見出し画像

【研修レポート】ポリファーマシー 多量の薬の処方による問題と課題

高齢者が多量の薬を服用している光景をよく目にしますが、本当にそれらの薬が全て必要なのでしょうか。近年、多くの医薬品が存在する中で、薬の成分の重複や、強い副作用が起きるなど、さまざまな問題が発生しています。

今回は「ポリファーマシーの問題」について、国立長寿医療研究センターの溝神文博先生に研修をしていただきました。よろしくお願いします。


溝神先生:本日は、ポリファーマシーの問題について解説していきます。

―ポリファーマシーとは

複数の医療機関を受診すると、1人の患者さまが多くの薬を処方されることがあります。しかし、多量の薬を服用することにより、薬の成分が重複していたり、副作用が強く発症したり、不要な処方があったり、逆に必要な薬が処方されていないといったさまざまな問題が生じます。

―薬が増える理由は?

①処方意図が分からない状況

薬が増える理由はいくつかあります。まず、患者さまが複数の医療機関を受診することで、各医療機関で異なる薬が処方される場合があります。たとえば、A病院で症状に対して薬が処方され、後日、B病院に入院すると、A病院で処方された薬と入院中の症状が関連しない場合があります。

このような場合、医師は「処方意図はよく分からないが、既に処方されている薬なので、そのまま処方しよう」という判断をすることが多いです。そして、患者さまが退院し別の施設に移ると、最初に処方された薬の意図が分からなくなることがあります。実際に、私たちが薬を減らす際に最も頻繁に直面する問題が、この処方意図が分からない状況です。

いつ、どの医師が、どのような理由で薬を処方したのかが分からないという問題が最も多く、ポリファーマシー対策を行う際には、情報収集の一環としてこの部分を重視します。

処方意図を調べることは非常に重要です。もし、電子おくすり手帳に処方意図が記載されていれば助かると思います。しかし、現状では一般的な紙のおくすり手帳には、薬の情報しか書かれておらず、処方意図がわからないことがほとんどです。患者さまに尋ねてもよく分からないことがあるため、この問題は根深いと感じています。しかし、電子おくすり手帳が処方意図の解明に役立つような仕組みが整えば、大きな問題解決につながる可能性があると考えています。

②患者さまの必要以上の薬の要求

患者さまの中には、必要以上に薬の処方を要求する方もいらっしゃいます。これは皆さんも経験したことがあるかもしれません。例えば、風邪を引いて病院に行った場合を考えてみます。医師から「風邪ですね、風邪薬を処方しておきますね」と言われ、風邪薬を受け取ると、最初は安心して帰宅し、1〜2回は薬を飲むかもしれません。しかし、その後は薬を飲まなくても症状が改善するという方も多いのではないでしょうか。

つまり、病院に行くことで安心感を得ているのです。医師に自分が病気だと認められ、薬を処方してもらうことによって安心を得ている部分が強いのです。そのため、ポリファーマシーのアプローチは逆の行為であり、薬を減らすことになるため、患者さまにとっては不安が残ってしまうのです。

③高齢化による要因

高齢化はポリファーマシーの問題において最も大きな要因です。平均寿命の延長に伴い、高齢者の疾患発症は不可避な現実となっています。医療機関では疾患に対する治療の指針としてガイドラインが存在しますが、これらのガイドラインは基本的に「足し算」の治療法に焦点を当てています。

例えば、高血圧の場合、一般的には運動・食事療法をはじめに行います。薬を1種類だけ処方し、それでも血圧が下がらない場合には薬の種類を増やしていくといった具体的なアプローチが取られます。このように、ガイドラインに基づいて治療を進めると、薬の数がどんどん増えていく傾向があります。

―薬を飲みすぎるとどうなる?

①副作用と薬物有害事象

「薬物有害事象」が起きてしまいます。これは、服薬した際に生じる、あまり好ましくない症状が出てしまうことや、意図しない兆候(検査値の異常など)が起きてしまうことです。薬といえば「副作用」という言葉をよく耳にしますよね。「副作用」と「薬物有害事象」は似た意味を持ちますが、「副作用」は明らかにこの薬で症状が起きているということがわかりますが、「薬物有害事象」では、薬Aと薬Bと薬Cが影響してるかもしれないけれど、合っているかはわからない、服薬を中止してみたら、改善したので、薬の影響だったのかも?のような意味を持ちます。これは原因の薬物が特定できない場合も多く、ポリファーマシーで問題視されています。

②老年症候群の発症

高齢者に特有の症候群である「老年症候群」は、薬の服用によって引き起こされることが多々あります。高齢化に伴う臓器の低下により、下記のような症状がでます。

・急性的な症状
めまい、息切れ、ふらつき、転倒など

・慢性的な症状
ADL(日常生活動作)の低下、認知機能の低下、脱水、変形性関節症、体重減少、不眠、抑うつ、記憶障害、せん妄など

薬の服用によって、これらの症状が引き起こされることがあります。特に食欲低下の増加やふらつきや転倒の増加といった症状がよく見られます。実際に、食欲低下は薬の副作用によって引き起こされることが多いことが分かっています。

―減薬するコツは?

ポリファーマシー問題に取り組む際、「適正化」がキーとなります。処方を見直す際は、単に薬の履歴や病名、検査値を把握するだけでは見直しが不十分です。患者さまの生活の側面も重要な要素となります。例えば、運動を十分に行っているか、栄養状態は良好か、生活環境は適切か、薬の正しい摂取ができているかなど、生活に関わる要素も考慮する必要があります。特に独居している場合は、自身で薬を服用していない可能性もあるため、生活環境の影響も考慮すべきです。

つまり、ポリファーマシー問題に取り組む際には、薬の情報だけでなく、患者さまの背景や生活に潜む問題にも目を向けることがポイントです。高齢者の場合、認知機能やADL(日常生活動作)、抑うつ傾向、栄養状態、生活環境などの要素を総合的に評価することが必要です。また、患者さまの背景情報を基にポリファーマシー問題をチェックし、問題があれば介入する必要があります。減薬をするには、このようなアプローチを薬剤師が取ることが求められています。

―電子おくすり手帳に期待すること

電子おくすり手帳には、多職種間での情報連携が簡単に行えるプラットフォームとなることを期待しています。

現在、薬局薬剤師は訪問薬剤管理指導や居宅療養管理指導を行った際に報告書を提出する義務があります。本来は、複数の職種間での情報連携が必要ですが、実際にその報告書は、医師やケアマネージャーにしか送信できていません。そのため、多職種連携を可能にするフォーマットが必要とだと感じます。それを電子おくすり手帳で実現できたらポリファーマシーの対策を講じやすくなるかもしれせん。

また、情報連携の手段にも問題があると感じます。現在、薬局から病院に服薬に関する情報を送るときは、FAXでの送信がほとんどです。他社が提供しているシステムも一部ありますが、これは薬局から病院に報告書を一方的に送信するだけで、医師はコメントができません。このように情報連携をする手段に不便さを感じています。電子おくすり手帳が医師と薬剤師の情報連携の手段として役割を担えれば、よりスムーズな連携が実現でき、ポリファーマシーの問題解決に繋がることを期待しています。

―研修の感想

溝神先生ありがとうございました。ポリファーマシーの問題には多くの課題があり、harmoでは電子おくすり手帳の側面から何が実現できるだろうと考えさせられる良いきっかけとなりました。今回の研修を受けて、複数の医療機関を受診することや処方意図の把握の難しさ、患者さまによる必要以上の薬の要求、高齢化による薬の増加などがポリファーマシーの大きな要因であることがわかりました。

私は電子おくすり手帳がポリファーマシーの問題解決に向けた有力な手段であると感じています。溝神先生が仰る通り、もし電子おくすり手帳で情報連携を促進することができたら、医療関係者間のコミュニケーションを円滑にできるのではないかと思います。処方意図や服薬情報の一元化によって、患者さまが複数の医療機関を受診した際にも、必要な情報が適切に共有されることが期待できます。

また、電子おくすり手帳の存在が、患者さまの必要以上に薬を要求してしまうことに対しても役立つと考えています。処方の根拠や意図が明確に記載されることで、患者さまが安心感を得つつ、不必要な薬の処方を避けることができます。さらに、医療機関がガイドラインに基づく治療を行う際にも、電子おくすり手帳を使って患者さまの適切な健康情報の提供や、薬剤の調整を支援する役割を果たすことができるかもしれません。

今回の研修を通して、電子おくすり手帳はポリファーマシーの問題に対して多くのメリットをもたらす可能性があると感じました。複数の医療機関での情報連携の円滑化、処方意図の明確化、患者さまの安心感の向上などが実現すれば、ポリファーマシーの問題を効果的に解決する一歩となるかもしれません。私は、harmoを通して電子おくすり手帳が世の中で役立つ存在になると信じています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?