【超短小説】年雄の忘れ物

年雄は仕事に向かう途中で、忘れ物をした事に気づいた。

仕事で使うゴム手袋だ。

年雄は忘れ物が多い。

そんな自分に"チッ"と舌打ちをして、イライラしてみるが、治らないので仕方がないとも思っている。

年雄が忘れ物が多いと実感したのは、小学3年生の頃だ。

担任の先生が、忘れ物シールを作った。

忘れ物をすると、自分の名前を書いた忘れ物シールを、教室の後ろに貼ってある紙に貼らなくてはいけない。

その紙は、年雄の名前が書いてある忘れ物シールですぐに一杯になった。

えんぴつ、消しゴム、教科書、体操服・・・。

なぜか忘れてしまう。

忘れ物シールを貼る事を忘れた事もあった。

ある日、担任が「年雄は忘れ物チャンピオンだ」と言ってクラス中から拍手をもらった。

年雄は両手を挙げて、「やったー!チャンピオンだ!」と喜んだが、あれはバカにしていたのかもしれない。

その後、忘れ物が感染ると言って、皆んなから席を遠くされたが、あれはイジメだったのかもしれない。

あの時は気づかなかった。

でもいいや。

あの時の担任も同級生も全員忘れたから。

浜本年雄40歳。

忘れ物も、時には役立つもんだ。

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