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【ゲーム感想】真昼の暗黒 (2018)

はじめに

 『真昼の暗黒 / Darkness at Noon』は、隷蔵庫氏が運営する個人サークルSummertimeが2018年に公開した、フリーのノベルゲーム。ティラノゲームフェス2018グランプリ受賞作品。公式サイトには「このゲームには残虐な表現・性的な表現が含まれています。15歳以下の方はプレイをお控えください。」という注意喚起が記載されている。

・公式サイト

STORY
2028年・多摩ニュータウン。
あの頃はそれなりに楽しかったし、平和に暮らしていた、と思う。
だけど、お姉ちゃんが消えてから……全ての歯車が狂い出した。
お父さんもお母さんもどっか行った。大事な人はみんないなくなっちゃった。

その代わりに、先生が現れた。とても優しくて温和な人なんだ。
私のこと、殺人犯から守ってくれるかな?
仲良くできるかな?

私のこと、見捨てないでいてくれる?

Summertime, 「真昼の暗黒」, http://summertimeinblue.net/mahiru/

総評 (※ネタバレ無)

 フリーゲームとは思えないほど凝った作りのノベルゲーム。ゲームを起動すると、まず初めに古いPCのデスクトップを模した画面が出てくる。この時点でただならぬ予感はしていたが、明確な説明もないまま手探りでゲームを進めていくと、このシステムに込められた意味が判明するという仕掛け。お世辞にも操作性が良いとは言えないが、サスペンスものとしては、謎を解く=PC内のファイルが開放されていくというアイデアが非常に面白い。
 姉の失踪事件がストーリーの起点だが、妹である少女の視点では謎だった部分が別の視点から真相を明かされたり、ゲームらしいシステムをうまく活用しているのが好印象。
 本作のジャンルはサイコサスペンスであり、公式の注意文の通り過激な表現が多分に含まれている。個人的には、R-18の中でもキツイ方に相当すると感じたし、間違いなく人を選ぶ作品ではあるが、そういったものに耐性があればプレイして損はないと思う。
 一方、登場人物の心情描写に関して、物語の中盤くらいまでは丁寧に描かれている印象だが、後半の方になると「ん?」と疑問を感じるシーンが多い。ストーリー上、キャラの精神が不安定になっているのが一因ではあるが、どうにも過激な表現が先行してしまっている感が否めない。これ以上はネタバレなので後述。

 以下、各章感想はネタバレ全開なのでご注意ください。






各章感想 (※ネタバレ有)

1. 前編

 ゲーム本編を開始すると、簡単な心理テストのようなものを受けさせられるが、とりあえず直感で回答。クリア後に確認したところ、回答次第で本編がミサ/第三者のどちらかの視点になるらしい。自分は普通にミサから。
 ミサ視点前編(EP1~5)は、全編を通して一番良くできていると感じたパート。サスペンスとしての展開より、小学五年生の少女・昼間ひるまミサの視点で描かれる物語が面白い。ノスタルジックな団地の風景、多感な年頃の複雑な内面等、テキストから感じられる繊細な描写が秀逸。逆に、失踪事件についてはわからないことが多すぎる。EP5終了後、ぶつ切りで唐突にデスクトップ画面へ戻されたのは流石に面食らった。エピソードリスト開いたら第三者視点を選択できたので続行。再テスト受けなくていいのは仕様?
 第三者視点前編(EP1~5)は、連続誘拐事件の真相解明編でもある。犯人・暮方くれがたかずによる犯行の手口が明かされる。意外だったのは、暮方の人間味溢れる一面。ミサ編では常に温和な態度を崩さない余裕が感じられたが、死体が見つかって焦ったり、ミサに内心毒づいたりと、感情表現が豊か。視点によってキャラの印象が変わるのは、マルチサイトの利点でもある。とはいえ、紛れもなく異常な殺人鬼であり、猟奇的な面も思ってた以上にガッツリ描かれている。死体に美しさを感じるのはわからないでもないけど、死姦はないわー。また、この視点ではサブキャラも掘り下げられる。一番強烈だったのは、ミサの姉・うたげの本性だろう。妹思いのおっとり系お姉さんという幻想が打ち砕かれ、自分の脳が一番ダメージを受けた瞬間。ただ、母親を問い詰めるシーンは正直ちょっと興奮した。

2. 後編

 EP6以降のメインは、前編から10年後の物語。ここからマルチエンディング形式で展開が分岐する。ちなみに、前編・後編という呼称は自分の適当な区切り方で公式ではありません。あしからず。
 ミサ視点の後編は、ミサではなく「深沙」として描かれる。ここがストーリーの肝で、精神的に不安定な深沙は事件当時のミサをもう一人の自分(別人格のようなもの)として扱っている。自分の感覚では、はっきり言ってこういう描写は好きではない。というのも、10年後の深沙がミサと同一の存在であると認識しづらくなるからだ。深沙は利発的な少女の見る影もなく、薬物に溺れ社会生活が困難な状態に陥っている。せめて、10年の間に何があったのかちゃんと説明してほしい。唐突に出てきた深沙はどちらかといえば新キャラの感覚に近く、その後の展開にもあまり興味が持てなくなってしまった。時間的な分断に加えて、精神ごと分断されちゃったら、それはもう別キャラでしょう。良かったところといえば、血まみれ深沙の一枚絵が美しかったぐらい。最後の選択肢で事実を公表する/しないを選ぶことにより、エンディングが分岐する。熱が冷めきっていたのでどちらでも良かったけど、暮方を困らせたかったから初見は公表するを選択。
 第三者視点の後編は、暮方が少年時代に起こした傷害事件についても描かれている。この地区治安悪すぎだろ。人格形成や性的嗜好に大きな影響を及ぼしたであろうことは想像がつくが、それにしても描写がねちっこくて気が滅入る。10年後の深沙との関係は父親代わりとして、小言を言いつつもそれなりにうまくやっている。最初は義務的だったかもしれないが、風呂場でとっさに深沙を助けた行為は父性の表れかと。こういう関係性が見たかった。EP9?そんなものはない。エンディングは二人での逃避。
 EP9についても一応触れておくと、暮方と深沙のキツイSMプレイです。以上。……マジで何のために入れたの?「事件の記録をゲーム化して公開する」という作中設定にもそぐわないし、作者がそういう趣味だからといえばそれまでだが。それも踏まえて、「後編は本当に必要だったのか?」と大きな疑問を感じる。総評で述べた通り、前編に比べて後編は心情描写が薄く、「痛そー」「気持ち悪ーい」といった感想しか出てこない。ストーリー展開があくまで予定調和で意外性に乏しかったからこそ、キャラクターにフォーカスしてほしかった。ストックホルム症候群拗らせてメンヘラ化したミサなんて見とうない。暮方に至っては、最後の最後でドMの変態の印象植え付けられてかわいそう。せめてネクロフィリアとしての矜持を保ちなさいよ。これだったらいっそ、「契約」シーンでエンディングに入っていた方が流れとしては不満がなかった。

おわりに

 まとめると、前半は優れたサイコサスペンスで、後半は性的倒錯者向けのポルノビデオくらいの隔たりがある。ただ、注意すべきなのは、これが超少数派の意見であるという点。他人の感想を読んでみても、怖いくらい絶賛しかされてなくて。だからこそ、この記事を書こうと思ったわけだが。サイコパスの描写に執着する自分が異常なのか……?あとは、ゲーム内で明かされる情報が断片的だから、受け手が都合よく解釈している部分もあるかもしれない。
 ごちゃごちゃ言いつつ、フリーゲームの枠組みを超えるほど、良くできた作品であることは間違いない。ファイル開放システムはワクワク感が味わえて楽しい。

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