桜
緑の芝生、青い空。そして、淡い桃色をまとった女性。
後ろ姿の彼女は、桜。
「人間は私を儚いものというけれど」
彼女はくるりと回り、僕に顔を向ける。
「君たちの方が儚いよ」
憐憫のこもった目で僕を見つめる。
「君は明日にでも死ぬかもしれない」
人間は唐突に死ぬものだ。
理由は様々だろう。事故、病気、自殺。
「私はあと何度、君の姿を見ることが出来るだろう」
僕はその問いに答えられない。だから、代わりに言う。
「だけど、僕は今、ここにいる」
「そうだね」
彼女は僕の頭をくしゃりと撫でた。
「だからこそ、君たちは儚く美しいんだ」
強い風が吹く。
僕の身体がほどけて、空に溶けた。
僕は彼女を置いて、刹那的な時を終えた。
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