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コロ休みアダルト文庫『仏心』後編

作:平 和(たいら なごみ)

「はい。先生」
「あのっ、カイマっ、大丈夫だから」
「何を言うとる!」
「何言ってるの!」
「うをっ…。嫌っ、本当にっ。この場合、熱が出た方が良いし、抗生剤も持ってます」
「ん?」
「え?」
「ネホン国は医療先進国かの」
「そうですね。でもって、ニホンです!」
「そうそう。ニャホンじゃニャホン」
「ニョホンですよ、先生」
 僕、遊ばれてる? 何か、虚しくなって来た。
「明日の夜迄寝ますね。おやすみなさい」
 抗生剤を服み、布団を被った。
「まぁ」
 美樹はものの3分で眠ってしまって、カイマが愉快そうに笑っている。
 Dr.は、こんな穏やかなカイマの表情を、久しく見ていなかった。だから、結婚なんて気のせいた事を言ったのだが、殺し屋と結婚しても幸せにはなれんか〜‥。
「カイマは寝んどれ。ずっと付いとったんじゃ」
「先生こそ。お年なんですし」
「年寄り扱いするな!」
「いえ、でもっ」と、取り繕っていたら、
「ぐー」と、いきなり寝落ちしてくれた。
「くすっ」
 先生には毛布を掛けて、発熱中の美樹の額のタオルをせっせと変える。何度目の、洗面器の水換えだろうか。熱は全く下がらない。
 年寄りの先生は、入眠時間に関係なく早起きで、明け方の3時間程仮眠を取ったが、後は美樹に付きっきり。
 タオルを取って水に浸す。この時、一瞬だけ美樹から視線を切るのだが、タオルを額に戻そうと顔を上げたら、壁があった。何だと焦ったら分厚い男の人で、その人は美樹の頬を愛しそうに撫でていた。
 なる程、と納得したカイマが座を外す。男が部屋に入って来ていた、と言う不自然さに気付く事もなく。
「うっん」
 全力発熱中の美樹は、身体がふわふわして、五感の全部が鈍くなっていた。だからこそなのだが、頬を撫でていた男の手を握ると胸に抱き、深い深い眠りに落ちてしまった。
『くっ…身体が…骨が痛い。こりゃ寝過ぎだ〜』
 そう吠えて伸びをしていた美樹が、目をショボショボと開けた。
『え〜っとぉ…』と言って固まる。
 そんな美樹の唇に口付けて、太くて低い声が音になった。
『ミキ』
『ぐすっ若ぁ〜』
 両腕を伸ばしたら抱き起こしてくれて、ぎゅうっと抱き締めてくれた。間違いなく俊だ。美樹は甘えて泣きじゃくったけど、特に咎められる事はなかった。
『熱は下がったな』
『いつから?』
 自分の胸に顔を埋め、匂いを確かめるかのようにコスコスしていた美樹に頬を摺り寄せ、熱を確かめる。その美樹の目が、不思議そうに瞬いていた。全くもう。頬を撫でたら俺の手を胸に抱いて寝直したくせに‥‥。
『昼頃』
『に、この国?』
『に、この部屋』
『・・・。えっ?!』
 今何時だと、確かあった筈の時計を探してみた。今、午後7時少し前。昼って正午?!
『どどどどど、ど〜やって』
『戦闘機、空中給油4回してぶっ飛ばした』
『若…済みません』
『お前のミスじゃない。ターゲットは消した。ココに来たのは俺の問題だ』
『?』
 意味が見えず首を傾げたら、一瞬、魔王の顔が見えてゾクゾクした。美樹が、1番セクシーだと思う俊の姿だ。
『わ…か…』
『ん』
 美樹の両頬が上気し、瞳は潤んで震える唇は紅く色付いている。
『抱いて…っっ』
 吐息がちにそう声にしたら、深い深い口付けをくれた。
 美樹を裸にするのは簡単だったが、俊を裸に剥くのは難しくて、結局、俊が自分で脱いだ。
 痛々しい、血の滲む左肩の包帯。
 美樹はぶっ飛んでいて自分の怪我の事なんか頭になく、ひたすら俊を貪り食った。
 一方の俊は、美樹より冷静だったので、美樹の左肩の傷に障らないように、けれど、美樹が満足して正気に戻れるようには犯してやった。
 俊には何が切っ掛けなのか判らなかったが、こうなった時の美樹には、裂けて血を流そうとどうしようと、美樹本人が満足する迄犯ってやらないと、ラリったままで日常生活も送れない。一度しくって懲りた。血塗れになったから止めたんだけど、ホケラ〜として他人の話は上の空。俺の顔見れば、場所も居合わせたメンツも関係なく盛っちゃって、偉い目にあった。
 部屋の外の気配。
 食器がカチャカチャと小さく鳴っていたようだが、知った事か。愛し合ってるだけだ。ま、正直なところ、美樹の喘ぎ声の大きさが恥ずかしいけど…。
『若が…染み込んで来る…』
 譫言のように呟いて、美樹が意識を手放した。
 シーツに紅い花びらが散っている。例に漏れる事なく、美樹は血を流していたが、幸せそうに伸びていた。
 そんな美樹を胸に包み、蹴り飛ばした布団を足先で手繰り寄せ、2人して布団に包まる。
 白々しいノック。何度も来て、中の様子を伺っていたくせに‥‥‥。
「どうぞ」
「あのっ、ヨシキの消毒を」
 入室の許可を出したら女が入って来た。それがカイマだったが、俊が知る訳もない。
「道具だけ置いておけ。俺がやる」
「でもっ」
「不慣れな者には、任せられんのぉ」
 女の影からもう1人。何だ、このジジイ。
「先生」
「消毒を、カイマ」
「ミキに触れたら殺すぞ」
 ギンッと睨み付けたら、2人共金縛り。でも、鼻の良い美樹はパチッと目を覚まし、俊の裸の胸に顔をコスコスし始めた。マズった。俺のミスだ。
『わ〜か〜』
 呂律の危ない甘ったれた声。
『お尻の穴がムズムズす〜る〜の〜』
 トロリととろけているお目々には、俊しか映らない。年齢も、17〜8歳の頃に戻っている。
『わ〜か〜』
『一杯したろう?』
『もっとぉ〜…もっとなのぉ〜』
 上手く動けずモゾモゾしていた美樹が俊に尻を向けて、広げてくれちゃった。溢れるのは俊のザーメン。
 俊的には超プリチーなのだが、もう2人にはどうだろう。けど、このままにしとく訳にもいくめぇ。可哀想過ぎる。だから、もう2発やったった。美樹は失神してるけど、何処か満足そうで幸せそうだ。
『う〜ん…俺が甘やかしたからなぁ〜…』
 頭をボリボリ。遅いけど、反省もしてみた。
「あんたら、何者じゃい」
「悪人」
 同性愛だからって悪人だとは思わないけど。
「これ、ガーゼと消毒薬です」
 カイマがそう言って、準備して来た物をテーブルに置いた。淡い恋心は儚く砕けて散った。
「カイマ」
「恋人さんに任せた方が良いじゃないですか」
「ふむ」
 外野を無視して、くったりしている美樹をまともに横たえる。そして、持参した救急キットを引き寄せた。
「お手伝いします。これでも看護婦だったんですよ」
「俺は外科医だ」
「あら」
「こんな不衛生なモノ、使えるかっ」
 そう吐き捨てるとDr.が不愉快そうな表情になったがすっかり無視して、手際良く消毒し、滅菌ガーゼに抗生剤入りの傷薬を塗って湿布すると、透明フィルムで覆った。これなら、肩も動かせるだろう。
『うっん。あたっ』
『ミキ?』
『若♡』
『4発だからな』
『私がですか?』
『俺が』
『えっ! ゔ〜‥セクシーな若が悪い』
『何だそれ』
『内緒。むふ♡』
 俊が身体を離して手当てを始めたら、美樹の意識が戻った。包まれていた安心感から距離を置かれたせいだろう。この辺、意識以前。
 久々の若の顔だから嬉しくて、美樹はココに来て初めての笑顔を見せた。しかし、俊には馴染みのあるモノだ。やっと安心出来る。
『ふん』
 一つ鼻を鳴らし、俊がやっと服を着始めた。つまり、来訪者2名を気にもせずに俊は全裸だったのだが、それをノホンと見遣った美樹にブーイングを受ける。
『裸で居ろってか!』
『だって、若の裸、素敵だものっ』
『捕まるわいっ』
『あ〜っっ! 邪魔な布がっっ!』
『ミキ・・・』
『言い過ぎました』
 美樹、シュン。となって初めて、びっくりしたように立ち尽くすカイマとDr.に気付いた。
 美樹が、恥ずかしさから大人しくなった。
 そんなの知らねぇと、俊は身形を整えた。
 ワザと日本語で話してるから、何言ってるのか判らないと思うが、説明する気もない。
『状況を説明しろ』
『はい』
 昨夜撮って来たスライドも交えて報告。
『ふん。ほんで? 出国の手を貸せ?』
『はい。英語圏なら大丈夫みたいです』
『お前が恩返ししたいのは判るが』
『ダメですか?』
『お前が世話になってたんだから、そのくらいの骨折りは構わんが、上手く行くと思ってるのか』
『はい。英語なら喋れるそうですし、リマ君にはまだ、ママが要ります』
『唯、産んだだけの女だろ』
『違います。ちゃんと親子の対面は済ませています』
『けれど、一緒に住んだ事はないし、育ててもいないだろ』
『リマ君はママが恋しくて泣いているんです』
 いつになく、美樹が食い下がる。
 美樹は孤児院から田口家に貰われて来た子で、頼るべき肉親が居ない訳だが、まだ足りんか。肉親の情以上の絶対的愛情で応えていると言うのに、親父もお袋も、祖父も、我が子、我が孫に接するように分け隔てなく扱って来た筈だ。なのにまだ、お前はお前を捨てた肉親を求めるのか。
 俊が厳しい表情を作ったが、諦めたように溜め息を吐き、この話に終止符を打った。
『判った。カナダに住居を用意してやる。半年分の生活費も用意しよう』
『有り難う御座います』
 美樹が嬉しそうに笑い、その事をカイマとDr.に話して一緒に喜んだ。けれど、俊は冷ややかだ。
『お前の関与はココ迄だからな』
『えっ? 落ち着いたら覗きに行くくらい』
『落ち着くと思うのか』
『半年あれば仕事は見付かると』
『よしんば仕事が見付かったとして、収入は最低限だろう。唯、子供を産んだだけの子育て経験なしの女と、町長の家で何不自由なく暮らしていたお坊ちゃんが、幸せになれるとでも?』
『あっ』
『魔物が仏心起こすからだ』
 美樹が唇を噛む。俊の言う通りだ。生活の基準が違う。カイマは具の殆どない薄いコンソメスープと硬くなったパンで日々の飢えを凌いでいたが、カッサノファミリーに擦り寄っていた町長一家は、カッサノ程羽振りは良くないかもだが、それに準ずるくらいの贅沢はしていた筈だ。その町長の家で、町長の孫として至れり尽せり何不自由なく育てられていたリマは、母の愛情は足りなかったかも知れないが、祖母と姉やの愛情がたっぷり注がれ、具のないスープなんて判らないだろうし、硬くなったパンの味も知るまい。香りの飛んだ紅茶も知らないと思う。
 浅はかだった。カナダは移民が多いが、移民にマフィアと繋がっていた町長の孫の生活はない。真っ直ぐに見詰め返してくれた、あの大きなグリーンの瞳は、いつしか濁り屈折してしまうのだろう。
 喜んでいるカイマとDr.の姿を瞳の端に映し、暗い気持ちになった。
『気を落とすな』
『若』
『どうしてもなら、狩りに行け』
『・・・。はい』
 母子の生活が破綻し、最悪なケースになったら、死神の鎌を振るいに行こう。
 俊の言葉にコクッと頷き、きっぱり切った。この辺、魔物。
『さて。俺の用を片付けに行くか』
『若の用?』
『ああ』
 開いてるのかどうか判らない、笑い皺の消えない糸目の部長の目が、ぱっちり開かれていた。皺もない。くっきり二重瞼で、どちらかと言えば目も大きかった。睫毛も長い。けれども、その瞳に宿る刃物よりも鋭利な輝きに、ゾクゾクする。何てセクシーなのだ。
 瞬間的に、美樹がフニャフニャになった。
 切っ掛けは判らないが慣れているので、くふんくふん鼻を鳴らしにじり寄って来た美樹のパク付くアナルに、ぶっといバイブを突っ込んだ。
 俊のエレクトしたペニスよりは些か小振りだが、市販されているバイブじゃ1番太い。それを易々と銜え込み、腰を振り始めちゃった美樹に、優しく言い含める。
『終わったら、気が済む迄、犯ってやるから、良い子に待ってろ。判ったな?』
『若ぁ〜』
『良い子だ』
 頭を撫でて、10分間のマジDEEP Kiss。美樹を1回イかせてから、俊は居なくなった。
 それからどれくらい経ってからだろうか。マジなDEEP Kissと襲って来た射精感でポヤ〜ンとしていた美樹が、こっちの世界に戻って来た。
 この間、30分。外野でカイマが心配そうに声を掛けていたが、丸で届いていなかった。
『若!?』
 大声でがなり、辺りをキョロキョロ。
 恋しい人の姿はなくて、代わりに女と老人が視界に入った。え〜と。誰だっけ‥‥。知ってる風の姿と声だが、はて? 音は耳に届いてるんだけど、思考に直結しない。
「ヨシキ? ヨシキ? 大丈夫? ヨシキ?」
「???」
 お目々ぱちくりさせて、美樹が首を傾げた。それから更に10分。
「先生っ、ノホンとしてないで何とかしてっ」
「専門外じゃわいっ」
 美樹の思考が、今に追い付いた。
 アナルにハマる、お留守番用バイブ。又、やったか。でも、自分は悪くない。セクシーな若が悪い。さて。何分惚けてたんだろうか。
「ヨシキ!」
「はい」
「あっ。ヨシキっ」
 カイマが涙汲んでいる。
「心配掛けたね。僕なら大丈夫だょ。さて。若を追おうっと」
「あの男の人は、ヨシキの何?!」
「命そのもの。これで良し。行って来ま〜す」
 裸だった美樹はバイブを銜えたままで手早く身支度を済ませると、俊を求めて闇夜に紛れた。
『若の用って何だろう?』
 昨夜同様、屋根伝いに走って行く。
『多分、カッサノだと思うんだけど…な』
 こう言う時の若センサーは正確で、暫く行くと俊の姿を見付けた。小銃持った黒服共は、外を警邏していた全員と思われる人数以上が、始末された後だった。その中に、町長の長男の姿を見付けた。何で居るんだろう? 何で殺されてんの?
 ツーカーの仲だったから、加勢にでも来たか?
 まぁ良いや。今何ちう?
『アレ。あのお兄さん』
 俊と対峙しているのは美樹を撃った男で、お返しする為に、昨夜わざわざ確認した奴である。
 日本刀対短銃。若は居合いの構えだ。
 銃声は1発。しかし、風を切る音は2つして、続いてゴトッと鈍い音もした。
 つぶさに見ていた美樹が、自覚もないままに腰を振り始める。視認出来た訳ではないが、あの男の撃った弾は俊の刀が真っ二つに切り捨て、返す刀で男の銃を持つ利き腕を叩き切った、と言うところだろうか。ゴトッと言うのはその音。
「うぎゃあ〜〜〜っっ!!!」
 転がる男の残っていた左手甲に刀を突き立て、俊が屋敷に向けて呼び掛けた。
「まだやるか」
 良く通る、太くて低い声。
 それに応じるように、白旗が掲げられた。
 まだも何もあるものか。独りで乗り込んで来たから良い気になって、女子供以外の殆どの男達で迎え打った。それが悪かったのだが、攻撃が1箇所に集中し過ぎて、人間がダブ付いた。その、モタモタしているところを狙い撃たれ、兵隊もファミリーの人間も仲良く血祭りを踊らされた。最後の砦だった、魔王なんざ目じゃないと豪語していた野郎も、あっさり負けやがった。絶対有利のピストルを構えていたのに、腕切り落とされるとかマジないから。
 ジジイと女子供だけになったが、ファミリーを潰されるよりはまだマシだ。
 本当に?
 跡取りも居なくなったのに‥‥‥。
 女が居れば、子供は産まれる。これで良い。
 紅龍に逆らった罰だ。授業料が、些か高かったようだが。
『ミキ!』
『えっ?』
『来い! 抱いてやる!』
『はい!♡♡』
 息をひそめて、カッコいい、と目をハートにして腰を振ってた美樹が、こんなチャンス早々ないぞと、カクカクしながらも俊の側に行った。
『追って来たのか』
『はい』
『こりゃ』
『済みません』
 シュンと肩を落としたが、腰は揺れている。
『脱げ』
『はい』
 ぶっといバイブを銜える美樹の生尻ご開帳。
 言われてはいないけど、若のスーツを脱がせて行く。何が小太りだ、バカ共め。この逞しい肉体の美しい事。惚れ惚れする。
 これ又、言われていないけど、尻を突き出して、仁王立ちしている若のペニスにむしゃぶり付いた。
 血の匂いが足りない。
 もっと血の匂いが欲しい。
「あがっ!」
 俊の右手がつかを握り、大きく振り下ろした。男は、左腕も失った。
 血飛沫が、美樹の白い頬を彩る。
 美樹の狡猾とした表情。
『もっと血を…』
 譫言のように唱えたら、男は右脚も左脚も失くしていて、辺りに血の匂いを立ち昇らせていた。
『下さいっ』
 バイブを引き抜かれ、更に太いモノが捻じ込まれて行く。しかし、悲鳴を上げるでもなく、寧ろ歓喜の声を上げる。ま、美樹は、魔王ので慣らされているし、魔王な俊が1番セクシーだと思っているから、腰の振り方がエグい。
 俊は俊で、加減なしで抉っている。矢っ張り、美樹だからだろう。大切に守り・しっかり仕込み・大きく育てた魔物。
 カッサノの生き残りは、怖くて震えていた。恐ろしい光景だろうて。少なくとも、正気の沙汰じゃない。四肢を切断され、両腕両足からドクドクと血を吹き上げていた骸。少し前迄は動いていたし声も上げていた胴体と頭が、動かなくなっても続くSEX。時折り、ピクピクと痙攣するが、知ったこっちゃない。女顔の若いのは何度もイかされ、腰砕け状態なのに尻だけは持ち上げていて、その真ん中の穴を目一杯広げて打ち込まれる男根の立派さよ。男としての言い知れぬ敗北感。細っこい奴の口に1回イッているが2回目はまだで、時間でも負けた。
『染みるっっ』と、美樹がうっとりと呟いた。
 魔王がやっとイッて、魔物の交尾も終わり。くったりする美樹の腕を引いて、軽々と抱き上げると、2人分の衣服と自分の刀を担いで、暗闇に紛れた。
『大丈夫か』
『はい。まだ、若のが入ってる感じがして幸せですぅ』
 裸で戻る訳にもいかないので、ちょっとカッコ悪いけど、路地裏で身形を整える。たって、美樹はフニャフニャで立ってもいられなかったから、俊のダブルのスーツを肩に着せ掛けられて、尻からは精液ダダ漏れだったけど。
 美樹を抱き上げて、カイマの店に戻った。
 カイマもDr.もびっくり。犯ってるとこ見せ付けられたけど、わざわざ青姦? こんな時間に。
 俊は2人には何も言わず、美樹をソファに座らせると、ペチペチと軽く頬を叩いた。
『ミキ』
『はい』
『首都のセントラルタワーホテルに行くぞ』
『はい…ぐー』
『こ〜ら、ミキ!』
『はい…むにゃ』
『眠いのは判ったから、服だけ着てくれ』
『服らけ…?』
『ああ。下着は良い』
『はい。頑張りましゅ…』
 フニャフニャしながらも服を着ようと努力を始めてくれて、それを見遣り、カイマに美樹の荷物を持って来て貰った。勿論、中身のチェック。どれ一つを取っても、素人さんには要らないモノだ。今回は、足りないモノはなかった。
「ふん。あんた達の事は、明日の昼間、俺の使いと名告るヤヒロと言う名の背の高い髪の長い男が来る。そいつが万事上手くやってくれるから」
「有り難う御座います」
「お前さん達に、神の御加護を」
 それには何も答えず、フニャ美樹を連れ、首都のセントラルタワーホテルに乗り付けた車で向かった。埃っぽい地方と違って、首都はいくらか都会だ。そこで1番高級なホテルのインペリアルスイートに部屋を取っていたので、半ば美樹を抱えて部屋に入った。
「ミキ、ミーキ」
「ふぁい」
「風呂入るぞ」
「ふぁい」
「ダメだこりゃ」
 フニャ美樹を裸に剥いて、仲良くお風呂。とは言え、美樹は何もしていない。俊が身体を洗って洗髪し、アナルの中も洗ったった。で、身体を拭いてベッドに放り込む。俊もその隣りに身体を滑り込ませ、眠りに就いた。
 田口部長の突然の海外出張なんて、日常の当たり前。
 部長秘書の出張が長引くのも普通。
 特に疑われる事もなく表に溶け込み、日常が巡り始めた。部長の第一秘書の泉原が、人目がなくなると足を引き摺っていた事は、裏社員しか知らない。
「犯られ過ぎ?」
「聖さんっっ」
「えっ? 違うの?」
「違いませんけど、僕の責任じゃないです。セクシーな若が悪いんですっ」
「セクシーかぁ…セクシーねぇ…」
「魔王してる時なんか、腰から砕けちゃう」
「ああ…ああ…なる程ね」
「あれ。その程度ですか?」
「私はね。恋愛してないから」
「恋愛? してるのかなぁ? してませんょ。僕はポチです」
「特別で替えのないね」
「え?」
「良き良き。そのままで良いょ、よし君は」
「え〜っっ」
 部長室の前室は、平和だった。
 一方、カイマ達だが、俊の指示で八尋が訪ねて来た。
 丁度、町長の倅達の葬列の真っ只中。
 カッサノが襲撃受けて危ない、との報を保安官から受けて、息子3人にショットガンを持たせて応援に向かわせたのだが、返り討ちにあったと言うオチだ。カッサノは、面子もあるので葬式は出しておらず、山とあった死体を保安官達に片付けさせて、素知らぬ顔して日常を送っている。
 父親が亡くなったので、リマも葬列に参列していた。少しも悲しくなかった。お祖父さんは大袈裟に泣いていたけど・・・。
 何かとバタ付く町から、3人消えた。気付くのはいつだろう。出入りの激しかった町長の屋敷からリマを拉致って、カナダのアパートに移した。
「有り難う御座いました」
「いえ。我々の事は忘れて下さい。では」
 アパートの家賃も半年分振り込んである。そして、半年分の生活費を現金で渡し、永遠の別れ。
 埃塗れだった田舎暮らしに別れを告げ、新しい気持ちで憧れの先進国での生活。
 これ迄ずっと家庭教師だったので、リマは学校も楽しみにしていた。
 ママの声で起こされて、ママが拵えてくれたお弁当を持っての初登校。
 思った程フレンドリーではなくてガッカリしたら、直ぐに虐めの対象になった。
 勉強に付いて行けなくて補習ばかり受けていたら、お前バカだろう、と言われてからかわれ、たかられるようになる。
 当然、貰っているお小遣いじゃ足りないし、そもそもお金に困った事もなかったしで、半年分と言って貰った現金を、半年に5ヶ月も残して全額奢ってしまった。
 これで、扱いが変わる。お金持ちだと思われてチヤホヤされ始めたが、もう、現金はない。ママにも言えない。仕方ないので、ママの宝石を売って奢り続けた。
 そして、やっとカイマが気付く。
 新生活2ヶ月目の事。
 リマを怒った。
 彼女は彼女で、この2ヶ月、仕事を求めて奔走していた。持っていた看護婦の資格が使えない。病院で直ぐに働けると思っていたのに、第三国の資格なんて当てにならないと突き放されて、何とか見付けたのがカフェの皿洗いのパートとビル掃除のパート。余裕はないけど、母子2人なら暮らして行ける。まだ、4ヶ月の猶予があるし・・・。
 でも、1$も残っていなかった。
 いきなり生活に行き詰まる。今月休まずに働けば、光熱費くらいにはなるだろう。まずは、今日のパンだ。
 仕方ない。リマのお嫁さんにと思って持って来た物だけど、質屋に宝石を持って行こう。買い戻せば良いんだし‥‥。けれど、それもなかった。
 リマをぶった。すると、継母と同じだと言われた。更に、あんな端金を小遣いと言って貰った事はないとも言われた。それらに何も言えず、けれど帰る所などないから、反目した母子が同じ屋根の下で暮らす事になる。
 当座の資金は、先生に借りた。返済はいつでも良いよ、と言って貰えて、涙が溢れた。
 カイマも学習して、現金を判る所に置く事をしなくなった。
 リマの虐めが再発した。一個も良い事ない。家に帰りたいよ…。
 それが終わったのがリマが10歳の時で、少年は実母を果物ナイフでめった刺しにして殺してしまった。カイマは27歳でこの世を去り、リマは10歳にして人の道を踏み外した。
 魔物の気紛れな仏心。魔界に仏なんか居ない。
 無論、美樹は知らないし、俊も追跡調査をやらせていた訳ではないので預かり知らぬ事である。寧ろ、魔界にようこそってなもんだろう。実際は、そんな人間の事など覚えていなかったけど。
「社食に行きたい?」
「はい。聖さんが褒めちぎるので」
 ある日のお昼休み。美樹が俊にねだっていた。
「ふん。じゃあ行くか。オーナーの肝入りでな、とある一流ホテルのシェフの監修なんだ」
「へぇ。何処のホテルですか?」
「知らない」
「嘘」
「知ってても教えない。公になったら、そのシェフの首が飛ぶ」
「どうしてですか?」
「バイトなんて許す訳がないでしょう」
「なる程」
 今日は社食に行くつもりで、お弁当作って来てない。怒られるかしら?
「私でも知ってるホテルですか?」
「そうだなぁ。知ってるんじゃないかな」
 ワクワクの社食体験とあいなった。
「うわ〜、明る〜い、広〜い、眺めが良〜」
 感動の声。初めて社食を使う社員は、皆同じ事を思う。声にするかしないかの別はあるが…。
「こらこら。食券制だ」
 とっとこ中に入ろうとした美樹を呼び止め、券売機の前に並ぶ。
「今日のメニューは、ショーケースの中だ」
「こんなにあるんですか?」
「だろうな」
「へぇ」
「決まったか」
「はい♡」
 俊に食券買って貰って、俊に着いてってカウンターにトレンチ持って並んだ。
 流れ作業。学食みたい。でも、豪華。
 辺りをキョロキョロしながらテーブルに着いたら、お水を俊が持って来てくれた。
「?」
 良く判らずにキョトキョトしていたら、椅子に掛けながら俊が答えてくれた。
「水はセルフなんだよ」
「えっ? 済みませんっっ」
 恐縮して小さくなってると、頭を撫でられた。
「仕方ない。知らなかったんだから」
「若♡」
 背後に人の気配。何だろうと振り向くと、知らない人が立っていた。
「部長。珍しいですね」
「ご一緒して宜しいですか?」
 部長に用があるの?
 美樹は相変わらずキョトキョト。
「悪いな。遠慮してくれ」
「あ、はい」
「済みません」
 俊が断ってくれて、ちょっと安心した。表社員との距離の作り方に不安がある。慣れる程、付き合いもないし、ホッとした。
 ドキドキの社食体験はお腹一杯になって終わった。メニューの完全制覇を美樹が心に決めた事は、さしもの俊も知り得ない事だった。

(おわり)

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