見出し画像

【5分で読める】続・その手紙は届かなかった

こんにちは。はれのそらです。
今回は諸事情で公開できていなかった短編を公開します。その手紙は届かなかったという短編の続編になってます。前作はこちら。

尚、文章は当時のままにしてます。が、ちょっと読みにくい指摘も受けたので後で変更しようかな……なんて思ったり。まあ、いつものように朗読できるようになってます。

規約

※改変自由です(公序良俗の範囲内で)
※商用利用の際は一報お願いします。(TwitterID @g_zcl)
※自作発言はやめてください(どこかにこちらのnoteへのリンククレジットお願いします)
※動画で投稿された場合、朗読者一覧としてリンクを貼らせていただく事があります

本編

書き出しが思い浮かばないね。
上手く書けない。
考えて書いても書き直して。
また考え直して、また書き直して。
この繰り返しで一つも書き終わる事もなかった。

長い文章が書ける人は素敵だ。
仕事柄、簡単に作れるだろうと言われても、
僕にはできない。
仕事を始めたのも、できないことへの憧れだった。

自分には書けない物を大切な人へ届ける仕事。
誇りをもって働いている。
あの子には、良い人過ぎて騙されやすいとか、もっと押しを強くした方がいいとか、搾取されやすいって言われたけど、僕の名前からして幸せになるんじゃないかと楽観視している。

あの子はとても賢いし素直でかわいい。
僕にはもったいないくらい愛らしい存在だ。
こう言うと、彼女は照れてしまう。
そんな彼女が大好きだ。

うん、これでいい。


母さんが昔父さんとの結婚を決めた秘密が、
父さんへ届かなかった手紙だったそうだ。
心底悩んだらやってみたらいいと言ってくれた。


なんて。

愛衣…………………母の名前。
緑郎(ろくろう)………父の名前。
母さんと父さんの娘である僕が、
似たような事を繰り返している。
奇妙だけど、確固たる縁を感じる。

だけどね。
書かないではいられなかった。
僕にとって大きな出来事が起こったんだから。

でもそのイベントの前にこの事も書いておかないと。
そう、元編集者の僕の結婚についてだ。

大人気作家と編集者なんて、当時では大きな話題。
編集の僕はバッシングを受けて仕事をやめてしまった。
でも、後悔はない。

パートナーとしての二人三脚。
同性同士の結婚も普及はしているけれど、まだまだ偏見も強い。
僕だけなら無理だろう。
でも、彼女となら歩いていける。
進んでいける。

そして今日。
病院できちんと診断された。
体外受精から僕の胎内へうつされた我が子の存在。
元気に動いてるんだって。

嬉しい。
僕達の未来。
今、僕の中でゆっくりと希望が育っていく。
しばらく休んだらまた復帰する。
子供の為だ。
僕も頑張って働く。

そうだね。
やっぱり手紙じゃなく、言葉で言おう。
母さんもきっとそうだったと思う。
迷いながら、自分の意思で行動を変えたはずだ。

どうしてわかるか。
根拠はないけど、娘だから。
なのかもしれない。


僕もそうしたいので、ここで手紙は終わりとする。


……書き上げた手紙をポケットに突っ込み、胎内に新たな生命の胎動を感じる編集者の女性は、愛する作家が眠る寝室へ静かに、しかしゆっくりと着実に向かっていった。


『その手紙は届かなかった』

その他の短編はこちら


こちらへのサポートは執筆促進の為の紅茶代などに宛てられます。紅茶とクッキーの相性は最強です。