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終の集いし月の終1 2020.1-2020.6

Twitter上にてその月の終わりに連載している140字小説。2020年1月から、2021年12月まで連載予定。

ここでは第一話から第六話までを掲載しています。


【第一話:2020/01/31】

 今日は一月の最後の金曜日。終の金曜日ですね。ここはどこか?ここは「終」が集まる場所。私は誰か?見た通り平凡な男ですよ。ただ、体質上「終」と出会うことは多いですね。「終」とは何か?では、お聞かせしましょう。「終」の物語を。なに、140字で収めますから。珈琲を片手にお付き合いください。

「また、来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第二話:2020/02/28】

 夜が来た。薄い月が空に昇る。今日を振り返る。起床、食事、外出、風呂、読書。それが、「今日」成し遂げたことだ。時計の針は進む。あと四時間で「今日」は死ぬ。人間は「今日」を生んだ。そのせいで、毎日「今日」が死ぬ。人は「今日」死体を踏みながら、また、明日も「今日」を殺す。

「これが、みなさんにとって、最も身近な『終』なのではないでしょうか?実を言うとね、私の今いる場所は23:59しかないのですよ。ずっと、23:59。不思議でしょう?さてさて、無駄話が過ぎましたね。また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第三話:2020/03/27】

 中学校の卒業式、幼気な少女に手を振って一年。偶然町で見かけた君は男と手を繋いでいた。花見に来た仲睦まじい恋人。僕はそれを遠くから見ていた。桜が咲いているのに君は男を見ている。たった一年。だけど、男を見上げる君は美しい女そのものだった。僕の知らない間に、君は少女の季節を終えていた。

「…。ああ。少し考え事を。人って不思議ですよね。十年経とうが二十年経とうが、その人はその人にしか成り得ないのに、たった一年で見知った彼女に終が訪れているのですから。貴方も、ああ、思い当たる節がおありなんですね。それでは、また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第四話:2020/04/27】

 男は机の上の皿を睨む。皿には異様な臭気を放つ植物。これを食べろと言うのだ。これは厚意。親が子を思う気持ちだ。だが―。男は天地を逆にした容器を手に取る。蓋を開く。一滴雫がこぼれた。それで終わり。パセリが山盛り入った皿。唸る男の手には空になったドレッシングの容器が握られていた。

「なんですか、その不服そうな顔は。もっとまじめな話をしろ?なにを言ってるんですか。これだって立派な終の物語ですよ。とっても身近な、ね?ご理解いただけましたか?そうですか。それではまた、来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第五話:2020/5/29】

 ある一台の青い自転車、それは持ち主に思いをはせていた。明るい青年だった。遅刻しそうな彼を大学構内に運んだ。時に彼の恋人を背に乗せた。長い時を共に過ごした。なのに―。ハンドルには廃棄許可の紙。それは彼に捨てられた。けれど満足だ。己に言い聞かせる。やるせなさを伴いながら何度も何度も。

「物って不思議ですよね。全てが人間のために作られている。つまり、人間が不必要に思えば、彼らに存在価値は無くなるのですから。我々は簡単に彼らに終を与えてしまう。へぇ、知りませんでしたか。罪深いですね。それではまた、来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第六話:2020/06/26】

 湿気る、黴る、気が滅入る。そんな人間らしい理由でそれは嫌われる。毎年この国に訪れるそれ。好かれていないことは知っている。だが人間にどう思われようと、それが進路を変えることはない。ただ在るだけだから。それは今年も存分に忌み嫌われ、この国を去った。人々は言う。梅雨が明けた、と。

「終わる、という言葉には未練が含まれている、そう思うのは私だけでしょうか。どこか名残惜しそうに聞こえませんか?だから私は『梅雨が明ける』という表現を残酷に思うのです。明ける。その言葉には喜びしか見えないから。さあ、それではまた来月の終の金曜日にお会いしましょう」

<続く>

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