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書き下ろし小説「アル」 第4話

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3点あらすじ

・少女の名前は沢田
・アルは沢田という名前に聞き覚えがある
・イーが吐血してしまった

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「おい、イー!?」アルは言った。
「思い出した……白衣の医者……この子のパパだ」
「白衣の医者って、俺達を施設に入れた奴か」
「そうだ……ぜーはー」イーは胸部を押さえ、苦悶している。
「施設の主ってわけか。ん?」
「早く外さないと!」沢田が怒鳴った。
「外すって一体何を?」
「あなた達が肌身離さず付けてるVR機器の事よ」
「はあ!?」
と、こちらが詳しく聞く間もなく、沢田はイーの後頭部を触り……
発色が変化して、透明な部分から幅広な薄い厚みの灰色の機器が現れた。

「おじいさんにこんな無理を……でも、薬は飲ませてるはずなのに」
同年代だと思っていたイーは、白髪のどう甘く見積もっても60歳は越えた高齢者だった。

そして、俺は少年でもなく、どう若く見積もっても30代前半のおじさんだった。まあ、煙草の好きな少年っておかしいよな、色々と。

機器やイーの件に驚きはした俺だったが、同時にこんな考えも思い浮かぶ。
少女と老人なら……トレーニングをして健康になった俺なら、2人を亡き者にして、施設から出られるんじゃないか?

おそらく、俺の体力的に、年齢相応くらいだろうと踏んでいた。
薄気味悪い、どす黒い思いが体中を巡る。

「薬……あれか。食事に入っていた変なカプセルは飲んでないぞ」イーが答える。
「あれには病気の進行を抑えるのと、記憶を一時的に喪失させる作用があったのに」
「……だからか、記憶がよみがえってくる。あの白衣の医者は……なんてことだ……」
「どうした!?」
「とりあえず、これ飲んで」と、沢田はパーカーの大きな正面ポケットから錠剤を取り出し、有無を言わせず、イーに飲ませた。

「……アル、聞いてくれ。あの白衣の医者は危険……とんでもないヤツだ。だが、なぜ私達2人が施設に集められ、奴が半死半生なのか」
ちらりと沢田に目を向ける。
「嬢ちゃん、ありがとう。そして、助けを求められているか……私にはわからないが、一つ思い当たる節がある」
「なんだ?」

続く

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