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【自動車】旧車との別れ【短編小説】

こんばんは。
今回は車をテーマに共同制作で短編小説を作りました!

共同制作者 熊右衛門さん

本編

この車は時代と並走していた。
6代目のサニー。B12型に10年乗った男は、宮城の海岸線を走行する。
今日、この車を手放す。
新車の購入を期に乗り換える。ラストランだ。
男は中古車買い取り店に着いた。

販売担当者はしんみりとした様子で話す。車をしげしげと見つめながら。
「本日はありがとうございました。しかし、事前に拝見させて頂きましたが……本当に大切に乗られてたんですね」
「ありがとうございます」男は感極まり、感謝しか言えなかった。
「ほんとうに手入れが行き届いていて……本職の方だったのでしょうか」
「いえ、違います……趣味であそこまでやってたそうです……今となっては確かめられませんが」
「B12、好きだったんですね。こまめにメンテナンスされていて……趣味でやってらっしゃるお話を聞き、愛情が伝わってきました」
「そこまで言っていただけるとは……ありがとうございます」
「30年……ですよね。あなたが10年、お父様が20年運転なされて……もう一時代を乗り越えてますよね」
サニーのシルバーのボンネットが鈍く光る。

この車はまず間違いなく、時代を乗り越していた。
父親も。そして私も。
私がまだ母親の胎内にいた頃からずっと。
男は当初の予定であった新車への乗り換えを次回にし、今回は電車を利用し徒歩で帰る事にした。
販売店のガレージの隅にあるサニーをゆっくりと見送る。

ふとサニーの外観が昔の朧げな記憶を呼び起こし。
男の脳内で、家族の思い出が色鮮やかに描き出され。
気付いたら、人目をはばからず泣き崩れた。
思い出の中のサニーはこれからも走り続ける。
しかし、今この車は時代を終え、長い旅が終わったのだ。
ーーありがとう。親父もきっと言ってるぜーー
そう思った瞬間。
じわりと男の涙腺が緩くなる。
男の泣き声がガレージ内で静かに響いていた。
(了)


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