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【アウヴェス劇場・開演】ラ・リーガ第23節 FCバルセロナ対アトレティコ・デ・マドリー マッチレビュー

スターティングイレブン

両者の勝ち点差はたったの1。順位が入れ替わった先にはCLへの切符。これは負けられない戦いではなく、勝たなければならない戦いなのだ。

という煽りを決めるにはいささか遅くなりましたが、このパルティダッソのレビューをゆるゆるとやっていきたいと思います。


なんか見たことあるよね

既にデビュー済みのフェランとアウヴェスに加え、冬の移籍市場でアダマ・トラオレ、オーバメヤンの2人をチームに迎えたバルセロナ。チャビが組んだスタメンには、さっそく3人の新戦力の名前があった。
 
契約問題で干すだの使うだの色んな話があるデンべレはベンチに置かれ、久しぶりにガビが左のWGに入ることに。この3人+ガビのサイド起用は、チャビのプランにおいて欠かせないものだったことがのちに明らかになる。

対するシメオネは前回対戦で輝きを放ったフェリックスを中心にプランを組んできた模様。前半のアトレティコは主に442に近い形でゲームを進めていたが、ここではあえて433の表記にしている。というのも、この対戦でシメオネのチームが見せた振る舞いはどこかでみたことのある「あのチーム」に近いように感じたからだ。

既視感の正体

それはズバリ、バルベルデが指揮していた時期のバルセロナだ。メッシとスアレスという破壊的なコンビを最大限に活かすために、バルベルデはこの2人の守備者としての役割をほぼ0にするという決断を下した。これは元から中盤に4人の選手を配置したときだけでなく、433が基本システムになってからも変わらず見られた光景だ。

普通、433から442への移動を行う時は両サイドのWGが後退し、IHの1人が前に出て2トップを形成する。個々人の移動が少なく、大きくポジションを変えずにすむためだ。しかし、メッシをサイドの守備で大きく下がらせるなんてことをできる監督は世界を見渡してもなかなかいないだろう。もしかすると1人もいないかもしれない。

メッシをこんなところまで下げられる?

そこでバルベルデはメッシとスアレスを2トップとして置き、左のWGのみが撤退する形で4-4のブロックを形成することにした。守備をさせられない選手が2人いるのだから、その2人を前に残すのは間違った選択ではない。問題は、この2人が守備をしないデメリットを踏み倒すだけの力を持っているかどうか。

いわば440システム

基本的に、この収支は+に傾いていたと言っていい。というか、そうでなければリーガ制覇なんてできるわけがない。アンフィールドで90分を過ごすまでは、このチームは最強に近かった。

そう。バルベルデの導いた「8人で守る」という答えは、90分通して死ぬ気で向かってくる相手には通用しなかったのである。この試合ではアルトゥールではなくビダルが起用され、より安定感が増したはずの8人のブロックは幾度となく襲い来る赤い波に無残にも粉砕された。そして1年後にも、その光景がリスボンで繰り返されたのであった。

天秤はどちらに傾くのか

この2チームに共通していたのはDFラインから質の高いフィードが送れること、そして強烈なカウンタープレスを標準装備していたことの2点。ユニフォームの色?そんなのはどうでもいい。ようは、2人が守備をしないことによるデメリットが最大化し、2人にボールが入る機会が減ることでメリットが少ないまま試合が進んでいったのだ。

そして話は今回の試合に戻る。チャビのチームはピケ、ブスケツ、そしてアウヴェスが後方に控え、ボール出しは万全。そして失ったらプレスをかけろ!という指令はチームの大原則のひとつである。チャビが就任して間もないタイミングでは、ブスケツの脇に落ちる相手アタッカーに対してCBがどこまでもついていく姿勢を見せていたほどだ。それは勇敢というべきか、それとも無謀とみなすべきか迷うほどに徹底されていた。

つまり、バルセロナはこの2つの特徴をともに備えたチームなのだ。少なくとも前半のうちは。そこにあえてスアレスとフェリックスの併用で挑んできたシメオネの胸の内は良く分からないが、おそらくはフェリックスの輝きを信じていたということで間違いないのではないだろうか。

前回対戦でアラウホを手玉に取ったあのパフォーマンスは確かに鮮烈なものだったし、ここであの時の再演を見せることができればヴィニシウスよろしく覚醒する可能性もある。これからのシーズンを走り切るうえで、そしてこれからのアトレティコが強くなるうえで、ジョアン・フェリックスの真価をここで発揮させようと考えたという仮説だ。もちろん、僕は継続してアトレティコを追っていたわけではないのであくまで妄想の域をでない考えではあるのだが。

スアレスはいる。メッシになれるか?

シメオネの思惑がどうであったにせよ、フェリックスがこの試合で重要な役割を担っていたことは間違いない。あのアトレティコがほぼ8人で守備をするのだ。このリスクに見合ったリターンを生み出すのが、フェリックス(とスアレス)の役割だった。味方が奪ったボールを受け、突破し、効果的なパスを出し、そしてゴールするのが彼の役割だった。

しかし、フェリックスはそのミッションを果たすことができなかった。何度か迎えたビッグチャンスをふいにしたこともそうだが、そもそも前回の対戦ほどの脅威とはなっていなかったように思えた。

その要因のひとつは、カラスコが左サイドにいなかったことだろう。バルベルデのチームではコウチーニョとデンべレが担っていた(そして最後までいまいちはまらなかった)主役と逆サイドのWGに抜擢されたカラスコは、抜群の強度と切れ味でバルセロナの脅威となれる存在だ。カラスコの前でミンゲサはほぼ無力だったし、この試合で先制点を沈めたのもカラスコだ。

そのカラスコが右サイドにいたことで、アラウホはサイドのカバーをほぼ気にせず守ることができるようになった。フェリックスを助けに来るのはルマルとエルモソの役割だったが、彼らは非保持のタスクに忙殺されていてそこまで手が回らない。そういう意味では、ラキティッチとセルジ・ロベルトがいかによく走っていたかが分かろうというものだ。

そしてもうひとつの要因は、ダニエウ・アウヴェスの存在である。アウヴェスが普通のサイドバックでないことはみんな知っていることだが、この人がいることでバルセロナは大きく様変わりした。

アウヴェス劇場・ボール保持編

この試合で、アウヴェスはほとんどブスケツに並ぶ位置にポジションを取っていた。その役割はブスケツを助けること。これはチームがボールを持っているときも、そして失ったときも同じである。

バルセロナがブスケツを経由してボールを回すのは分かり切ったことで、どのチームもまずは彼を封じ込めようと策を練ってくる。それを涼しい顔で躱せるからこそブスケツはブスケツなのだが、それに任せていると直近のクラシコのように危険なロストが起こる可能性もある。ましてやこの試合で虎視眈々とチャンスを窺っているのは、こちらの手札を知り尽くしているルイス・スアレスなのだ。

そこにアウヴェスを関わらせることによって、チャビはブスケツ以外にパスルートを創出することに成功した。アウヴェスに相手の意識が向けば、ブスケツはこれまでより自由にボールに関わることができる。そしてブスケツにマンマークが付くならば、CBはノープレッシャーで配球できる。ブスケツにボールが渡らずとも前進できるようになれば狙いも散らせるし、本人が無理してボールを失うこともない。

とはいえ、右のCBを務めるアラウホは質実剛健な選手で、おしゃれな縦パスを突き刺すのはなかなか出来そうにない。選択肢がなくなると困ってボールを何回か持ち直し、その間に詰められて蹴るのが苦しいときのパターンである。

ここからペドリやフェランには刺せない

そこで登場するのもアウヴェスである。彼が内側に絞っていくことで、トラオレへのパスルートが拓ける。トラオレはサイドの1対1でほぼ負けないため、ここに通せばアラウホの仕事は終わったようなものだ。そして実際にはフェリックスはほぼプレスに参加しなかったため、ピケという選択肢を常に持ちながらパス出しを行えたアラウホが困って蹴る場面はほとんどなかった。

トラオレとエルモソの1対1

ちなみに左サイドではいつものようにフレンキーが降りてきてボールを引き出すのだが、こちらはWGのガビが内に入ることでアルバをスムーズに押し出すことができるようになっていた。これはデンべレやアブデをWGに置いていてはできない動きである。かくして、両サイドで元の役割は違えど左右対称なきれいな配置を作ることができたチャビなのだった。

CBが逆なのは気にしないで

アウヴェス劇場・ボール非保持編

そしてこの配置は、ボールを失ったときにもそのまま優位性として機能する。バルセロナのネガティブトランジションで先陣を切るのは、CBの前に鎮座するブスケツである。ブスケツは物理的なスピードは持たないが、その頭の回転の速さでボールの出所を素早く予測し、ここを潰すことができる。

しかし、いくら予測が速くてもカバーできない範囲はある。相手のほうが一枚上手なら当然出し抜かれるし、五分の競り合いでボールが相手の元に転がることもある。そして、そうなった時に、高い位置に進出したブスケツの後ろはがら空きになってしまうのである。

こうなると、物理的なスピードが遅いブスケツの戻りはそこまで期待できない。そこでCBが迎撃に出てくるのだが、いかんせん人数が足りないとギャンブルアタックにならざるを得ないシチュエーションになりがちである。それでも構わず突っ込ませる無茶ぶりをかましていたのがチャビらしいといえばらしいのだが、それをやるとSBとのラインが揃わずがたがたになってしまう。

ペドリ→フェランのパスが引っ掛かった想定

そう。SBがライン際に張っていると、これが防御できないのだ。攻めれども攻めれども点が入らず、ついにカウンターの一撃に散るのはある意味でバルサの様式美ではあるものの、そんなしょうもない形で勝ち点を失うのはあまりに勿体ない。

そこで効果を発揮するのが、アウヴェスの立ち位置の変化ということになる。普通のSB(例えばデスト)のようにタッチライン際に立っているのではなく、ブスケツの背後かつCBの手前でボールを受け、カウンターの足掛かりになろうとする選手(この試合だとフェリックス)が使いたいエリアに初めから立っておくのだ。

初めから内側に立つ

もちろんライン際の後方には大きなスペースが空くが、ここにロングボールを蹴ってくれるなら走り合いや競り合いに強いアラウホの独壇場である。そもそもこの選択をするとゴールからは遠くなるし、フェリックスの持ち味は活かされない可能性が高くなる。

シメオネの応手

この配置的な優位性、そしてトラオレの質的優位を存分に活かしたバルセロナは、前半だけで3点を叩き込むことに成功する。いきなり先制点を食らう展開からここまで持ち直し、圧倒することができた試合はおそらくチャビが指揮しはじめてから初なのではないか。もちろん、失点した直後にアルバがゴラッソを沈めたことで「いける!」というムードがスタジアムに充満したことは大きいと思うが。

そこへシメオネがどのように対応するかが興味の的となるところなのだが、なんとハーフタイムが明けてもアトレティコの配置はほぼ変わらず。ヴルサリコとヴァスという人の交代に留まった。その後もバルセロナの押せ押せムードは続き、49分にはアウヴェスが得点まで決めて4-1に。交代で入ったヴァスが簡単なワンツーからのガビの裏抜けを許してしまったのはうーむ、という感じであった。

ここでようやくシメオネが動いた。55分にエルモソ、フェリックス、ルマルに代えてヘイニウド、マテウス・クーニャ、アンヘル・コレアを投入し、前線から強度の高いチェイスで主導権を奪い返しにきたシメオネ。

後半途中からトーンダウンしてしまう傾向があるバルセロナは、なかなかこのプレスを外すことができない。サイドで無理につなごうとして失う場面もあり、57分にはコーナーキックからスアレスに得点を許してしまう。このチームのセットプレーの弱さはなかなか解消されないのが残念なところ。

アウヴェス劇場の終幕

そしてストレスが溜まる展開が続くなかで迎えた69分、事件は起きた。なんとアウヴェスがカラスコのふくらはぎを踏みつけてしまい、一発レッドカードで退場したのだ。オフサイドの笛が鳴ってすぐに行われた蛮行はばっちりカメラに捉えられており、このVARの時代に見逃されるようなことはありえなかった。

この事件によって守るしかなくなったバルセロナは、トラオレと交代で入っていたオーバメヤン1人を前線に残してバスを置く態勢に入る。アウヴェスがいなくなってしまった右サイドにはデストが登場。その後もバルセロナのベンチにレッドカード、フレンキーにイエローカードと試合は混乱していったが、肝心のアトレティコはエンジンがかかり切らないまま試合を終えることになってしまった。

死ぬ気で点を取りに来る姿勢があまり見えなかったのは前半からのダメージゆえか、それとも数的優位な状況でリスクを取ることができなかったのか。どちらにせよ、バルセロナは無事に2点のリードを確保したまま試合終了の笛を聞くことができた。

上昇気流に乗って

シーズン第8節では完封負けを喫した相手に対して、4得点での快勝を見られたことは素直に素晴らしい。結果を見ても内容を見ても、チャビが就任して以来ベストなゲームと言っても過言はないかもしれない。そして何より、しっかりと積み上げてきたものがある上での勝利だということが誇らしい。

あえてケチをつけるとすれば、後半途中から強度が下がってしまうこと。選手の体力はそう簡単に上がっていかないのですぐに改善できるものではないが、戦い方次第で何とかなる部分もあるはずだ。

ボールを奪ったらすぐにFWに渡し、勢いのまま攻め切るショートカウンターは確かに強力だが、リードしているのにひたすらゴールに突進するのはある意味でリスクを伴う行為になりうる。がんがん体力を消費するし、引っかかれば逆にカウンターを返される危険性もある。そして背走させられればより体力を浪費する羽目になる。

もちろん、高い強度のまま相手を飲み込んでしまえるならそれもありだろう。川崎フロンターレがやっているように、毎試合3点取って勝つぜ!という理想を追求するならそれも結構。ただ、ボールを支配して相手を走らせる時間をもっと持ってもいいのではないかとも思うのだった。

2022/2/7 La Liga Santander Matchday 23
FC Barcelona 4-2 Atletico de Madrid
Referee : Gil Manzano
VAR : Ignacio Iglesias Villanueva
Stadium :Estadio Camp Nou


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