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デザイナーとしての「初心」を思い出す未熟でほろ苦いエピソード

デザインスタジオ・エル代表のハラヒロシです。デザイナー歴23年。新人にデザインを教えたり、学校で授業する機会をいただいたりと若い人との接点が多くなっている今日このごろ。思い出されるのは自分が同じ年齢ぐらいのときの経験です。

ちゃんとした勉強経験がなく飛び込んだデザインの世界。自分なんか…というコンプレックス・不安と、新しい世界に対する期待。そんな初々しい時代のことはけっこう記憶に残っているものです。

「初心」を思い出させる記憶の多くは苦い経験です。そして、そういった経験から学べるものがは多いです。今でも思い出される「苦いエピソード」と、そこから学んだことについてまとめてみました。


気が利かないヤツにいいデザインできるの?

学生のとき働いてたデザイン会社でのできごと。コード類の養生を先輩から頼まれてやったところ、「貼り方が適当で汚い」さらに「片付けが汚い」と叱られました。僕の中に「ただ貼ればいい」「戻しておけばいい」という意識でしかなく、見え方もきれいにするという考えがなかったのです。「気が利かないヤツにいいデザインできるの?」この言葉、強烈に記憶の中に残っています。

学んだこと
どんなことに対しても、どうしたらきれいに見えるかを考える意識をもつこと。デザインが未熟なことよりも、先輩から諭されたことのほうがよっぽど堪えました。


PhotoshopやIllustratorは魔法の道具ではない

PhotoshopやIllustrator使えば何か素敵なものができるんじゃないかとワクワクしてとりあえず一通りフィルタ試して「で、どうすれば…」と落胆したという、デザインのデの字もわかってないようなところからのスタートでした。目的も手段もぐちゃぐちゃ。現場に入って、すぐにこのことに気づきました。現場はすごい。

学んだこと
デザインツールはアイデアを形にするためのものであって、アイデアを生み出すものではない。


適当はバレます

郵便番号のマスをイラレで作って先輩にチェックしてもらったら、矩形の位置がおそらく0.1mmぐらいずれていて、ものすごく叱られました。ガイドをピッタリ引いてから作業すればそもそも0.1mmも、それこそ0.00001mmもずれるなんてありえない。「適当なことするな!」ということに対しての叱責です。すみません…

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学んだこと
正しい作り方を覚えよ。「なんとなく置きました」を排除せよ。自分の中の価値基準を持つ第一歩です。
ちなみに郵便番号のマスは、デザイン四原則である「近接、整列、反復、対比」を学べます。


ズルもバレます

エディトリアルデザインのアシスタントしていたとき。ダミー文章が入ったオリジナルモジュールを使って誌面を埋めていく作業。それを「①複製してから、②配置後に文字を入れよ」との先輩からの指示。
最初はその通りにしていたのだけど、だんだん面倒になってすでに文字入力した後のモジュールを複製して作業。ダミー文章だから差し替え漏れに気づかず、バレて猛烈に怒られる。「ズルしてるのなんて、すぐわかるから」。はい、すみません…

学んだこと
しっかりとしたデザインの眼を持っている人は、デザインだけでなくデータの作り方や作業の進め方に対しての眼も鋭いです。ズルしたことはすぐバレるものである。


整理しろよ~

「〇年の〇〇月にやった〇〇〇のデータちょうだい」と先輩に言われあたふた。だんだん〇〇〇が認識できなくなっていく…。ちゃんとデータの整理ができていない…。探すの時間かかる。時間の無駄。「整理しろ」。すみません…。その先輩は、数百枚に及ぶMOデータすべてにラベルとインデックスをつけ、さらにデータで検索できるようにしてありました。

学んだこと
デザイナーに必要なのは情報を整理してわかりやすくする力。あと、時間はコストであるということ。


観察しろよ~

デザイン考えるとき、「自分の中から湧き出るもの」で勝負しなくては…みたいな先入観がありました。デザイナーってそういう職業でしょ?みたいな。浅はかでした。観察して、調べて、どうありたいかを考える。「デスクに座ってるだけじゃ何もできないよ。観察しろよー」と教わったこと、とても印象深いです。

学んだこと
その先輩から教わったこと。電車の通勤途中に窓の外眺めて「今日は青いモノだけ見る」などフォーカスする対象を決めて考察する訓練せよと。その思考はアイデア探しするときのピント合わせとしてすごく役に立っています。


裏も見ろよ~

デザイナーは華やかな印象があったので、どうしても訴求力の強い「表側」のデザインにばかり目を向けていましたが、先輩に「パッケージデザイン見るなら表ばかり見てないで裏面も見ろよ」と教わりました。裏面のデザインや記載されている内容を見れば、利用者志向になっているかどうかが垣間見れるのですよね。ちょうどそのとき、CDジャケットの裏面の文字が並ぶところのデザインのアシストしていたので、いい経験になりました。

学んだこと
適材適所。訴求力高めたい部分と、しっかり説明する部分と、それぞれ役割があることを知る


なんでこの色にしたの?

最初のころは、なぜこの色にしたのか、という説明がうまくできませんでした。「“客観的に”説明できないとダメだよ」と。「赤が好きだから赤にしました」という提案理由は、「赤は嫌いだから青にしてください」と返されてもそれを否定できる根拠は1mmもありません。そればかりか「虹色が好きなので七色にしてください」も受け入れなければならない、ですよね。

学んだこと
主観ではなく客観で。


自分、何もできないな…

クライアント先に先輩と同行したとき、自分の入る隙がなく一言もしゃべらなかったり、先輩がさらっと事を進めていく様子を目の当たりにして「自分、何もできないな」と落ち込んだことがありました。「自分が矢面に立つ心持ちが足りないんじゃないの?」準備は万全だったか?せめて、自分がデザインした領域ぐらいは振ってもらうように頼んだか?そう思うようになりました。

学んだこと
当事者意識を持つ。的確なフォローを入れたり、自発的に説明をしたりと、クライアントとしっかりコミュニケーション取れることがわかった時点で、委譲してもらえるきっかけはわりと早く訪れる。次の依頼が発生したときのファーストコンタクトが自分に来るように、「自分が窓口になる」ための行動はいろいろあるのですよね。


「お任せ」の意味を履き違える

「お任せするので自由にデザインしてください」を鵜呑みにして、相手から何も引き出さずにデザインし、満足させられず、結局着地できなかったという苦い経験があります。「お任せって言ったのに…」それは違う。まったくもって自分のミスリード。それはデザインではない。「お任せ」をそのまま解釈してはダメ

学んだこと
「お任せ」は、好きにやっていいという意味ではない。


おわりに。初心を思い出そう

「初心忘るべからず」といいつつも、人は、いつまでも初心者ではいたくない。

それによって新しい挑戦をやめ、過去の成功体験を繰り返すだけになると、脱初心者で一皮むけたつもりが、実は成長が止まっていることになってしまいます。失敗の機会も失います。

常に初心に立ち戻る言葉を持って、発することが大事だなと思いました。ここに書いたことは20年ぐらい熟成している言葉なので、パッと思い浮かびました。これからもしっかり向き合っていきたいと思います。


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ハラヒロシ @harahiroshi

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