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適切な懲戒処分③

今回は、何をしたら懲戒処分になるのかを見て行きます。

何をしたら。一言でいうと「悪いことをしたら」です。
悪いことをしなければいいのです。
簡単なこと…ではないので、社内でも揉めるし、裁判も起きるんですよね。

懲戒事由(制裁をすることになった理由)についていくつか代表的なものを見て行きます。

懲戒理由は、「企業の秩序を乱すもの」とイメージすると分かりやすいと思います。
それぞれの理由を見て行きます。

経歴詐称

採用時に学歴や職歴を偽り、入社するとこれにあたります。また、刑事罰を受けているのに履歴書の賞罰欄※に「賞罰なし」と書いてしまうなどです。
採用時に学歴や職歴を聞くのは、その人がどんな専門知識を持ち、どんなスキルがあるかを確認するためです。
もちろん、他の質問を通しての確認はしますが、実績としての裏付けを取るためには必要な事項です。
その前提が覆ると、事業の運営に支障を生じさせることもあります。
会社を騙したこと、ひいては取引先を騙すということにもなりかねないため、多くは懲戒解雇に当てはまります。

※会社指定の履歴書などで賞罰欄があるときは書く
※賞罰として書くべきもの書く必要がないものもあります
【参考】
エン転職 履歴書の賞罰欄の書き方を解説!賞罰なしと書いて良い?
https://employment.en-japan.com/tenshoku-daijiten/10662/#1-2

職務懈怠

無断欠勤・早退・遅刻などもこれに当てはまります。就業規則には「正当な理由なく〇日以上無断欠勤をした場合」などとして懲戒事由に当てはまるとしていることもあります。これは、どの程度の無断欠勤、どの程度の懲戒かは各社によります。

裁判例で見て行きます。
東京プレス工業事件(横浜地裁 S57.2.25判決)
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00582.html
6か月間の遅刻24回、欠勤14日、このうち1回の遅刻を除いてすべて事前の届け出なし。完全な就業をした日は69%強。懲戒解雇が認められた。

日立製作所事件(東京地裁 H23.11.24判決)
診断書を提出せず体調不良を理由に欠勤、体調不良のために療養に専念することを理由に中国に帰国することに際し、診断書の提出など私傷病欠勤の取得のための所定の手続きを取らず、会社が求めた欠勤理由書も提出しなかった。そのため段階的に懲戒処分を経て、懲戒解雇をしたことについて、有効とされた。

東京都(M局職員)事件(東京高裁 H26.2.12判決)
正当な理由なく、72回につき出勤時限に遅れた。69日について遅参の事実が認められ、そのうち68日分について部下に対して、自身の出勤記録を出席とする修正指示を行った。これについて停職3月の懲戒処分(停職処分)が認められた。https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/09009.html

日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁二小 H24.4.27判決)
精神的な不調により、会社へ休職の承諾を求めたが出勤を促されるなどしたため、自分自身が納得しない限り出勤しない旨をあらかじめ会社に伝えた上で有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けた者へ諭旨解雇処分を行った。
このような精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきところ、このような対応を採ることなく、直ちにその欠勤を正当な理由のない無断欠勤として諭旨退職の懲戒処分の措置を執ったことは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いとして、諭旨解雇処分は無効とされた。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08877.html

職務懈怠として、無断欠勤が挙げられますが、この場合、職場環境に問題があったり精神疾患の場合は解雇が非常に難しいと言えます。
また、あまりに短い期間の無断欠勤で懲戒解雇、ということもできません。

【参考】
弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 企業法務の法律相談サービス
https://kigyobengo.com/media/useful/697.html

業務命令違背

正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
懲戒事由となります。

例えば、出張命令があったのに、正当な理由なく出張を拒み、自席で粛々とルーチンワークをやっていた、これも業務命令違背です。他の仕事をやっていたから良いでしょう、とはなりません。

また、会社が参加を強制としている研修において「営業に行く方が会社にとっても良いだろうから、研修なんていかない」ということもいけません。会社が定めた実務上必要な知識をインプットする機会を自分の勝手な解釈で違背しているため、懲戒処分の事由になります。

ただし何でもかんでも命令に従わないといけないというわけではありません。
嫌がらせのような業務命令には従う必要はありません。
使用者の業務命令の必要性と、労働者が被る不利益の程度による業務命令の有効性と懲戒処分の程度で判断されます。
たとえば、先述の出張において、小さな子を育てており、自分が不在時に保育園の送り迎えが出来ないなど事情がある人が、他の社員で代替できる業務であるにもかかわらず、懲戒されるということは妥当ではありません。
下記に裁判例を記載します。

目黒電機製造事件(東京地裁H14.9.30判決)
総務課管理職として中途採用した人に対し、営業課への配転命令を行った。これを拒んだため、懲戒解雇の処分を下した。
しかし、営業課の増員必要はなく、専門外の人員を配転させる合理性もない。専門外の職務に就けることで退職を促したという疑いがあるため、配転命令は人事権の乱用であり無効とされ、懲戒解雇も無効となった。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08064.html

職場規律違反

金銭の不正な事務処理や取引先からの利益享受のような、横領と言えるもの。セクハラやパワハラ。
これらは明らかに許されない行為であり、感覚的にもいけないことは分かると思います。
ここからは、「それも服務規律違反なのか」というものを見て行きます。

部下に対する管理責任
部下が虚偽の報告や横領をしていることを知っていて黙認、知って当然の立場にあって怠った場合、上司が懲戒になることがあります。

事業所内政治活動
職場は業務を遂行する場であり、企業は職場秩序を維持する権能があります。企業秩序を害するおそれがある表現活動を制止したり禁止することが許されると考えられます。
電電公社目黒電報電話局事件では「職場内での従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり…」とし、実質的に企業秩序を乱すか否かで判断するとしています。

貸与パソコンや企業内ネットワークシステムの利用
会社貸与パソコンで私的メールを送る、SNSの書き込みをするなどありがちな行為ではないでしょうか。会社と自分のパソコン2台持ちは大変だからと会社のパソコンで自分の副業作業を行うなども最近はあるかもしれません。
これは会社から禁止事項として明示されている場合がほとんどであると思います。つい、ではなく、禁止とされていることはしないようにしましょう。
懲戒処分が認められるかを裁判で争った場合、社会通念上許容されるものであれば、認められないことが考えられます。

その他
同僚をネットワークビジネスにしつこく勧誘する、私生活上の非行で企業の社会的評価を低下させる、無許可で兼業をする、機密情報を漏えいするなども規律違反です。

様々な事例を挙げましたが、これらは裁判まで至った例が含まれています。日常的にここまで極端なことはないかもしれません。
個々に見て行くと、「こんなに気を付けることが多いのか」と感じられるかもしれませんが、難しく考える必要はないと思います。
誰に対しても恥ずかしくない立振舞いをすれば良いだけです。

自分でこれは良いことか悪いことかの判別はつくはずです。もし、職場や取引先に積極的に「悪い」と認識できることを進められたときには、上手くかわしていきましょう。

上手くかわすことができない環境や職場であれば、それこそが異常です。最終的に自分が懲戒されるリスクがあります。
その場から離れることも含めて考えることをお勧めしたいです。

【参考】
石井妙子 西濱康行 石井拓志 著 労務行政研究所 編
「第2版 懲戒処分適正な対応と実務」労政時報選書(2018)

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