PHRの活用から生まれる心の通ったコミュニケーション | 滋賀県 みのり薬局 村杉 紀明先生
インタビュー実施日:2022年8月30日
2014年より県をあげてharmoおくすり手帳の導入を推進してくださっている村杉紀明先生にお話を伺いました。患者さんの思いに応えコミュニケーションをする中で大切にしていること、薬剤師の役割や医療DX、harmoに期待することについてお話をいただきました。ぜひご一読ください。
※この記事はインタビューした内容を元に編集しています。
患者さんとのコミュニケーションで大切にしていること
―――患者さんとのコミュニケーションで大切にされていることはなんですか?
患者さんの思いに応えることにこだわっています。例えば、本人が不安に思っていることや、どういう生活をしたいと思っているのか、暮らしの生活背景などを踏まえた本人の思いをまず受け止め、伴走する。
それに寄り添うことができるように指導をしたり、助言をすることに注力して対応しています。単に情報を伝える、指導する形にすると、重要情報は記憶にとどまることなく出ていってしまうことが多いためです。
harmoは、日頃から使う身近なアプリであるため、必要に応じて必要な人に提供できるものだと思います。PHRといわれる様々な情報が、そこに付与されていき、自身の抱えている健康問題や、新たに取り組み始めたような活動を伝える手伝いしてくれる。人と人とのコミュニケーションのなかで共有できる頑張り記録というか、歴史。
これまではほとんどお互いの記憶で話していたものが、体重記録みたいな感じで「昔に比べてここは増えていた」「こんなことがあったよね」など、心の通った会話ができるのではないかと思います。
従業員の挑戦を応援する
―――「コミュニケーションを大切にする姿勢」と「経営の観点」はどのように両立されているのでしょうか。
すごく難しいことです。日々の業務があるため、業務を効率的にしていかなければいけないことはもちろん、業務に追われてしまうこともあります。しかし、医療は人々をより健康にしていくミッションを背負っています。そのため先を読むことを常に意識しています。
例えば調剤報酬改定や医療計画、健康づくり、介護保険など。2年後、4年後、5年後の先を読むということは、非常にこだわっています。国の施策上、短い準備期間で対応を迫られることもありますが、常に先を考えておくことで、対応も余裕を持ってできますので、経営者として力を入れています。
もう1つが人への投資です。余裕を持って対応できるようにしていかないといけないのは当然のことですが、なるべく従業員が挑戦する機会や役割を担ってもらう立場になれるようよう応援しています。
―――挑戦する機会というのは具体的にどのようなものでしょうか。
例えば、特別養護老人ホームやグループホームで施設の方々と積極的に話ができるとか、患者情報の入手ができるとか。本人で考えてやってもらいます。それ以外にも、勉強会の提案、地域の様々なネットワークへの参加の後押しなどもしています。
自治会や老人会みたいな人々が集まる機会に顔を出すなど、薬局はもっと地域の住民にできることあるのではないかと考えて、実際にそういうコミュニティのところに出かけて提案をしていったり、人間関係づくりができる機会を得られるよう応援をしています。
多職種連携や、地域の人材資源を動かしていく視点としては、日頃から薬剤師会のような団体の方々とコミュニケーションをしっかりと取って、どこが問題・課題でどういうようにしたいのかっていうのを一緒に考えていくようにしていきます。そういったご縁で、我々のできることをアピールして同行させていただくこともあります。
医療DXのスピード感と価値の理解
―――医療DX、という言葉も多く聞かれるようになってきました。
医療業界というのは、DXを押し進めるスピード感が求められている一方で、患者の個人情報などを取り扱っているため即座に対応できない部分が多々あります。例えば、薬剤師目線で言うと、病名とか、検査値とか、入退院の情報、 様々な医療情報、バイタルと生活習慣、運動量、睡眠予防接種記録といったような。個人の健康記録などが入手できれば薬剤師のできることが増え、価値が高まるということになります。
住民・患者さん目線では、医療の専門職とのやり取りが効率的になります。また必要な情報を必要なときに確認できる価値も手にすることができます。こういった価値は、医療DXのインフラ整備をスピード感を持ってやらないとできないことで、その価値を医療従事者と患者さんの双方で理解していくことも必要です。医療従事者としてのメリットと、患者さんとしてのメリットを合わせたものが「価値」だと理解してもらうことが、一体的かつ効率的に進めていく上で大切なことだと思っています。
薬局だからこそ生み出せる価値
―――こういった環境変化のなか、薬局だからこそ生み出せる価値は何だと思われますか?
人と人との関係性というところに尽きると思います。 画面からは見えない表情や、声のはりなど。構えずに、普段の自分でお互いに接することができるというところが対面の価値であると思います。
一方で、多様化している社会なので、オンラインの活用により対面でのコミュニケーションもより質が高まっていくのではないかと考えています。
薬剤師には4つの役割があると思います。「医薬品の供給」「服薬支援」「薬学的管理」「職種関係」の4つです。
「医薬品の供給」は、モノを渡すだけではなくてその人に必要な情報も渡します。もちろん、双方向コミュニケーションがないと、必要な情報は分からないのでお話します。
「服薬支援」は、薬を塗りやすくしたり、使いやすくしたりすることです。例えば、発熱したときのロキソニンを飲むタイミングなども変わってくるのですが、使うタイミングを支援するということも、服薬支援です。
「薬学的管理」は、効果を最大限にして、副作用を最小限にすることです。効果を最大限にしようとすると、飲み方や飲み合わせを考えないといけない。患者さんの暮らしによって必要な注意事項は変わってくるので、これも対人業務の中で非常に重要です。
「職種関係」は必要な情報を他医療機関と共有したり入手したりすることです。それ以外にも地域包括支援センターに情報をつないだり、電子お薬手帳や業界情報を入手して勉強するとか、そういうような形の職種です。
これら4つの役割を患者さんに日常的に分かっていただいて「地域のここに薬局があります」「薬剤師がいます」というように、皆さんに常に手を振っておくのが大切です。
患者さんと医療従事者の双方で健康情報を活用
―――患者さんや住民の方も、自分の健康情報(PHR)をきっかけに、薬剤師の先生に相談できますね。
薬剤師の役割を有効活用したい場合、 自分の伝えたい情報や自分の健康情報を保持して活用する必要があります。そのためにツールを活用することが大切です。
例えば「運動するようになったよ」と声をかけられた場合、1,500歩の運動量だということが数値ですぐに分かる。スマホを見せてもらうだけで、この期間にこの量で飲んでいる、ということが瞬時に分かる。ツールを活用することが、コミュニケーションの手助けになるのは間違いないです。
―――医療従事者側だけではなく、患者さんにも使っていただく。健康情報は双方で使わないと成り立たないものだなと思うのですが、どう思われますか。
そうですね。「自分の身体は自分が1番よく知っている」となってしまうと、医療従事者がその情報を活用するのが大変で苦労するところです。
楽しいツールでできるのなら、そういった方にも使ってもらえますよね。やっぱりツールが使いやすいか、見やすいか、というのはとても大事です。
これからのharmoへの期待
―――これからのharmoに期待されていることを教えて下さい。
企業として取り組まれているところに対して、すごく勇気づけられる部分があります。
具体的には、国の検討会や製薬企業との情報連携を日々行っているところは、ぜひこれからも続けてほしい点です。加えて、使っている人たちが使いやすい「アプリの価値」の追求にもとことんこだわってほしいと思います。
また、住民が、健康行動や医療に主体的に取り組んでいくことを応援するツールであってほしいです。薬剤師も常にその住民・国民に寄り添っていくので、寄り添っていく薬剤師にとっても使いやすいツールであってほしいと思います。
そして、ぜひそのようなマインドを一緒につくっていきたいです。そのために、今も行っている薬剤師からのヒアリング、使っている利用者のヒアリング、さらに国が求めているような医療DXを含めた今後の国民に対しての医療の提供体制についてのヒアリングも行ってほしいです。
その中で見出した新たな価値の提案がPDCAという形でぐるぐる回っていくような、立体的に取り組んでいくようなイメージを思い描いています。harmoではすでに取り組んでいただいていることかと思いますが、今後ともそういうような形で一緒に取り組めたらと思っています。
―――貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!