アル__2_

書き下ろし小説「アル」 第6話

第1話はこちら。

一行あらすじ

・アルの父親がキーらしい。

6

違和感。
イーの状況が状況の為、沢田が話す内容には口を挟まない事にした。
ただ、話しを聞くうちに疑問点が沸々と湧いてくる。

俺の父親について話しをするはずが、沢田は一向に父の話しをせずに俺やイーが付けていたVR機器(といっても、高性能過ぎて皮膚に付着していた)について説明した。

イーは寝室に寝かせている。よぼよぼの皮膚に白髪。
いくら錯覚していたといっても、同年代だと誤認して、無理をさせていた。
HMD……昔々はそんなデカくて不便なモノだったのか。

・どうやらすごく高性能で、複数の機能が使用できる
・高機能すぎて、どんな人でも機器を使いこなせていない。建築・芸術・武術・スポーツ・医術・コミュニティ・生活の知恵等々。ある程度は索引機能でなんとかなるそうだが……故障した場合、地獄になるようだ。
・イー向けに介助用のパワードスーツも配備していたそうだが、このスーツを利用したら、施設からの脱出が可能なため、老人に鞭を打つように介助なしで生活させていたようだ。
・視覚情報をごまかしていたみたいだ(イーや俺の外見・声を疑似映像でごまかした。ただ他の感覚……味覚や触覚、嗅覚は変えてない。だから匂いについては、イーから干し草のような加齢臭や……俺のタバコ臭い匂いがしたそうだ。ここでは吸ってないのにな)

沢田の説明を聞いていた俺は、徐々に昔の……父親について思い出し始めていた。
「VR機器外しちゃえば、指定した記憶の喪失も解除されているだろうし。沢田の説明が上手いからに違いないって思うけど」
「この参考映像、同時試聴してたけどほんとわかりやすい」
あ、やばい。自分の説明第一にしろって怒りそうだ。

「だろー、沢田お手製だからなーわかりやすかろー。そうだろー」
パーカーに付属した装飾の耳辺りをぐしぐしかく。服の関係か、動いた分顔が赤くなっている。
「なるほど。まともな奴なんだな」
「いや、違法ツールで作った脱法モノだ」
「そこは合法じゃねえのかよ」
「脱法って合法じゃないの?」
「合法だよ。お前の頭が一つ抜けてるから、きっとそうだ」
「だろー。健全だろー」
「ああ」沢田が単純な性格で良かった。いや、単純に単純なだけ。

だが、俺は単純な性格ではなかった。
父との事を思い出していくうちに、俺と父の間で深い確執が合った事を思い出す。

俺は自己紹介を嫌ったのだ。あの天井の文字を書いたであろう、自分の父親に。

医師になれなかったあの父の事を。

続く


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