【超短小説】年雄とモデルの様な人

年雄はモデルの様な女性とすれ違った。

顔が小さく、手足が長い。

オシャレなファッションに身を包み、綺麗にテンポ良く歩く。

モデルの様な人。

恐らく、年雄と話をする事など一生ない。

話しかけもしなければ、話かけられる事もない。

住む世界が違う。

雲の上の存在。

モデルの様な人。

・・・?

いつからだろう?

いつからモデルの様な人を見ると、住む世界が違うとか、雲の上の存在だとか思うようになったのは。

モデルの様な人と話をした事もなく、上から物を言われた事もない。

いつの間にかに、住む世界が違って、雲の上の存在になっている。

年雄はファッション誌を見た事がない。

なので、モデルさんに合わせて服を買った事もない。

なのに、いつの間にかに上の存在。

謙虚に生きるとはまた別の話。

年雄は勝手に自ら下に行き、モデルの様な人を上にしている。

そして、負けた感を出す。

負け癖がついている。

モデルさんならまだしも、モデルの様な人を見て、雲の上まで一瞬で持ち上げてしまった。

すれ違ったモデルの様な人も、モデルを目指してないかも知れない。

スタイル良く生まれたせいで、モデル、モデル、と言われ困っているかも知れない。

ただすれ違っただけで、知らないおじさんに、雲の上まで上げられたら迷惑だろう。

年雄の負け癖。

よくない負け癖。

年雄は遠くから、すれ違ったモデルの様な人に"ごめんなさい"と頭を下げた。

その日の夜、年雄はテレビで、モデルの様な人はモデルだったと知る。

浜本年雄40歳。

雲の上からサインを貰っておけば良かった。

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