【超短小説】年雄とポケベル

年雄が高校生の頃、ポケベルが流行った。
ポケベルによって、個人から個人に連絡が取れる。
画期的だった。

それまで友達と連絡を取る手段は、家にある固定電話だけだった。
一家族に一台。そんな時代だった。

電話をかけると、大抵親が出る。
「〇〇と申しますが、〇〇さんはおられますでしょうか?」
失礼のないように挨拶をする。
電話は緊張するもんだと思っていた。

彼女に電話する時なんかは、更に緊張は増した。
父親が出た日には最悪だった。

「〇〇と申しますが、〇〇さんはおられますでしょうか?」
「誰だお前?いねーよ!二度と電話してくんな!」
で切られた事もある。

ポケベルは画期的だった。

でも年雄は買わなかった。
周りの友達がみんな持ち始めた時にも、最後まで買わなかった。
理由は、必要ないからだ。
画期的だと思ったが、必要はない。

家にいなければ連絡はとれないが、別に問題ない。むしろ、"何処にいても連絡取れないといけない"という方が問題に思っていた。

でも、時代の流れは凄まじく、"ポケベル持ってない方が悪い"と友達からの圧力がかかる。

年雄は、大分遅れてポケベルを買う事にした。
せっかく遅く買うのだから、最新の1番いいやつにしようと思い、「ジャンケン機能付きポケベル」を買った。
誰も持っていない奴だ。

ジャンケン機能とは、ポケベルと自分でジャンケンが出来るという、画期的な奴だ。

買った日に皆んなに言われた。
「その機能いらなくね?」

浜本年雄40歳。

今も、画期的だがいらないやつをよく買う。

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