



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