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ハーモニーアダルト文庫『生徒会』

作:平 和  (たいら なごみ)

 冬夜と知り合って1ヶ月程経った。
 この1ヶ月、ほぼ毎日電話があって、それも時間無視して掛かるもんだから、中々大変だった。
 幸か不幸か、犯ってる最中に電話が入る事はなかったが、寝てる時(だから深夜)とか、トレーニング中(だから早朝)とかに掛かって来た。
 何度も、深夜に訪ねて行った。丸で見計ったかのようにその時は美樹が居て、少し話してあったから抜け出せたようなもんだ。尤も、泊められる情人は、今は居ない。2人共、そして、その2人が結婚して子供迄居る。その子は双子で、2人共俊の子だった。素直に可愛いと思うが、口出しする気も、手出しする気もない。万々が一が本当になったら、真剣に考えるけど━━‥‥。
「はいよ」
“トシさぁ〜ん♡」
「又、酒で薬飲んだな」
“ピンポ〜ン。何で判るのぉ〜?”
 美樹とSEXして、タバコをふかしていた。
 美樹は眠り掛けていたけど、今のスマホの着信音で起きてしまった。
“俺の事ぉ〜すぅきぃ〜?”
「ああ」
“あぁいしてるぅ〜?”
「勿論」
“ふふ。ウソ吐きぃ”
「お前に嘘吐いた事あるか?」
“ん〜とぉ‥‥ない!”
「だろう」
“うん。あふっ。眠くなって来た”
「おやすみ」
“うん。おやすみなさい♡ 又電話しても良い?”
「ああ。いつでもして来い。出張中じゃなければ出られる」
“うんっ♡ あふぁ〜。おやすみなさぁい。chu☆”
 毎回10分程で、薬でラリっているか、眠れなかった時に掛かる。たまに昼間、昼休みに。何故だか冬夜には、ハナッから裏用番号を教えたから、まどか相手にするような、出る為の儀式(?)は必要ない。なので、速やかに出ていたが━━‥‥。
 と、美樹の眠そうだけどしっかりとした言葉が届いた。
「冬夜君の所に行かなくて、良いんですか?」
「大丈夫だろ」
「でも‥‥確か‥‥順番から行くと、今回は行く回ですよ?」
「何の回だょ」
「僕はトシ兄と、決まった間隔で一緒に居ますから、カウント出来ますよ」
「声色的には変化なかったぞ?」
「何かあってからじゃ遅いでしょう? ライターで自分を焼いちゃうような子ですよ?」
「まぁな。しかし」
「僕なら大丈夫です。冬夜君が落ち着く迄の間は、我慢します」
「ミキ」
「冬夜君にはトシ兄が要るんですょ。勿論、僕にも必要ですけど、トシ兄と作った2人だけの過去が20年分以上あるから、冬夜君程切迫しないんです。行って上げて下さい」
「スーツ、選んでくれ」
「はい」
 美樹に明日着て行くスーツを選んで貰い、ハイヤーを呼んで冬夜のマンションに向かった。
 それを見送った美樹は、あふっと一つ欠伸をし、俊のベッドに潜り直した。
 一方の俊は、30分掛けて冬夜のマンションに来ると、何ら躊躇せず、413号室のブザーを押す。
“━━‥‥。トシさん?”
「ああ」
 戸惑い気味に声を発した冬夜が、カチャッとエントランスに続く鍵を開けた。それを確認し、エレベーターに乗り込み4階に上がった。13号室のドアチャイムを鳴らす。
“はい”
「俺」
〜カチャ〜
 扉が開き、泣き腫らした冬夜の顔が出て来た。
「淋しかったのか?」
「うん‥‥」
「どうして電話で言わない」
「こう毎回だと、トシさんに嫌われると思って。ぐす」
「泣ける程淋しなら、酒で薬で飲んで、その力を借りて電話せずに、普通に電話して来い。出張中はマジ電話繋がらねぇだろうし、こうやって駆け付ける事も叶わねぇが、そうじゃねぇ限り、傍に居てやるから」
「トシさん‥‥大好き」
「中に入れろ」
「あ、うん」
 そこでやっと、部屋に上がった。
「又、模様替えか?」
「うん。もう直終わるよ」
「手伝おう」
「ありがと」
 不調になると始める部屋の模様替え。情人にしてからだと2度目になるか。初日を入れると3度目だ。
 俊が手伝ったから、1時間程で終わった。
「呑む?」
「要らない」
「そう‥‥」
「お前が良い」
「えっ♡」
「その気ねぇとは言わさねぇからな」
「言わない! 俺はトシさんのモノだもん」
「そう思うなら、大事に扱ってくれ」
「はぁ〜い。埃っぽくなったから、シャワー入ろ♡」
「ん」
 仲良くシャワーを使い、少年の身体を激しく揺すった。冬夜との身体の相性は良いのだ、美樹の次くらいに。
 冬夜が、犯られ疲れと薬の効果で、俊に張り付いて眠った。それを確認し、美樹の進言に感謝しつつ瞼を閉じた。
 もし、美樹に強く勧められなかったら、冬夜を1人で泣かせるところだった。そうならなくて良かったと思う。
 それからキッカリ4時間後。だから、午前6時半頃に起き出した俊は、ベランダで黙々と身体を動かして60分。シャワー浴びて身支度を整えた。
「フンッ」
 ご愛用の整髪料がないから、髪はセット出来なかった。会社に行ってからになる。ともあれ、シャワーに入る前に連絡を入れた聖が来るのを待ちながら、コーヒーを落とし始めた。
 冬夜がコーヒー好きってのは本当で、特に好きなのは深煎りのマンデリン。良いねぇ、俺様の持ち物に相応しくて。
 コーヒーの香りが部屋中を埋め尽くすと、冬夜がベッドルームから出て来た。勿論、全裸だ。
「コーヒー淹れたから、シャワー浴びて来い」
「うん」
 ボケボケしながらも一つ頷いてシャワールームに行き、目を覚まして出て来た。
「おはよ、トシさん♡」
「おはよう、冬夜」
 ちゅうっとキス。俊の10分間マジディープキスで、冬夜は俊の手の中にイッた。それを、俊がわざとらしく舌を大きく出して舐っている。
 瞬時に、冬夜が真っ赤に染まった。そして脱衣所に行ってタオルを持って来ると、俊の右手を拭く。
「あら、勿体ない」
「メッ」
「お前、俺のザーメン飲むクセ」
「飲むのと舐めるのは違うでしょ」
「ケチ」
「そうじゃなくて‥‥うきゃあっん」
 ひょっと、腕力だけで冬夜を持ち上げダイニングテーブルの端に置く(?)と、冬夜の股間に顔を埋めた。そして、ペニスをしゃぶる。
 冬夜は朝から2発もイッた。特に2発目は、コイビトの口の中にイカされました。
「ごちそ〜さん♡」
「バカっ」
「何故かしら? くくくっ。おっと、はい」
“今、マンションの下です”
「お迎えの車?」
「ああ。ん。小遣い。ちゃんとメシ食えよ」
 万札を数枚握らせ、コーヒーを一気。
「今行く」
“はい”
 スマホを切って、冬夜とそっとキス。
「待って! 見送るからっ」
「良いよ、窓からで」
「窓からでも、服着なきゃでしょっ」
「そうだな。お前、裸だった」
「もぉっ」と膨れっ面になったが、ベッドルームに消えて5分10分で出て来た。そして、今度は冬夜からキス。
「トシさん、又ね」
「ああ」
 俊が部屋から出て、窓から顔を覗かせ彼を待った。車の事は良く判らないけど、多分、これ迄も来ていた黒い車。
「あっ♡」
 俊が出て来て、振り仰いだ。目が合う。
「トシさん‥‥。行ってらっしゃい! ありがと!」
「又、電話して来い!」
 そう返して俊は車に乗り込み、会社に向かった。
「健気に笑顔作ってましたねぇ」
「何が言いたいのかな、林君」
「いえ別に。独り言です。おはよう御座います、部長」
「フンッ! おはよう」
「泣き顔と大差なかったよなぁ〜」
「ううっ」
「今頃、1人で膝小僧抱えてんだろうなぁ」
「ゔ〜っっ」
 聖の繰り出すチクチク攻撃に降参して、冬夜に電話してみた。
“はいっ”
「泣いていたのか?」
“そっそんな事ないよっ”と否定する声が、既に涙で震えている。
「強がり」
“トシさん、泣き虫嫌いじゃないか”
「好きな分が辛いんだ。でも、1人で泣かれる方がもっと辛い」
“会社に着く迄で良いから、電話繋いでて”
「可能な限りそうするが、学校遅刻するぞ」
“学校よりトシさんが良い”
「そりゃ俺も、会社よりお前が良いが、そう言い張れない宮仕え。給料分働かねぇとな」
“そうだね! よしっ! 俺も生徒会長として頑張ろうっと!”
「おう」
“あのね、トシさん”
「何だ? 改まった声出して」
“今週の金土日のどの日か、時間取れる?”
「今は判んね。会社行ってみねぇと」
“そっか。じゃあ、良いや”
「何かあるのか?」
“大した事じゃないよ”
「何だ。言ってみろ」
“あのっ”
「うん」
“やっぱ良いっ。子供の遊びだしっ”
「良いから言ってみろ」
“あの‥‥ね”
「うん」
“文化祭があるんだ”
「そうかぁ。生徒会長様、大変だぁ」
“うん。それだけ”
「身内は金曜日か?」
“えっ”
「3日共行けるようにするよ」
“そんなっ、ちょっと顔出すだけでっ”
「来て欲しいんじゃねぇか。強がり」
“ゔうっ”
「何時からだ」
“えっ。今判んない。プリントプリント”
「今慌てんでも良い。そうだなぁ〜。今日の13時に、正確な時間知らせてくれ」
“電話して良いの?”
「ああ」
“判った♡ ありがとトシさん♡ 大好き♡ chu☆”
 で、電話が切れた。
「ふむ。ミキと聖に助けられてるなぁ〜、冬夜との仲は」
「ご褒美待ってます♡」
「そーかよっっ」
 冬夜のマンションからだと、あの時間に出ても、会社の近くでラッシュに巻き込まれる。それでも、聖の運転だから、遅刻せずに済んでいた。
 聖と一緒に52階に行くと既に美樹が居て、匠も居やがった。匠は聖に用(?)があっただけで、早速LOVE×2している。
 勝手にイチャこいてやがれと、俊は部長室に入って行ったが、その後を美樹が付いて来た。
「ん?」
「はい、どうぞ」
 朝ご飯〜♡
 お握り3個に厚焼き卵に唐揚げとウィンナーと沢庵。お腹空いてたから、めっちゃ旨い。
 ちょっと姿の見えなかった美樹が、冷たい緑茶を出してくれた。
「さんきゅ〜♡」
「行って正解だったでしょう?」
「うんっ。はむはむ、モグモグ」
「そんな慌てなくても」
「もう、始業だっ」
「大丈夫ですよ」
「そうなのか?」
「はい♡」
「あぁそ」
 落ち着いて朝ご飯を頂き、ご馳走様。
「旨かったぁ〜‥‥。あ〜、生き返る」
「それは良かったです♡ 作った甲斐がありました♡」
「ミキ、ちゅう」
「はい♡ ちゅぷっ。終わり」
「あっ、ケチ」
「朝から股汚してられますかっっ」
「チェッ。昼、覚えてろっ」
「はい♡ トシ兄こそ、忘れないで下さいね♡」
「あれっ? 俺、ハメられた?」
「ハメるのはトシ兄です♡」
「そのハメるじゃねぇ」
「くすすっ」
「何つ〜話してんだか、朝っぱらから」
「健全で良いじゃないですか。僕とトシ兄、人も羨むアチチの夫々ですょ」
「そりゃそ〜だ」
「では、仕事に戻ります」
「ああ。あっ! 待ったぁ〜!」
「何でしょう」
 一礼して背を向けた美樹を、呼び止める。
「今週の金土日ってオフにしてくれ」
「え? ああ。文化祭ですね。判りました」
「何で知ってんの?」
「武春君から、そんなmailがありました。トシ兄にも伝えましたよ、僕」
「え? 武春? 武春が何? 何故に武春? あ〜っ! あいつ、光陽高だったぁ〜!」
「今頃、気付いたんですか?」なる美樹の問い掛けに、コクコクと頷く。これはこれで可愛いと思うんだけど、他の人の前ではやらないで下さいよ、僕の魔王様♡ の思いを込めて、美樹が小さく笑った。
「笑ったなぁ〜」
「だってぇ。武春君と会わないと良いですね。僕、会う方に3発ね♡」
「俺が? お前が?」
「僕の3発なんて、あっと言う間じゃないですか。トシ兄の3発ですょ♡」
「じゃあ、会わない方に俺の5発」
「会いませんように〜っっナムナム」
「何じゃそりゃ」
「だぁ〜ってぇ」
「くくっ。頼むな」
「はい」と返事をして美樹は出て行ったが、30分程したら本日のスケジュールを知らせに、再び入って来た。
「今日も1日ご苦労さんっだ」
「そうですね。失礼致しました」
 抱えていた資料をデスクに置き、美樹退場。部長の忙しい1日が今、始まった。
 午前中は2つの会議で潰れた。1つは重役会議。もう1つは戦略会議。後者のは本社の部長会議で、週に1度行われていた。重役会議は月に1回。共に月曜日に行われる。
 歯切れの悪い会議で、俊が憮然として部屋に戻って来た。それでも、愛しい美樹が作ってくれたお昼を機嫌良く摂って13時。裏用スマホが鳴るから1回で出たら、相手は矢っ張り冬夜だった。詳しい開場時間と閉場時間を教えてくれた。冬夜のクラスはプラネタリウムをやるらしい。
「どうやって」
“個人宅用の天球儀持ってる奴居てさ。それを使うの”
「じゃあ、楽だな」
“と、思うだろ? ところがギッチョン。用意が大変だった。まぁ、当日は店番だけだから俺は楽出来るけど、生徒会でお食事処やるから、知らん顔も出来ない”
「お前は何もしないの?」
“俺は生徒会長として開場の挨拶して、見回りして、2日目の午後はずっと、お食事処で接客”
「ふぅ〜ん。俺が行っても良いのか」
“えっ!? もっ勿論。無理しなくて良いけど”
「そうじゃない。3日間オフに出来そうだが、そんなに忙しい生徒会長様を独占出来るのか、って訊いている」
“大丈夫♡ 嫌じゃなければ、一緒に校内歩いて”
「じゃ、そうする。バイクで行って良いのか」
“うん。父兄用の駐車場があるから、チケット渡すよ。初めて会った広場で待ってる、今日。何時迄でも待ってるから、俺”
「あっ、おいっ! 切っちまいやんの」
「名刺、渡してはいかがですか?」
「そうだなぁ。今日渡すかな。さて、犯ろっ♡」
「えっ?! 昼休みの時間がっっ」
「20分や30分、聖が上手い事やるって」
「トシ兄っっ」
「こっちに来いっっ」
「はーい」
 観念し、ズコバコ犯られて、足もつれ加減で部長室から出て行った。
「お盛んねぇ」
「揶揄わないで下さいっっ。アタタ」
 この日も夜9時迄しっかり仕事して、それから30分程であの広場に来た。美樹の車で運転は俊。
 俊は、路肩に冬夜のCBX400があるのを確認すると、足早に中に入って行った。
「待たせたな」
「あっ、トシさん♡」
 ボンヤリとタバコをふかしていた冬夜が、パッと笑顔になる。そんな冬夜の頭を、クシャリと撫でた。
「これ、チケット。そして、1日目の招待状。父兄用のだから、父兄用の受付を通って入って」
「ふん。お返し」
「何? 名刺?」
「ん」
「貰って良いの?」
「ん」
「えへ♡ 嬉しいな♡ へぇ。トシさん、営業部の部長さんなんだ。お父さんが社長なんだよね」
「系列会社だが、別の会社のな。内緒だぞ」
「何で?」
「親の七光りって思われたくねぇから」
「もう、思われないんじゃない?」
「大人の社会にも、虐めってあるのよ」
「えっ!? そなの?!」
「ああ。さて、帰ろ。お前も気を付けて帰れよ。部屋に着いたら電話する事。良いな」
「はーい。おやすみなさい」
「おやすみ」
 冬夜の頭をパフパフして、腰を屈めて触れるだけのキス。それから俊は、大股で広場を出た。その後を、冬夜が追い掛けて来る。
「トシさん!」
「ん〜?」
 その呼び掛けに足を止め、振り返った。
「あっあの、当日楽しみにしてる。電話するね」
「おうっ」
 左手を上げて、車に乗り込みその前を去る。
「彼が冬夜君。綺麗な男の子ですね」と、助手席から冬夜を見遣っていた美樹が呟いた。
「お前程じゃねぇよ」とは俊。
「有り難う御座います」
 冬夜から電話があったのは、22時が10分程過ぎてからだった。
 そして、早くも同じ週の金曜日。
 チケットはタンクバッグに挟み、今日は刀1100で行く。天気が保ってくれて良かった。
 文化祭って、美樹が中高大の頃に行ってただけで、学校行事としては参加した事ないから、イマイチ、生徒の中での位置付けが判らない。それでも、手渡されたプリントを良く読んで、早めに部屋を出た。
 学校に着くと警備員が誘導してくれて、そのまま父兄用駐車場にバイクを停める。で、駐車チケットを出すと、ハンコを押してくれた。
「自分で持ってて良いのか」
「はい。その駐車チケットは3日間通しの物なので、そのままお持ち下さい」
「有り難う」
 一言礼を言って、タンクバッグとメットを持ち、言われた通りに父兄用受付に並ぶ。
 こう言う父兄参加型の催し物に参列する度、思っていた。世の中、何と勘違いした父兄が多い事だろうかと。学校は、親の為の社交場ではない筈だが━━‥‥。
「次の方ぁ」
「はい」
「はぁい」
 順番が来たから、貰った招待状を提示した。
「こちらにお名前をお願いしまぁす」
 アニメ声だが、どう見てもオバチャンだ。事務員なのか先生なのか。文化祭って美樹のしか知らないから、僕、判んなぁ〜い。
「ん〜と、はい」
 窮屈そうに身を屈めていた俊が、腰を伸ばした。
「有り難う御座いまぁす。あらっ! 犬飼君のお父様? にしては若いわねぇ」
「否。コイビトだが」
「ぇ、ぇっ…えっ? え〜っっ!!」
「感動だぜ、そこ迄驚いて貰えると」
「バッバカにしてるのっ、あなたっっ」
「いいや。それはアンタだろ。入って良いのか」
「どっどうぞっ」
 アニメ声、どうやら作っていたらしい。地声はBBAじゃねぇか。
 俊はとっとこ中に入ると、21HRに向かった。武春の話だと、1〜2組は国公立大理系らしい。かく申す武春も、1組だったが━━‥‥。
 2年生のご父兄だろうか。着飾った大人達がワラッと居て、その子らしい生徒が嬉しそうに纏わり付いたいたが、子供の言も引く手も届かずお喋りしてる。
「フム。おっと、通り過ぎた」と、3歩程後退し、戸口から中を覗いた。すると、浮かれるクラスメイトを無視するかのように、窓外に視線を向ける冬夜の姿が目に入った。冬夜はテラス側の1番後ろの席に居た。
 廊下は賑わっているのに、教室内は静かだ。
 俊が中に入ると、子供達が騒めいた。対外対人用の表情を作る俊を見て、小太りのおじさん、とでも思っているのだろう。ま、ガキの感想なんてどうでも良いが。
〜ゴンッ〜
「いてっ! 何しやがっ‥‥トシさん‥‥」
「暗いぞ、お前」
 手に持っていたメットで軽く頭を叩いたら、そこを手で摩りつつ冬夜が振り仰いだ。びっくりしたように目を大きく見開き、傍らに立つ俊の腰に抱き付く。
「本物だ。本当に来てくれたんだ♡」
「嘘言った事ねぇぞ」
「うん♡」と言った冬夜の声が、震えていた。多分きっと、不安だったのだろう。それで沈んでいたのかや?
「さ〜て、どうなりますやら」
「何が?」
「否々。んっ!? 21HRって2年1組って事?!」
「そうだけど?」
「ヤ・バ・イ‥‥。俺、体育館行って、良い席見付けるわ〜」
「席なら確保してあるよ、関係者で。どうしたんだよ」
「否っ。タバコ吸って来るわ。喫煙所って‥‥ああ、探すわ」と言うなりクルンッと冬夜に背を向けたら、冬夜にジャンパーの裾を引っ張られ、それに応えず1歩を出したら、たった今、教室に駆け込んで来た1人の美少女とバッチリ視線が合った。
 少女は声もなく、ただでさえ大きな目を大きく見開いている。
 暫しの間。
「私っ、武春ちゃん呼んで来ますっ! 少し待ってて! 若!」
「ちょっと待て! 眞由美!」
「え〜? ココ2年の教室ですよぉ。武春ちゃんの教室は、もう1つ上ですぅ。武春ちゃんの高校最後の文化祭だから、いらして下さったんでしょう? あ! 電話掛ければ良いんだ」と、スマホをポケットから取り出す。
「止めれ! 武春の為に来たんじゃねぇ!」
「え〜?」
「眞由美、忘れ物。ないと困るだろ、ハンカチ」
「うげっ」
「武春ちゃん♡」
 俊がひしゃげた声を小さく発し、今入って来たズングリした少年に背を向けた。が、これで隠れられると思ったら、大きな間違いである。
「あ〜っ!! 若っ!! 来て下さったんですねっ!! わ〜い♡ 親父もお袋も来てるんですょ♡ 挨拶させなきゃ! もしもし? 親父? あのな、あ〜!」
「何でもない!」と、引ったくったスマホに怒鳴り付け、武春をメッする。
「これは没収」
「え〜っ! 何でぇ〜? 意味判んね。僕の招待に応じて」
「応じてねぇから」
「では、あなたは幻覚?」
「そうだ!」
「こんな強引なところ迄そっくりだなんて、僕の若への不治の病も、行くところ迄行ったな。あなたは僕の憧れです! 理想です! 希望の全てです!」
「止めれ」
「愛しています♡」
「気色悪いわ!」
「いっとぁ〜いっっ! グーで殴ったぁ〜。眞由美ぃ〜、若がグーで殴ったよぉ〜」
「痛いの痛いの飛んでけぇ〜」
「飛んでった♡」
「勝手にやってろっボケっっ」
「僕のクラスここじゃないです。も1コ上です」
「お前に会いに来たんじゃないわいっっ」
「え〜? じゃあ、眞由美に会いに来たの?」
「眞由美のクラス、さっき迄忘れとったわっっ」
「え〜? じゃ、何しに来たのぉ〜?」
「う・る・さ・いっ」
「眞由美ぃ〜、若が睨むよぉ〜。僕、何もしてないのにぃ〜」
「2剰してうるせぇ」
「ひど〜い」
「酷いですぅ」
「俺、帰る」
「え〜、どうしてぇ〜、若」
「何でですかぁ〜」
「トシさん!」
 話が見えず、唯黙って見守っていた冬夜が、椅子から立ち上がった。武春が目をパチクリさせる。
「トシさん?!」
「あっ」
「犬飼、若の情人(コイビト)になったのか?」
「くっ国本先輩には、関係ないです」
 やっと出たフルネーム。国本武春(クニモトタケハル)18歳。光陽学園高校3年生で、十人衆No.6。俊に次ぐスピード出世で、高校生って事で長期に渡るミッションは、夏・冬・春休みくらいしか言い渡せなかったが、破壊力はピカ1。ミニマムと呼ばれている程だ。何のミニかと言うと、魔王のミニ。
「国本先輩こそっ、トシさんとどう言う関係なんですかっ」
「どう言う? はて。どう言うんだろう?」
「師匠と弟子だろう」
「はは〜っっ」と、武春が両腕を泳がせた。
「センセイ様」
「一言多い」
「いったぁ〜いっっ。又グーで殴ったぁ〜。バカになったらどうしてくれるんですかっ!」
「安心しろ。それ以上、バカになりようはねぇ」
「そうか」と言ってポンッと手を打ったが、直ぐに、俊の逞しい背中をボカスカ殴る。
「って納得する訳ないでしょ! ひど〜い」
「だろう」
「いいえっ! あなた様は我々の守護神♡」
「そんなキラキラした眼で見るんじゃねぇっっ」
「あっ、そ〜だ。良い事、閃いちゃった」
「悪い事だな」
「いいえっ! 良い事ですっ! 若! 僕と練習試合しましょう! 勿論、剣道♡」
「嫌だ。俺はコイビトと過ごす為に、平日をオフにしたんだ。冗談じゃねぇや」
「矢っ張り情人(コイビト)なんじゃないかぁ〜」
「武春」
「はい♡ 若♡」
「冬夜虐めたら泣かすぞ」
「えっ」
「眞由美を」
「困る!」
 湊眞由美(ミナトマユミ)17歳。武春の婚約者で、学校も認めている、スラリと背の高い、スレンダーな美少女だ。あんなズングリとした武春と長続きするものかとの思惑の中、今以て男子にモテモテだったが、眞由美はすっかり無視している。
「なら、冬夜を守れ」
「はいっ! 犬飼、困り事があれば僕に言え!」
「えっ」
「はいはい。教室戻れ」
「若ぁ〜。僕のクラスも覗いて下さいよぉ〜」
「何するんだ」
「お化け屋敷。僕も扮装しますよぉ〜。犬飼とどうぞ♡ 怖がらせて上げます♡」
「魔王として出てやろうか」
「要りません。血の雨降らせないで下さい。じゃ」と言って、武春は出て行った。
「眞由美も、冬夜と仲良くしてくれ」
「はい♡ 犬飼君、困り事、武春ちゃんに言い難かったら私に言って」
「湊は殆ど、教室に居ないじゃないか。チャイムと同時に31HRに行くクセ」
「じゃあ、武春ちゃんに来て貰うわ♡」
「良いよ。あ、トシさん、体育館行かなきゃだ」
「ふむ。関係者ね」
「うん。田口様って書いてあるし、実行委員達にも言ってあるから」
「判った」
「あっ!」
「ん?」
「メットは置いてって良いょ」
「おう。さんきゅう。行ってるな」
「うん」
 俊を見送り溜め息一つ。はてさて、どうなるかな? と、ここで悩んでも仕方ないので、生徒会長としての義務を果たしに行こうかな。
 冬夜は、俊から預かったメットを自分のロッカーに仕舞い、整列し始めた生徒達の間を縫って体育館に急いだ。
 生徒会長の開会宣言を、俊は前から2番目の真ん中ら辺で見ていた。この後、体育館で何やら出し物があるようだったが、俊は席を立った。訊きたかったのも見たかったのも冬夜だから、その出番が終わったなら、ここに用はない。俊はごった返す出入り口で人波を上手に交わし、足早に21HRに向かった。どうも、胸騒ぎがする。
「何だよ、あのオッサン」
「マジで恋人とか言っちゃうの?」
「まさかねぇ」
「犬飼、テメエは自分の置かれてる立場ってのが、判ってねぇようだな」
「君の身体は、生徒会のものなんだよ」
「ケツ犯られてヒーヒーよがってるじゃんね」
「だって好き者だもんな、犬飼君」
 席の周りには生徒会役員。これだけの顔触れが集まると、クラスメイト達も近付いて来ない。よもや生徒会長が傀儡とは、誰も思うまいて‥‥。
「お前が手を切りたいのが、この連中の事か」
「トシさん♡」
 クッと唇を噛み締めて何も言わなかった冬夜が、嬉しそうにその名を呼んだ。
「誰、このオジサン」
「さっき出た恋人だよ」
「こんなデブが好みなのか? 犬飼君」
「オッサン、こいつ、好き者の色魔だから、若者の俺達にしか相手出来ねぇんだな」
「若者じゃなくても満足させてるが」
「これでも? 僕らに犯られてよがってる写メだけど。くすくす。幻滅でしょう」
 取り囲んでいた中の1人が、勝ち誇ったかのように、1枚の写メを見せてくれた。それを、鼻の先でせせら笑う。
「粗チンじゃのう。冬夜、見せれば良いだろう、俺と犯ってる写メ」
「良いのっ」
「良いよ。コイビト同士じゃねぇか」
「うん♡」
 冬夜が嬉しそうに微笑むとスマホを取り出し、俊との決定的な1枚を示した。
「デッデケェッ」
「デカけりゃ良いってもんじゃないっ」
「要は持久力っ」
「最短30分」
「なっ!!」
「復活に掛かる時間だっ」
「俺、デカマラの遅漏で絶倫。ガキに用はねぇよ。ママのおっぱいでも吸ってな、坊や達」
「くっくそっ」
「覚えてやがれっ」
「これで終わると思ったら大きな間違いだからね、犬飼君」
「フンッ」
「退けぇ〜! 退け退けぇ〜!!」
 そこ退けそこ退け生徒会役員が通る。生徒会長を取り囲んでいた生徒会役員は、いつものように横柄な態度出て行った。
「有り難う、トシさん♡」
「否。当然の事をした迄。でも、これでは不完全なので、武春を使おう♡」と、電話する。
「えっ止めてよっ」
「大丈夫大丈夫。お、武春。21HR迄1分で来い」
“無理! 2分で行きます!”
 大声で喚くから、訊こえちゃった。
 俊はマジに、タイムを測っている。
「ん〜2分…1秒2秒3秒」
「2分?!」
「5秒オーバー。只働きな」
「え〜っっ。何やらそうってのぉ〜っっ」
「否何。実に簡単。生徒会長以外の男の生徒会役員を、全員、学校に居られなくして」
「うちの?」
「うん」
「何で?」
「事もあろうか、俺様の冬夜を脅して、関係を強要しとった」
「ありゃ。悪い奴らめ。遣り方は僕は任せてくれますか?」
「ああ。文化祭期間中は、冬夜の傍に居てくれ」
「わっかりました。大丈夫だぞ、犬飼。僕は君の味方だ。あっ! ヤバイっ! 戻らなきゃっっ。あれっ? 眞由美は?」
「展示の方に」
「あ、そうか。急がねば。若、来てよっ」
「気が向いたらな」
「脅かして上げるってばぁ」
「私生活がスプラッタだから、作り物なんざ怖かねぇよ」
「判ってないなぁ〜。僕が脅かすのは犬飼」
「えっ、俺?」
「そう。キャー怖い〜トシさん助けて〜ハシッとなるのだ」
「否。済みません。それ無理です。俺、お化け屋敷好きですょ。特に、お化けを泣かすのが」
「嫌な客だね。もう来なくて良いですぅ。若のいけず」
「時間大丈夫なのか」
「ハッ! 忘れてたっっ。化ける時間がっっ」
 武春は、バタバタと戻って行った。
 それを見送り、俊が冬夜と顔を見合う。冬夜の顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
 俊が冬夜の頭を大きな手で撫で、唇にキス。
 教室に残っていたクラスメイトも女の子達が、黄色い悲鳴を上げた。この声の大きさにドッキリして、キスが楽しめなかった。
「校内案内するよ」
「ああ」
 1日目に殆どを案内して貰っちゃって、明日明後日どうしようって感じ。ともあれ、一緒に帰り、冬夜のマンションに泊まった。
「良いの!?」
「ああ。そのつもりで、着替えも持って来た」
「嬉しい♡」
「おっとっっ。スーパー行くぞ」
「え?」
「どうせ、食う物ないんだろ? 月曜の朝の分迄の食糧を買いに行く」
「月曜の朝迄居てくれるの?」
「ああ」
「ふぇっ」
「泣くな。案内してくれ」
 冬夜の、溢れそうだった涙を指先で受け止め、ひょっと唇にキス。冬夜がハッとしたように目を見開いたが、何処か嬉しそうだった。
「少し歩くよ?」
「構わねぇよ」
「うん♡」
 仲良く手を繋いでスーパーに行き、しこたま食材を買い込んで部屋に戻って来た。普段は作って貰う立場だが、冬夜には作ってやっている。
 食材を、使う物以外冷蔵庫に入れ、そのままキッチンに立った。
「トシさん、裸になって♡」
「あ〜‥‥はいはい」
 この部屋では、基本裸だった。
 パパパッと脱いで全裸になると、先に脱いでいた冬夜が、ピトッと抱き付いて来た。
「どうした?」
「ううん。あっ! 洗濯物はどれ? 着替えって、何持って来たの?」
「Tシャツとパンツと靴下」
「ふん。手洗い出来るね。洗って来よう」
「やれるの?」
「洗濯は好き。掃除も」
「ふ〜ん。じゃ頼む。俺は夕食作ってるから」
「うん」
 冬夜からチュッとキスして来て、洗う物を抱えて洗面所に行った。その背を見送り、改めて食材カット。包丁あるし、鍋釜もあるし、フライパンも使い込まれている。本当に料理出来ないのだろうか。甘えているだけなのかも知れないが、まぁ良いや。
 リズミカルな包丁の音。
 食欲をそそる匂い。
 洗濯を終わらせてキッチンに戻った冬夜は、食卓に着いてニコニコしながら、俊の背中を見詰めた。
 にしても、恰好良いなぁ。後ろ姿だけど、恰好良い。鍛え抜かれた肉体って美しい。
「ト〜シさん♡」
「ん〜?」
「大好き♡」
「ん。俺もだ」
「えへっ♡」
 それから1時間半。料理が出来た。まずは、ビールで乾杯。酒のアテも作ってある。
「はぁ〜」と、深々と一服。俊を待っていた冬夜も、今一服。
「効く効く」
「だな」
「にしても、あの国本先輩とトシさんが、師弟関係だったとは、びっくりだ」
「あのって何だ、あのって」
「入学式の日にマドンナになった湊眞由美と、次の日にはLOVE×2になってて、あっと言う間に婚約しちゃって、無理矢理学校公認にしちゃった、開校以来の秀才、として有名な天才剣士」
「ふん。まぁ、1年前に勢い込んで来たからなぁ〜会社に」
「何て?」
「運命の天使を見付けた、GETして堕天使にするって宣言して帰ってった」
「ふぅ〜ん。変な人。でも、何で堕天使?」
「さっさぁ〜っっ」
「? ま、良いや。頂きまぁ〜す♡」
 夕食食べて、仲良くシャワー浴びて、熱いSEXして、早くも朝。トレーニングを全くしない訳にも行かないので、いつものように広いベランダで太極拳の形をやってたっぷりの汗をかいた。それからシャワーを浴びて、コーヒーを落とす。すると、冬夜がコーヒーの香りに誘われて起き出して来て、ボケボケしながらシャワーを使い元気に復活した。
「おはよ、トシさん♡」と言いつつ、唇にキス。朝イチだから、10分間のマジキスしたった。俊の手の中にイカされた冬夜がムズがる。
「狡い〜っっ。あっ、ダメっ」と言って脱衣所に駆けて行くと、タオルを持って出て来て俊の手を拭いた。
「ケチ」
「違うもん。うきゃっっ。ぁっんっっ又ぁっ〜」
 ひょっと持ち上げられて、ダイニングテーブルの端に置かれて2発目は俊の口の中。
「もぉん」
「コーヒー入ってるぞ〜」
「ぶーぶー」
 コーヒーを飲んで、朝食のシリアルを食べて、冬夜があっと思い出して、ベッドルームに駆けてった。そして、1枚のカードキーを俊に渡す。
「部屋の鍵」
「良いのか」
「うん♡ 本当はトシさんの部屋の合鍵も欲しいけど、いつ出張に行って帰るのか判んないから、俺が持ってても意味ないなと思って、この部屋のスペアキー」
「有り難う。タンクバッグを取ってくれ」とタンクバッグを取らせ、中に入れておいた名刺入れに貰ったカードキーを入れた。その傍で、冬夜がキーホルダーを出して見ている。
「凄い数の鍵。全部判るの?」
「社名入ってるからな」
「あ、ホントだ! 車何台あるの?」
「10台」
「で、バイクが8台か。これだけで18本。そんで他は?」
「実家」
「ふっふぅ〜ん。あっ、行かなきゃっっ。トシさんはもっとゆっくりしてて良いよ。10時開場だから」
「又、宣言すんのか?」
「うん。明日もやるよ」
「そうか。行かなきゃな」
「えへ♡」
「そうそう。武春がクラスに来ているだろう。生徒会役員とは話すなよ」
「はーい」と返事をし、バタバタッと服を着て、行ってきますのキスは忘れずに出掛けて行った。
 それを見送り、後片付け。好きじゃないんだけどな。流しに置いときゃ良いか。否々。2人分だから、チャッチャと片付けよう。
 時間を見計らって服を着て、出掛ける。
 この部屋もオートロックなので、鍵を掛ける必要はない。コインパーキングに停めておいたバイクに跨り、セルを回す。そして、一路光陽高に向かった。
 昨日同様、チケットで駐車して、21HRに向かう。冬夜は武春&眞由美と一緒に居て、生徒会の男子役員がテラス側の出入り口付近に固まっていた。きっと、冬夜を手放すのが惜しいのだろう。そのくらい、具合いが良いし、良い声で喘(ナ)く。
「トシさん♡」
「若、おはよう御座います」
「おはよう御座います」
「おはよう。報復の手段考えたか」
「勿論♡ ワクワクしながら考えましたぁ♡」
「そうか」
 俊が姿を現わすと、固まっていた生徒会役員達は出て行ったが、お呼びじゃないってぇのが判らんのかなぁ。お前らの粗チンなんか切ってやる。あっ! それ良いな。ついでに冬夜も、堕天使にしちゃおう。そうしよう。そろそろ鯉の餌も要るだろうし。うんうん。ブランカ事決定!
「ブランカ使うぞ」
「えっ♡ そうなの?♡」
「ん。俺が直接動く。生徒会役員って何人?」
「会長外して10人でーす」
「その内、何人に犯られてたんだ」
「5人」と答えは良いが、冬夜は不思議そうにしている。が、説明は要るまい。現場を見せるから。
「あっ、教室戻らないと。じゃあな、犬飼」
「有り難う御座いました」
「いえいえ。大切な後輩ですから」と言って笑った武春は、そそくさと21HRを出て行った。
 俊も冬夜と体育館に向かい、会長の開会宣言PartⅡを訊いた。で、さっさと21HRに向かう。昨日と同じなら、冬夜は生徒会役員に囲まれている。しかし、教室に冬夜の姿はなかった。教室に居た子に、冬夜が戻ったかどうかを訊く。すると、体育委員長と一緒に、教室を出て行ったと言う。どいつの事だか判らないが、マズイ。
「有り難う」と礼を申し述べ、武春を呼び付ける。
「どうしました、若」
「冬夜が連れ去られた」
「えっ」
 武春は化ける為に白塗りして上半身裸だったが、クラス行事よりも冬夜を探す事を優先してくれた。
「ここだな」
「ですね」
 そこはラグビー部の部室。体育委員長は代々ラグビー部主将がやるそうだが、これで拉致ったつもりなんだろうか。ダメ押しで、冬夜の携帯を鳴らしてみた。すると、室内から冬夜のスマホの、俊用着信音が訊こえた。間違いない。武春が体当たりをかまして扉を破ると、裸に剥かれ、縛られて今や犯られようとしていた冬夜と、5人の生徒会役員が居た。
「拉致監禁に暴行障害。立派に罪になるぜ」と、俊が魔王ちょぴりで声にしたら、怖かったんだろう。大声で畳み掛けられた。
「バッバーカ。少年法が守ってくれるさ」
「そうそう。不良が僕達を誘惑したんだよ」
「バーカ。そりゃ、司法に任せた場合だ。国家権力なんかに、お前らみたいな光陽の面汚しを渡せるかよ」
 余りの言い草にムッとなったらしい白塗り武春が、口を挟んだ。
「フンッ! 俺の親父は代議士だぞ!」
「それが?」
「僕のパパは警察官僚だ! お前らなんか」
「僕、週3で、本庁に出稽古に行ってるけど」
「くっ」
 武春は、古くから続く剣道場の跡取りだが、暗殺剣の使い手でもあって、それを廃れさせなかった先祖が紅龍にくみし、今では立派なアサシン。無論、暗殺者である事は一子相伝のシークレットで、妹も弟も知らない。武春だけが、そうなるように育てられた。表向き健全な剣道場で、門下生も多くいる。警視庁との繋がりも太く、若先生と呼ばれている武春は、父に代わって出稽古に行っていた。
「俺のパパは大企業の重役だ! お前らなんか」
 お前らなんか、と虚勢を張るお子ちゃまが5人。面白くなって来て、俊も仲間に入れて貰った。
「日本何位?」
「日本1だ! どーだ、ビビったろう!」
「う〜ん、残念。俺様、世界3位の企業の重役」
「うっうそ言うな! そんな汚いナリして!」
「一休さんの話を知らんのだね、お前」
「若!」
「お待たせ致しました!」
 ガタイの良い、黒服黒サングラスの男達が10人やって来た。雰囲気からして、一般人じゃない。
「服着てる5人を拉致って、ブランカで好きに輪姦(マワ)せ。こっちが終わってから合流する」
「了解です」
「うら〜、歩け!」
 正しく縛られ、猿轡もされて、そこの前迄乗り付けられた5台のベンツに3人ずつ分乗し、少年達は散々輪姦(マワ)される。
「大丈夫か?」
「うっん。何するんだ?」
「お前は俺から離れられんから、教えるよ」
「うん‥‥?」
「服着ろ。見回りだろ?」
「うん」
 冬夜は剥ぎ取られた服を着たが、シャツはボタンが弾けていて、俊のジャンパーを借りて、ダボッと着ていた。袖が長いのでう〜んとたくし上げる必要があったが、擦れ違う人が振り返るのは、俊の発達した胸筋と逞しい腕に驚いてだ。それが気分の良い冬夜である。俊は太ってなんかいない。逞しいのだ。
 午後は生徒会主催のお食事処で食事して、冬夜が忙しく働く姿を目を細めて眺めていた。
 そして、夕方。眞由美は俊と、武春は冬夜と2ケツして、ブランカに運んだ。
「プールバー? ビリヤードでもすんの?」
「いいや。まずは夕食にしよう」と言う事は、矢っ張り居ました香川夫々。宏は既に、厨房に入っていた。店は、とっくに閉まっている。
「いらっしゃ〜い、トシさん♡」
「おお、クにゃん。お手伝いか? 偉いなぁ」
 出迎えてくれた邦彦の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。邦彦が目を細めたが、不満そうだ。
「子供扱いするっ。やぁ、武春君、眞由美ちゃん」
「こんばんわ、クにゃんさん、宏さんも!」
「こんばんは〜、クにゃんさん、宏さん。お久し振りですぅ」
「おお。久し振りだな、武春、眞由美」
 宏が拵えてくれた夕食を摂り、充分に食休みも取ってから、皆んな揃って地下の処刑室に向かった。
「暗いから、足元気を付けろ」と、手を引いて連れている冬夜に注意を促す。
 厚い鉄の扉を開けると、血生臭さと悲鳴が溢れた。促されて入って冬夜は、そこで犯されている、生徒会役員5人の姿を見た。
「トシさん、これっ」
「どうしてやりたい?」
「切り刻んで」
「本気で言ってるか?」
「うん。先輩だけど、1年の時から犯られてたから」
「こいつら3年なの?」
「そうですよぉ。犬飼君が珍しいの、2年で生徒会長って」
「ふぅ〜ん」
「消して」
「マジでやるぞ?」
「うん」と力強く頷いた冬夜が、身の内に飼っていた魔を解き放った。それを感じた武春が、ニヤリと笑う。
「さすが若の持ち物。そうでなくちゃね。僕にやらせて下さいよぅ」
「何だぁ〜? 恨みでもあんのか」
「風紀委員長にね。自分、犬飼を手籠めにしたクセに、僕と眞由美に嫉妬して一々イチャモン付けて来てたんです。な、眞由美」
「うん。武春ちゃんは警視庁にパイプあるからって、私がターゲットにされてました」
「ふぅ〜ん。宏ぃ〜、俺の刀、渡したって」
「はい」
「おい。その5人、ふん縛れ」との号令で、10人の兄さん方犯るのを止めて、泣き叫んでむせっている5人の少年の自由を奪った。
「こんな事して只で済むと思っているのか!」
「絶対訴えてやる! 貴様ら同罪だ!」
「おや。まだそんな口が叩けるんだ」
「楽しいなぁ〜、この子達」
 俊と宏が愉快そうに笑う。これの恐ろしい事。少年5人は青ざめたが、冬夜と邦彦はザワザワしていた。カッコいい♡
「Let's ショーターイム」と、いつもならスペードのエースの智の言う台詞をクラブのエースの宏が言って、惨虐DEショーが始まった。
 武春が、それは楽しそうに、生きたまま同級生をスパスパ斬って行く。その様を、唯うっとりと見詰める眞由美は魔物。
「ヒロちゃんはやらないの?」
 邦彦の素朴な疑問。
「やって良いぞ、宏。高校生だけど」
「武春だけで殺っちまいましょう」
 そんな話をしている内に、1人ミンチにされた。で、2人目に取り掛かる。すると、往生際悪く声を発する者が出て来た。仲間が2人も惨殺されているのに、まだ助かると思っているところがいじましい。面白かったので、武春が相手してる。
「いっ嫌だ。助けてくれっ、国本! クラスメイトじゃないか」
「さて。そうだったかなぁ? 忘れたよ」
「金なら出そう。いくら欲しい」
「お駄賃出るの? 若」
「ああ。俺からな」
「やったね。武春ちゃん、殺っちゃえ♡」
「と、眞由美が言ってるから殺っちゃう♡」
「湊、余計な事言うなっ!」
「人殺しなんだぞ! お前!」
「そうだよ? 何当たり前の事言ってるのさ」
「犬飼にはもう、何もしないから!」
「そんなの、当たり前じゃないか」
 武春の声に、笑いが滲んでいた。
「何が望みだ!」
「叶えられる事なら手伝う!」
「何百万必要だ!」
「若からお駄賃出るから、そんな端金要らない」
「いくらなら良いんだ! 善処する!」
「ぶはっ! おかし過ぎる!」
 我慢もこれ迄と、武春が大笑いを始める。
「犬飼? 望み叶えてくれるって。何が望み?」
 俊の膝に座り、俊にねこねこ甘えている冬夜は、2人が惨殺されるところを見ていたが顔色も変えず、自分をモノのように扱っていたもう3人に、刃物のように鋭くて氷のように冷たい視線を向けた。
「この世から消えろ」
「何だと! 色魔のクセに!」
「国本先輩、そいつ消して」
「オケ」
「いっ嫌だ! ギャア! 痛い! 止めてくれ」
 生きたまま斬られるのだから痛いだろうが、見苦しい。でも、楽しいと思った。
 あっと言う間に3人分のミンチが出来上がり、眞由美が喜んでいる。カッコいい武春が見れて、嬉しいのだ。お仕事には同行出来ないから、カッコいい武春は、こう言う事でもないと見られない。
「武春ちゃん、カッコいい〜♡」
「惚れ直した?」
「うんっ♡」
「次どっち行く?」と、冬夜に訊く。しかし、冬夜は答えられなかった。立ち込める血の臭いで既に出来上がっていて、それどころじゃない。それは邦彦もで、眞由美だって例外ではなかった。
「う〜ん。後回しにして良いですかね」
「ああ」
 冬夜を裸に剥いて、口付けを繰り返していた魔王からお許し貰ったので、先に気持ち良い事しましょう。
 魔物3組の交尾ちう。
 くすぐったそうな、眞由美のコロコロした笑いが木霊する。
 命が風前の灯火の哀れな2匹の生贄様は、恐怖に引きつっていた。たった今し方、仲間が殺されたのに、それも、生きたまま斬られると言う痛ましい殺され方をした同じ場所でSEXとか、あり得ませんから。しかし、そのあり得ない事が起こっている。片方はゲエゲエ吐いていた。吐くと、無理矢理飲まされた精液の臭いが、鼻に登って来る。そうすると、余計に気持ち悪くなった。だが、気遣ってくれる者などない。
 何が間違っていたんだっけ?
 回想してみる。けれど、何も思い当たらなかった。綺麗目男子を性奴にするのは、これが初めてじゃない。前の時は自殺され明るみに出そうになったが、学内のパワーバランスで収束させた。今回は、売春やってた優等生面した子をGETして、いつも通り楽しんでいたのに、たった1人の男の出現で、何もかもがパァになった。
 あのデブのせいだ!
 そう思って辺りを見回したが、デブなんか居なかった。ズングリしているからと小馬鹿にしていた国本は筋肉隆々で、それ以上の筋肉の持ち主が2人も居る。
 2人‥‥だと?
 犬飼と犯ってる一際大柄な男が、あのデブだった。少しも太っていない。美しく隆起した筋肉に覆われた、漢の肉体だ。
 負けたと思った。もう、助からない。俺(僕)の18年は何だったんだろう。何も成していない。このまま終わって良い命ではない筈。考えろ、助かる方法を。抜け道はある筈だ。
 そんな事を考えていたとは知らない魔物達。
 パートナーが何とか落ち着いたので、さっきの続きと参りましょうかね。
 武春が、全裸のままで日本刀を握った。
「ぼっ僕達が家に戻らなかったら、家族が血眼になって探すだろう。そうすれば、君達も無事では済まないと思うが?」
「こいつら、バカだねー。高校生ってこんなもんスか?」
「さぁ? 俺、高校生の知り合い少ないから判んない」
「僕は〜? 僕も眞由美も、ついでに犬飼も、高校生ですぅ」
「居ない、とは言ってねぇだろうが!」
「きゃう。眞由美〜、若が怒鳴るよ〜」
「若が本気で怒ったら笑うから、怒鳴ってる内は大丈夫ょ、武春ちゃん♡」
「そうか! さぁ、後半戦。張り切って行こうか」
「よっ止さないか! 学校で拉致られた事は明白なんだぞ! この場所も直ぐに割り出されるだろう。その時に」
「何かの間違いでここ迄辿り着いたとしても、証拠がないし、怪しいものもないから令状も降りないよ?」
「そんな訳あるか! 縛られて猿轡された高校生が5人も連れ込まれたんだぞ!」
「誰が見てたんだい?」
「きっ近所の人がっっ」
「仮にそうだったとしても、君らに成り済まして店を出る事は出来るからね〜」
「そんな偽装、直ぐにバレて」
「バレるようなヘマ、する訳ないじゃないか。その辺はプロだよ、僕ら」
「プロって何だよ!」
「偽装のプロなのか」
「違う。殺しのプロ」
 武春が、ニヤ〜ッと微笑んだ。
 2度目の失禁。
 その後、残りの2人も惨殺されて、5人分の鯉の餌が出来た。それを集めるのは黒服の仕事。そいつを横目にしながら、店に上がって来た。
「あの、集めてた血肉はどうするの?」
「鯉の餌」
「えっ」
「裏庭に立派な池があって、そこで錦鯉を育ててるんだわ、店主が。それらの餌になる」
「ふぅ〜ん。トシさん、いつもこんな事してんの? 国本先輩もさぁ。宏さんも」
「してる」
「そこそこ」
「まぁね」
「ふぅん」と、納得しちゃう辺りが俊の持ち物。
 武春と眞由美は黒服に送らせて、正気じゃない冬夜にバイク転がすなんてとんでもない話で、だから冬夜のバイクは俊が運転して、それで2ケツ。そして、俊のバイクは、黒服に運転させて付いて来させた。俊のバイクはコインパーキングに停めて、黒服は追走して来ていた車に乗って帰って行った。
 冬夜の部屋。
 やっと2人切り。
 冬夜が、我慢もこれ迄と、俊にキスをした。まだ、身体が火照っている。もどかしげに服を脱がせ合って、リビングで深夜迄抱き合った。
 そして、翌文化祭最終日。
 5人もの生徒会役員が揃わず先生方は焦っていたが、そんなの知るかと、開会宣言を行った。
 話題を掻っ攫ったのは、剣道場で行われた俊と武春の手合わせだろうか。天才剣士と名高い武春が、手も足も出なかった。そのくらい、圧倒的に俊が強かったのだが、この2人的には手合わせと言うより普通に稽古だったのかも知れない。
「有り難う御座いましたっ!」
 息を弾ませ武春が頭をさげた。
「ん。強くなったな。少しマジになったぜ」
 俊は武春程、息を乱していない。
「本当ですか!?」
「ああ」
「やったね。はぁっ」
 武春が唯一方的に負けたと、周りの方が騒がしかったが、そんなの無視して武春は嬉しそうにしていた。この場だけの口から出任せでも、俊がマジになった事が嬉しいのだ。
 そんな当人達の心情なんて知らない新聞部が、又センセーショナルな見出しを付けて号外を出した。新聞部の部費稼ぎに、いくらか貢献出来たのかな?
「武春ちゃん♡」
「ああ。眞由美。有り難う」
 タオルをくれた眞由美に礼を言う。眞由美は、武春の前に俊にタオルを渡していた。
「武春ちゃん、マジだったでしょう」
「うん。若が相手だったからね。僕が手加減する必要はないだろ? 全然敵わなかったけど」
「カッコ良かったわよ♡」
「そうかい?」
「うん♡」
 武春は剣道部員。いつもは部員をビシバシ扱いているけど、それでも手加減していた。武春が身に付けているのは殺人剣で、所謂剣道ではない。その分の加減だ。
「トシさん、剣士だったんだね」
「北海道で会ったおじさん居たろう?」
「えっ? えと、澤村さん?」
「ああ。あれに叩き込まれた」
「へぇ」
「師匠!」
「ん? どうした」
 今以て騒めく周りに訊こえるような大きな声で、武春が呼び掛けた。無意識で、俊が反応する。武春の師匠と言う自覚はあるのだ。
「シャワー浴びて、お昼食べに行きましょ!」
「そうだな」
「師匠の奢りで!」
「良いぞ。俺をマジにさせた記念」
「師匠をマジにさせた記念なら、ちゃんと席を設けて下さいよぅ!」
「構わんが、お前はどうして大声を出してる?」
「周りに訊こえるようにですょ、師匠!」
「大変だね、天才剣士も」
「そうなんです、師匠!」
「くくくっ」
「師匠! 案内します!」
「ああ」
「俺も行って良いですか?」
「オケ。眞由美も来る」
 と言う訳で、剣道部のシャワールームに4人で入り、インスタントだったけどSEXして、スッキリ爽快。それから、遅めのお昼を摂り、武春達とは別行動を取った。
 その後は特に何事もなく、無事に閉会。
 この日も冬夜の所に泊まった。翌月曜日は冬夜が代休になるのを良い事に、夜遅く迄楽しんだ。
 いつものようにコーヒーの香りで起きた冬夜が、シャワー浴びて目を覚まして来た。
 毎朝やられていた2発は、今朝はなし。出すもんないのは承知している。
「お尻、痛いぃ〜」
「なら、コーヒーなしだな」
「何で!」
「刺激物摂らない方が良いんだぞ?」
「大丈夫♡ 俺のお尻はマルチ♡」
 駄々は捏ねた者勝ち。
 俊が負けて、冬夜にコーヒーを出して揃って朝食を摂った。シリアルなんて、食べた気になんねぇよ。ブツブツ…。
「トシさん、ありがと♡」
「いいや。じゃあな。又」
 この日の朝は、バイク通勤。同じ時間に出たけどバイクだったから、早めに会社に着いた。
 地下駐車場から重役用エレベーターに乗っかって、プライベートルームのある57階迄行く。そこでスーツに着替え、身嗜みを整えた。
「ふん」
 姿見で全身を眺め、小さく鼻を鳴らす。それから、タンクバッグだけ持って、52階に降りた。
「おーっす」
「おはよう御座います、若」
「おはよう御座います、トシ兄」
「おはよう御座います♡」
 秘書君2人は既に出社していて、匠の姿もあった。
「又、来てんの? お前。良く飽きねぇな」
「飽きる訳ないでしょ!」
「そーかよ。ケッ」
 美樹に口付けて部長室に入ると、美樹が付いて来て、朝のお弁当をくれた。
「有り難う、ミキ。ぴえん」
「どどど、どうしたんですかっ」
「シリアル、食った気しねぇ〜、楽だけど」
「あはは〜。僕、お茶煎れてきますね」
「さんきゅうな」
「いえいえ」
 いつもの忙しい月曜日の始まりだ。それでも、味わった。この日はバイクで帰る都合上、着替えなくてはならなくて、21時が過ぎてからも1度プライベートルームに行き、スーツを脱いだ。脇には美樹も居て、脱いだスーツとブラウスを受け取っている。これらは、クリーニング行き。
「ここで充分生活出来ますね」
「そうだな」
 キングサイズのベッドに4ドア冷蔵庫。まともなキッチンもあって、鍋釜も揃っていた。当然、食器もある。冷蔵庫を、コソーッと開けてびっくり。食材で一杯だ。
「どうするんですか? これ」
「ああ。掃除に入る御用聞きどもが、入れ替えてるよ」
「ひょっとして、僕の部屋も?」
「ああ。聖の部屋も、エース達の部屋も同じだ」
「へぇ。知らなかった。使って良いんですか?」
「良いぞ」
「明日、見てみょ。軽い夕食作れるかもです」
「ふん。食材のリクエストあれば、53階の御用聞きに言え」
「いえいえ。冷蔵庫にある物で作るのが、腕の見せどころです」
「ふむ。ま、良いや。行くぞ」
「あ、はい」
 美樹を先に出して、扉を閉めた。そして、長い文化祭週間がやっと終わった。やれやれである。
「疲れた〜」と、自宅マンションに戻り、珍しくも俊が伸びをした。
「武春君とは会ったんですか?」とは、車で付いて来た美樹だ。帰りに寄ったスーパーで買い物をし(無論、お支払いは俊である)、それを仕舞いながら訊ねてみた。
「初日に見付かった」
「残念。僕の勝ちですね。トシ兄の3発♡」
「はいはい」
「お風呂の準備しますね」
「ああ。頼む」
 そうして、その夜は更けて行った。
 美樹の、俊ビジョンだと可愛い喘(コエ)が、遅く迄訊こえていたのは言う迄もない━━‥‥。

《終わり》

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