【超短小説】年雄と棟上げ

そういえば、上京してから一度も棟上げを見た事がない。
年雄は思った。

棟上げは、建物の基本構造が完成した時、棟木を上げる際に行われる儀式らしい。
地方によってやり方は違うらしいが、年雄の地元では、家の主人が屋根から紅白餅や小銭をばら撒くやり方だった。

家の骨組みが完成間近になると、小学生だった年雄達は棟上げがいつ行われるかで話あった。

「今度の日曜日らしい」とか、「ばあちゃんが言うには、大安の日らしい」「大安ってなんだ?」とか、毎日情報交換していた。

年雄達の目的は、紅白餅ではなくお金だ。

投げられる小銭は大体が5円玉。その中に時々50円や100円が混じっている。

当時流行っていた"ビックリマンチョコ"を買う為に年雄達小学生は必死になって棟上げに行っていた。

最大のライバルはおばあちゃん軍団だ。

両手を大きく広げて、大人の力で一気にかき集める。
その勢いに押されて隣の田んぼに落とされた事もある。
大人も子供も関係ない。純粋な奪い合い。

今思うとよく喧嘩にならなかったなと思う。
やっぱり根底には、お祝いの心があったのかな。

年雄は小学生の頃思った。
"いつかは自分が屋根の上に登り、紅白餅や小銭を撒くんだろう"と。

浜本年雄40歳。

未だ棟上げがあれば、一目散に小銭を拾い集める精神の持ち主だ。

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