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もはや異世界の音楽理論? ボーレンピアース音律に関する諸考察

毎度どうもでございます、お腹痛い系DTMer原井です。

皆さん「ボーレン・ピアース音律」はご存知でしょうか。

まあ、知らないですよね。普通知らない。

え、知ってる...?お友達になりましょう。。。

ボーレンピアース音律という、3倍音を13分割するなんとも奇妙な音律があります。音律論とか学んだ人でもおったまげるでしょうこんなの。微分音界隈では誰しもがお目にかかるはずですが、全貌は現状謎だらけ。
とりわけユニークすぎる構造を持っており、未だに理論的に不明な部分も多くあります。今回は、それをうまく使う方法を勝手にいろいろと考察してみようという話を書いていきます。音楽理論初心者が見に来たところで眼球が焼け飛ぶレベルのことを書いているので、初心者の皆さんは、怖いもの見たさに記事を読んで眼球焼き飛ばしてください。

ライトに読みたい方はこちらをどうぞ。

この記事は、個人的考察なので、真に受けないでください。

もう音楽の理論体系が根幹から異世界転生してるので、このクソデカ記事を読破して理解すれば、音楽理論で異世界転生して、異世界音楽ライフをエンジョイできます。(マジで)

何回か分けて読まないと、マジで長いよ...?覚悟はいいかい???

*ボーレンピアースの背景

ふつうの音楽は周波数比が大体4:5:6のものを基本の和音、最安定な和音として使用して作られていますが、このボーレンピアース音律は、1970年代、ハインツ・ボーレンやジョン・ロビンソン・ピアース、ケース・ファン・プローイイェンなどの、音楽のシステムに興味を持った電子工学や無線通信、情報工学の専門家、音楽家が、周波数比4:5:6のメジャーコードの代わりに3:5:7を使ってみるとどうなるかとやってみた結果として、興味本位で誕生したという斬新な音律です。もちろん通常の音楽理論からは根底から異なるシステムを持っているので、通常の音楽理論の考え方でも到底太刀打ちできません。人類はいまだにこの音楽の感覚を体得できていないかも?

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WikiMedia Commonsより John Robinson Pierce

日本語では「ボーレンピアス」という記載が一般的らしいですが、ワイとしてはジョンR.ピアース氏に関するソコラヘンの書籍の訳が「ピアース」と書かれることもあったり、英語表記を見ても発音が「ピアース」のほうがしっくりくるので、ここではボーレンピアースという言い方にするか、BPと略記します。どちらにせよどうせボレピだ。

ちなみにワイはピアースはつけませんよ。

*ボーレンピアースの構造

普通の平均律類は、音楽の中で最も芯になるのは2倍音として、純正2倍音=オクターブを基準に、それを何等分するかということを考えています。今現在この世の99%の曲が12等分、ただの12平均律ですね。ごく一般的に語られる微分音では53平均律とか31平均律とかありますが。これでも基準はやっぱりオクターブを使います。

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オクターブ(ナチュラルは念のためつけてるだけ)

ただしこの音律はもう全く発想が違う。オクターブを無視し、純正な3倍音までの音程を13分割するという。何とも奇妙不可解で大胆な平均律ですね。この基準の純正3倍音までの音程を「トリターブ」と呼び、トリターブが基準になっている音律を「トリターバルテンペラメント」といいます。(鶏天...?)

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ドから、上の純正ソまでがトリターブ。(譜面はピタゴラス音律として)

そして、この音律の特徴、周波数比4:5:6の最安定なメジャーコードの代わりに3:5:7を使用するということ。

3:5:7の周波数比が、周波数3倍の音程を均等に13分割したグリッドの近くに出現することが分かっています。しかしこの13分割のグリッドの中には、周波数が2倍のオクターブに近いものが出現しません。一番近いもので8ステップですが、1170.4セントとイマイチできつめのうなりが出る。この音律はそもそもオクターブは使うことを想定していないようです。
この音律では、音階が一周する基準「ピリオド」がトリターブになり、和音を支える芯をトリターブに委ねます。

3:5:7とは、倍音列を奇数で駆け上がっていく周波数比なので、オクターブ(偶数を持つ周波数比音程)を使わないスタンス、ということが考えられそうです。4:7:10みたいなUnusial Tuningというものも考えられてはいるものの、本来のボーレンピアースが想定しているサウンドから逸脱しますので、ここでは触れないでおきましょう。
(疑問に思う方は5:7:9も気になると思いますが、これ3:5:7の転回形ですよね。)

また、3倍音を13分割すると、2倍音を12分割するよりも粗い分割になるので、微分音というよりも巨分音ですね。1ステップが146.3セント、半音より広くなります。英語ではそこのところMicrotonalとMacrotonalで区別されてますが...

また、12平均律が5リミット(周波数比の素因数の最大を5までとした音楽)に対して、ボーレンピアース音律は7リミット(周波数比の素因数の最大を7までとした音楽)です。
※後述、12平均律でも一部7リミットで解釈されることがあります

・音階(scale)か音律(temperament)か

BPは記事や文献にscale(音階)、あるいはtemperament(音律)の2つの表現で記載されているようです。どちらがふさわしいかという問題はたびたび議論されるらしいです。これは13音のクロマティックな音階としてとらえるのか、相対的な調律方法としてとらえるのかで変わってきそうです。相対的な調律を指す「音律」の下に音階があるはずですが、scaleと言っていることに関しては、3:5:7のコードをベースにクロマティックに使うものとして「音階」という解釈ができるものだと思いますが。

*倍音のパリティと閉管楽器

オクターブが使えないということはどういうことかを純正音程から考察します。いままでオクターブは、倍音が一つのオクターブの中に納まるように使ってきていました。3倍音なら1オクターブ下げ、5倍音なら2オクターブ下げ、なんてことをやっていた。短三度の音程6/5も、分子に6という偶数を含んでいるため、3/5をオクターブ上げたもの、ということ。
つまり、オクターブが使えないということは、偶数倍音が使えないということになります。要するに純正音程として周波数比に偶数が入る音程の使用はアウト

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偶数倍音は使えない。音源は奇数倍音列。

そんな偶数を使わないサウンドであるトリターバルを、どのようにして知覚させることができるか...と考えてみましょう。
オクターブ等価性」ともいわれるものがあるほど偶数倍音が知覚的に安定と思われているにも関わらず、その偶数倍音を飛び越えて、トリターブを同じ音のように聴かせるにはどうするかということを考えなければならないようです。

ワイの答えは、偶数倍音を見事に排除し、サウンドの中に存在しないようにして、存在が知覚されないようにする。ここで、使う音色にまで着眼して、音色の倍音の偶奇性(パリティ)を考える必要があると思っています。
つまり、のこぎり波は偶数倍音も奇数倍音も満遍なく含むので、のこぎり波を使ったらアウト
また、大抵の楽器は偶数倍音を含むので、偶数倍音が知覚されてしまいます。この時点で、使用可能な楽器がかなり制限されてします。

◎奇数倍音だけの音色とは...
奇数倍音だけの音色は、数学的には、波形の後半部分が前半部分の上下反転になった波形が偶数倍音を含んでいない波形になります。初めに例として倍音が分かりやすいシンセ系の音から考えてみましょう。
SERUMでFormula部分に数式を入力して、フーリエ級数展開された振幅スペクトをFFTウィンドウに表示させて見てみます。

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◎矩形波
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◎三角波
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◎変調波周波数が被変調波の偶数倍になるFM(ドンクの素になる音)

ご覧のように、これら基本的な波形には、偶数倍音成分が全く出てこないのがわかりますね。
物理的な観点から見ると、偶数倍音が共鳴するものは、閉気柱片方が閉じられたパイプ
アコースティック楽器では、極僅かに出る偶数倍音には目をつぶって、閉気柱構造を持つ楽器「閉管楽器」の一部が奇数倍音のみを出します。
◎クラリネット
◎ディジュリドゥ
(先端が広がっていないタイプ)
◎サンポーニャ
これらの楽器は、頑張ってフラジオレットをやっても、オクターブ上の音を出せません。(理想的には)
他には、音が割れると波形が矩形波っぽくなって、偶数倍音が弱まることもあります。
◎高音域のファズエレキギター(単音)
また、当然、倍音がほとんど出ないものは偶数倍音をほとんど含みません。
◎オカリナ
こんなところでしょうか。

偶数倍音が出ないと、音色や和音の中で偶数倍音の存在がマスキングされ、感じられなくなります。これによって、奇数倍音によるハーモニーだけしかない世界に転生しやすくすることができます。

要するに可能な限り偶数倍音を出さないようにした方が聞きやすくなるかもね、ということ。

前半が奇数倍音のみでの響き、後半が偶数倍音を含んだ響き。前半の方がサウンドが整っているようですね。
イメージとしてはのこぎり波が温かいサウンド、矩形波が冷たいサウンドのように、オクターバルは温かい、トリターバルは冷たい、というような認識ができるのかもしれませんね。

偶数倍音を必ずしも除去しなければならないというわけではなくて、奇数倍音だけの音色を使用すると響きが透き通ります、という程度です。

*音名とソルミゼーションの考察

BPは一般的に、
CC#DEFF#GAA#HJJ#BC
という音名表記がされますが、これでは今まで慣れていた英語音名が出てくるのに振り回されます。しかも音の高さもいろいろなトリターブで違う音になったような感じがしたり、名前と音があっていない様でなかなか厄介です。いっそ新しい音名を作ってしまえと、変拍子兄さんが干支ノーテーションを考案しました。

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干支ノーテーション 十二支+猫で13音を命名(画像をクリックすると実際にBPを鳴らせます。)

これで、音名の問題は一件落着、と思われますが、通常の音楽のC、D、Eという英語音名より、Do、Re、Miと呼んだ方が歌いやすい・わかりやすい、ということで、音名を1音節にする「ソルミゼーション」が可能な音名が欲しいところです。(声は残念ながら偶数倍音を含んでるんだよな...)
これに関して、変拍子兄さんとトークした結果、ラヴァワソルミゼーションなるものができました。
これは、13星座を由来に子音を抜き出して音名にするというやり方。かぶったり、分かりにくい部分は改変していきます。

Leo→La(ラ)
Virgo→Va(ヴァ)
Libra→Waage→Wa(ワ)  (ドイツ語)
Scorpio→Sa(サ)
Sagittarius→Bow→Ba(バ)  (Sと被る)
oPhiuchus→Pha(ファ)
Capricorn→Kapricorn→Ka(カ)  (Cだと母音変化で子音が変わる)
aQuarius→aXuarius→Xa(ハ)  (QだとKと区別しにくいため口蓋摩擦音化)
Pisces→Pa(パ)
aRies→Ra(ゥラ)
T
aurus→Ta(タ)
G
emini→Ga(ガ)
Cancer→Chancer→Cha(チャ)  (Kと被らないようにCを避ける)

変拍子兄さんがよくやっているオクターバルの「ラカナソルミゼーション」に、始まりのLaを合わせて、Leoをスタートとしました。
後々BP音律をさらに細かく分割した音律で区別しやすい音名になるように、母音をaで統一しました。

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LaVaWa音名(画像をクリックすると実際にBPを鳴らせます。)

*白鍵の位置に関する考察

いよいよシステム的な組み立てを見ていきます。
ここでは、オトーナル・ユートーナルという概念が出てきます。これに関しては兄さんの記事を引用します。

オトーナル(otonal)とは基準の音に対して倍音捉えるという音程の作り方
それに対してユートーナル(utonal)とは基準の音を倍音として捉えるという音程の作り方です
ちょうど分子と分母のような関係です
ドの3倍音オトーナルであればドの3倍音のソ
ドの3倍音ユートーナルであればドを3倍音にするファとなります

https://note.com/embed/notes/n4a28600dbfef

それでは、BPが近似できる純正音程で、周波数比が単純なものを白鍵として選んでいく方針で、各音を見ていきましょう。BPにも、12平均律のDが9/8と10/9など複数の音程として解釈できることと同様、複数のパターンが出現する音もあります。

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音名、比率、音程

周波数比を見ていく中で、3の倍数が出てきたときは、トリターブ調整ということなので、同じ音とみなしてこれをかけたり割ったりして、素因数に3を含まない形にすることで無視して数値を見ていきます。このとき、流暢なメロディラインを構築できる音階にするため、音階の音程の幅が2種類(MOS)になるように作っていきます。
根音になるLaは間違いなく白鍵です。Laから見た時、5倍音と7倍音を使用したKaTaが3:5:7を作っていることが分かりますね。5倍音と7倍音のユートーナルのSaXaも同じように白鍵にしてみましょう。さらに、5倍音と7倍音のオトーナル、ユートーナルの合わせ技も見てみましょう。BaRaもいけそうです。5倍音の重ね合わせで、25倍音を使ってみましょう。Chaが白鍵になります。ユートーナル、1/25倍音Vaを使用するかどうかはなかなか迷いますが。
7倍音を重ねた49倍音についても見てみます。これは、BPが持つ特徴がよく出るようです。BPでは、245/243の微小音程をテンパーアウト(同じ音として見なすこと)するという性質があります。これは、49/27=2重の7倍音の音程を、9/5=5倍音ユートーナル同じ音とするという実用上の影響があります。よって、49倍音に関しては既に決めた白鍵と重なるため、考えなくてもよさそうです。

さらに、この並びは3ステップで5度圏のような円環を生成するときに連続する9音となり、かつ広い音程と狭い音程の2種類で構成される音階であるMOSスケールというものです。

このように音程の比が単純なもの、リミットが低いもの(小さい素因数のみを使ったもの)を白鍵とし、音程が2種類になるように構築できました。

こうして、まずはボーレンピアースの基本音階の一つ、ピアース旋法の鍵盤の並びが導けます。
これを転回することで、BPの教会旋法「Lambda family」が導けます。

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ピアース旋法を基本とした配置の鍵盤デザイン

*和声の考察

トリターバルな音階に関して、和声をどのように組み込むかは、ほとんど現状では確立されていないので、数字を見ていくしかありません。オクターバルな音階では、3倍音(完全五度)を起点に機能和声を構築しています。ドから見て、3倍のソがドミナント、1/3のファがサブドミナントですね。これを参考にして、5倍音に機能和声を担わせてみようと思います。5倍にあたる音は、Ka、1/5倍にあたる音はXaです。

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鍵盤に当てはめてみると...?

なんとドミナントがサブドミナントより低い位置に来てしまいました。3:5:7を基本のコードとして、和音にしてみます。
T-S-D-Tという進行を、転回形なしのバージョン、ありのバージョンで聞いてみましょう。( La Ka Ta → Xa La Ba → Ka Cha Sa → La Ka Ta)

...なかなか不慣れな機能感。
ちなみに機能和声から白鍵を導く方法もありますが、この機能和声で使用した音を見ていくと、VaとRaはやっぱり黒鍵なのか、となってしまいます。

・オクターバルの「転写」

さて、随分と踏み入ってきたようですがまだまだこれからです。オクターバルで作られた音楽、例えばスタンダードな12平均律をこの音律で置き換えるとどうなるかを考えてみようと思います。
音階をそのまま当てはめるなんてことをやっても、構造も白鍵の数も違う音階にこんな扱いをしたところで全く歯が立ちません。
そこで、倍音を何らかの法則でBPに転写するという方法で、コピーを行います。

先程の機能和声を考える段階で、3倍音的な移動を5倍音に落とし込みました。
この時点で実質2つの倍音転写が行われています。

オクターバルからトリターバルなので
2倍音→3倍音
これに関しては、ピリオド一つ移動するだけなので、一つのピリオド内に倍音をまとめる操作として無視しましょう。

5倍音機能和声として転写して
3倍音→5倍音

・・・ということはお気づきかもですが、オクターバルで和音の明暗に関わる5倍音はBPが7リミットのため、
5倍音→7倍音
と転写するしかなさそうですね。

倍音の転写が理解できたところで、次に音階の転写をしたいところです。しかし音階は倍音を重ねることで作られていました。これをどのように転写するのかは、倍音を見ればいいのですが・・・

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3倍音を無視した周波数比

音階には倍音をオトーナルやユートーナルを重ねて作られているので、これを転写するのはなかなか複雑で大変な作業です。変位音を含んだら、更に繁雑な比率が出てきてしまいます。モンゾ表記を知っていればすべてのベクトル成分を一つ左にずらせばいいですが、いちいちすべての音程でそれを計算し直すのは骨が折れますね。
そんなときに便利なツール「トネッツ」なるものがあります。

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WikiMedia Commonsより Neo-Riemannian Tonnetz

トネッツとは、普通のオクターバルな音楽で、マイナーコードとメジャーコードを正三角形にして、和音の構造を平面上に並べて視覚化したものです。これをよくよく見ると、右下方向は長3度、右方向は完全5度となっています。右上は短3度、つまり完全5度-長3度、というベクトルとして解釈が可能です。
ここで、トネッツをオクターバルにおいての倍音として捉え直します。
長3度方向=周波数を5倍する操作
完全5度方向=周波数を3倍する操作
短3度 → 完全5度-長3度=周波数を3/5倍する操作※

(※音程と周波数比が対数関数的に対応しているため、音程の和・差が周波数比の積・商になることに注意されたいです。)
トネッツはトライアドを考えるのに使われるので、トライアドが正三角形になるように軸を30°傾けて設定しています。
今回はコードではなく音程を倍音と読み替えたいため、正三角形を作る必要がないので、3倍音の軸、5倍音の軸を直交させ、座標軸を設定します。

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上方向が周波数5倍操作、右方向が周波数3倍操作

このようにまとめられます。これによって、Cを中心として、倍音を分かりやすく位置ベクトルのように扱えます。
たとえば...
15倍音BはCから見てxに1、yに1になので、3×5
3/25倍音CbはCから見てxに1、yに-2なので3÷5÷5
ということになります。(12平均律の異名同音は区別!)
※Dが3×3×5のものと、5÷3÷3の2種類あることについては後程解説。

さて、これをBPで考えます。
BPでは3倍音をピリオドとして無視し、5倍音、7倍音を同様に座標軸として直交倍音トネッツを作ります。

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上方向が周波数7倍操作、右方向が周波数5倍操作

今、オクターバルのトネッツとトリターバルのトネッツが完成したため、オクターバルの3倍音、5倍音をトリターバルの5倍音、7倍音に対応させる操作は、このトネッツを、ベクトルの向き大きさそのまま対応させるということになります。

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長音階を転写する例

Dは、ドミナントのトライアドを構成するD音としてGから3倍音関係にあるDを選びます。
こうすることで、
C D E F G A B C
という音階を、
La Cha Ta Xa Ka Ba Sa La
に対応させることで、オクターバルからトリターバルへの転写が完了します。

・反転音階

先程作ったトネッツの対応から、BPの鍵盤上にオクターバルだった頃の音名をおいて、比較してみます。

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・・・・・・マジかよ。

なんと、通常の音階はBP鍵盤上では高い音から下がっていくように出現します。
一旦冷静になってよく考えてみると、5倍音機能和声を考えた時点ですでにSとDの位置が反転していました。が、音階として見た時、5倍音機能和声への音階転写を行うと、天地がひっくり返るような構造になっていることが分かります。個人的に思っていることですが、これは倍音を1段階高次なものに置き換えて、音階が持ちうる機能を維持した状態で転写したものなので、結果として音階が反転した状態で現れても仕方ないだろう、と考えています。

変拍子兄さんはこの反転現象を良しとせず(あるいは音階構造の面を重視して)ネガティブハーモニーとして転写する(ユートーナルへ転写する=トネッツを180°回転させて転写、)ということを言っていたような。
ワイとしては機能逆転が起こりそうですし、なによりメジャーコードが3:5:7ではなくなるのであまりこの方法は支持しませんが...

・転写によるD.の変位音化

先ほどトネッツの図の中に、Dが二ついました。

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転写音が異なるD...

これは、先程白鍵の考察で2種類あるといった、9倍音のDと5/9倍音のDです。(オクターブ無視)
12平均律ではこの2種類は同じ音ですが、純正律にすると相変わらず破綻を生じさせるシントニック問題。

転写する際には、この二つのDが別の音にあたるので、転写前にこのDをどのように区別するのかを明確に決めておく必要があります。

Cメジャー用の純正律でDマイナーを鳴らすとFやAにきっちり合わなくなり、和音が強くうなります。相変わらず音律論界隈ではレの話がうるさい。
この2つのオクターバル側のDは、純正音程から見るとシントニックコンマだけ違います。19や31平均律みたいなミーントーン側の音律ではテンパーアウトして同じDでまとめられますが、22平均律や53平均律みたいなピタゴラス側の平均律はこの2つを区別して使うことができます。

オクターバル平均律の周期表
ミーントーンとピタゴラスの大別
旧版より、命名が適当なのはご愛敬

ここで、一旦オクターバルに立ち返ってみて純正律でこの2つのDの区別の方法を決めておく必要があります。

これからの説明のために注釈しますが、シントニックコンマ一つ高い、低い音程は「 ' 」、「 . 」をつけて表記します。9/8の「D」10/9は「D.」。

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Dを区別する

D」はドミナントを担うGに対して3倍音になるので、ドミナントのときに登場するDや、Gがトニックとして振る舞って、Dメジャーでダブルドミナントになっている際に使用しましょう。
Gに付随する「D」

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DからGへの進行

D.」は、Fに対して短3度(6/5)です。Dmはサブドミナントとして、Fの影響を強く受ける和音なので、Dマイナー(便宜上Dm7とする)は、F6として処理してみましょう。
Fに付随する「D.」

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Dm (7)とはF6に等しいとする

このようにして、ごまかしがきかない部分の区別方法を独自流で考えました。
これによって、Dがルートである和音のときに、通常のダイアトニックコードからのDマイナーはFに付随するものとして、Dを変位音と見なしてGaに転写、ドミナントに解決するダブルドミナントとしてDメジャーに変位したときにAを巻き添えにDとAの音としてChaとPhaを使用し、F#をRaに対応させます。

*変位音の使用と白鍵のリストラクチャ

現状、Dの音が2種類出現してGaに当たる、通常の白鍵の転写では出現しなかった白鍵があるなどのオクターバルとは異なる鍵盤の配置になっていましたね。
実際に転写から作られる白鍵を考えると、La-Sa間、Xa-Ta間が空いてしまったり、Ta-La間に白鍵が密集するなど、音程が急激に飛ぶ、音程感が細かくなる、などの音階を構成する上で偏りが出てきて、結果としてメロディを作りにくい音階になってしまいます。
オクターバルにあるF#やBbにあたる音が白鍵になって、メロディの流暢さを支えます。また、サブドミナントのDmの転写で出現するGaは変位音として使うことが現状望ましいのではという風に考えます。MOS音階という五度圏の拡張概念もあるくらいですから(Erv Wilsonの定義から説明しなきゃいけなくなって、長いこと脱線するので割愛・UDPなるものが等しくなるようにする)、このような配置の方がメロディとして自然で成り立ちやすいのではないか、と考えています。

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黒鍵と白鍵の中間的なやつをグレーに

これで、音階の構造と、機能の構造をより一段と理解しやすいものにすることができます。

PhaやPaはLaとはオクターブ(2/1)や完全5度(3/2)に近いがずれの大きい音程(そりゃ偶数考えてないもの)で強烈に濁るので、不協和扱いですが、オクターバルにも見合う音程がなかったというよりオクターバルでも複雑な音程への対応だったのでこれを黒鍵にしておくのは妥当でしょう。

白鍵のうち、グレーのものを除いて、二七抜きBP長音階(?)のようなものができます。これはケースファンプローイイェンの七音階と呼ばれています。長音階に対応しているということもあって、ワイが作曲したとき、非常に実用的だと感じました。

*7リミットの転写の考察

語句の注釈です
EDO:Equal Dividion of a Octave →オクターブ平均律
EDT:Equal Dividion of a Tritave →トリターブ平均律

ブルーノート(7/6)やドミナントセブンスコード(21/16)、トライトーン(7/5)は、12EDO内でも1/3半音くらいをごまかして使われていますが、これは7倍音を使用した音程が知覚されているといわれています。7リミットが得意な31EDOでこれらをピッタリに合わせるとかなりすっきりした響きが得られるのでほとんど信頼してよいでしょう。これらは、7リミットな音楽ということになりますが、BPが7リミットであるため、7倍音はすでに5倍音の転写で使用されていて使えず、7倍音の転写先がありません。

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7倍音の転写先が未定

トネッツ上で見てみると、7倍音は別の倍音の次元になるので、3倍音の軸、5倍音の軸からはとは別の軸になり、3Dになります。

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多次元トネッツ

手書きなのは許してくれ...

これでは、BP側でもトネッツが3Dになっている必要があります。
もちろんBPでは初期段階では7倍音以上の和音を扱うことを考えていないので、トネッツは2Dですが、これを何かしらの方法でBP側で3Dトネッツを構築できるようにします。

9倍音化する
転写先がないので、トリターブユニゾンでまとめてしまえという考え方です。欠点はただのユニゾンになってしまうので、元のオクターバルにあった7倍音特有の濃厚さや進行感は失われるかもしれませんが...
トネッツ上では、トリターブ上の音をとっているだけなので、奥に進んでも同じ音ということになってしまいます。トリターバルにとってみれば、これはただのトリターブ上の同じ音なので、転写の時に立体扱いして転写します。この場合は、立体にすること自体にはほとんど意味がありませんね。

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転写を諦める方法

9倍音方向は、同じ音扱い。

11倍音化する
7の次にある素数は11なので、11倍音に転写することを考えてみます。BP音律では、11倍音を近似することを考えていないため、11リミットの音はBPが持つ音から大きくずれてしまいます。

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計算式
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計算結果

存在する音からかなりずれているようですね...
一番近いものはWaですが、54.8セントもずれていて、果たして11倍音として使えるのかという感じになってきます。そこで、ブルーノート的にピッチベンドするのか、できなければそのまま一番近い音を使うか...という感じになってきます。

11倍音をよりきれいに出すために、トリプルボーレンピアースというさらにBPの1ステップを3分割して39EDTとしたものもありますが...
まあ12EDOを3分割した36EDOは7倍音にアジャストできるのと似ているような気もしますね。

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やむを得ず近い音に転写する。

*音域問題

BPでは、ピリオドがトリターブなので、広くなりますね。
機能和声を5倍音に担わせたときも、ドミナントやサブドミナントがほぼトリターブ内の中央に来るので、ベースが跳躍したり、急に低い音、高い音になってしまうなんてことがあります。中央のC4の高さをLaの基準とすると、2トリターブ下のLaの音でさえ、ほぼBb0くらいの非常に低い音になってしまうので、せいぜい使える音域が5トリターブ程度に限りますね。
このように、トリターブというピリオドは曲を作っているとかなり広く感じます。
機能が決まったり、構造が確定できた以上、音域問題はトリターバルの宿命とも言いますかね。こればっかりは丁度いいピッチの調を選ぶことが適切なように思えます。それでも広いものは広いですが。

*カラーノーテーションになぞらえた命名

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JI Color notation

倍音を色で表そうというもので、純正音程の度数の呼び分けに使われています。
2倍音系→無視
3倍音系→White(w)
5倍音→Yellow(y)
1/5倍音→Green(g)
7倍音→aZure(z)
1/7倍音→Red(r)
また、これらの重ね合わせで音程が作られているときはWhiteを無色として、5倍音系、7倍音系の混色として扱われます。
上の図でもzg( 7 × 1/5 )やry( 1/7 × 5 )などの混色の表記が見られます。これらは3倍音的に同じ色になっています。

オクターブが同じ音に聞こえる現象には、オクターブ等価性という説明がなされます。
オクターブ等価性は一部哺乳類の脳の仕組みによって成り立っているようですが、トリターブに関してはやはり一筋縄では行かなそうです。
しかし、少なからずみんな3倍音には色味がなく透き通っているということを感じ取っているので、この共通点はわれわれは知覚できていると考えられますね。

カラーノーテーションにちなんで、トリターブ等色性と呼んでもいいかもですね。

*7倍音的機能和声

今まで、機能和声の転写先を5倍音として議論してきましたが、次に7倍音に機能和声を担わせた場合についても軽く考えてみましょう。

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倍音関係を転置する

この対応がされるときに倍音トネッツは、5倍音の並びと7倍音の並びを入れ替えて

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転置トネッツ

このような対応表になります。そして、鍵盤は...

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転写結果

被ったり、音の位置がめちゃくちゃで扱いにくそう。
ただし、機能和声の考察の部分にある音源のように、機能和声がとる音域の幅が狭くなるので、よりピッチに由来する機能感は感じやすいかもしれませんね。
オクターバルな調律においても、Magic Temperamentという、5倍音を起点に長3度圏を構築し、音階を作る発想が存在ているので、それに近い発想と思われます。 

*41平均律への応用・「五等分のボレピ」

オクターバルの曲の中で何気にBPの独特のヤバい雰囲気を使いたいという欲張りな方もいるかと思います。そんな方のためにいい武器を紹介しましょう。

みなさんおなじみ、41平均律です。

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41平均律

白鍵が3段、黒鍵が4段。全音半音比は7:3。
ミ、ラ、シには純正に近づくものと、ピタゴラスっぽいハイテンションなものがありますね。

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41平均律の鍵盤モデル 3倍音が純正的で#と♭が交差
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BPと41平均律を比較する

最もBPに近い音をとれるオクターバルな平均律は、41平均律になります。
BPと41平均律を結びつける条件をいくつか考えてみます。

条件①:BPは3倍音が純正なため、3倍音を純正的に持つ平均律に絞られる
→完全五度をほぼ純正に持つ種類に絞られる

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条件②:BP同様に、5倍音、7倍音が、よい近似となる

→41か77平均律がそこそこの近似をする

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条件③:オクターブとPaの差がほぼ整数ステップとなる→41平均律の1ステップが、たった0.298セントの差になる

これらの条件をみたすもの、41平均律、82平均律(41平均律の2分割)くらいですね。
すなわち、41平均律で曲を作ると、BPに非常に近い音を保有するため、BPのようなフレーズを差し込むことができます。

○逆もまた然り
12EDOの代わりに19EDTを使うということは有名ですね。オクターブを近似して3倍音を純正にします。
41EDOを65EDTにすると、これもオクターブを近似して3倍音を純正にする操作と言えますが、要するにこれは13EDT、ボーレンピアースそのものの5分割になりますね。

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65EDT

41EDOでボーレンピアースを借用するテクニックがあるなら、この65EDTで、BPが基本になった曲の中で41EDOを借用するテクニックもいいかもですね。
このような41EDOと65EDTなどを行き来するテクニックを総称して「五等分のボレピ」と呼ぼうと考えています。

*実践・作曲

ワイが頑張って、いくつか反転音階で制作してみました。

○ボレピのうた(旧版)
変拍子兄さんがまたyoutubeに例のネタを投下できるようにドレミのうたをBPに転写してみました。おまぬけさを表現するためにあえて「うた」は平仮名にしてるので、どこかに転載するときはちゃんと平仮名で書いてください。原井からのお願いです。
(プローイイェンの七音階です。)

ボレピハッピーバースデー
Discord鯖の知り合いの作曲系ドラゴンが誕生日だったので人間に理解できないハッピーバースデーを送り付けました。

○ボレピの歴史はウチュー
音一つ一つが持つ機能が分かってしまえば、反転音階でも、音の上下は感覚でつかんでいって、曲を作っていくことも簡単になっていきます。プローイイェンの七音階を基本としてピアース旋法で作っています。

めっちゃ作るの疲れた...

*ボーレンピアースの曲

Sevish、Elaine Walkerの曲は残念ながら偶数倍音出てるのでパスします。バイオリンやのこぎり波がアウト。

SoundCloudでBohlen-Pierceを調べてみるといろいろ出てきますが、中でもpianodog氏の投稿が最も模範的使い方をしています。
この方はピアノ曲を投稿していますが、BPの曲はピアノの音色からきっちり偶数倍音を抜いているようです。1曲目はChaが主音のWalker A旋法を、2曲目はLambda旋法を用いているようです。先ほどの白鍵の転回ですね。(Lambda旋法はTaが主音になるそうです。)

*小ネタ集

音楽の変態が集うDiscordサーバーではくだらないネタが繰り広げられていますね。この記事を読み切ったあなたもこのクレイジーなボレピ団の仲間に入りましょう。

「トリターバルペンペラ...テンプ...テッ...
トゥペッ...鶏天...
トリターバルテンペラメントっていうのはですね...」

*ボーレンピアース・SERUMプリセット集

BP音律プリセットです。

読み込むだけで奇数倍音でボーレンピアースの音が出せます。普通に12平均律で使いたいときはGLOBALのtuning fileをロックして読み込んでください。

あとがき

ボーレンピアースシンポジウム初開催からそろそろ10年らしいです。
そろそろ日本国内で流行ってもいいころですよね。
(流行ってくれよ)

ここまで読み切ったあなたは勇者です。おめでとうございます。
お友達になりましょう。このサーバーで待ってるぜ。

原井さんへの質問や解説は、Discordサーバー『音楽熱狂軍団』で受けます。

2021年4月1日 ついに完全版「ボレピのうた」が公開されました!

奇数倍音が活躍するハードベースのサブジャンルとしてボーレンピアースを活用しています。

最終変更 2022/11/29


ワイにうまい棒を恵んでくれると飛んで喜びます。