心地良いと感じる空間は人それぞれ
2019年7月に鹿児島に戻ってきて、あっという間に丸一年が経ちました。
去年も今年もこの時期は避難が必要なレベルの豪雨に見舞われ、一年前、移住生活2日目にして避難生活となったことを思い出しました。。
出鼻を挫かれた感がありましたが、高校卒業とともに上京して12年ぶりの鹿児島生活は、色んなまちや楽しい人たちとの出会いに溢れています。
テンラボに合流する前は、全国各地の公園や道路などの計画づくりやデザインに携わっていて、いつも「心地よい空間とは?」という問いとの葛藤の日々でした。
今回は自分なりにパブリックな空間の心地良さってなんだろう?ということについて考えてみました。
心地良さに関係する3要素
「心地良さ」と一口に言っても、"リラックスできる"、"ストレスがない"、あるいは"程よい刺激が得られる"といったように、その時その場所で捉え方が違うように思います。
あくまで私感ですが、次の3つの要素が「心地良さ」に関係しているのではないかと考えています。
①寛容さ:行動に対する制約が少ない、選択の幅が広い
②距離感:周囲の人との身体的・心理的な距離感が適当である
③無意識的な意思決定:①と②を無意識的に知覚し行動に移すことができる
ここからは実際に自分が心地良いなと思った空間を取り上げながら、その3つの要素について詳しく見ていきたいと思います。
【ケース1:臨港パーク】
横浜にある臨港パーク。広がりのある芝生の斜面と海沿いの遊歩道がつづき、海の向こう側にはベイブリッジを望むことができます。
海沿いには、広い遊歩道と海際の少し低いところにもう一本の遊歩道がつづいています。広い遊歩道ではランニングする人、自転車に乗る人、ベビーカーを押すママがいて、もう一本の遊歩道ではゆっくりと歩いたり、柵にひじを乗せて海を眺める人がいます。2本の遊歩道の間は階段状の段差になっていて、座って景色や会話を楽しむ人もいます。
遊歩道の背後には、緩やかな芝生の斜面が広がっています。海側の芝生は平坦で、レジャーシートを広げる家族、子供が駆け回ったりボール遊びをしていて、陸側では木陰もあり勾配があるので芝生に腰掛けている人がいます。
ここでは、一人ひとりが自ら心地の良い場所を見つけて、思い思いの時間を過ごしています。
上で挙げた3つの要素で考えてみると、
①寛容さ:歩く・走る・佇む・座る・遊ぶといった多様な行動を許容
②距離感:それぞれの安全さ・快適さを確保できるゆとりのある空間
③無意識的な意思決定:開放的な空間構成により公園全体や人の行為が見渡せ、その知覚情報をもとに自然な形で自分に合った場所や行動を選んでいる
>空間デザインの力
臨港パークでいうと、この3要素を際立たせているのは、空間の構成や遊歩道や芝生広場のデザインの力が大きいのではないかと思います。
続いて、全く性質の異なる空間として、商店街の例を取り上げます。
【ケース2:ハーモニカ横丁】
トップの写真に使っている東京吉祥寺のハーモニカ横丁。
吉祥寺は住みたい街ランキングでいつも上位に名を連ねるまちで、横丁はJR吉祥寺駅前にあるお店が密集した商店街です。
一軒一軒が狭い間口でひしめき合う様子から「ハーモニカ横丁」。
ここは終戦直後の闇市という違法につくられたマーケットが起源で、幅の狭い路地や登るのがやっとの急な階段など、今もその面影を残しながら、新旧色んな業種のお店が混在しています。
多くの闇市起源の商店街が、戦後の都市の復興とともに、地下街や商業施設として形を変えたり、無くなってしまったものも少なくありませんでした。
残っていたとしても、建築的に現在の法律に則っていないため、再開発や火事などで一度失われてしまうと二度と同じものをつくることが出来ません。
ハーモニカ横丁では、5つの商店街が連携しながらこの空間を守ってきて、駅前に商業施設が出来て客足が途絶えた際にも、業種の入れ替えや世代交代を行いながら、存続してきました。
ここでは、周辺の状況や訪れる人のニーズに対応しながら、時代とともに新陳代謝を繰り返して、今でも幅広い層から愛される場所となっています。
3つの要素で考えてみると、
①寛容さ:業種や趣向が多種多様で、客層も幅広い個店たち/お店を利用せずとも散策したり、商品を手にとったり、店主と会話しやすい空気感
②距離感:(狭い空間により)店主や隣のお客さんとのコミュニケーションが生まれやすい距離感/路地からも賑わいや雰囲気を楽しめる距離感
③無意識的な意思決定:店先に並ぶ看板や商品、路地から見える店内の様子や食事・買い物・会話を楽しむ人の姿、飲食店からのお客さんの声や香り・煙などによって、そのお店を利用するイメージを連想しやすい
>コミュニティの力
ハーモニカ横丁では、商店街というコミュニティによる、この唯一無二の空間を守りたい、お客さんに満足して欲しいという想いが、空間の多様性や面白さを形づくって、3つの要素を生み出しているのではないかと思います。
空間デザイン×コミュニティの可能性
以上をまとめると、心地良い空間を考える上で、寛容さ・距離感・無意識的な意思決定が大事な要素となって、それらは空間のデザインやそこに所在するコミュニティが起因するのではないかと思います。
個人的には、この空間デザインとコミュニティを掛け合わせたところに、これからのパブリックな空間の可能性が潜んでいるのではと思い、何か仕掛けられないかなと模索しているところです。
以上、長くなりましたが、自分なりの「心地良い空間」について考えてみました!
でも結局、「心地良さ」は人それぞれですよね。笑
まぁでも、一人ひとりが心地良いなぁと思える空間が溢れるまちをみんなでつくっていければいいなと思います!
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