作_はれのそら

【バレンタイン想定】朗読用小説

バレンタイン向けに書いた過去作の短編を流します。朗読の事を考えて、人称をぼやかします。また近日中、バレンタイン用のシチュエーションボイス台本も書く予定です。

規約

※改変自由です(公序良俗の範囲内で)
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本編 「っぽいもの」 読了時間 5分程

登下校の学生達が、ちらほらいる繁華街の大通り。匂う訳もないのに、ほろ苦いココアパウダーの香りが女子生徒から漂ってくる気がした。下校中の私達2人は、寄り添うように歩いている。

「そーいえばさー、今日バレンタインデーだねっ!」よしっ、この辺で渡そう。私、勇気出せ。
「そうだな……にしても、君はいつも元気だな」ブレザー前にマフラーを突っ込んだ彼が言う。
「あなたといるからだよ」心の中でドヤっとする。私がクサいセリフ言ったんだから、是非とも照れて欲しい。
「ふーん」
「も、もう!恥ずかしい事言ったのにスルーしないでよ!」
「ふふーん」  
「もうっ!……はい、チョコ」むむむ、スベッた分緊張せずにチョコを渡せてしまったぞ。
「ありがとう」私の恋人は表情一つ変えずに受け取った。板についた反応。ぐぬぬ。
 彼はプレゼントをしげしげと見つめた。
「相変わらず、表情がほとんど変わらないね。あなたは」
「昔から、そうだったから」
「ほーんと、つまんないのー」私はほっぺぷくぷく。

 付き合って半年たつと、変に落ち着いてしまう。
 私と彼の関係は、はじめの盛り上がりも終わり、スイートな甘さからビターで大人な関係に変化した。それでも今、ドキドキが足りない気がする。
 もちろん彼は好きなんだけど、マンネリ感もある。

 主な理由は……彼の表情。超のつくほどのポーカーフェイス。格好良くて、いつだってクールで、そういう所が好きだったりするけれど。
 私がまた歩き始めると……右肩に冷気があたる。
 あれっ、と横を向くと彼がいない。慌てて後ろを振り返ると……彼が立ち止まっていた。
「え!どしたの?」
「まって!」緊張しているのか、彼は声が裏返っている。
「はい!」
 彼は鞄からなにか取り出す。それは包装された、プレゼントらしき物体。
 戸惑う私に彼は近づく。
 え、なに……そのプレゼント?
 他の女からもらったの?
 もしかして、私と別れるつもり?
 ……そんなの絶対いやだよ。やだよ。
 はあはあと、目の前に現れた彼。2人の別れの場面を思い浮かべ、私はぐすぐす泣いていた。 

「これ……君に。俺が作ったんだ」
「へ?」
「バレンタインデーって、好きな人にチョコをプレゼントするんだろ」
「私にチョコを?」
彼はうなづく。
「……作ってきた」手作り!?
「嬉しい!」私が抱きつこうとするも……あれ、彼の様子がおかしい。
 指真っ赤。
 顔もマフラーで半分隠してるけど……耳真っ赤っか。さっきは普通だった。
「えいっ」と私は彼のマフラーを解くと……クールな彼が赤面して、びくびく震えていた。 
「う……うわー!」と彼は棒立ちになる。
 思わず、チョコをもらったまま……彼の手を握った。
 心拍数が上がる。
 私は普段と全然違う子供みたいな照れた顔にギャップを感じて……
 
 いつのまにか。
 
 ドキドキが余りすぎてしまった。
 
(了)

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