酒
「また会いに来たのかい?」
彼は言う。
着物を着流した男性。彼は酒。
「体に良くない」
「知ってるさ」
言葉とは裏腹に、彼は僕の酒器になみなみと液体を注ぐ。
朱い酒器に収まったそれは、強い香りを上げて僕を誘う。
「どうぞ」
「どうも」
彼と僕は互いの酒器を持ち上げ、乾杯した。
口の中を潤すそれは、喉を通ると、炎に変わる。
首の内側を焼かれる感覚がたまらない。
僕はその倒錯に酔いしれる。
「そろそろ、やめた方がいいんじゃないか?」
彼のへらへらした声が聞こえる。
僕はそれにからからと適当なことを言う。
「もう駄目だな」
彼が言った。
手に持った酒器から液体があふれ出し、僕を呑み込んだ。
僕はその中で溺れながら、けらけらと笑う。
素面に戻ることは、二度とないだろう。
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