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コロ休みアダルト文庫 『紅い翼』

作:平 和 (たいら なごみ)

 八尋智(ヤヒロサトシ)は先を急いでいた。お仕事の時でさえ録画して見ていた連ドラが、今日、最終回なのだ。一応、セットしてあるから後日改めて、と言う方法もあるが、ライヴ感が大切だ。それで半ば小走りになっているのだか、こりゃマジ走りしなきゃ間に合わない! と思った矢先、駅から無情なアナウンスと電光掲示板が。何と、人身事故でダイヤが乱れているそうだ。何分だ?! と駅員に詰め寄ったら、20〜30分は遅れているらしい。これは、もうダメだ。空でも飛ばなきゃ間に合わない。こんなに急いだのに!! たって、既に21時を大きく回っていたが━━‥‥。
 とっ兎も角、一息吐こう。走ったから喉も渇いたし━━‥‥。
 しかし、智は(善)神にとっくの昔に見放されているから、駅の自販機の全ての甘くない飲料が売切ランプ点滅ちう。今欲しいのは甘くない飲み物で、水でも良いやと水飲みに行ったら、使用禁止の紙っぺらが━━‥‥。
 ここ迄されると、(魔)人はムキになる。
 智は甘くない飲み物を求めて、会社近くの公園内の自販機迄来ていた。そこでやっと、玄米茶をGETする。ここ迄戻って来なきゃだったなら、社内の自販機の方が安かったなとか、疲れたから置いてある車で帰ろうかとか思いつつ、特に考えもせずにベンチに座った。そして、ペットボトルのキャップを開け、ゴキュゴキュと2/3程を一息で飲んだ。そのまま普通に視線を戻したのだが、目の前にオドオドして深く俯く、幼いと言うべき面差しの少年が立っていた。
「え〜と‥‥?」
 何も喋らない。喋る気配もない。何だろうと思いはしたものの、喋る気なし・伝える気なしでは判らない。自分は魔物だが、超能力者ではないのだ。
 智は、少しずつ少しずつ尻でズレてって、少年の視界から外れて立ち去ろうと考えた。勿論、実行に移した。静かに、そぉっと━━‥‥。
「?」
 その時、いくつかの気配が感じられ、小さな声も訊こえた。すると、深く頷いていた少年がガバッと顔を上げた。そして、とんでもない台詞が鼓膜を叩いた。
「ボッボクをっ3万円で買って下さいっ!」
 智は飲んだ息を吐く事も出来ず、マジマジと少年と見詰め合ってしまった。
 これが、約1分。
 智はダハァッと息を吐いたが、グルリにある幼稚な気配が勘に触った。
 新手の虐めか。この制服は見覚えがある。記憶が正しければ、若…とと、部長のフィアンセの通う白山百合学院の高等科男子の制服だ。だが、どうして私なんだ! と、そこ迄考えて、この公園が夜、ハッテン場と呼ばれるゲイのパラダイスになる事に、やっと思い当たった。シクッた。が、もう遅い。この子はきっと、他の男にも同じ事を言わされる。それじゃイカンだろうと、社会人的に思った。更に、虐めてる奴(ら)が立ち直れないような手を打たなきゃイカンと、魔物的に思ったのだが、どうやって誘き出すかなぁ〜? 上手い具合いに会社の近くだし、会社の方迄この子を連れて行くか。
「判った。5万で買おう」
「えっっ」
「だが、青姦なんてごめんだぞ」
「こっ困りますっっ」
「何が。娼夫に決定権があると思うなよ。来い」
「あっあのっ」
 少年の細い右手首を引っ掴み、智の早歩きだから高校1年生? 良くて2年生くらいの小柄な少年は走らなくてはならず、上がりを引ったくろうと目論んでいた虐めっ子達も、少しの距離を置いて、でも、見失わないくらいの間隔を開けて、小走りに付いて来ていた。で、会社の夜間通用口から社員証で中に入り、小さく開く窓から外を見詰める。そして、姿が消えたとバタバタやって来た追っ手、2の4の5人の男の子達の姿を、趣味で持ち歩いているデジカメでバッチリ撮った。制裁を何にするかは決めていないが、まずはカクカクと小刻みに身体を震わす程怖かった小さな娼夫を何とかしないと━━‥‥。
 智はその子と目線を同じくするように腰を屈めると、出来る限り優しい口調で話し掛けた。
「私の名前は八尋智。君の名は?」
「一ノ瀬涼一(イチノセリョウイチ)です」
「白山百合の高等科だね? 何年生?」
「3年生です」
「えっっ?!」
「え?」
「否。ま、会社じゃ落ち着かんしなぁ。ともあれ、家に送って行こう」
「困ります。5万円って言ったじゃないですかっ。5万円でボクを買って下さいっ。もう、お金ないですっ」
 どう言う事情があるのかは知らないが、訳ありと見た!
「とは言え、もう22時が過ぎてる。お家の人、心配しているだろうに」
「両親は姉の挙式の為に、今日から1週間ハワイに行ってて居ません」
「あらそう。なら、ウチで致しましょう」
「はい」
 夜間通用口から地下駐車場に回って、買って貰わないと困るとか言いつつ困っている涼一を連れて、自宅億ションに向かった。
「どうぞ」
「あっ有り難う御座います」
 来客用のスリッパを出してやり、とっとこ奧に進み入る。そして、付いて来ている風の涼一の方へ、クルンッと向きを変えた。
 涼一がビクッと身体を震わせ、一歩後退。
 そんなのには構わず、内懐に手を忍ばせた智は札入れを取り出すと、万札を5枚渡した。クッと下唇を噛み締めて、涼一が受け取った。
「バスルームはそこを右。1人で入るか、それとも一緒に入るか」
 さっき迄は優しそうだったのに、お金を受け取ったら急に態度が冷たくなったように思う。これが、身体を売る、と言う事なのだろうか……。
「1人で入りますっ」
「そ。タオルは脱衣所にある」
「はい」と気丈に返事をしたが、トボトボとバスルームに消え行く背中の小さい事。一体、どんな虐めだ。取り敢えず、期待しておこう。あの子は致命的な事に気付いていない。
『え〜っ?! きゃあ! あっあっダメ〜!』
 タバコを燻らせていた智が、バスルームのドアを開けた。けれど、涼一に気付いた様子はなく、自力で頑張っている。
「もっもう少しっ! ああ〜」
 色々試したけどダメで、ショボンと両肩を落としたら、初めて抑えめの笑い声が訊こえた。ギョッとしてドアの方を見ると、ドア枠に右手を掛けて、俯いて大笑いする智の姿があった。そこ迄受けて頂けると、何とも返す言葉もなくて、湯に打たれながら立ち尽くしていた。
「はーっ。笑った。泣く程笑ったの久し振りだわ」
「どうもっっ!」
「一ノ瀬君さぁ、ひょっとしてバカ?」
「うぐっ。一応、首席ですっっ!」
「じゃあ、白山百合高等科のレベルが下がったのか? 判りそうなモンじゃない? これだけの身長差があるんだから」
「えっあっ。余り意識してなかった。初めてだったし」
「あらそう。ま、いーや。好い加減私も濡れ鼠だから、一緒に入ろう」
 言う側から脱ぎ始め、飛沫で消えていたタバコをゴミ箱にポイして中に入った。
「うわっ」
 涼一が智を見上げ、そのまま真後ろに倒れそうになる。智が慌てて抱き止めたが、この子はきっと、ガキなのだ。
 智は武闘派一のノッポだった。軽く2mを超えているのだが、公証198㎝。嘘吐きやがれ、は俊だが、頑なな迄に拒否る。
 この、女みたいな奴が十人衆No.1、スペードのエースなのだが、外見に惑わされると地獄行きの特急に乗せられる。髪が長いから女性的、と捉えてはならない例だろう。
 腰よりもまだ長いストレートヘアーは烏の濡れ羽色。瞳は薄い茶色。切れ長の目はクッキリ二重で、睫毛はバサバサ。スーッと通った鼻筋。小さ目の唇は桜色。31歳独身! 恋人絶賛募集ちう!
 美樹も綺麗な男だが、智の美しさは悪魔的。正しくその通りなので、本人も含んだ関係者各位訂正しないが、本社でのモテ男だった。
「ホラ」
「あっどうも、有り難う御座います」
 取りたかったシャワーを取ってやる。それに、思わずお礼言っちゃう辺りツボる。
 智が逞しい肩を震わせ、大爆笑している。涼一は何を笑われているのか判らないので直しようがないし、同じ理由で文句も言えない。
 女の子達に大モテで、表男性社員に羨ましがられている智だが、美樹程には痴漢は受けなかった。
 唯、全くない訳ではなく、突き出した痴漢(何名か痴女も居た)の数は軽く両手足の指を使い切る。こんなデカイ女が早々居て堪るか。肩幅だって広いし、スーツ姿なんだから。なのに、痴漢されるって事は何だ、男を触りたかったって事か?
 お〜そろしい話だ。まぁ、好みの男の子だったら手が出るかもだけど‥‥否々、犯罪です。もっと酷い事、やってるけどね━━‥‥。
 髪が長いと何が困るって、シャンプーと乾かすのだ。バスタオルを肩に掛け、それで何とか済ませようとしちゃってるけど。
「綺麗な髪」
「? えっ」
「お手入れ大変そう」
 少年の手が、智の、コンディショナー流したてのツルツルスベスベの髪を撫でている。行為そのものは大した事ではないが、それが智の髪と言うのが大問題だった。愛し育んでくれた祖母にさえ、首から上、特に頭は触らせなかった。そもそも智の髪がどうして長いのかと言うと、髪をカットしにサロンに行けないからだ。ついでに、面倒だからと短くして(昔一度、自分で無茶苦茶に切った事がある)、若に失恋したのか、と言われて呑みに連れ出されるのにも懲りた。そんなに酒には強くない。弱くもないけど、若や宏さん程じゃない。匠程に弱くもないけど、未成年でベロンベロンにされたから、印象に深い。
 そんな、曰く因縁付きの智の髪に、今日会ったばかりの少年が、触っている。
 嫌な感じ…はしない。いつもなら湧き起こって来るのに。どうしてだろう。経験のない、摩訶不思議な感覚。
「えっとぉっ〜」
 智が瞬きもせず、じーっと見詰め続けるもんだから、止め時が判らない。どうしよう。どうしたら良いのかなぁ〜?
「あのっえ〜っと、八尋さん」
「ん? あっ! 悪い」
「いっいえっ」
 凍り付いていた空気が流れ始める。
 疲れてんのかなぁ〜? きっとそうだ! そうに違いない! と思い込もうとしたが、風邪引いて熱のある時に額を触られるのもダメだったから手を叩き落としていたし、眠っている時に頭撫でられるのもダメだったから跳ね起きて怒鳴り散らした。そのくらい過敏に反応しちゃうんだから、自覚ないけど、疲れがピークなのかな? 幸運な事に明日から3連休だ。急ぎのお仕事が入らなければ、と言う但し書き付きだけど、ゆっくりと羽を伸ばそうじゃないか。ま、その前に、5万円で買ったボーヤの味見といくかな? お互いに身体も髪も洗ったし、後は犯るだけだ。
「じゃ、始めるか」
「なっ何をっ」
「決まってるだろう。SEXだ。まず舐めろ」
「えっココで?」
「舐めろっっ」
「はい」
 涼一は言われるままに、大人の人のペニスを口に含んだ。ま、ペニスそのものを舐めた事がないし舐められた事もないので、勝手が判らないけど。
 モゴモゴやってる涼一の、背中から腰に掛けてのラインを見ていた。
 この、処女っぽいギコチなさが良い。
 でもねぇ、それじゃ大きくはならないなぁ。
 智が涼一の頭を押さえ付けた。
 涼一は、息が出来なくて目を白黒させ、手をバタ付かせている。何とか解放して貰い、大きく深呼吸。
「これじゃ挿らないよ。大きくしてくれ」
「どっどうやって」
「自分で考えろ」
「うっ…」
 涙目になった涼一が、再び舐め始めた。唯、咥え込むのではなく、チロチロと舐っている。
 智のモノが、少しずつ熱を増し、大きくなって行った。その頃になると舐めるのに夢中になっていて、言われてもいないのに手も添えている。
「もう良い」
「っほうっ。おっきい…」
 俺様の勃起したペニスを前に少年が身体を震わせてるって、ス・テ・キ。俺も、デカマラの絶倫で遅漏だけどな。
「壁に手を付け」
「はい。ひゃうっっ」
 アナルに触っただけで声を上げるかい。
 智は時間を掛けて涼一のアナルを広げると、シャボンで滑り易くして突っ込んだ。
 時間を掛けたせいか、シャボンのせいか、その両方か、一突きで根元迄銜え込み、後は小柄な涼一を宙吊りにしてガンガンピストン。疲れマラだったから中々来なくて、やっと1発。涼一は5発くらいイカされているので足元もおぼつかない。
「さぁ、出るか。場所を変えるぞ」
「えっまだっ犯るんですかっ」
「当たり前だ。3万のところ5万払っているんだからな。受け取ったろうに」
「はい‥‥」
 涙で潤んだ瞳も感じる♡
 浴室から出て、智はさっさと髪を乾かしていた。長いから、これだけで30分は掛かる。
「矢っ張り綺麗」
「━━‥‥う〜ん」
「何か」
「否」
 涼一が、智の長い髪を撫でていた。矢っ張り、不快ではない。寧ろ、綺麗と言われて気を良くしている自分が居る。何故?
「あのっあのっ」
「ん?」
「ブラッシング、やらせて下さい」
 ピョコピョコ飛び跳ねるから何を言うかと思えば━━‥‥。痛くないのかね。何て柄にもない。
 通常なら、考える迄もなく断固拒否! なのだが、悩んでいる事自体が異常事態だろう! でも矢っ張り悩んで、ドライヤーで乾かす30分間も一杯悩んで、その結果、涼一にブラシを持たせてリビングにやって来た。因みに、2人共全裸だ。それもそうだろう。犯る事前提なんだから━━‥‥。
「う〜ん」
 涼一にブラッシングやらせつつ、智は苦悩。これでも不快ではないのだ。ひょっとして、トラウマを克服出来たって事かしら? なら、若に、良い子良い子して欲しい♡ なんつー冗談(マジ6割)はさて置き、やっと気付いた重大事があった。晩ご飯、食べてないよぉ〜っっ!
「お前、晩メシ食ったのか」
「━━‥‥まだです」
「ふむ。今から行ける店ぇ〜? ねぇよ」
 時刻は今、0時になった。
「ファミレス系かぁ〜? ま、いーか。久しく行ってないし。服着ろ。ファミレス行くぞ」
「はっはい」
 アセアセしながら服を着始めた涼一をリビングに残し、ウォーキングクローゼットから普段着用のソフトスーツを引っ張り出した。とっとと着てリビングに戻ると、涼一の姿がなかった。貰うモン貰ったと、出て行ったか? ま、初物は味わえたので、良しとするかな。でもって、どうしようかな。コブが居たからこそのファミレス案だったが、1人なら残り物でも良い。そんな事を考え始めたら、ドアチャイムが鳴った。
「はい」
“八尋さん、涼一です。外に出たら入れなくなっちゃったぁ〜っっどうしてぇ〜っっ”
 オートロックだ、とは言わず、入れてやる。
「何してた」
「月が見えないんだもん」
「月ぃ〜?」
「今日、満月ですよぉ〜」
 お前はサイヤ人か! と言いたかったけど、アニメ好きなのがバレると眼力効かなくなると思い黙っておいた。
「満月には不思議なパワーがあるんですよ」
 あるだろうな、月光浴びたら大猿になるんだから、って好い加減ドラゴンボールから離れろよ、自分━━‥‥。
「メシ食いに出るぞ」
「はい」
 話に乗らなかったから、涼一がシュンと目を伏せた。そしたら、胸が痛んだ。何故!?
 涼一の背中をポンポンと叩き、車で向かったのは一番近いファミレス。
 ふん。ファミレスで喜べる辺りがガキ。
「お前の親の仕事は?」
「はむ。モクモク。お父さんが財務省事務次官で、お母さんがK大附属病院の副医院長」
「凄いな」
「親がね。ボクは唯の変態だよ」
 そこから、涼一少年の切なさを伴う虐め迄の道程が明らかになった。
 追っ掛けて来ていた連中の中に好きな子が居て、その子とは幼馴染みでずっと好きだったそうだ。小中高と世界が広がる度、短期間、好きになったり憧れた人は何人も居たそうだが、結局は幼馴染みに戻って来て、受験勉強に身が入らないので勇気をだしてラヴレターを書いたらしい。けれど、変態と罵られ、近付くなと迄言われたとか。それがある日、その好きな子の名前で呼び出され、喜び勇んで走って行ったら、好きな子と仲間達が居て、罵られバカにされ、カツアゲされた。そのカツアゲも、回を増す毎に要求額が大きくなり、貰ってる小遣いじゃ足りなくなった。それで、父母の財布から抜いて渡していたそうだが、長続きするモンじゃない。両親に呼ばれて、何にお金が要るのか言えと迫られたそうだ。けれど、理由なんか言えない。すると、初めは同行予定だった姉の挙式に連れて行って貰えず、だけならまだしも、食費も小遣いも置いて行って貰えなくて、正直に話したけど信じて貰えず、金ないなら身体で作れよ、と言う事で初めに戻る。尚、身体で作れと言ったのも、涼一を一番酷く虐めていたのも、好きだった幼馴染み。
「良し良し。良く耐えた。ご両親が戻る迄、俺の所に居れば良い。1週間留守ったって、明日から3連休だ。他の日は休みなさい」
「休んでどうするの?」
「音楽聴いても良いし、勉強しても良いさ。さ、帰るぞ」
「あっはい」
 ぴょんと飛び上がるようにソファーから立ち上がり、先に歩き始めた智の左手に手を伸ばした。すると、手を繋いでくれた。
 会計中は手を離さなくてはならなかったけど、お釣りを貰って財布に小銭を仕舞ってから、改めて手を繋いでくれた。それが嬉しい涼一である。
 車で10分。再び智の部屋。あもうもなくベッドルームに連れてった。。
「脱げ」
「はい」
 本当は優しい人なんじゃないと、ファミレスで思ったのに、5万円の元(?)を取る気だろうか。後何回犯されるの?
 全裸になって少し恥ずかしそうにしている涼一を、同じく全裸になっていた智が軽々と抱き上げ、身長のせいで特注するしかなかったキングサイズのベッドに放り投げた。涼一は軽いから、ポフポフと弾み寝っ転がった。
 身体が重なる。
 まずはKiss。たっぷりと10分楽しんだ。
 涼一が両頬を朱に染めている。何か、可愛い。明日起きてからもう一度試すけど、何となくクリアしそうだ。そうしたら━━‥‥。
「5万は返せ」
「困りますっ」
「お前が自主休校している間に、虐めっ子グループは何とかするから」
「先生には言わないで下さいっ」
「言わないよ。教師は聖職だと信じたい唯のサラリーマン教師に、一体何が出来る。都教とPTAと文科省の顔色伺ってるだけだ。日本の教育は地に落ちた」
「はぁ」
「も一つ確認。幼馴染み、今でも好きか」
「何故?」
「確認。虐めっ子グループを何とかするって事は、その、好きだった幼馴染みも一緒だから」
「ボクの好きだった太郎ちゃんは、あんな酷い事言わない」
「OK」
 小さな少年が、ポロポロ涙を溢しながらも言い切った。長年の想い人との決別。どれだけの勇気を出して告白したのか。なのに相手は、応じられないと言うのではなく、変態と罵りカツアゲして来た。そして、払う金がなくなったら、身体を売れと言った。どんなにかショックだったろう。百年の恋も醒めると言うものだ。
 智は涼一の額にキスすると、全身にキスの雨を降らせた。感度良好。喘ぐ声も良い。お兄さんが、全身の性感帯を開発しましょう♡ その先の事は、明日起きてからと言う事で━━‥‥。
 翌朝。
 犯られ疲れと虐めに依る精神的ダメージの寝不足で、涼一はスピスピ眠っていたい。が、何かに驚いて、跳ね起きる。それに、本人もびっくり。何に驚いた‥‥否、正確には、不安に思ったのだろう。
「あれ?」
 キョロキョロ。居ない。ボク1人。え〜?! 何処に行ったのぉ〜? 今は1人になりたくないんだ。
 隣りには、確かに誰か眠った跡。手を忍ばせれば、まだ暖かかった。
 涼一はベッドから抜け出ていたが、腰とお尻が痛くって、思わず表情を歪めていた。それと一緒に、昨夜男の人に抱かれちゃった事、本当の変態になっちゃった事に涙を溢した。でもまぁ、10分くらいのもんだ。頬に跡を残す涙を、自分で拭った。そして、気になっていた太腿のむず痒さの正体を、お尻を触って知る。男の人に抱かれるってこう言う事なんだ。
 涼一は辺りをキョロキョロしてティッシュを見付けると、お尻と太腿を拭いた。でも、まだ伝って来る。どうしたら良いんだろうと悩み、痛いのを我慢してンッと力んだ。すると、ドロッと一杯溢れて来て焦ったが、何回イッて何回犯られたんだろう、とか思いながらフキフキ。最終的に自分は出すモンがなくなって、なのに射精感だけはあってヘロヘロになったような‥‥ん? いつ眠ったんだろう? 覚えてない━━‥‥。あの人はバスルームのも入れて4回くらい? まぁ良いや。
 改めてキョロキョロし、目覚まし時計を見付けた。えっ!! 朝の7時45分?! 学校に間に合わない!! ま、休めとは言われたけど━━‥‥。
 今日は土曜日。学校のある土曜日。
 涼一は痛む腰とお尻を庇いつつ服を着ると、智を求めてベッドルームから出た。
 智の姿は、リビングにもダイニングキッチンにもなかった。パニック起こしそうになって、テラス、昨夜はカーテンが閉まってて判らなかったけど、テラスに智の姿を見付けた。
「?」
 何をしているのだろう。良く判らないけど、空手? 太極拳? 一つ一つの動作が流れるように美しくて、思わず見惚れる。
 実際、智の体術は美しいものだった。その美しさに見惚れてる間にあの世行き。智はこの長身と長い手脚を充分に活かしたクンフーの達人で、この流れるような美しい動きでトドメを刺すのだ。得意とするものは特になし。オールラウンドに秀でた暗殺者(アサシン)。
 ファイブカードは皆、オールラウンダーだ。だからこその、ファイブカードの御利益。
「ふぁ〜」
 ガラス窓に張り付き、食い入るように見詰めた。そして、終わったら一生懸命に拍手。智は目をパチクリさせている。涼一が来たのは気配で判ったし━━‥‥。これは、俊の60分トレーニングと同じものだ。智も60分。毎日の日課。
 たっぷりの汗をかいた。シャワーを浴びよう。そう思って、拍手をくれる涼一に視線を止めた。
「おはよう」
「おっおはよう御座いますっ」
「風呂入るぞ。お前も来い」
「はっはい」
 涼一を連れて風呂に入り、再確認。こいつが髪触る分には許せる。なので、悦びの1発と参りました。涼一の声にエコーが掛かっている。それが又、良かったりするのだが━━‥‥。
「お尻、痛い」
「だろうな。あちぃ〜」
 風呂から上がり、ドライヤーパスして、タオルドライだけで済ませ、バスタオルを肩に広げてるのだが、涼一が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
「放っときゃ乾く」
「何言ってるの? 折角綺麗なんだから、大切にしようよ。ドライヤー、ボクがしても良い?」
「はいはい」
 智は腹括って、涼一の好きにやらせた。
「綺麗♡」
 今迄嫌いだったが、そう嫌な言葉じゃないな、限定1人だと思うが、その1人が口にするなら素直に訊ける、綺麗と言う言葉。
 智の髪をブラッシングして、涼一は満足。
「満足したか?」
「はい♡ えへっ♡」
 涼一が、それは嬉しそうに微笑んだ。可愛い。
「まず、5万返せ」
「あ、はい」
 智の言葉で夢から現実に戻った涼一は、言われるままにお金を返した。
「どうぞ」
「うむ」
 5万を確認してテーブルの端に置く。
「メシ食ったら、お前ん家に、1週間分の着替えと勉強道具を取りに行くぞ」
「着替えはOKだけど、教科書は学校です」
「どうやって勉強してたんだ? 首席じゃないのか?」
「ノートと参考書でやってました。それに、教科書はどうせなくなってるだろうし」
「ふむ。では、ノートと参考書と着替えを取りに行って、教科書は購入しよう。何処の教科書かは判ってるだろう?」
「はい」
「じゃあ、行くか。の前に、着替えなきゃ」
 智は昨夜着てたのとは又違うソフトスーツ姿になって出て来た。
「さぁ、行こう」
「はい」
 涼一を連れて、休みの日にたまに利用する喫茶店でモーニングを食べ、涼一の案内で少年の自宅に車で向かった。そして、要る物を取って来させ、要る物も購入して、改めて智の住まい。
「涼一、訊いてくれ」
「はい」
 リビングのソファーに並んで座り、少年の手を握り締める。
「お前を俺の恋人にする」
「えっ?!」
「そう決めたから」
「え〜と‥‥決めたと言われても」
「俺の事、嫌いか」
「好きとか嫌いとかは」
「だわな。昨日会ったばかりだ。しかし、身体の相性は良かったぞ。これ、重要ポイント」
「そっそうだったんですねっっ」
「お前だって、イキまくってたろうに」
「それはまぁ‥‥そうなんですけど」
「お前の親が帰る迄の間に、惚れさせよう」
「はぁ……」
「さて、虐めっ子グループの事と仕事をするか。お前はココで勉強してろ。俺はそこの書斎に居るから、用があったら呼びに来い」
 そう言い残し、智は書斎に入った。まずやったのは、お仕事関係。これはものの20分足らずで終えた。何分にも、魔の3ヶ月で悪目立ちしてたトコは殆ど叩いちゃったから、智が動かしている駒も静か目の指示で済む。次が本命の、恋人(候補)を虐めていた5人グループの事だ。
「ふ‥‥ん」
 さすが白山百合学院。5人の虐めっ子の親は、政財官の要人だった。こりゃ、1人の判断ではやれないなぁ〜‥。特にこの2人の政治家は、圭介を虐める悪い人(命名俊)リストに載っていた人物だ。財界人の2人は、表会社の商売敵の切れ者重役だから消えて貰った方が良いと思うし、残る1人は財務省の高級官僚で、涼一の父親に一々楯突く奴らしいから、これにも消えて貰った方が良いだろう。
 それら、自分が調べた事も付け合わせて俊に送信した。そして、良い子に勉強しているだろう、涼一の居るリビングに戻った。
「音楽でも掛けるか?」
「八尋さん♡」
 屈託なく微笑み掛けて来る、幼い顔。涙出る程、可愛い♡
「おー‥‥懐かしいねぇ〜」
 ノートを覗き込み、脇に積んである、今は使っていない教科書を見た。パラパラと頁をめくり、そっと閉じて戻す。
「英語くらいだわ、俺に教えられるの。まぁ、高校生の数学と科学も何とかなるかな」
 低く呟いたら、元気に食い付いて来た。
「教えて下さいっ!」
「そら良いが、お前、首席なんだろ?」
「辛うじてです。英数理の3教科だけは満点取れなくて。お父さんとお母さんも変に気を使うし」
「つ〜と、それ以外は満点なのか」
「はい」
「おっと。苦手教科は何点」
「90点取れない。大体85点前後です。2位の水島君とホント僅差なんで、毎回しんどいです」
 で━━‥‥。暫く英語の勉強を見てやったが、智が眉根を寄せた。何だと?
「ん〜‥‥プリントを作った先生は、英語圏で使われてる言葉を知らんな」
「どうしてですか?」
「こんな使い方しない」と言い放ち、指摘した問題文の上の余白に、サラサラと正しい方を書いて発音した。
「先生に指摘されたら文句言え。僕の恋人が英語圏ではこんな使い方しないと言ってましたって」
「はーい」
 特に意識せずに告げ、告げられた方も無意識で返事を返していた。それから更にもう少し勉強を見てやり、一休みしようとダイニングに連れて入り、帰りに寄ったスーパーで購入した、涼一お気に入りのメーカーのジュースを出してやる。自分は、昼からビール。俊や宏程にはつおくないが、匠より酒癖は良いと思う。
 智はメートルが上がると、特におかしくない事でもゲラゲラと笑い出す。つまり、笑い上戸。陽気なお酒なので黙認されているが、そうなるのはボトルで2本空けてからだった。
 昼食は智の手作り。文句は言わずに残さず食え、と言ったら、大の苦手だったらしいピーマンも、涙目でモグモグしていた。
 充分な食休み後、涼一は勉強。
 今日、学校に行ってないからその分をやっておかないとならない、とか言うておったが、智はつまんない。だから色々とチョッカイを出し、遂には怒らせてしまった。
「八尋さん! 何やってるんですかっ!」
「SEXしよ♡」
「えっっ!」
「しよ〜しよ〜♡」
「え〜っっ?!」
 涼一の細い手首を引いて、あもうもなくベッドルーム。戸惑っている涼一を無視して服を脱がせて脱いで、いざいざ行かん! 愛のパラダイス♡
 午後10時。ベッドにうつ伏せでダウンしているのはまだ18歳の涼一で、旨そうにタバコを吸っているのが悪魔。
 涼一は、最中に自分の発した恥ずかしい言葉の数々にパニクッていて、それを一々論うのが智だ。
「もう止めて〜〜っっ」
「止めない。うんと言う迄」
「なら言わないもんっ!」
 意地悪言うからムキになってプーッと膨れた。でも堪えない智。
「じゃ一日中言っててやる」
「それって虐めぇ〜」
「好きな子虐め♡ うんと言え」
「やだ」
「何処迄再現したっけ? 忘れたから初めから」
「キャーっっ! うんっうんっうんっ」
「うんと言った?」
「━━‥‥言った」
「良し。お前は俺の恋人。俺のモノ」
「唯の弾みだし」
「訊かな〜い。訊けな〜い」
 欲しい言葉は貰ったと、智が上機嫌になった。けれど、涼一は暗い。それが、言葉になる。
「━━‥‥。ボクみたいな変態で良いんですか」
 涼一は言い難そうにしていたが、訊かされた智は少しも気にしておらず、寧ろ、不思議そうにしていた。
「なら、俺も変態だが」
 涼一が思い切って言ったから智も真面目に答えたが、言われて涼一が、忘れた事実を思い出し赤くなった。
「あ、そか」
「ウチの会社、同性愛認めてる企業だから、お前言うところの変態、多いぞぉ〜」
「いっ良い会社だ。何て言う所ですか?」
「山下コーポレーション」
「高校生のボクでも知っているような、超一流企業じゃないですかっ! ふわぁ〜。八尋さん、エリートなんですね」
 涼一が仰向けに転がり、顔だけ智に向ける。
「智で良いよ。エリートなんかねー」
「エリートですよ。大企業じゃないですか」
「そ…おね…そこそこ大きいかも」と、言ってみるが、実感がない。デカイ組織だけどね〜。それはシークレットだからごめんね。
「何言ってるんですか! そこそこなもんじゃないですよ! 世界第三位のコングロマリット!」
 そこに電話。
 涼一が、唯の条件反射で身体を震わせた。スマホの電源は、智に言われて切っていたし、ここは自宅でもないのだから、自分に電話なんて掛かって来ないが、こびり付いた恐怖は理屈じゃない。
 智は、身体を震わせる可愛らしい恋人を腕に抱いてから、電話に出た。
「はーい」
“さっさと出ねーか!”
「すっ済みません。シャワーで訊こえなかったもんで」
“犯ってたのかと思ったぁ〜♡ 誰と浮気?”
「若っっ」
“ブランカに来い。因みに厨房は宏だ”
「あっ! のねぇ〜〜」
 言いたい事は言ったと、もう切れてる。
 智はスマホを見詰め、溜め息吐いて通話を切った。
「ま、いーか。涼一、服着ろ。晩メシ食いに行くぞ」
「誰ですか?」
「上司。鬼より怖い上司。強引だし横暴だし我が侭だし、とんでもない上司だよ」
「嬉しそうですよ? 八尋さん…と、智さん」
「そうか? おかしいなぁ〜? さて、どれ着てこかな♡」と言って、寝室のクローゼットに入った。智は特別衣装持ちだ。お洒落と言うか、服が好きなので、雑誌チェックも欠かさない。その智が、キャメルのソフトスーツを引っ張り出した。そして、姿見で見る。けれど、恋人の言葉の方が何事も優先されるのだ。
「こっちの青いのが良い。これ〜」
「ふん。これか。余り着ないけど、嫌いじゃないからね」なんて言いながら、身体に当ててみる。
「おお〜〜っっ♡」なんて言われて、ご満悦。
「さっさと服着ろよ」
「あ、忘れてた。外出着ないから制服を」
「止めなさい。普段着で良いから」
「でもでも、智さん、恥ずかしいでしょう?」
「何で? そんな事ないよ。手、繋いで行こうな」と言うと、涼一が、それは嬉しそうに微笑んだ。
 その涼一を急かし、車をぶっ飛ばして40分。一応23区内の筈なんだけど、と言いたくなる程寂れた町の薄汚れたプールバーに着いた。涼一を先にやるのも待たせておくのも忍びなかったので、パーキングに車を停めて、手を繋いで大きく振りながら店に向かった。
「ここなのぉ〜? やってるの? このお店」
「貸し切りにならない限り、年中無休でやってるよ。夕方5時から朝5時迄」
「ふ〜ん。お客さん、来るのかな」
「結構、儲かってる筈だぞ。会社の偉い人が使うし」
「へぇ」
「入るぞ?」
「うん♡」
 智に右手を引かれ、涼一も歩を出した。
 智が扉を引くと、蝶番の錆びた音が不気味に響き、思わず涼一が智に擦り寄った。中から溢れたのはオレンジの灯りで、ビリヤード台が見えた。そこで玉突きやってる人の姿はなく、と言うか、もう何年もビリヤードしに来る客なんて来てないから、薄っすらと埃が積もっている。そのビリヤード台を左右に見て真っ直ぐ伸びる花道(?)を歩き、仕切りで見えなかったBOX席に向かった。そして、先客2名の前に座る。どっかで見た事がある人が肩を抱かれて、スーツ姿の太ったオジサンに凭れ掛かって呑んでいた。勿論、オジサンも呑んでいるけれど、水みたいに呑んでいる。あんな呑み方しているといつか身体を壊しちゃう。それを言おうとしたら、オジサンの冷たい視線が涼一に止まった。怖い…怖い……!
「誰だ? そのガキ」
「問題の子。めでたく恋人同士になりました♡」
「フ…ン。ビビッてんじゃねーか」
「そりゃビビりますよ。いきなり若、機嫌悪いし。なぁ。怖いよな、このオジサン」
「1コしか違わん筈だがっっ」
「そうでしたっけぇ〜。宏さん、何か作ってくれぇ! 夕方4時頃から犯りっぱでさ♡ むふ♡」
「ケッ! ほざいてやがれ」
「お待たせしました〜♡ ヒロちゃん特製プレートです♡ お2人は少し待ってて下さい」
「ああ。クニは偉いなぁ〜。お手伝いか?」
「はい♡ って! 八尋課長! あなあなあなあなあなたのような方がどうしてこの店にっ!」
 邦彦が、恐る恐る皿を運んで来て、テーブルに置いてやっと智に気付いた。
「同じ穴のムジナ。宜しくな」
「え〜〜っっ!!」
「面白いなコレ。1個欲しい」と、ボソリと智が呟いたら、間を置く事もなく
「上げない!」と宏の怒声がした。
「いーもん。部下だから♡」
「若! クニを移動させて!」
「バーカ。そら」
 そんな遣り取りをしていたら、グラスを空けた俊が、プレートを涼一の前に滑らせた。
 思わず注目。
「育ち盛りが空きっ腹抱えてるのは辛かろう。先にお食べ。酒、注がねーか! ボケ智!」
「はいはい。どうぞ若。先生は?」
「圭介で良いよ。君は?」
「え〜と。名前は智です」
「智君か。はふぅ〜」
 俊はロック。
 圭介は濃い目の水割り。
 カラカラとマドラーで掻き混ぜて、それぞれにグラスを戻した。
「何かありましたか?」
「あったねぇ。事もあろうか、俺様の圭介を脅して、手籠にしようとした奴が居た」
「えっ! 大丈夫だったんですか?!」
 智の声がひっくり返る。
「クニはカウンターに行ってろ」
「え〜っっ」
 横っちょの丸椅子に座ってた邦彦が、ブーイング。
「ク・ニ!」
「は〜いっ」
 でも、部長が怖かった。邦彦がピューッと消えたが、忍び足で近付いて来て、智用のロックグラスと涼一用のフレッシュジュースを置いて、宏の所に逃げた。
 そのロックグラスにドボドボ酒を注いで氷を1個浮かべたったのは俊で、まんまで智の前に置く。
「お疲れっス」と言って、グラスをガチャこん。それから、話を戻した。
「え〜っと。俺に電話って事は」
「ん。岩田権造と中山貴一の両先生だ」
「2人相手に、良く逃げられましたねっっ」
「運良く勉強会の予定が入っててね。僕の、気の利くんだか利かないんだか判んない第一秘書が、停止の手を振り払って直接乗り込んで来た。それで事なきを得たけど、僕は面白くない。それで、トシさんを頼ったの」
「なる程」
「太郎ちゃんのパパと中山君のお父さんだ。あっ! 思い出した、代議士の山田圭介先生」
「でも忘れてね。今は唯の圭介だから。君は?」
「あっ。済みません。一ノ瀬涼一と言います。白
山百合学院高等科3年です」
「えっ」と圭介が声を失くし、言葉にしたのは、何事においてもバリケードな俊だった。
「中学生かと思った」
 良く間違われるけど、改めて言葉にされると傷付くものだ。
「悪い悪い」
「いえ」
「人の事言えないけど、智君、青田刈り? って思ったのに♡」
「若━━‥‥」
「するってぇと、まどかの先輩かよ。おいおい、マジか〜? コレがぁ〜?」
 自分が童顔なのは承知している。今更、このくらいの失礼な発言に怒ったりはしない。
「まどかって、高城まどか君ですか? ボクの後を継いで生徒会長をやっている」
「まどか、生徒会長なのかよ」
「お前、生徒会長とかやってたの? てか、やれてたの? マジ?」
「ど〜ゆー意味!」
「色んな意味で」
「立派に勤め上げました!」
「あらそう。意外。いったぁ〜いっっ。何するんだ」と、叩かれた太腿を摩る智君。
「ツーンだ」と言ってそっぽ向くはガキん子。
「なろっ♡」と言って羽交い締めするのもガキん子。
「ベタくそは家でやれ」は、大人の意見。
「は〜い」と頭を掻くのは、十人衆No.1の筈。
「恥っっ」と赤面したのは、昨日迄の人の子。
「智、お前に任せる。好きに料理しろ。但し、2度と表舞台には立てないようにしろ。5人共」
「了解です」
 瞬間、魔王だった。だもんで、特別鼻の利く圭介が俊に身体を摺り寄せ、甘ったれた声を出してせがんでいた。
 瞬間、魔物だった。まだまだ開発の余地があると思われる涼一が、得体の知れない突き上げに喘ぎ、智にしがみ付いている。
「トシさん、狡い〜。や〜だぁ〜。僕のアナル、パクパクしてるじゃなぁ〜いっ。く〜ん、く〜ん。ハメて♡ 今頂戴♡」
「ご飯先ぃ〜」
「え〜っっ! 食べたらしてくれる?」
「ああ」
「智さんっ智さんっボクっ何か変なのっ変なのぉっ何っ?! なぁ〜にっ?? ふぇ〜んっっ。智さんっ、助けて。智さんが助けてっ」
「判った判った。晩ご飯食べて」
「ムリっ絶対ムリっ今助けてっ今欲しいっ」
「う〜ん。やっくん」
「その呼び方止めて下さいって!」
「お前の持ち物に相応しいようだなぁ」
「ですね。一晩なんスけどね」
「日数なんざ関係ねぇよ」
 小煩い情人をちょいと置いて、ボソボソ。
「智さんっ智さんっ、頂戴っ」
「ご飯が先ぃ〜。食べたら満足する迄上げる」
「んっん〜っっホントっ?!」
「ホント!」
「判ったっ」
 圭介は早く欲しいから、既に食べ始めていた。智に説得された涼一も、はむっと食べ始める。判らないけど、今、我慢出来ないくらい、智に犯られたいのだ。意味判んない。理解出来ない。あんなに犯られたのに、出すモンなんてないのに、腰もお尻も痛くって歩くのがやっとだったのに、なのに欲しいのだ智が。
「はい。お待ちどぉ〜したんスかぁ〜?」
「ちょっとな」
 俊と智にプレートと出し、隣りのBOX席の空いてる丸椅子に邦彦が座った。少し遅れて宏もやって来て、邦彦の右側に座る。
「何かありましたか。出来上がってるじゃないっスか2人共」
「宏さんにも手伝って貰うかな。企画してくれ」
「はい。自分で役立つなら」
「一家断絶ってテーマなんだ」
「得意なテーマですよ、それ」
 宏が、瞬間、魔物に戻った。すると、先の2人と同じように、邦彦がムズがり始めた。
「ヒロちゃんヒロちゃん。お尻の穴がムズムズするよっ。ヒロちゃんの大きいの、ハメてっ」
「お前らは晩メシ済んでんだから、犯ってればぁ〜? 全く構わんが」
「俺が構いますっ。帰りますよ」
「否。保たないと思うぞ、宏君」
「今! い〜まっ! 今直ぐぅ〜!」
「ゔ〜っっ。俺は何しに来たんだぁ」
「メシスタント♡」
「若!」
「へへ♡」
「呼び出されたんだ」
「そうです。どっかの横暴なバカに。いったぁ〜いっっ! 今グーで殴ったぁー!!」
 ゴンと言う鈍い音は、俊のゲンコが宏の頭に落ちた音で、今のはマジで痛かったろう。俊は知らん顔して食っているが━━‥‥。
 殴られた所を手で摩っている宏の身体を、邦彦が揺さぶってある。でもしてくれないから癇癪起こして、スッポンポンになってしまった。そして、宏の股間に顔を埋める。下劣な音が、途切れがちなジャズに混ざって訊こえ始めた。
「俺の勝ち! ハーメーてー」
 宏のが大きくなって、邦彦の勝利宣言。と同時に尻を向ける。舐めながら広げたので、少し弄って貰えば挿ると思う。
「はぁっっ」と溜め息吐いた宏が、諦めて脱ぎ始めた。そして犯り始めるが、そんなのに意識を向けられないくらい切迫している風の圭介と涼一。この2人の頭の中には、それぞれのコイビトのエレクトしたモノしかなくって、今欲しい、の一心なのだ。
 何か健気、とか思っちゃった智は、はむはむ懸命に食べている涼一を愛おしそうに見遣り、自分も急いだ。
「源ジイ! 店閉めろ!」
「もう、閉めたわい」
「そうか」
 俊の大声に、ノホンと返した老人が1人。このジーさんも只者じゃない。
 圭介と涼一が危うくなったのを見聞きしていた源ジイは、早々にバイト君2人を帰し店を閉めていた。バイト君2人は、挨拶に行くから毎回日当よりも多い小遣いを貰ってしまうのだ、と遅ればせながら学習し、今日は会釈だけにした。けれど、手招かれてしまって、結局いつもと同じように日当よりも多い小遣いを貰ってしまった。
 マスターに相談するんだけど、くれるモンは貰っておけ、としか言わないし━━‥‥。
 良いのかなぁ〜、それで。
 実はしっかり者のバイト君2人は、俊に貰った小遣いは貯めていた。店は早く上がるけど、1日働いた計算で給料を貰う。それで良いのかなぁ〜、と悩んで、貯金する事にした。万が一、返せと言われた時にも対応出来るように━━‥‥。ジョークだけど。クスクス…。
 この後、3組の魔物カップルの交尾となった。
 昨日の今日ですかいって感じだったけど、矢っ張り、髪触られても平気だ。
「智さんっ智さんっ好きっもっとしてっもっとだよっ愛してるっ!」
 1番先にダウンしたのは、1番若いけど6時間も犯された後だった涼一で、失神して眠ってしまった。この子は堕天使。白い翼はいずれ、血のように紅く染まるだろう。今はまだ、半分は白い…。
 次にダウンしたのが、6時間じゃないけど、犯ってる最中に旦那が呼び出されてここに連れて来られた邦彦で、眠ると途端に幼くなる。
 最後迄犯ってたのは俊と圭介だったけど、特に見る事もなく、酔いを冷ましちう。お家のベッドで寝たい〜〜っっ、と言う事である。
 圭介は、出すモンなくなる迄、コイビトに犯して貰った。だって今日は、ジジイ共相手にオナニーショーをやったのだ。ジジイ共に視線を投げながら大妄想。頭の中では、俊のデカマラであんな事やこんな事をされる自分で一杯で、そうしなきゃイケないっつーのっっ! なのに変なのにも迫られて、貞操の危機だったのだ。ま、俊がなんとかしてくれるそうだけど━━‥‥。
「太郎ちゃんに冗談でラヴレター書いたらマジにされてさ」と、姉の挙式から戻った両親に、5人のクラスメイトに虐められていた事と、その5人にカツアゲされていた事を告白した。筋書きを書いたのは宏で、実行が智。
 几帳面な涼一は、何日にいくらカツアゲされたのか、手帳に付けていた。3ヶ月で257万円。ダメにされた教科書、上靴、体操着、全て手帳に付けてある。
「本当なのか!」
「あの太郎ちゃんがそんな事するなんて、信じられないわ」
「お前、太郎ちゃんに罪を擦り付けてないか?!」
「信じないならそれで良いよ。でもね、ボクもう子供じゃないから。お父さん達がお金置いてってくれないから、渡す金ないなら身体売って稼げって太郎ちゃんに言われて、知らないサラリーマンに3万円で身体売った」
「なっ涼一! お前はっ!」
 咄嗟に父親が手を振り上げたが、涼一は怯まなかった。
「ぶつなら気が済む迄ぶてば良い。いくらぶってもボクのバージンは戻らない。そもそも、お父さん達がお金を置いて行ってくれなかったせいなのに」
「涼ちゃん…どうしてもっと早くに言ってくれなかったの? そうすれば」
「信じてくれたの?」
「信じたさっ! 話してくれれば!」
「ウソ吐き。岩田権造を怖がっているくせに」
「何を言うか! 岩田先生は立派な方だ!」
 怒鳴れば子供は言う事をキクと思っている父親が、怒声を張り上げる。だが、少しも怖くない。
「これでも立派?!」
 涼一は声高に叫ぶと、スマホを見せた。それはTwitter。岩田権造が、明らかに男性と判る人物のケツを犯している動画だった。既に大炎上ちう。
 両親の言葉はない。あるなら言ってみやがれだが、仕上げを忘れちゃならない。
「お父さんの言う立派ってこの程度だよ! 今後、ボクに偉そうにしないでね。だってボクの方が優秀なんだもん。早々。ボクを3万で買うって言ってくれた人凄く良い人で、1円も持ってないって言ったら5万出すって言ってくれて、更に自宅マンションに招いてくれて、薄情なお父さん達が戻る迄の間置いてくれて、三食の食事と温かいベッドと清潔なお風呂を貸してくれた。結局、彼にはお金を返して、今では恋人にして貰ってる」
「おとっおとっ男だと! そんなの許さん!」
「黙れ! 能足りん! 偉そうにするなって言った端からそれ? 物忘れ酷いんじゃない? 元お父さんだった黒ブタちゃん。ブヒッて鳴いてごらん? そうしたら、特別に許して上げるよ」
 そう言って、父の耳に、人殺し、と囁き掛けたら、ブヒッと鳴いた。
「あなた?!」
「ふふふ。学校行って来ま〜す」
 涼一は愉快そうに笑うと、登校した。矢っ張り、机に色々落書きしてあって、教科書も使い物にならなくなっていた。机と椅子を交換して貰って席に着くと、待っていたらしい太郎達5人が、涼一の机を取り囲んだ。
「5万以上稼いだんだろうな」
「学校休んで迄ご奉仕したんだしねぇ」
「さっさと出せよ」
「愚図愚図すんなっ」
「出さねぇかっ」
 騒付く朝の教室内。唯でさえ、涼一に構い過ぎるので目を付けられている、虐めじゃないかと。そんなの親に知れたら事がデカくなる。だから、不自然に思われないように、にこやかに話し掛けてる・風を装っていた。しかし、言葉は鋭い。
 そんな5人を、涼一が気の毒そうに見遣り、スックと立ち上がった。そして、声を張る。
「君達に渡すお金は、1円もない!」
 この声に、近場の子達が視線を投げて来た。
「なっ何を言ってるんだよっ、一ノ瀬っ」
「やだなぁ〜っっ」
「冗談キツイぜっ」
「テメエっ」
「あのラヴレター、貼り出すぞっ」
「どうぞ!」
 涼一が、尚も声を張る。
「ボクが唯の冗談で書いた太郎ちゃん宛てのラヴレターを本気にしたのなら、貼り出してくれて結構!」
 耳聡く聞き付けた女子数人が、寄って来た。
「何々っ! 元生徒会長、岩田にラヴレター書いたのぉ〜っ?」
「マジでウケるんですけど」
「やぁ〜だぁ〜」
「うん! 書いた! ジョークなのにコイツ、舞い上がって本気にするの!」
「え〜っ、あり得ませ〜ん!」
「だけなら良いけど、この5人組んでカツアゲすんだもん!」
「えっ!」
「どうしたのよっ! 委員長!」
「よもやマジにされるとは思わなかったから、可哀想になって渡して上げてた!」
「元生徒会長、神だわ」
「でもウザくなって拒否ったら、身体売れとか言うの、このブタ共!」
「最低ね! アンタ達!」
「バッカじゃないの?! 本気な訳ないじゃん!」
「委員長がモテモテなのが許せない系?!」
「うわぁっ! 最悪! 死んで! あなた達!」
 冗談と断言されたら、唯一の切り札のラヴレターが使えない。いつの間にかクラスの連中全員が注目していて、笑い者にされた。追い詰められ、固まっていたら、教室に1人の男子生徒が駆け込んで来た。
「生徒会掲示板にスゲエ物貼ってあるぜ!!」
「何よ」
「とても、俺の口からは言えない」
「何なのよ!」
「恥らっちまいます」
「え〜? 何々!」
「喚く前に見て来いよ!」
「行くわよ!」
「ケチ!」
「腰抜かすなよ〜」
 いてら〜と手をフリフリして、教室内の異変に気付いた。
「お取り込みちうでしたか?」
「岩田と仲間達の悪事が明るみになったトコだ」
「何だ? それ。岩田とその仲間達、人気者」
「どう言う事だよ?」
「嫌々。早く見に行きまたえ。剥がされるぞ、先生に」
「ん?」
「明るみになった悪事って?」
「ああ」
「岩田と仲間達がモテモテの委員長に焼き餅焼いて、ジョークを本気にしちゃってカツアゲしてたんだって!」
「カツアゲ?!」
「そそそ。元生徒会長がマジで岩田なんかにラヴレター書く訳ないじゃん!」
「逆だろ?」
 彼は不思議そうにそう言った。
「逆って?」
「岩田が委員長にラヴレター書いたのぉ〜?」
「書くか! 気持ち悪い!」
「気持ち良いの間違いだよなぁ、岩田。よがってやがったクセに」
「何の話だっ!」
「掲示板、見に行けば良いだろっ! 変態め!」
「何だと!」
 太郎が仲間達と教室を出て行き、立ち上がっていた涼一が椅子に掛けた。
 今朝、登校してから、生徒会掲示板に10 枚の写真を貼った。この中の5枚は、虐めっ子5人が拉致られた一昨日、上下同時責めされている写真で、本人は発射中だったりする。もう5枚は、この5人の父親が青年や少年や少女と犯っている時の写真で、この5枚は既に、動画がTwitterに投稿されていて、大炎上している。釈明会見くらいじゃどうにもなるまい。1両日中に職を追われるだろう。マスコミはとっくに裏を取り、自宅や職場や事務所に記者を送っている筈だ。しかも、ネットはやらない、TVも見ない、情報は新聞だけと言うアナログな人用に、5家族が住う町内でポスティングもやると言う徹底振り━━‥‥。
 生き恥をかけば良い。
 殺してやらないのはその為だ。
 政治家なんて、議員でないなら唯の威張ったオヤジである。党も離れてほとぼりが冷めるのを待つつもりだが、冷え切った夫婦仲に決定的な亀裂が入った。会話が減り笑いも途絶えた。そして妻は、離婚届を残し、フシダラな息子を置いて出て行った。妻に出て行かれると、明日からの生活にも困ってしまう。家事なんてやった事がない。代わりにやってくれる秘書も居ない。生活は荒み、酒に溺れて崇高な政治家生命すらパァにする。
 浮気は甲斐性だから良いけれど、役員報酬が入らない夫になんて、魅力は感じない。贅沢な生活に慣れていた妻には、節約生活が苦痛だった。夫婦喧嘩が絶える事はなく、会話が減り笑いも途絶えた。そして妻は、離婚届を残して、息子も残して出て行った。調停に持ち込んでみたが悪いのは自分なので、退職金の殆どを奪われた。今迄積み上げて来たキャリアが逆にネックになって、再就職もままならない。やっとの思いで掴んだのは犯罪の片棒で、何も知らなかったのに主犯にされて逮捕されてしまう。
 特権階級じゃないなら用はないわと、エリートコースから外れた夫を見限って、さっさと離婚届を突き出した奥方も居る。息子に対して、愛情なんてない。あれだけ発破を掛けて白山百合に入れたのに台無しにして。所詮あなた達父子はその程度なのよと断罪し、慰謝料をフンだくれるだけフンだくって離婚した。それでも、国家公務員に変わりはない。最低限の暮らしなら出来る。けれど、窓際族。仕事に情熱が持てず、病に倒れる。
 基本となるコミュニティ、家庭が崩壊した5家族。学校に例の写真を貼ったのが誰なのか判らないが、あれさえなければまだ━━‥‥。
 そんな甘い事を考える、5人の虐めっ子。悪魔に声を掛けるからいけないんだよ〜‥‥。
 この結果、涼一からカツアゲした現金とダメにした用具代を5家族で返してくれた。そして、黙って学校を辞め、夜逃げ同前に引っ越して行った。
 太郎ちゃんの足取り、智さんに頼めば判るんだろうけど、気持ちが騒付かない。幼馴染みと言う関係も、完全に切れた。アレは小石、踏み出した足の下にたまたまあっただけだ。
 その涼一が手に入れたのは、欲しかった家の実権と、何より確かな魔物の恋人と、そして、紅くなった天使の翼である。

《終わり》
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