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精子ドナーが、提供した精子で生まれた子から認知・扶養・遺産相続を要求されるということはありません

こんばんは。はらメディカルクリニック院長の宮﨑です。今日は、以前から一度noteにしようと思っていたことを書きます。

当院は今年1月、精子バンクを使用した第三者精子で体外受精をはじめることを発表しました。これは読売新聞の一面に掲載されました。

2022年1月14日読売新聞朝刊一面

新聞記事がヤフーニュースに転用されたことで多くのヤフーコメントが記され、第三者の精子による生殖補助医療について一般の方がどのように感じているのかについて知ることができました。

無精子症の夫婦が子どもを授かる方法として、第三者の精子提供を利用した人工授精「AID非配偶者間人工授精」があります。これは既に70年以上の歴史がある医療ですが、多くの方がこの医療を知りませんでした。

そして、もう1つ。精子を提供する者(以下ドナー)は、生まれる子との間に親子関係が生じるものと誤解している方もコメントも多くありました。ドナーは、精子提供で生まれた子から、認知、扶養、遺産相続を要求されるというのは、誤った情報です。

令和2年12月、生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律(令和2年法律第76号)(以下特例法)が成立しました。特例法により、精子提供者と子の間に法律上の親子関係が成立する余地はなくなりました。

法律上の親子関係には、嫡出親子関係[婚姻中の懐胎]と非嫡出親子関係[認知]の2種類があり、それ以外にはありません。ドナーは婚姻関係にはないため、[認知]をしないと法律上の親子関係が成立する余地はありません。認知には「嫡出でない子」が要件となりますが、令和2年12月制定の特例法第10条により、生殖補助医療に同意した夫は嫡出否認ができないと定められていますので、夫以外の男性(ドナー)が認知をすることは法的に不可能なのです。

ではもし、ドナー自らが、自身が提供した精子による生殖補助医療で生まれた子を認知したいと願い出た場合にそれができるのかというと、これもできません。夫婦が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され、夫には嫡出否認の権利が与えられています(民法774条、775条。なお、嫡出否認は訴えによって行う必要があり、懐胎時期に夫が海外赴任しており帰国していないとか、服役中であった等の客観的事情がない限り認められません)。ドナーが子を認知するためには、夫が嫡出否認をすることが必要ですが(民法779条)、特例法第10条により、夫は嫡出否認権を行使できないと明示的に定められましたので、嫡出推定を法的に否定することは不可能です。そのため、ドナー自らが願い出た場合であっても、遺伝的繋がりがある場合であっても、ドナーは生殖補助医療で生まれた子を認知することはできません。

扶養義務や相続などは、全て、法律上の親子関係を前提として生じます。仮に生物学上の親子関係があったとしても、法律上の親子関係(嫡出親子関係、被嫡出親子関係)がないかぎり、法的には赤の他人となります。

日本人男性の100人に1人が無精子症と言われています。無精子症の原因は先天的な場合がほとんどで、防ぎようのないことです。たまたま精子を持って生まれなかったということです。そこに、精子を提供してくれる人(ドナー)がいます。病気の人のために骨髄ドナーや臓器ドナーがいるのと同じです。

誤った情報は、ドナーの減少に繋がってしまいます。そして、誤った情報はその医療を必要とする患者に不必要なプレッシャーを与えることにもなります。今後、どこかで精子ドナーの誤った情報を目にしたら、訂正してくださると嬉しいです。

特例法が成立した今でも、第三者の精子による生殖補助医療にはさまざまな課題があります。その残された課題をどのように法整備していくのかについて今まさに超党派の議連で法案の骨組みが作られようとしているところです。

不妊治療は今年4月より保険適用になり、大きな転換期を迎えていますが、提供配偶子(精子・卵子)による生殖補助医療も同様に転換期にむけた道を進んでいます。子どもをほしいと願うすべての夫婦の希望が叶う社会に近づいていると信じたいです。

今日のまとめ
精子提供ドナーは、その提供で生まれた子を認知はできず、扶養義務もなく、法定相続人になることもありません。子が認知請求をすることもできません。これらの権利義務が生じる法的可能性は一切ありません。


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