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春になるまで その1

体調を崩した。
高熱。悪夢をみて、全身汗びっしょりで目が覚める。スポーツドリンクを飲み、1時間おきに重い体を引きずってトイレに行く。それだけを必死に繰り返していた。

発熱してから2日経った午後、目が覚めたら春がきていた。
熱も下がり、酷かった怠さも落ち着いている。
窓から入る心地よい風が、汗で湿った皮膚を撫でる。おひさまと若草、土が混じったような匂いがする。
さっきまでは私を拘束する鬱屈した部屋だったのが嘘みたいだ。お布団に両手を預けて、布の感触を味わいながらしばらくぼーっとした。
道に面した窓を開けているので、通行人や、近所の人や工事のおじさん、鳥のさえずりが聞こえる。
実家の近くでは新しい家を建てていて、連日工事の音が聞こえていたのだが、トントンキュイーンと鳴らす音もなんだか楽しげだ。
この文章を書いていたら、玉ねぎを炒める匂いがしてきた。

少し元気になってきたので、ここ最近サボっていた日記を書こうと思う。
前回の日記を上げた日から今日までの10日間は、昨日今日の体調不良を除けば、好きな人たちと笑い、酒を飲むか寝るかのとても幸せな日々であった。
心配事と言えば、体重増加という利息がくるのが怖いということくらいだ。


2024/03/20

父方の祖母の家に行った。
末の妹も丁度春休みだったので、二人で祖母のアパートに向かう。
祖母はいつものように私が大好きなきのこそばを作ってくれた。
祖母はズバッと物申してくれる性分なので、明るいうちから金麦をあけて恋愛相談をするのがお決まりだ。
タイトルの画像の横にあるのは芋がらの煮物で、祖母の家でしか出ないこのアテに、するすると酒が進んでしまうのである。

「アンタの彼氏は結婚の時期なんて、いっっっさい、考えてないと思うね」

冷蔵庫から冷えた金麦を選びながら言う。

「そんな事百も承知ですわ!!だからどう聞こうか迷ってるって言ってるの!!」

ついヒートアップしてペースが早くなる。
日が暮れる頃には二人共いい気分になっていて、気がつけば、おばあちゃんと同居の彼氏と妹でカラオケ大会になっていた。
AppleMusicのおすすめ欄が演歌で埋め尽くされてしまった。

2024/03/21

そろそろ冬の終わりが見えてきたので、メイク道具の見直しをした。
最近はお直しはクッションファンデ1つで済んでいたが、今使っているのは保湿力の高いものだったので夏はドロドロしてしまいそうだ。カバー力強めのコンシーラーを最小限+パウダーでなんとかしたいなと思い立つ。
コンシーラーは丁度Diorのものが欲しかったので、値上げ前に買いに行くことにした。Diorの店員さんの戦闘力に負けないよう、事前に二郎系ラーメンでエネルギーチャージしてから向かった。

2回目のどでん大宮店。前回と同様にロット回しの最高尾になってしまったので、気合を入れて麺を啜る。どでんの命である背脂を存分に堪能できるよう、教えてもらった野菜マシ+油マシのコールにした。ラーメンは、肉と麺に重きを置く派だったが、それが覆される脂の旨さ。クリーンさ。もっと詳細に感動を述べたいが、現在食欲が皆無で、油っぽいものを思い出すとダメになってしまうので書き残せないのが辛い。

ラーメン大全マシ

入念にスプレーと携帯マウスウォッシュをしてコスメカウンターへ向かう。お目当てのDiorでは、コンシーラーに加え、ずっと気になっていた4色ハイライトとハイライト兼チーク。どちらも色味と光沢感が可愛すぎてお持ち帰りしてしまった。
パウダーは例年通りのNARSか、ADDICTIONの新作か………と迷っていたら、丁度クレドの新作パウダーの発売日というではないか。
しかも新作は化粧もちに特化したパウダーなんて…、試すだけ、試すだけ…と見に行ったが、その粉質の良さが段違いで値段に迷う隙も与えなかった。
クレド様、一生ついていきます……。

自宅に帰ってからの、購入したコスメたちを並べて、手持ちのものと塗り比べたり、合わせ方を考えてみたりする時間も大好きだ。
やっぱりぜんぜん違うな〜と、ライトに当ててキラキラさせてみる。
こっちと合わせた色も最高じゃん!と2つしかない目に何度も試し塗りをしてみる。
今回はハイライトを5色も買ったので、顔がテッカテカになった。

2024/03/22-23

自宅からリハビリに寄り、買い物をしてから実家へ戻った。
図書館で1年前に予約した本がようやく届いたので、その本や中村森さんの新作歌集などを読んだ。

2024/03/24

大好きな岡本真帆さんの出版イベントに行く日だ。
岡本真帆さんは、はじめて好きになった歌人である。
本屋さんで「短歌ください」と出会い、短歌に興味を持ってからXで流れてきた傘の短歌に心を奪われてしまったのがきっかけだ。
次の新作はどうしてもサイン本で欲しいなと思っていた所に、uniteでのイベント告知が目に入った。
uniteの店主である大森さんの書籍紹介動画から、お店は知っており一度は訪れてみたかったのだ。

イベント開始時間の2時間前に最寄りの三鷹駅に到着する。早めに着いてのんびりお店を見て、新作の「あかるい花束」をゆっくり読んでから参加しようと思ったのだ。

駅からお店は少し離れている。丁度小雨が降ってきてしまったので早足で向かった。
ようやく着いた〜!と思ったが、お店は空いていなかった。どうやらイベントの日は一度早めに閉めるらしい。リサーチ不足であった。
傘もないので、近くのカフェに入って雨宿りをする。
美味しそうな全粒粉スコーンを目当てに入ったが、売り切れだったのでチーズケーキを頼んだ。

今日はついていない日かもしれない…。と思いながら開場までの1時間をどう過ごそうか悩む。
丁度駅前で買ったビッグイシューがあったので、開くと後方の席から聞いたことのある話し声が聞こえてきた。

まほぴである。
憧れの岡本真帆さんが同じカフェで次回のイベントの打合せをしていた。
ちらちら見るのも失礼なので、ひたすら窓を見つめて「うわ〜〜〜〜!!まほぴだ〜〜!本当にいるんだ〜〜〜!!」と心の中で大はしゃぎしていた。
自分を落ち着かせる為に、ビルとビルの間から見える給水塔に向かってずっと話しかけていた。
スパイスがきいたずっしりしたチーズケーキはとっても美味しかった。

急な小雨や、スコーンの売り切れがなければ、まほぴとチーズケーキには出会えていなかったのだ。なんだかすごい事のような気がした。

サイン会の時に、岡本真帆さんが「カフェでいましたよね!」と覚えていてくれたのが嬉しく、私の挙動不審さがバレてなかったかなと少し恥ずかしかった。

イベントは新作を読むのがとっても楽しみになる内容で、一緒に登壇した浅生鴨さんの話も面白かったので著書を買ってしまった。

トークの中で、岡本真帆さんが「日常生活の中でもものを擬人化している」という話があった。
レジでのお会計の際に、タッチ式決済が上手く反応せず、カードに対し「がんばれ〜、がんばれ〜」とつい小声で応援してしまった私に対して、店員さんが「今日のお話みたいですね。」と優しく笑ってくれて、お店の暖かさに感動してしまった。普通だったら、イライラしてもおかしくない。

この後は恋人といつもの飲み屋で待ち合わせだったので、沢山の本を抱えて足早に帰宅した。

先に入っていた恋人は、初見のお客さんと話していて二人の馴れ初めを聞かれた。丁度この店の今いる席で初めて会ったんですよ~と話して、なんだか懐かしかった。
その後は、まほぴに会えたことや、uniteの品揃えが素晴らしかったこと、サインの短歌の好きな所などを沢山話した。



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