アル__1_

書き下ろし小説「アル」 第2話

前回の話しはこちら

3点あらすじ


・主人公と男は、謎の施設に閉じ込められた。
・謎の少女が侵入し、『2人死ねば出られる』という天井の文字に真実味を増す。
・ただ、少女は主人公含め男達を知っているらしい。


2

俺とイーはある日気が付いたら、施設に閉じ込められていた。
どちらも共通して、前後の記憶はない。いや、違う。
正確に言うと、どちらも白衣を着た医師からこの施設に入る事を許可された。無理強いではなく、あくまでも自分の意思であったと記憶している。
「うんうん、アル。私もだ」
「イー?」
「確かに白衣を着ていた。ここが灰色な分、白は記憶に残るよ」
「だな」と俺はタブレットに覚えている限りの事を書き出す。
この謎の施設に入ってから俺達は、小屋内のタブレットの指示で以下の事をした。

・自己紹介しろ
⇒イーは旅行代理店の○○支店長。俺は外科医だった。接点はない。覚えてる限りは。
・体力が落ちない程度のトレーニング
・朝昼晩、小屋内にあるパイプ型の大型の機器から配膳される完全食を食べる
・完全食以外にも、お菓子や嗜好品のコーヒーが2人で十分な程の配給がされている。
・俺達の部屋の外へ通じているらしいウォーターサーバーから水を得たり、コーヒーを飲んだりした。(小屋内にある食器や服については、配膳口の近くにランドリーがあり、そこに全て突っ込んでおくと、服・食器を分けて整理してくれた。家に帰ったら絶対に持ち帰りたいか、仕組みをしりたい。なにより、煙草を吸わせて欲しかった)

「また書いたのか、アル?」俺よりも落ち着きのあるイーは呆れたように言った。
「ああ。整理の為にな」
「整理する必要ねえ……だって考える必要がないじゃないか」
「ん?」イー、何が言いたいんだ。
「だって、後数日でもう出れるじゃないか」
「……っても、本当かどうかわからないじゃないか」うるせえな。整理しないと落ち着かねえんだよ。

俺はタブレット内にもう一行書いた。


・数日前に近い内に外へ出る必要があるとタブレットから指示があり、その準備をしている

俺がせっかちなのかイーが落ち着いているのか。
イーの冷静沈着ぶりに俺は内心助かっていた。また、イーは身体が弱く、トレーニングも俺よりも遥かにできず、伏せっている事が多かった。
ただ、トレーニングの注意事項や食事に関しても、イーは出来なくてもいいと備考欄に書かれていた。
そう、俺達は当初こそ環境の戸惑いこそあれ、満足している。
身体が軽くなって、ここに来てから体力もつき、健康になった。ここに入る前は仕事詰めで運動なんか出来ず、イーもそうであるらしい。まあ、刺激的な何かはなかったけどな。
あの天井の印字も、発見した当初驚いた。
でも、しばらくして2人して苦笑いをする。
「アル……天井の奴……無理に決まってるだろ?」
「ふんっ。なんせここには2人しかいない……馬鹿にしやがって」
「ただ、気を付けた方がいい。……もう一人入ってくるかもしれないし」とイーは渋い顔をして言った。
俺も気にかけてはいたが、また元のような規則正しい生活に戻る。
天井の文字についても、日々の食事やイーとの他愛もない話しの中で埋没していった。
今の今までは。


「ねえ。これって……いや私はあなた達に伝えなきゃなんない事が」動転しながら、少女は2人に懇願する。
「ちょっと待て」イーは静止した。
「イー、どうした?」
「俺はこの子に見覚えがある。アルお前も知ってるはずだ」
「……俺も知ってる?」

続く

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