晴凪

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晴凪

マイペースですが、小説を投稿します。架空鉄道の話題は、Twitterで @harenagi_ を見てくださいね。

マガジン

  • 晴凪の短編小説集

    晴凪が書いた短編小説を集めた作品集です。

  • 小説「淡紫色の季節」

    晴凪が書いた小説「淡紫色の季節」を収録しています。上下話で完結済です。

最近の記事

小説「淡紫色の季節」(下)

  6  やがて更に黒く染まった空の下に、宏樹がやってきた。きっと、彼の傍にいる愛犬のタマとの散歩が、主な目的だろう。 「よお、直人」  声だけは朗らかに、その彼は僕の元を訪れたのである。彼はタマの手綱を引いて僕の前まで来ると、そのまま手を合わすこともなく、墓を睨み付けていた。明らかに、死者を弔う態度ではなかった。 「どうだ、あの世は楽しいか?」  呟くように漏らした言葉に、恨めしさが窺える。 「あの世から見た俺の姿は、さぞかし愚か者だろう?」  彼が発する言の葉には、敵意

    • 小説「淡紫色の季節」(上)

      1  千里が、びくりと身体を震わせた。  彼女の息遣いは荒く、恐怖心を押さえ込む様にして、僕の手に汗ばんだ両腕を強く絡ませてくる。毅然とした印象が強い普段の横顔でさえ、不安げな顔色に染まっていた。 「センリ?」  今度は僕の声に驚いたのか、再び千里は声を上げて身体を硬直させる。予想外の行動に、僕まで驚いて懐中電灯を落としそうになったが、間一髪の所で堪え抜いた。その物体が生み出す、まさに機械的な光線が闇を照らしている。二人を包む冷たい風も、爽やかな虫の音も、夜空や懐中電灯の光

      • 短編小説「演劇部にようこそ」

         かつて私のいた世界には、【季節】など存在しなかった。ただ時間だけが流れていく――そんな世界だった。 それはこの残暑も変わることは無かった。何事も起こることなく、ただ早く時間が過ぎてほしい、それが私の唯一の願いだった。  今日も原点付近で彷徨いながら一日をやり過ごし、帰路へと向かおうとしたその時、君は私の前に顔を出した。 「……僕の恋人になってくれませんか」  突然、彼の口から言い放たれたその言葉に私は衝撃を受けた。しかも、私は意識的に他人との繋がりを絶ってきたそんな人間だ

        • 短編小説「夢境」

           ユメの国へ行ってくる。  お父さんが家から消えた日の翌朝、手紙が食卓の上に置かれていた。  ソフィアは書かれた文言を眺めながら、楽しそうに話している。 「ユメの国って、どんなところなの?」 「とても楽しいところだよ」  私は冗談交じりにそう答える。  幼いソフィアは、お父さんのことが本当に大好きだ。  お父さんも彼女の気持ちを汲み取っていたようで、出張で長い間帰れなくなるだろうと判断すると、必ずソフィアに向けた手紙を残していた。  家で会える貴重な時間には、

        小説「淡紫色の季節」(下)

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        • 晴凪の短編小説集
          2本
        • 小説「淡紫色の季節」
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